「交通事故のむちうちがなかなか治らない…」
「むちうちを理由に慰謝料請求することはできないのか」
交通事故に巻き込まれた場合、首の痛み・頭痛・めまいなどの「むちうち」の症状が現れ、長く続くケースは少なくありません。
実際にむちうちの後遺症が残ってしまい、治療費や後遺障害等級の認定手続きなどに関する悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、むちうちの後遺症が生じた場合に知っておくべき基礎知識を紹介します。
治療費打ち切りへの対処法や後遺障害等級認定のポイントなどを詳しく解説するので、ぜひ最後まで目を通してみてください。
交通事故におけるむちうちの後遺症とは?
むちうちとは、強い衝撃で頭が揺さぶられることによって、首周りの筋肉や神経が損傷する症状のことです。
「むちうち」は正式な病名ではないため、病院では頚椎捻挫・頚部打撲・外傷性頚部症候群などと診断されます。
では、むちうちになると具体的にどのような症状が現れるのか詳しく見ていきましょう。
むちうちの具体的な症状
むちうちの具体的な症状には、以下のようなものが挙げられます。
- 首の痛み
- 頭痛
- 吐き気
- めまい
- 凝り
- 耳鳴り
- しびれ
- 手足の麻痺
なお、むちうち症状のすべてが必ずしも事故直後に現れるとは限りません。
事故後数日経過したころに、頭痛やめまいなどを訴える人も数多くいます。
そのため、上記のような症状が現れたときは、まず整形外科を受診し、交通事故に遭ったことを伝えるようにしましょう。
むちうちの治療期間と治療費打ち切りへの対処法
症状の程度にもよりますが、むちうちの治療期間は2ヵ月~3ヵ月を目安にしておくとよいでしょう。
むちうちの症状は突然なくなるようなものではなく、時間をかけて徐々に軽快していくケースが一般的です。
一方で、治療を続けても改善が見られない場合は、6ヵ月~1年程度で症状固定となります。
症状固定とは、症状は残っているものの治療の効果がなくなってしまった状態のことです。
症状固定になると後遺障害として認められ、交通事故の相手に慰謝料などを請求できる可能性が出てきます。
治療開始から3ヵ月程度経過すると、保険会社から治療費の打ち切りを打診されることがあります。
保険会社は自社の負担を減らすために治療費の打ち切りを迫ってきますが、必ずしも従う必要はありません。
担当医に相談し、引き続き治療を続ける必要があるのであれば、治療費を支払ってもらえるように保険会社と交渉してください。
仮に打ち切られたとしても、症状固定になるまでは治療を続けることが大切です。
自分で支払った治療費は、示談交渉の中で相手方に請求することもできます。
むちうちの後遺症が残ったときは後遺障害等級認定の手続きを進める
むちうちの後遺症が残ったときは、後遺障害等級認定の手続きを進めることになります。
後遺障害等級とは、事故による後遺症を症状の程度によって1級~14級に分類したものです。
損害保険料率算出機構が被害者からの申請に基づき、等級認定の可否や認定する等級を判断します。
ここでは、後遺障害等級認定の重要性やむちうちで認定される可能性が高い等級について詳しく見ていきましょう。
後遺障害等級認定を受けると慰謝料・逸失利益を請求できる
後遺障害等級認定を受けるメリットは、後遺障害慰謝料・逸失利益を請求できることです。
- 後遺障害慰謝料:後遺障害が残ったことに対する精神的苦痛への補償
- 後遺障害逸失利益:後遺障害によって本来得られていたはずの収入を失ったことに対する補償
詳しくは後述しますが、むちうちで後遺障害等級認定を受けた場合には、100万円以上の慰謝料を請求できる可能性も十分あります。
また、示談が成立する前に自賠責保険金を受け取れる点も、後遺障害等級に認定されるメリットといえるでしょう。
被害者請求と呼ばれる方法で手続きすれば、等級認定と同時に、自賠責保険分の後遺障害慰謝料・逸失利益などが支払われます。
むちうちは12級・14級に認定されることが多い
後遺障害等級は1級~14級まであり、むちうちの場合は12級13号または14級9号に認定されるケースが一般的です。
ここからは、12級13号と14級9号の認定基準を詳しく解説します。
12級13号の認定基準
後遺障害12級の認定基準は、「局部に頑固な神経症状を残すもの」です。
漠然とした認定基準ですが、医学的所見から後遺症の存在を証明できるかがポイントになります。
たとえば、レントゲン・MRI・CTなどの画像検査によって、症状が明らかになっている場合には、12級13号に認定される可能性が高いといえるでしょう。
