工事代金の未払いは契約書なしでも回収できる? 請求手続き・注意点なども解説

工事代金の未払いは契約書なしでも回収できる? 請求手続き・注意点なども解説

建設工事などの請負代金が未払いとなった場合は、協議や訴訟手続きなどを通じて、注文者に対して速やかな支払いを請求しましょう。

契約書がない場合でも、未払いの工事代金の支払いを請求できる可能性があります。

本記事では、契約書なしでも未払いの工事代金を回収できるのかどうかにつき、請求手続きや注意点などと併せて解説しています。

契約書がない工事代金を回収したい方へ

法的には、契約書がなくても工事請負契約は成立するため、未払いの工事代金を回収できる可能性はあります。

ただ契約書がない場合は、請負人が工事請負契約の成立や請負代金額の立証をしなければなりません

契約書がない工事代金を回収したい方は、弁護士に依頼することをおすすめします。

弁護士に依頼するメリットは、下記の通りです。

  • 工事代金を回収できる可能性があるのか知ることができる
  • 相手の会社との交渉を任せることが可能
  • 裁判手続きを一任できる
  • 本業に専念することができる など

未払いの工事代金の回収には、法的な観点から説得力のある主張をおこなうことが大切です。

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この記事を監修した弁護士
阿部 由羅
阿部 由羅弁護士(ゆら総合法律事務所)
ゆら総合法律事務所の代表弁護士。不動産・金融・中小企業向けをはじめとした契約法務を得意としている。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。

契約書なしでも、未払いの工事代金は回収できるのか?

法的には、契約書がなくても工事請負契約は成立するため、未払いの工事代金を回収できる可能性はあります。

ただし、契約書がなければ契約内容の立証が困難になるため、工事代金の回収が難航することは避けられないでしょう。

契約はメール・口頭でも成立|契約書なしでも工事代金を回収する余地あり

契約とは、当事者間で権利・義務を発生させる法律上の合意です。

契約を締結した当事者は、その内容に従って権利・義務を負います。工事代金の支払義務は、工事請負契約に基づいて発生するものです。

「契約書がなければ契約は成立しない」というイメージが持たれがちですが、そうではありません。

法律上、契約書がなくても契約は成立し得ることが明記されています(民法522条2項)。

(契約の成立と方式)

