うつ病で労災請求をする際の流れ|認定の基準や難しいわけ、証拠についても解説

うつ病で労災請求をする際の流れ|認定の基準や難しいわけ、証拠についても解説

長時間労働やハラスメントなど、業務上のストレスが原因でうつ病を発症した場合は労災認定される可能性があります。

しかし、厚生労働省が公表している「表2-1 精神障害の労災補償状況」によると、2017年以降の労災認定率は30%程度しかありません。

労災として給付を受けるには、どのようなことがあったのかを証明し、労災の認定基準を満たしていることを示す必要があります。

自力で対応できるか不安な場合は、労働問題が得意な弁護士にサポートしてもらうことを検討しましょう。

本記事では、うつ病で労災申請する際の流れ、労災の認定基準や相談窓口、弁護士に相談・依頼するメリットなどを解説します。

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この記事を監修した弁護士
下地 謙史(下地法律事務所)
下地 謙史弁護士(下地法律事務所)
慶応義塾大学法学部より、慶應義塾大学法科大学院へ飛び級入学。司法試験に合格後、都内の法律事務所勤務を経て下地法律事務所を開業。 (※本コラムにおける、法理論に関する部分のみを監修)

業務によるうつ病で労災申請をする際の流れ

療養補償給付・休業補償給付・遺族補償給付など、給付内容によって申請手順は異なります。

業務による強い心理的負荷が原因で精神障害を発症した場合、基本的には以下の流れで申請します。

1.医療機関で受診して診断書を作成してもらう

まずは、精神科や心療内科などの医療機関にて、うつ病などの精神障害に関する検査・診断を受けます。

一般の医療機関でも労災指定医療機関でもどちらでも構いませんが、労災指定医療機関であれば自己負担なしで治療を受けられます。

ただし、精神障害については対応していない場合もあるので、事前に問い合わせておきましょう。

2.労働基準監督署に請求書を提出する

労災指定医療機関以外の医療機関でうつ病の診断を受けたら、被災者本人が所轄の労働基準監督署に請求書を提出します。

書類は、厚生労働省の「主要様式ダウンロードコーナー(労災保険給付関係主要様式)」からダウンロードできます。

なお、労災指定医療機関で診断を受けた場合は、その医療機関に労災保険の請求書を提出できます。

3.労働基準監督署による調査がおこなわれる

請求書を提出すると、労働基準監督署は労災の認定に関する調査を開始します。

調査では、労災の対象となる精神障害を発病しているかどうかの確認や、業務による心理的負荷の影響の評価などがおこなわれます。

必要に応じて、請求人である被災者や関係者に対して聴取や書類の提出依頼などがされることもあります。

4.調査後に労働基準監督署から通知書が届く

調査を終えた労働基準監督署は、被災者に対して「労災支給(または不支給)決定の通知書」を発送します。

労災として認められた場合は、請求人の振込口座に給付金が振り込まれます。

通常は請求開始から4ヵ月程度で支給されますが、場合によってはそれ以上の期間を要することもあります。

5.結果に納得いかない場合は不服申し立てをする

労働基準監督署から「労災の不支給決定通知書」を受け取った場合、被災者は当該労働基準監督署を管轄する都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官に対して、処分を見直すように審査請求することができます。

審査請求の詳細については通知書に記載されているので、詳しくは通知書を確認してください。

第三十八条 保険給付に関する決定に不服のある者は、労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をし、その決定に不服のある者は、労働保険審査会に対して再審査請求をすることができる。

引用元:労働者災害補償保険法第38条

うつ病での労災認定は難しい?認められるための基準や証拠

一般的に、うつ病などの精神障害については労災認定が困難といわれています。

精神障害の場合、発症の要因がさまざまあって「精神障害の発症と業務上の心理的負荷との因果関係の証明が難しい」というのが主な理由です。

ここでは、精神障害での労災の認定率や認定基準などを解説します。

精神障害での労災認定はハードルが高い

そもそも労災の認定率はさほど高くありません。

厚生労働省が公表している「表2-1 精神障害の労災補償状況」によると、2021年度の精神障害に関する決定件数1,953件のうち支給決定件数は629件で、労災認定率は32.2%しかありません。

