- 「たった数百円のことだし、返さなくてよいとおもっていた」
- 「どうせすぐ忘れられるだろうと思って、返さなかった」
このような軽い気持ちで他人から金銭をだましとった場合、「寸借詐欺」として詐欺罪に問われる可能性があります。
被害額が少額であっても、逮捕に発展するケースは実際に発生しています。
逮捕されるリスクを減らしたいのであれば、適切かつ慎重な対応が必要です。
本記事では、寸借詐欺の意味や罰則、逮捕されるリスクについて解説します。
あわせて、弁護士に相談するメリットも紹介しているので、詐欺罪で捕まるかもしれないと不安を感じている方は、ぜひ参考にしてください。
寸借詐欺とは?小銭を借りるフリをしてだまし取る犯罪のこと
寸借詐欺とは、実際には返済するつもりのない人が、他人の親切心につけ込んで、あとで返すフリをして少額のお金をだまし取る行為をいいます。
数百円から数千円程度と、「これくらいなら貸してもいいか」と思わせる金額を要求するケースが多いのが特徴です。
また、「もうすぐ電車が来る」「急いで病院に行かなくてはならない」など、緊急性を強調して相手に考える時間を与えず、判断を鈍らせる手口がよく使われます。
そのほかにも、「家族が倒れた」「財布を落として困っている」など、断りにくい理由を持ち出して頼みごとをしてくるのも常套手段です。
寸借詐欺(詐欺罪)の要件
寸借詐欺は、刑法第246条の「詐欺罪」に該当する可能性があります。
(詐欺)
第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の拘禁刑に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
引用元:刑法 | e-Gov 法令検索
詐欺罪が成立するためには、以下の4つ全ての要件を満たす必要があります。
- 欺罔行為:金銭等をだまし取る目的で嘘をつくこと
例:最初から返す気がないにもかかわらず、「財布を落として電車賃がない。後日返すので1,000円貸してほしい」と頼んだ - 錯誤:だまされた相手が嘘を信じること
例:被害者が、犯人の言葉を真に受けて「この人は本当に困っている」「すぐに返してくれるはずだ」と誤信した - 交付行為:相手が財産を渡すこと
例:被害者が錯誤によって、実際に犯人に現金を手渡した - 財産の移転:犯人に実際に財産が渡ること
例:だまし取った1,000円がそのまま犯人の財布に入り、そのまま使用された
寸借詐欺(詐欺罪)の刑罰
詐欺罪の法定刑は「10年以下の拘禁刑」であり、重大な財産犯として位置づけられます。
また、詐欺罪は未遂でも処罰されます。
そのため、相手から実際にお金を受け取らなくても、嘘をついて金銭をだまし取ろうという実行行為をした時点で、詐欺罪の未遂として刑事責任を問われる可能性があることを覚えておきましょう。
寸借詐欺であっても逮捕される可能性はある
寸借詐欺は、少額の金銭をだまし取る手口であるため「大したことはない」と軽く見られがちですが、れっきとした詐欺罪に該当します。
そのため、事件が発覚すれば逮捕される可能性があります。
ここでは、実際に逮捕されるに至った寸借詐欺の事例を3件紹介します。
1.男女5人から合計8万5,000円をだまし取っていたケース
2024年、仙台市泉区の繁華街で、見知らぬ通行人に声をかけて金銭をだまし取る寸借詐欺の事件が相次ぎました。
容疑者は18歳の男性で、2024年8月から10月にかけて、「財布を落として家に帰れない」などと話し、通行中の男女に同情を誘ってタクシー代などの名目で現金を要求していました。
また、「携帯電話を忘れて困っている」「母親の電話番号を教える」などと言い、偽名や偽の連絡先を伝えて相手を信用させていたとされています。
被害者は高校生を含む5人で、被害額は1人あたり5,000円〜3万円、合計約8万5,000円でした。
【参考】「財布を落として…」善意につけ込む寸借詐欺で18歳男逮捕 | khb東日本放送
2.ガソリン代を名目に5,000円をだまし取ったケース
2023年、愛媛県松山市で、面識のない相手に金銭を要求してだまし取る寸借詐欺の事件が発生しました。
容疑者は41歳の無職の女性で、2023年10月、松山市内に住む46歳の女性宅を突然訪れ、「親戚が不在でお金を借りられなかった」「ガソリン代として5,000円だけ貸してほしい」と頼み込んで、現金5,000円を騙し取ったとされています。
被害者とは面識がなかったものの、容疑者は信用を得るために身分証明書のコピーを渡し、携帯電話番号も伝えていました。
しかし、その後連絡が取れなくなり、不審に思った被害者が警察に相談しました。
その後、身分証明書の情報から容疑者が特定され、逮捕に至りました。
【参考】「当てはないが返済する気がなかったわけではない」 面識ない女性に「ガソリン代として5000円貸して」 詐欺容疑で女(41)を逮捕(愛媛・松山市) | TBS NEWS DIG
3.交通費を借りる名目で1万円だまし取ったケース
2019年12月から2020年1月にかけて、佐賀県内で複数の施設を訪ね歩き、うその理由で金銭をだまし取った寸借詐欺の事件が発生しました。
容疑者は、住所不定・無職の51歳の男性です。