第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。

2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない

引用元:民法522条 | e-Gov法令検索

建設工事の請負契約については、契約の締結に際して所定の事項を記載した書面を作成し、相互に交付することが義務付けられています(建設業法19条1項)。

しかし、これは契約の成立要件ではなく、あくまでも建設業法上の義務に留まると解されています。

したがって法律上は、契約書を作成していなくても、注文者と請負人の合意があれば工事請負契約が成立するのです。

たとえばメールや口頭での合意によっても、工事請負契約が成立する余地があります。

工事請負契約の成立を立証できれば、請負人はその内容に従い、注文者に対して工事代金の支払いを請求できます。

契約書なしだと工事代金請求権の立証に苦労する

ただし契約書を作成していない場合は、工事請負契約の成立や、請負代金額の立証が困難になることは否めません。

工事請負契約の成立や請負代金額の立証責任は、工事代金を請求する請負人の側にあります。

立証に失敗し、工事請負契約の成立や請負代金額が正しく認定されなければ、未払いの工事代金を回収することはできません。

契約書が締結されていれば、工事請負契約の成立や請負代金額を立証するための直接的な証拠となります。

これに対して契約書がない場合は、メールのやり取りや打ち合わせメモなど、間接的な証拠を積み上げて立証をおこなわなければなりません。

また、建設業法では、建設工事の請負契約締結時の書面交付が義務付けられています。

実務上は、工事請負契約書(またはその変更契約書)の締結をもって建設業法上の書面交付とするケースが大半です。

こうした建設業法のルールや実務慣行がある中で、契約書が存在しないとすれば、その事実は契約が成立していないことを推認させる方向に働くのです。

このような理由から、工事請負契約書(またはその変更契約書)が締結されていない場合、請負人が工事代金請求権の存在を立証するのは困難を極めることが予想されます。

契約書なしの状態で、工事代金請求権を立証する方法

工事請負契約書(またはその変更契約書)がない状態でも、何とか工事代金請求権を立証するためには、以下の方法が考えられます。

メール履歴・打合せ資料・電話録音などを総合的に活用する

契約書がないのであれば、それ以外の間接的な証拠を積み上げることにより、工事代金請求権を立証するほかありません。

工事代金請求権の立証に役立つ証拠としては、たとえば以下のものが挙げられます。

  • 注文者とのメール(メッセージ)のやり取り
  • 注文者との打合せ資料
  • 注文者との電話の録音 など

請負人が主張する工事内容や工事代金につき、注文者が同意していた事実がこれらの証拠に表れていれば、工事代金請求権を立証できる可能性があります。

商法に基づく報酬請求権の発生を主張する

工事請負契約に基づく工事代金請求権の存在を立証できないとしても、商法上の報酬請求をおこなう余地は残されています。

(商行為)

第五条 会社(外国会社を含む。次条第一項、第八条及び第九条において同じ。)がその事業としてする行為及びその事業のためにする行為は、商行為とする。

引用元:会社法5条 | e-Gov法令検索

(定義)

第四条 この法律において「商人」とは、自己の名をもって商行為をすることを業とする者をいう。

引用元:商法4条1項 | e-Gov法令検索

(報酬請求権)

第五百十二条 商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。

引用元:商法512条 | e-Gov法令検索

会社はすべて「商人」に当たるため(会社法5条商法4条1項)、営業の範囲内で他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求できます(商法512条)。

したがって会社である請負人が注文者のために工事を実施した場合、それが契約(合意)に基づかないものであったとしても、注文者に対して相当な報酬を請求することが可能です。

ただし契約で明確に定められている工事代金とは異なり、「相当な報酬」の具体的な金額は、実施された工事の内容に応じてケースバイケースで判断される点に注意が必要です。

注文者が工事代金の支払いを拒否した場合の対処法

注文者が未払いの工事代金の支払いを拒否している場合、請負人は以下の方法によって対処しましょう。

目的物の引渡しを拒否する|同時履行の抗弁権・商事留置権

建物の新築工事の場合、建物を引き渡す前であれば、工事代金が支払われるまで建物の引渡しを拒否することができます(民法533条)。これを「同時履行の抗弁権」といいます。

また改修工事などのために注文者の建物を預かっている場合、商事留置権に基づき、工事代金が支払われるまで建物の引渡しを拒否することが可能です(商法521条)。

工事請負契約を債務不履行解除する

工事請負契約で定められた工事代金が未払いとなった場合、注文者の債務不履行に該当します。

この場合、請負人は注文者に対して催告をおこない、相当期間が経過すれば工事請負契約を解除できます(民法541条)。

(催告による解除)

第五百四十一条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

引用元:民法541条 | e-Gov法令検索

また、注文者が工事代金の支払いを明確に拒絶している場合などには、工事請負契約を無催告解除することも可能です(民法542条)。

(催告によらない解除)

第五百四十二条 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。

一 債務の全部の履行が不能であるとき。

二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき

三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。

四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。

五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。

2 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。

一 債務の一部の履行が不能であるとき。

二 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき

引用元:民法542条 | e-Gov法令検索

工事請負契約を解除すれば、請負人は工事を継続する義務を免れます。

なお、すでに実施された工事によって注文者が利益を受ける場合には、その利益に対応する報酬を請求することが可能です(民法634条)。

もし注文者が報酬を支払わなければ、商事留置権に基づき、工事の目的物を留置することができます(商法521条)。

(注文者が受ける利益の割合に応じた報酬)

第六百三十四条 次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。

一 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。

二 請負が仕事の完成前に解除されたとき。

引用元:民法634条 | e-Gov法令検索

債務名義を取得して、強制執行を申し立てる

工事代金請求権について債務名義を取得すれば、裁判所に対して強制執行を申し立てることができます。

強制執行の債務名義となるのは、以下の公文書です(民事執行法22条)。

  • 確定判決
  • 仮執行宣言付判決
  • 仮執行宣言付支払督促
  • 強制執行認諾文言が記載された公正証書(執行証書)
  • 和解調書
  • 審判書(確定済みのもの)
  • 調停調書 など