2021年度以前の認定状況などは以下のとおりです。

請求件数決定件数支給決定件数認定率
2017年度1,732件1,545件506件32.8%
2018年度1,820件1,461件465件31.8%
2019年度2,060件1,586件509件32.1%
2020年度2,051件1,906件608件31.9%
2021年度2,346件1,953件629件32.2%

※認定率は「支給決定件数÷決定件数」で算出

精神障害で労災が認定されるための3つの基準

厚生労働省は2011年12月に労災の認定基準を新たに定めて「精神障害の労災認定」にて公表しました。

これによると、うつ病などの精神障害について労災として認定されるためには、以下3つの基準を満たしている必要があります。

  1. 認定基準の対象となる精神障害であること
  2. 発病前おおむね6ヵ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
  3. その精神障害が、業務以外の心理的負荷や個体側要因による発病ではないこと

うつ病で労災認定を得るには客観的な証拠が重要

うつ病で労災認定を得るためには、「精神障害の発症と業務による強い心理的負荷との因果関係を示す証拠」が必要です。

極めて長い時間の残業や、セクハラ・パワハラなどの事実を証明できる証拠を確保しておきましょう。

上司との会話の録音データや、自分が作成したメモなども証拠になり得ます。

うつ病での労災申請で悩んでいる方のための相談窓口

うつ病の労災申請について疑問や悩みがある場合は、弁護士・総合労働相談コーナー・労災保険相談ダイヤルなどを利用するのがおすすめです。

ここでは、うつ病の労災申請に関する相談窓口について解説します。

弁護士

弁護士に相談する場合は、労働問題や労災保険などが得意な弁護士を選びましょう。

労働問題や労災保険が得意な弁護士であれば、労災認定の疑問について的確に回答してくれますし、労災認定の手続きや証拠集めなどのサポートを依頼することもできます。

ベンナビ労働問題」では、労働災害が得意な弁護士を都道府県別に一括検索できるので、今すぐ弁護士を探したい方にはおすすめです。

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総合労働相談コーナー

全国各地の労働局や労働基準監督署に設置されている「総合労働相談コーナー」では、労働分野に関するあらゆる相談を受け付けています。

労災保険に関する相談にも対応しており、専門の相談員が解決策をアドバイスしてくれます。

面談または電話で相談でき、予約不要で相談料は無料です。

労災保険相談ダイヤル

厚生労働省の委託事業である「労災保険相談ダイヤル(0570-006031)」でも、労災保険に関する相談ができます。

労災保険に関する一般的な説明を受けることができ、「うつ病を発症して労災認定されるのはどのような場合か」といった疑問にも電話で答えてくれます。

受付時間は月曜日~金曜日の8:30~17:15です。

うつ病で労災申請をする際に弁護士に相談・依頼するのがおすすめの理由

うつ病での労災申請について相談できる窓口はいくつかありますが、特におすすめなのが「労働問題や労災保険などが得意な弁護士」です。

ここでは、うつ病の労災申請について弁護士に相談・依頼すべき理由を解説します。

自身の状況から労災認定されるかどうかのアドバイスがもらえるから

うつ病などの精神障害で労災認定を受けるためには、3つの認定基準を全て満たしている必要があります。

しかし、被災者本人が客観的に認定基準を満たしているかどうか判断するのは難しいでしょう。

労働問題や労災保険などが得意な弁護士に相談すれば、労災認定を受けられるかどうか客観的な視点からアドバイスしてくれます。

面倒な手続きを任せることができるから

労災申請をする際は、労働基準監督署に請求書などの各種書類を提出する必要があります。

さらに、申請にあたっては事業主の協力も欠かせません。

弁護士に依頼すれば、申請書類の作成や事業主への協力要請なども任せられます

弁護士に依頼することで申請手続きの負担が軽減され、病気の治療に集中して取り組めるようになるでしょう。

会社に対して損害賠償請求する際に頼りになるから

長時間労働やハラスメントが原因でうつ病などの精神障害を発症した場合、安全配慮義務違反等を理由に事業主へ損害賠償請求することができます。

労働問題が得意な弁護士に依頼すれば、事業主に対する損害賠償請求や示談交渉なども対応してくれます。

(労働者の安全への配慮)