なお、12級は14級よりも認定基準が厳しいですが、その分、慰謝料額も大きくなる傾向にあります。
14級9号の認定基準
14級9号の認定基準は、「局部に神経症状を残すもの」です。
画像検査では後遺症の存在を説明できないものの、神経学的検査の結果から推定できる場合には14級9号に認定される傾向にあります。
神経学的検査とは神経の異常や麻痺の有無などを確認するもので、代表的な検査は以下のとおりです。
- ジャクソンテスト・スパークリングテスト:身体の一部を圧迫し、神経根障害を調べる検査
- 腱反射テスト:膝の下をゴム製のハンマーで叩いて反応を見る検査
- 筋電図:筋肉に電気を流して神経の異常を調べる検査
なお、神経学的検査では後遺障害の判断が難しい場合でも、自覚症状や症状の一貫性などを理由に14級13号に認定されるケースはあります。
後遺障害等級認定の手続き方法は事前認定・被害者請求の2種類
後遺障害等級認定の手続き方法には、事前認定・被害者請求の2種類があります。
「事前認定」は加害者側の任意保険会社に申請手続きを任せる方法、「被害者請求」は申請手続きを全て自分自身でおこなう方法のことです
事前認定と被害者請求には、それぞれ以下のようなメリットがあります。
メリット | デメリット | |
事前認定 | 手続きの手間がかからない | 任意保険会社が必ずしも適切に手続きを進めてくれるとは限らない |
被害者請求 | ・資料を追加で添付できるので、等級認定の可能性が高まる ・等級認定されると示談成立前に自賠責保険金を受け取れる | 書類の収集・作成に手間がかかる |
少しでも後遺障害等級認定の可能性を高めたいのであれば、被害者請求がおすすめです。
ただし、被害請求の手続きには専門的な知識が求められるので、交通事故問題を得意とする弁護士のサポートを受けることを検討しましょう。
むちうちの後遺障害等級認定は難しいといわれる理由
むちうちの後遺障害等級認定は、ほかの後遺障害と比較して難しいといわれることがよくあります。
主な理由としては、むちうちは症状を客観的・医学的に証明しにくい点が挙げられるでしょう。
むちうちの症状は、レントゲンやMRIなどの画像検査では明らかにならないケースも多く、その場合には、自覚症状や通院期間などから等級認定の必要性が判断されます。
そのため、自覚症状として医師に伝えていた内容に一貫性がない場合や通院期間が短い場合などは、後遺症が残っているにもかかわらず、適切な等級認定がおこなわれないことがあるのです。
むちうちで後遺障害等級認定を目指すのであれば、しっかりと対策をとったうえで手続きを進めていく必要があります。
むちうちで後遺障害等級認定を受けるためのポイント
ここでは、より具体的にむちうちで後遺障害等級認定を受けるための方法を紹介します。
後遺障害等級認定の要件は、以下のとおりです。
- 交通事故が原因となる肉体的・精神的な傷害であること
- 将来においても、回復は見込めないと医師が判断した状態であること
- 交通事故と本人の感じる後遺症状に因果関係が認められること
- 本人の感じる後遺症状の原因が医学的に証明、説明できるものであること
- 後遺症状の程度が自賠責法施行令の等級に該当すること
上記要件を満たすためには、主に以下の4つのポイントがあるので詳しく見ていきましょう。
1.症状固定になるまで通院を継続する
むちうちで後遺障害等級認定を受けるためには、症状固定になるまで通院を継続することが大切です。
通院回数・通院期間は、後遺障害等級認定の判断に大きな影響を与えます。
たとえば、通院期間が長いと、それだけ症状が深刻だと判断され、後遺障害の認定を受けられる可能性が高くなります。
もちろん、不必要に通院を続けることは、過剰診療とみなされる可能性があるのでおすすめしません。
しかし、後遺障害等級認定を受けるのであれば、6ヵ月程度の通院は必要になるものと考えておきましょう。
2.症状が一貫していることを主張する
症状が一貫していることを主張することも、適切な後遺障害等級認定を受けるためのポイントといえます。
後遺障害等級の認定を受けるためには、傷を負った直後から「症状固定」に至るまで、症状が一貫し、連続していることが必要です。
たとえば、最初は「首が痛い」といっていたにもかかわらず、あとから「首は治ったが肩が痛い」「今後は頭が痛くなってきた」などと症状が頻繁に変わっていると、交通事故との因果関係が薄れてしまいます。
また、症状が継続的に現れているかどうかも、等級認定の重要な判断基準のひとつです。
嘘の症状を申告することは控えるべきですが、一貫性・継続性がある場合には、しっかりと医師に伝えるようにしてください。
3.後遺症を医学的に証明・説明する