債務名義がない場合は、強制執行を申し立てる前に、支払督促・調停・訴訟などを通じて債務名義を取得しましょう。

下請事業者の場合|特定建設業者の立替払い制度を利用する

下請事業者が元請事業者から工事代金を支払ってもらえない場合、国土交通大臣または都道府県知事に対して立替払の勧告を求めることも検討すべきです。

(建設業を営む者及び建設業者団体に対する指導、助言及び勧告)

第四十一条(略)

2 特定建設業者が発注者から直接請け負った建設工事の全部又は一部を施工している他の建設業を営む者が、当該建設工事の施工のために使用している労働者に対する賃金の支払を遅滞した場合において、必要があると認めるときは、当該特定建設業者の許可をした国土交通大臣又は都道府県知事は、当該特定建設業者に対して、支払を遅滞した賃金のうち当該建設工事における労働の対価として適正と認められる賃金相当額を立替払することその他の適切な措置を講ずることを勧告することができる。

引用元:建設業法41条2項 | e-Gov法令検索

立替払の勧告の対象となるのは「特定建設業者」です。

特定建設業者とは、受注工事の全部または一部を工事代金4,000万円以上(建築工事は6,000万円以上)で下請発注することにつき、国土交通大臣または都道府県知事の許可を受けた建設業者をいいます。

下請事業者が雇用する労働者への賃金支払いが遅滞した場合には、国土交通大臣または都道府県知事によって、特定建設業者に立替払が勧告されることがあります。

ただし、立替払の勧告が実際におこなわれるかどうかは、国土交通大臣または都道府県知事の裁量判断となる点にご注意ください。

未払いとなった工事代金を請求する手続き

請負人が注文者に対して、未払いとなった工事代金を請求するためには、以下の手続きをおこないましょう。

いずれの手続きについても、法的なポイントに注意して進める必要があるため、弁護士へのご相談をおすすめいたします。

内容証明郵便による催告

注文者に対して工事代金の支払いを催告する場合は、内容証明郵便を送付するのが一般的です。

内容証明郵便は、郵便局が差出人・宛先・差出日時・内容を証明する郵便物です。

請求内容を明確化することができるほか、工事代金請求権の消滅時効の完成を6か月間猶予する効果があります(民法150条1項)。

(催告による時効の完成猶予)

第百五十条 催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。

引用元:民法150条1項 | e-Gov法令検索

支払督促

支払督促は、裁判所から債務者(注文者)に対して、債務(工事代金)の支払いに関する督促をおこなってもらう制度です。

【参考記事】支払督促|裁判所

支払督促の送達から2週間が経過すると、仮執行宣言付支払督促を申し立てることができます。

仮執行宣言付支払督促は、強制執行の債務名義として利用可能です。

建築ADR

国土交通省・各都道府県が設置している「建設工事紛争審査会」や、各弁護士会が設置している「住宅紛争審査会」による裁判外紛争解決手続き(建築ADR)を利用することも検討しましょう。

