2023年7月1日に改正道路交通法が施行されたことで、一定の条件を満たす電動キックボードは、免許不要で公道を走行できるようになりました。
シェアサービスなども普及して気軽に利用できるようになった反面、電動キックボードによる交通事故なども多く発生しています。
なかには被害者に重傷を負わせて逮捕されたり、1,000万円を超える賠償金の支払いが命じられたりしたケースなどもあります。
本記事では、電動キックボードの事故事例や事故後の流れ、賠償金の内訳や弁護士に相談するメリットなどを解説します。
電動キックボードの交通事故は急激に増加している
警察庁の公表資料によると、2024年に発生した電動キックボードに関連する事故は338件にのぼります。
2023年7月~12月の事故件数が85件であるのに対し、2024年7月~12月の事故件数は204件で2倍以上増えており、2024年には死亡事故なども発生しています。
電動キックボードは、車体の大きさや定格出力などによって「特定小型原動機付自転車」や「一般原動機付自転車」に分類され、交通ルールに違反した場合は罰則を科されることになります。
電動キックボードによる事故で逮捕されたケースなどもあり、ここでは実際の事故事例を3つ紹介します。
電動キックボードでひき逃げをして50万円の罰金刑となった事例
2024年2月、愛知県名古屋市で加害者が電動キックボードで路上走行中、被害者である歩行者と衝突して鎖骨骨折や肋骨骨折などの重傷を負わせたという事例です。
加害者は事故後そのまま立ち去ったものの、その後逮捕されて道路交通法違反で略式起訴され、罰金50万円の判決が下されました。
【参考記事】名古屋の電動ボードひき逃げ、44歳男性に罰金50万円|産経新聞
電動キックボードで飲酒運転をして現行犯逮捕された事例
2024年5月、福岡県福岡市で加害者がお酒を飲んだ状態で電動キックボードを運転していたという事例です。
パトロール中の警察官がふらつきながら走行している加害者を発見し、呼び止めて飲酒検査をおこなったところ、基準値の約4倍のアルコールが検出されました。
加害者は「飲酒した状態で乗ってはいけないとは知らなかった」などと主張していたものの、道路交通法違反の容疑でそのまま現行犯逮捕となりました。
【参考記事】電動キックボード、酒気帯び運転容疑 自称・市職員を現行犯逮捕|朝日新聞
電動キックボードで重傷を負わせて罰金50万円・賠償金約1,110万円となった事例
2021年5月、大阪府大阪市で加害者2名が電動キックボードを2人乗りで走行中、被害者である歩行者と衝突して首の骨折などの重傷を負わせたという事例です。
加害者のうち電動キックボードを運転していた男性については、自動車運転死傷処罰法違反で略式起訴され、罰金50万円の略式命令が下されました。
また、被害者は加害者に対して治療費などの損害賠償を求めて裁判を起こし、最終的には被害者側の主張が認められ、加害者2名に約1,110万円の支払いが命じられました。
【参考記事】2人乗りキックボードの衝突事故、同乗者にも1100万円の賠償命令|朝日新聞
電動キックボードの事故が増えている原因
次に、電動キックボードの事故が増えている主な原因について解説します。
1.法改正によって利用者が増えたため
電動キックボードの事故が増えている大きな原因のひとつとして「法改正によって気軽に利用できるようになった」という点があります。
法改正されるまでは運転免許が必要でしたが、2023年7月1日の道路交通法改正によって「特定小型原動機付自転車」にあたる電動キックボードは16歳以上なら免許不要で運転できるようになりました。
これまで免許がなくて運転できなかった方も利用するようになり、さらにシェアサービスなども普及したことで利用者が増え、事故件数の増加にもつながっていると考えられます。
2.安定性が低くてバランスを崩しやすいため
電動キックボードの特徴として「構造上安定性が低い」というのも事故が起きやすい原因のひとつです。
電動キックボードのタイヤは小さくて細いため路面の影響を受けやすく、わずかな凹凸でも衝撃を感じてハンドルをとられてしまいます。
また、タイヤと地面の接地面積が小さいためグリップ力にも欠けますし、立ち姿勢で運転するため重心が高くなってバランスを崩しやすく、運転に慣れていないと転倒するリスクがあります。
3.性能や規格を理解せずに運転しているため
法改正によって気軽に電動キックボードを利用できるようになった反面、利用者のなかには電動キックボードの規格や性能を十分に理解しないまま運転している方などもおり、それも事故が増えている原因のひとつです。
電動キックボードの規格や性能は完全に統一されているわけではなく、メーカーごとに違いがあります。
速度やブレーキ性能などをしっかりと確認せずに軽い気持ちで利用してしまうと、運転操作を誤ったりして事故を起こすこともあります。
4.交通ルールやマナー違反が多いため
電動キックボードに関しては、信号無視・通行区分違反・一時不停止・歩行者妨害・酒気帯び運転などの交通違反も多く発生しています。
警察庁の公表資料によると、2023年から2024年の1年間で交通違反の検挙件数が大幅に増加しています。