第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

引用元:労働契約法第5条

会社からの不当な扱いを避けることができるから

労災認定を受けようとすると、療養中に解雇されるなどの不当な扱いを受けることもあります。

このような解雇は「不当解雇」になるため解雇の撤回を求めて争うこともできますが、弁護士に依頼しておけば解雇に対する牽制となるでしょう。

【関連記事】不当解雇とは|正当な解雇との違いをわかりやすく解説

うつ病と労災認定に関するQ&A

ここでは、うつ病と労災認定に関するよくある質問について解説します。

Q.退職後でも労災申請はできる?

たとえ退職後でも労災申請はできます

労災保険の支給事由は「業務や通勤時の傷病により療養するとき」であり、申請者が現在も勤務しているかどうかは問いません

なお、請求書には事業主情報を記載する欄がありますが、事業主が協力してくれない場合は、労働基準監督署にその旨を伝えることでそのまま提出できます。

Q.労災申請に期限はある?

労災申請には期限があり、期限を過ぎると給付金が受け取れなくなるため注意が必要です。

以下のとおり、期限は給付金の種類によって異なります。

給付金時効
療養(補償)給付療養の費用を支出した日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年
休業(補償)給付賃金を受けない日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年
遺族(補償)年金被災労働者が亡くなった日の翌日から5年
遺族(補償)一時金被災労働者が亡くなった日の翌日から5年
葬祭料(葬祭給付)被災労働者が亡くなった日の翌日から2年
未支給の保険給付・特別支給金それぞれの保険給付と同じ
傷病(補償)年金監督署長の職権により移行されるため請求時効はない。
障害(補償)給付傷病が治癒した日の翌日から5年
介護(補償)給付介護を受けた月の翌月の1日から2年
二次健康診断等給付金一次健康診断の受診日から3ヶ月以内

引用元:7-5 労災保険の各種給付の請求はいつまでできますか。|厚生労働省

Q.うつ病で退職する際は自己都合?それとも会社都合?

退職事由が自己都合になるか会社都合になるかは、うつ病を発症した原因によって変わります

業務外の原因によりうつ病を発症して退職した場合、自己都合退職として処理されるのが通常です。

一方、業務上の原因によりうつ病を発症して退職に追い込まれた場合、会社都合退職になる可能性があります。

ただし、会社によっては会社都合退職として処理してくれず、争いになることもあります。

【関連記事】うつ病で退職する際の流れと傷病手当の受給条件や支援制度も詳しく解説

Q.うつ病になった場合にどのような支援制度を活用できる?

うつ病になった場合、労災保険のほかにも以下のような支援制度を活用できる可能性があります。

傷病手当金や障害年金などの申請に関する疑問や不安については、弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談しましょう。

  • 傷病手当金:業務外の傷病で休業する場合に支給される手当金
  • 障害年金:病気やけがで生活・仕事が制限される場合に支給される年金
  • 自立支援医療制度:精神疾患のために通院が必要な場合、医療費の自己負担が1割に軽減される制度

最後に|うつ病の労災申請は弁護士に相談しよう

うつ病などの精神障害に関する労災認定率は30%程度と低く、労災認定の可能性を高めたい方は労働問題や労災保険が得意な弁護士に依頼することをおすすめします。

うつ病を発症して労災認定を受けるためには、業務上の心理的負荷とうつ病の発症との因果関係を証明する必要があります。

弁護士に依頼すれば、申請書の作成・証拠の確保・事業主との交渉など、労災申請に関する幅広いサポートを受けられます

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この記事の調査・編集者
アシロ編集部
本記事は法律相談ナビを運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。※法律相談ナビに掲載される記事は、必ずしも弁護士が執筆したものではありません。本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。
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