建築ADRを利用すれば、訴訟をはじめとした法的手続きに比べて、より柔軟な方法で建築紛争を解決できる可能性があります。

【参考記事】建設工事紛争審査会|国土交通省

住宅紛争処理機関(住宅紛争処理機関検討委員会)|日本弁護士連合会

民事調停

民事調停は、調停委員の仲介によって、当事者が紛争の解決方法を話し合う法的手続きです。原則として、簡易裁判所でおこなわれます。

注文者・請負人間の協議がまとまらない場合には、民事調停を通じて論点を整理することで、紛争解決が近づく可能性があります。

【参考記事】民事調停手続|裁判所

民事訴訟

民事訴訟は、裁判所の公開法廷でおこなわれる法的手続きです。

原告の請求に関して、原告・被告の双方が互いに主張・立証をおこない、裁判所の判決によって紛争解決を図ります。

民事訴訟を通じて工事請負代金を請求する場合、請負人は以下の事項を証拠に基づいて立証しなければなりません。

  • 工事請負契約の成立(工事請負代金についての合意)
  • 工事の完成

【参考記事】民事訴訟|裁判所

そうならないためにもSquare請求書を導入してみませんか?参考記事|Square請求書の使い方|手数料やクレジットカードの受付方法など徹底解説

工事代金請求権の消滅時効に要注意

工事代金請求権は、一定期間行使しないと時効消滅してしまうので注意が必要です。

消滅時効が完成する前に、時効完成を阻止する手続きをとりましょう。

工事代金請求権の消滅時効期間

工事代金請求権の消滅時効期間は、工事請負契約の成立時期によって、以下のとおり異なります。

2020年3月31日以前に工事請負契約を締結した場合工事完成日から3年
2020年4月1日以降に工事請負契約を締結した場合工事完成日から5年

消滅時効期間が経過し、注文者によって時効が援用されると、請負人は注文者に対して工事代金を請求できなくなるのです。

消滅時効完成を阻止する方法

工事代金請求権の消滅時効完成を阻止するには、以下のいずれかの手続きをとる必要があります。

<2020年3月31日以前に工事請負契約を締結した場合>

(1)時効の停止

消滅時効が一時的に完成しなくなります。

  • 天災地変など
  • 内容証明郵便などによる履行の催告(6か月間のみ)

(2)時効の中断

消滅時効期間がリセットされます。

  • 裁判上の請求
  • 差押え、仮差押え、仮処分
  • 債務の承認

<2020年4月1日以降に工事請負契約を締結した場合>

(1)時効の完成猶予

消滅時効が一時的に完成しなくなります。

  • 裁判上の請求
  • 支払督促
  • 和解
  • 調停
  • 倒産手続参加
  • 強制執行
  • 担保権の実行
  • 競売
  • 財産開示手続
  • 第三者からの情報取得手続
  • 仮差押え、仮処分
  • 内容証明郵便などによる履行の催告(6か月間のみ)
  • 協議の合意

(2)時効の更新

消滅時効期間がリセットされます。

  • 裁判上の請求、支払督促、和解、調停、倒産手続参加による権利の確定
  • 強制執行、担保権の実行、競売、財産開示手続、第三者からの情報取得手続の各終了
  • 権利の承認

工事代金の未払いについて、刑事告訴は可能か?

工事代金の未払いについては、刑法上の詐欺利得罪(刑法246条2項)が問題になることがあります。

注文者に詐欺利得罪が成立するのは、当初から工事代金を支払う意思がないにもかかわらず、請負人を騙して工事をおこなわせた場合です。

この場合、請負人は注文者を刑事告訴して、警察に捜査を求めることができます。

詐欺利得罪の法定刑は「10年以下の懲役」です。

これに対して、当初は工事代金を支払う意思があったものの、経営不振などによって工事代金を支払えなくなったに過ぎない場合は、詐欺利得罪は成立しません。

未払いの工事代金回収は弁護士にご相談を

注文者が工事代金を支払わない場合、その回収にはADR・調停・訴訟などの手続きが必要になります。

これらの手続きを通じた未払い工事代金の回収を成功させるには、法的な観点から説得力のある主張をおこなうことが大切です。

弁護士に相談すれば、工事請負代金の発生要件や効果的な証拠などを踏まえて、注文者に対する請求を成功させるために尽力してくれるでしょう。

注文者との和解交渉や、ADR・調停・訴訟などの手続きについても一貫して代行してもらえるため、労力も大幅に軽減されます。

工事請負代金を回収できずにお悩みの施工業者は、弁護士までご相談ください。

契約書がない工事代金を回収したい方へ

法的には、契約書がなくても工事請負契約は成立するため、未払いの工事代金を回収できる可能性はあります。

ただ契約書がない場合は、請負人が工事請負契約の成立や請負代金額の立証をしなければなりません

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この記事の調査・編集者
アシロ編集部
本記事は法律相談ナビを運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。※法律相談ナビに掲載される記事は、必ずしも弁護士が執筆したものではありません。本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。
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