むちうちで後遺障害等級認定を受けるためには、後遺症を医学的に証明・説明しなければなりません。
わかりやすいのは、レントゲン・MRI・CTなどの画像検査やジャクソンテスト・スパークリングテストなどの神経学的検査で症状の確認ができるケースです。
ただし、医師が後遺障害の証明に必要な検査を必ずおこなってくれるとは限りません。
基本的には治療に必要な検査のみをおこなうため、上記のような検査が実施されていない場合は、一度医師に確認してみるとよいでしょう。
どのような検査が望ましいのかわからない方は、弁護士から医師に対してアプローチしてもらうことも検討してください。
4.医師に等級を取りやすい診断書を書いてもらう
後遺障害等級認定を見据えているのであれば、医師に等級を取りやすい診断書を書いてもらうことも意識しておきましょう。
後遺障害等級認定の申請手続きには、医師が作成する後遺障害診断書の提出が必要です。
後遺障害診断書は等級認定の根拠となる重要な資料なので、書き方ひとつで認定結果が大きく変わってきます。
診断書の作成に慣れていない医師が担当医になっている場合は、適切な後遺障害等級認定を受けられない可能性も否定できません。
とはいえ、等級認定や医学的な知識がなければ、どのような診断書を作成してもらえばよいのか判断することは難しいでしょう。
そのため、後遺障害診断書のチェックや修正箇所の指摘などは、弁護士に任せるのが賢明な判断といえます。
むちうちの後遺障害等級が認定されないときの対処法
しっかりと準備をして後遺障害等級認定の手続きをおこなっても、必ずしも適切な等級認定を受けられるとは限りません。
ここでは、むちうちで後遺障害等級が認定されなかった場合の対処法を解説します。
異議申立てをおこなう
適切な後遺障害等級認定を受けられなかった場合は、異議申立てを検討しましょう。
関係資料を整えて再度審査を受けることで、認定結果が変わるケースも少なくありません。
「被害者請求」の場合は自賠責保険会社に、「事前認定」の場合は任意保険会社に対して異議申立書を提出してください。
いずれの場合も、損害保険料率算出機構に書類が送られ審査がおこなわれることになります。
異議申立ての具体的な流れは、以下のとおりです。
- 異議申立書を用意する
- 関係書類を添付する
2-1.医師の意見書
2-2.画像
2-3.診断書
2-4.診療報酬明細書
2-5.カルテ
2-6.検査結果
2-7.事故状況がわかるもの
2-8.陳述書 など - 申立て:郵送または宅配便で提出
3-1.事前認定の場合は加害者加入の任意保険会社
3-2.被害者請求の場合は加害者加入の自賠責保険会社 - 審査期間:2ヵ月〜6ヵ月ほど
ただし、異議申立てでは、初回の申請で不足していた部分を漏れなく補う必要があり、専門的な知識も求められるため、自力での対応は現実的ではありません。
異議申立てを検討しているのであれば、そもそも等級認定の可能性があるかどうかを含めて、まずは弁護士に相談してみることが大切です。
裁判を起こす
異議申立てでも納得のいかない結果になった場合は、裁判が選択肢に入ってきます。
裁判で自身の主張が正当であることを認めてもらえば、より有利な等級認定を受けられる可能性があります。
ただし、裁判に臨むとなると裁判所とのやり取りや証拠収集、主張の整理など膨大な手間と時間がかかります。
また、裁判を起こしたからといって、必ずしも望んでいるような等級認定を受けられるとは限りません。
損害保険料率算出機構の判断を覆すに足る有力な証拠ないし論拠を提出できなければ、裁判になっても等級が変更される可能性はそれほど高くないでしょう。
訴訟に踏み切るかどうかは、リスクがあることも理解したうえで、慎重に判断することが重要です。
むちうちで後遺症が残った場合に請求できる損害賠償の相場
むちうちで後遺症が残った場合には、慰謝料や逸失利益などさまざまな損害賠償を受けられます。
ここでは、各損害賠償の相場を詳しく見ていきましょう。
入通院慰謝料
前提として、慰謝料の算定方法には、「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準」の3つの基準があります。
自賠責基準 | 交通事故の被害者に対する最低限の補償を目的とした基準 3つの基準の中で最も低額になりやすい |
任意保険基準 | 自動車保険会社が独自に設けている基準 自賠責基準と同程度かやや高い程度 |
弁護士基準 | 裁判所の判例などを参考にした基準 3つの基準の中で最も高額になりやすい |
適用する算定基準によって、入通院慰謝料の相場も以下のとおり変動します。
むちうちで請求できる入通院慰謝料の相場 | |||