たとえば、信号無視に関しては、2023年7月~12月の検挙件数が2,685件であるのに対し、2024年7月~12月の検挙件数は4,798件で2,000件以上増加しています。
電動キックボードの利用者の増加とともに、交通ルールなどを無視して危険な運転をする方も増えており、そのような背景もあって事故の増加につながっていると考えられます。
電動キックボードでよくある事故事例
次に、電動キックボードでよくある事故のパターンについて解説します。
1.歩行者との衝突事故
電動キックボードでの交通事故の典型例は、歩行者との衝突事故です。
たとえば、車道と歩道の区別がない道路では、電動キックボードと歩行者の進路が交錯することもよくあります。
自転車事故などと同様に、電動キックボードについても出会い頭に歩行者と衝突することは十分想定されます。
また、車道と歩道が区別された道路では、一定の条件下で電動キックボードの歩道通行が認められています。
歩道通行時の最高速度は6km/hに制限されますが、歩行者と衝突すればタイミングなどによっては大けがにつながることもあります。
また、電動キックボード側が歩道通行モードに切り替えずに違法に通行するケースも考えられます。
この場合、速度を20km/hまで出せてしまうため、大きな事故につながるおそれがあります。
2.車道での自動車との接触事故
電動キックボードは、車道を通行するのが原則です。
そのため、電動キックボードと自動車の接触事故も発生しています。
電動キックボードは道路の左側端に寄って通行することになっていますが、運転操作のミスや路面の凹凸などで自動車が通行しているレーンに出てしまい、接触してしまうこともあります。
また、電動キックボード側が交通ルールを守らず、道路の右側や車道の真ん中を通行している場合にも接触事故のリスクが高まります。
3.電動キックボード単独での自損事故
電動キックボードに関しては、単独での自損事故なども発生しています。
そもそも、電動キックボードを乗りこなすのは簡単ではありません。
路面の状態が悪ければバランスを崩してしまったり、初心者であれば運転操作を誤ったりすることもあります。
その結果、電柱やガードレールにぶつかったり、縁石に乗り上げたりといった事故に発展するケースなどもあります。
電動キックボードの事故に遭った場合の流れ
ここでは、電動キックボードでの事故後の流れについて解説します。
1.警察に連絡する
まずは事故現場の安全を確保して、負傷者がいれば救護活動をおこないます。
なお、交通事故が起きた際は、警察への連絡が法律上義務付けられています(道路交通法第72条)。
110番通報しないと報告義務違反となって刑事罰が科される可能性があるため、安全確保などを済ませたら速やかに連絡しましょう。
2.相手方の連絡先を確認する
次に、相手の運転免許証などを見せてもらって、身元や連絡先を確認します。
なお、現場写真があれば示談交渉や裁判の際に証拠として役立つこともあるため、スマートフォンで事故車両や道路状況などの写真を撮っておきましょう。
警察が到着すると実況見分や聞き取り捜査などがおこなわれ、一通り対応が済めば「実況見分調書」や「供述証書」などの書類が作成されます。
3.病院に行って治療を受ける
交通事故に遭ったときは、すぐに症状が出ない重篤な怪我の可能性もあるため、事故後は速やかに病院に行きましょう。
病院に行くのが遅れてしまうと、相手方に事故とけがの因果関係を疑われて、適切な額の治療費や慰謝料などを受け取れなくなるおそれがあります。
事故で負傷している場合は、医師の指示に従って完治するまで治療を続け、これ以上治療を継続しても改善が見込めない状態となった場合は医師から「症状固定」の診断が下されます。
症状固定の診断が下された場合は、後遺障害として等級認定を受けることで「後遺障害慰謝料」や「後遺障害逸失利益」などの賠償金を請求することができます。
4.示談交渉をおこなう
けがの治療などを終えて損害が確定したら、相手方と示談交渉をおこないます。
示談交渉では示談金や過失割合などについて話し合い、示談交渉がまとまった際は示談書を交わして示談金の支払いがおこなわれます。
なお、原則として示談成立後はやり直しができないため、安易に妥協したりせずに納得のいくまで話し合いを続けましょう。
5.民事調停や民事裁判を起こす
示談交渉では解決が難しい場合は、民事調停や民事裁判などに移行します。
民事調停では、調停委員が第三者の立場として間に立ち、裁判所で話し合いを重ねて解決を目指します。
民事調停で合意がまとまれば調停調書が作成されて終了となりますが、不成立となった場合は最終手段として民事裁判で解決を目指します。
民事裁判では、裁判所で当事者双方が主張や反論をおこない、裁判官から提示された和解案に合意するか、裁判官によって判決が下されて終了となります。
電動キックボードの事故で請求できる慰謝料・損害賠償金
電動キックボードの事故で請求できる損害賠償金としては、主に以下があります。
項目 | 概要 |
治療費 | けがの治療にかかった費用 |
通院交通費 | 事故に遭って通院する際にかかった交通費 ※自家用車で通院した場合も、走行距離に応じた一定額が損害賠償の対象となる |
装具・器具購入費 | 義歯・義手・義足・眼鏡・車いす・コルセット・サポーターなどの購入費用 |