鹿島市の理髪店や鳥栖市の病院、運送会社などを訪れ、「娘が交通事故に遭ったので急いで熊本に帰りたい」「交通費がなく困っている」などと話して、1万円ずつの現金を受け取っていました。
被害は3件で、被害額は合計3万円にのぼりました。
【参考】「1万円貸して」寸借詐欺の男起訴内容を否認【佐賀県】|佐賀のニュース|サガテレビ
寸借詐欺で逮捕された場合の2つのデメリット
寸借詐欺で逮捕されると、さまざまなデメリットを被ります。
ここでは、代表的なデメリットを2つ紹介します。
1.数日間、身柄を拘束される
寸借詐欺で逮捕されると、すぐに釈放されない限り、勾留決定が出るまで、通常は少なくとも2日〜3日間、警察署の「留置場」で身柄を拘束されます。
釈放されない限り、勾留決定後まで外部と連絡を取れず、たとえ家族であっても面会が認められません。
また、警察や検察の判断によっては、逮捕後1~2日後になされる検察官による勾留請求をされた日から最長20日間身柄拘束が続きます。
裁判官からの接見禁止が付かなければ、家族との面会は認められるようになりますが、自由に外出はできません。
このような長期間にわたる身柄拘束によって、仕事や学校を休まざるを得なかったり、周囲に逮捕された事実が知られてしまったりするなど、社会的な不利益を被る可能性があります。
2.逮捕歴(前歴)として残る
逮捕されると、「逮捕歴(前歴)」として記録が残ります。
逮捕歴とは、刑事事件の被疑者として警察に逮捕された事実を意味します。
前歴とは、逮捕歴も含めた刑事手続きに関与した履歴を意味します。
逮捕歴は、逮捕された時点で警察や検察などの捜査機関に保存されます。
たとえ不起訴処分になった場合や、裁判で無罪となった場合でも、逮捕歴(前歴)が消えることはありません。
逮捕歴があると、将来別の刑事事件に関与した場合に「再犯のおそれがある」と判断され、刑罰が重くなる可能性がある点に注意が必要です。
とくに、過去の逮捕歴と同種の事件に再度関与した場合には、量刑判断においてより不利に扱われやすくなります。
寸借詐欺を働いた場合に弁護士に相談する3つのメリット
寸借詐欺で逮捕されたときに被るデメリットを避けるためには、できるだけ早く弁護士に相談することがおすすめです。
ここでは、弁護士に相談する主なメリットを3つ紹介します。
1.取り調べのアドバイスをもらえる
弁護士に相談することで、取り調べでの受け答えについて事前に適切なアドバイスを受けられます。
寸借詐欺で逮捕されると、被疑者は警察官や検察官による取り調べを受けます。
取り調べの際、曖昧な発言や誤解を招くような言い回しをしてしまうと、自分に不利な内容の供述調書が作成され、そのまま裁判で使用されるおそれがあります。
その点、弁護士は取り調べでどのようなことを聞かれるのか、どのように対応すべきかを具体的に助言してくれるため、無用なトラブルを防げるでしょう。
また、弁護士の存在が抑止力となり、虚偽の自白を促すような不当な取り調べを防ぐ効果も期待できます。
2.被害者との示談交渉を進めてくれる
弁護士は、被害者との示談交渉を代理人として適切に進めてくれます。
刑事事件における示談とは、加害者と被害者間の関係を清算するための示談契約のことです。
被害者と示談が成立していると、被害者の処罰感情がある程度緩和されていると検察官に評価され、結果的に不起訴処分となる可能性が高くなります。
示談交渉は早めに進めるべきですが、加害者本人が直接連絡を取ると、被害者に強い不信感や不安を与え、かえって状況が悪化するおそれがあります。
そこで、弁護士が交渉の窓口となることで、感情的な対立を避けつつ、冷静かつ丁寧に話し合いを進めることが可能です。
また、弁護士は示談書の作成や条件面の調整にも対応してくれます。
3.早期釈放に向けた働きかけなどをしてくれる
弁護士は、被疑者の身柄の早期釈放に尽力してくれます。
逮捕後にそのまま勾留が続くと、数週間にわたり身柄を拘束される可能性があります。
この間に学校や職場を休むとなると、周囲からの信頼を失いかねません。
弁護士は、裁判所や検察に対して「逃亡や証拠隠滅のおそれがない」といった点を丁寧に説明し、勾留の回避や早期釈放に向けた働きかけをおこなってくれます。<?span>
万が一勾留が決定してしまった場合でも、準抗告を申し立てるなどして、できるだけ早く社会復帰できるよう尽力してくれるでしょう。
さいごに|小銭であってもだまし取れば寸借詐欺(詐欺罪)になる
本記事では、寸借詐欺の意味や詐欺罪に該当する要件、逮捕されるリスク、取るべき対応について解説しました。
寸借詐欺に該当する行為をおこなうと、詐欺罪に問われる可能性があります。
「返すつもりだった」「冗談だった」といった言い訳は通用せず、場合によっては逮捕されたり、前科がついたりすることもあります。
こうしたリスクを回避するには、できるだけ早く刑事事件に強い弁護士に相談することが重要です。
弁護士に相談すれば、取調べの対応方法や、被害者との示談交渉、不起訴処分を得るための戦略などについて具体的なアドバイスを受けられます。
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リスクをできるだけ軽減するためにも、不安を感じた段階で早めにご利用ください。