通院期間 | 自賠責基準 (通院10日を想定) | 任意保険基準 | 弁護士基準 |
1ヵ月間 | 8万6,000円 | 12万6,000円程度 | 19万円 |
2ヵ月間 | 17万2,000円 | 25万2,000円程度 | 36万円 |
3ヵ月間 | 25万8,000円 | 37万8,000円程度 | 53万円 |
4ヵ月間 | 34万4,000円 | 47万8,000円程度 | 67万円 |
5ヵ月間 | 43万円 | 56万8,000円程度 | 79万円 |
6ヵ月間 | 51万6,000円 | 64万2,000円程度 | 89万円 |
少しでも多く慰謝料を請求したいのであれば、弁護士に相談し、弁護士基準で算定してもらうことをおすすめします。
後遺障害慰謝料
むちうちで後遺症が残り、後遺障害等級認定を受けた場合には、後遺障害慰謝料の請求が可能です。
むちうちは12級または14級に該当するケースが一般的であり、どちらに認定されるかによって慰謝料額は以下のとおり変動します。
むちうちで請求できる後遺障害慰謝料の相場 | |||
等級 | 自賠責基準 | 任意保険基準 | 弁護士基準 |
第12級 | 94万円 | 100万円程度 | 290万円 |
第14級 | 32万円 | 40万円程度 | 110万円 |
自賠責基準と比較すると、弁護士基準のほうが3倍程度高額になります。
保険会社から提示された慰謝料額に納得がいかない場合には、弁護士に依頼することで、100万円以上の増額も十分期待できるでしょう。
後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益の相場は、数十万円~数百万円と幅広くなっています。
そもそも後遺障害逸失利益は、後遺症が残ったことで失われた将来の収入に対する補償です。
そのため、後遺障害逸失利益の金額は、年齢やもともとの年収によって大きく変動します。
たとえば、年齢が若く年収も高ければ、後遺障害によって将来的に失われる収入も大きくなるので、逸失利益の金額も増額されるのです。
また、後遺障害等級14級よりも12級のほうが後遺症の程度が重いため、逸失利益の金額も高くなります。
治療費・休業損害など
慰謝料や逸失利益のほかに、交通事故でむちうちになった場合には、以下のような損害賠償を受けられます。
- 治療費:症状固定までに支払った診察料・検査料・薬代など
- 通院交通費:公共交通機関の利用料・タクシー代・自家用車のガソリン代など
- 装具・器具購入費:治療や日常生活の補助を目的とした装具や器具の購入費用
上記の損害賠償は、基本的に必要かつ相当と認められる範囲内で、実費負担分を請求できます。
また、むちうちの治療で仕事を休んだ場合には、休業損害を請求できることもあります。
- 休業損害=休業日数×基礎収入(日額)
自分では気づいていないような費用も補償してもらえる可能性があるので、損害賠償請求をおこなう際は、まず弁護士のアドバイスを受けるようにしてください。
むちうちの後遺症が残ったときは弁護士に相談を
むちうちの後遺症が残った場合は、自力での解決を目指す前に、まずは弁護士に相談してください。
交通事故による後遺障害等級認定手続きや損害賠償請求には、交通事故や医学に関する専門的な知識が必要になるので、自力で対応するのは現実的ではありません。
その点、弁護士に相談すれば、むちうちを理由とした適切な後遺障害等級の認定手続きを全て任せることができます。
また、相手方との交渉も代理人として進めてくれるので、より高額な損害賠償を獲得できる可能性は格段に高まるはずです。
弁護士費用特約付きの自動車保険に加入していれば、弁護士費用の心配もいりません。
特約に加入していない場合は、損害賠償の増額分で弁護士費用をまかなえるかどうか、弁護士に直接相談してみるとよいでしょう。
まとめ
むちうちは、交通事故によるけがのなかでも、よくみられる症状のひとつです。
首の痛みや頭痛、めまいなどが完治しない場合は、後遺障害等級認定の手続きを進めましょう。
等級認定を受けることができれば、相手方に後遺障害慰謝料・逸失利益を請求できます。
とはいえ、後遺障害等級認定の手続きには専門的な知識が必要になるうえ、そう簡単に認められるものではありません。
そのため、むちうちの後遺症に悩んでいる方は、まず弁護士に相談してみることをおすすめします。
交通事故トラブルを得意とする弁護士であれば、後遺障害等級認定の手続きをスムーズに進めてくれるほか、等級に応じて適切な損害賠償額を算定してくれるはずです。
交通事故に関しては無料相談に応じている弁護士も多いので、まずは一度、勇気を出して相談してみてください。