付添費用 | 通院時や入院時などに家族・職業付添人に付き添ってもらった場合に認められる費用 |
入院雑費 | 入院中の日用品などの購入に充てた費用 ※1日あたり1,100円~1,500円程度 |
葬儀費用 | 被害者が死亡して葬儀をおこなった際の費用 ※原則として150万円まで |
物的損害に対する補償 | 車両修理費・代車費用・車の評価損・休車損害など |
休業損害 | 事故で仕事を休んで減収した場合に請求できるもの |
後遺障害逸失利益 | 事故がなければ得られたはずの将来分の収入のことで、後遺障害が残った場合に請求できる |
死亡逸失利益 | 事故がなければ得られたはずの将来分の収入のことで、被害者が死亡した場合に請求できる |
入通院慰謝料 | 事故で入院や通院した場合に請求できる慰謝料 |
後遺障害慰謝料 | 事故で後遺障害が残った場合に請求できる慰謝料 |
死亡慰謝料 | 事故で被害者が死亡した場合に請求できる慰謝料 |
以下では、入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・死亡慰謝料の相場を紹介します。
なお、交通事故の慰謝料には自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準などの計算基準があり、ここでは最も高額になりやすい「弁護士基準」での相場を紹介します。
<弁護士基準(但し、赤い本別表Ⅱ)による入通院慰謝料の相場(単位:万円)>
後遺障害等級 | 後遺障害慰謝料 |
1級(要介護を含む) | 2,800万円 |
2級(要介護を含む) | 2,370万円 |
3級 | 1,990万円 |
4級 | 1,670万円 |
5級 | 1,400万円 |
6級 | 1,180万円 |
7級 | 1,000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
生前の被害者の立場 | 死亡慰謝料 |
一家の支柱 | 2,800万円 |
母親・配偶者 | 2,500万円 |
上記以外 | 2,000万円~2,500万円 |
電動キックボードの事故に遭った際の注意点
ここでは、電動キックボードの事故に遭った際の注意点を解説します。
相手保険会社から十分な補償を受けられない可能性がある
相手によっては「任意保険に加入しておらず、自賠責保険にしか加入していない」ということもあり、その場合は十分な補償を受けられない可能性があります。
あくまでも自賠責保険は最低限の補償をおこなうものであり、自賠責保険の補償範囲を超える損害については加害者本人に請求することも可能です。
しかし、加害者側に十分な資力がないと、請求どおりの金額を受け取れずに泣き寝入りとなることもあります。
過失割合についてトラブルになりやすい
過失割合とは「事故当事者の責任の割合」のことです。
自身の過失が大きいほど受け取れる示談金が減額されるため、示談交渉の際は過失割合についても十分に話し合って決める必要があります。
過失割合を決める際は過去の裁判例などを参考に決めるのが通常ですが、電動キックボードの事故を扱った判例はまだ少なく、通常の自動車事故などと比べると過失割合の算定方法が十分に確立されていません。
そのため、なかには過失割合について相手方と主張が対立し、交渉が難航したりすることもあります。
電動キックボードの事故は弁護士に相談を
電動キックボードの事故が起きた際は、まずは弁護士に相談するのがおすすめです。
ここでは、弁護士にサポートしてもらうメリットについて解説します。
事故後の手続きを一任できる
事故に遭った際は、警察を呼んで事故状況を説明したり、相手方と示談交渉をおこなったりなど、さまざまな手続きに追われて大きな負担がかかってしまいます。
弁護士なら、示談交渉・民事調停・民事裁判などの損害賠償請求の手続きを一任できます。
依頼後は弁護士が対応窓口になってくれるため、相手方と直接やり取りする必要もなくなり、けがの治療などに専念することができます。
被害状況に見合った賠償金の獲得が望める
事故相手に請求できる賠償金はさまざまあり、なかには示談成立後に請求漏れに気付いて泣き寝入りとなることもあります。
弁護士に依頼すれば請求漏れを防止できますし、慰謝料などに関しては弁護士基準を用いて請求対応を進めてくれて、当初の提示額よりも大幅に増額できる可能性もあります。
過失割合の交渉を有利に進められる
過失割合の交渉では相手と主張がぶつかることもあり、なかには相手側の主張に押されてしまったり、裁判に移行して解決が長引いたりすることもあります。
弁護士に依頼すれば、相手側の主張に対しても根拠を示しながら的確に反論してくれて、スムーズに有利な形で交渉を進められる可能性が高まります。
まとめ|電動キックボードの事故で弁護士に相談するなら「ベンナビ交通事故」がおすすめ
電動キックボードの事故では、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
交通事故に強い弁護士であれば、示談交渉や裁判などの事故後手続きを安心して依頼でき、被害状況に見合った金額を受け取れる可能性が高まります。
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