- 「人身事故証明書入手不能理由書って何のために提出するの?」
- 「交通事故の証明書が取れない場合、どうすればいいの?」
交通事故に関する手続きの中で、「人身事故証明書入手不能理由書」という言葉を初めて聞いた方も多いかもしれません。
これは、加害者や被害者が事故証明書を取得できない事情がある場合に、その理由を説明するための書類です。
とくに、保険会社への請求や補償手続を進める際に必要となるケースがあります。
本記事では、「人身事故証明書入手不能理由書」とはどのような書類なのか、どんなときに提出が必要になるのか、書き方や注意点までをわかりやすく解説します。
交通事故後の手続きに不安を感じている方は、ぜひ参考にしてみてください。
人身事故証明書入手不能理由書とは?
そもそも人身事故証明書入手不能理由書とはどのような書面なのでしょうか。
ここでは人身事故証明書入手不能理由書の役割や必要になるタイミング、入手方法について解説します。
役割|人身事故の届出なしで人身傷害の補償を受けられるようにするためのもの
人身事故証明書入手不能理由書とは、人身事故の届出なしで、人身傷害の補償を受けられるようにするための書面です。
そもおも交通事故には、物損事故と人身事故の2種類があり、それぞれ以下のような点が異なります。
項目 | 物損事故 | 人身事故 |
けがの有無 | なし | あり |
刑事罰の適用の有無 | なし | あり |
保険の適用 | 任意保険のみ | 自賠責保険+任意保険 |
賠償内容 | 修理費などの物損に関する損害 | 慰謝料・治療費などの人身傷害に関する損害も含む |
人身傷害の補償には、治療費や慰謝料、休業補償、逸失利益などが含まれ、高額な賠償になるケースも多くあります。
そのため、被害者にとっては、人身障害に対する補償を受けられるかどうかは非常に重要です。
しかし、事故当初に物損事故として届け出た場合や、そもそも警察に届け出をしていない場合には、人身事故としての「事故証明書」が発行されず、人身傷害
そうしたケースで人身傷害の補償を求める際に、必要となるのが「人身事故証明書入手不能理由書」です。
人身事故証明書入手不能理由書があることで、事故の実態と補償の必要性を保険会社などに伝えることができ、仮に人身事故への切り替えが難しい場合でも、人身傷害に対する補償を受けるようになります。
必要になるタイミング|被害者や任意保険会社が自賠責保険に保険金を請求するとき
人身事故証明書入手不能理由書が必要になるタイミングは、主に以下2つです。
- 自賠責保険に被害者請求するタイミング
- 任意保険会社が自賠責保険に請求するタイミング
それぞれのタイミングについて、詳しく見ていきましょう。
自賠責保険に被害者請求するタイミング
人身事故証明書入手不能理由書が必要になる最初のタイミングは、交通事故の被害者が加害者側の自賠責保険に対して保険金を請求する「被害者請求」の場面です。
自賠責保険は、本来、人身事故によって発生した人身損害を補償するための保険です。
そのため、補償を受けるには、事故が人身事故であることを証明する「人身事故証明書」が必要になります。
物損事故として処理されている場合には、基本的に自賠責保険の補償対象にはなりません。
そこで、物損事故として届け出た場合であっても、実際にはけがをしていて補償を受けたいというときには、「人身事故証明書入手不能理由書」を提出し、人身事故証明書が取得できない理由を明らかにする必要があります。
この書類を提出することで、物損事故として処理されていても自賠責保険を適用し、人身補償を受けることが可能です。
任意保険会社が自賠責保険に請求するタイミング
人身事故証明書入手不能理由書が必要になるもうひとつのタイミングは、加害者側の任意保険会社が自賠責保険へ請求をおこなう場面です。
通常、加害者側の任意保険会社は、被害者に対して自賠責保険の補償分を含めた保険金を一括して支払います。
その後、支払い済みの自賠責分について、自賠責保険に対して保険金を請求する流れになります。
このとき、事故が人身扱いとして処理されていないと、自賠責への請求に必要な事故証明書が発行されません。
そのため、事故証明書が取得できない理由を説明するために、「人身事故証明書入手不能理由書」が必要になるのです。
入手方法|加害者側の保険会社から入手するケースが一般的
人身事故証明書入手不能理由書は、一般的には加害者側の任意保険会社から送られてくる形で入手します。
ただし、被害者自身が自賠責保険へ直接請求する「被害者請求」の場合には、加害者側の任意保険会社に連絡して書類を取り寄せなければなりません。
その際は、被害者請求に必要な書類一式とあわせて「人身事故証明書入手不能理由書」も同封してもらうよう依頼すると、手続きがスムーズに進むでしょう。
人身事故証明書入手不能理由書の書き方・記入例
ここからは、人身事故証明書入手不能理由書の書き方について、記入例とともに詳しく解説します。
適切な補償を受けるためにも、正しい記載方法をチェックしておきましょう。
提出先の保険会社名
まず冒頭には提出先の保険会社名(自賠責保険会社名)を記載します。
なお、記載すべき保険会社の名前は、事故証明書に記載されています。
人身事故扱いの交通事故証明書を入手できなかった理由
次に、人身傷害が発生しているにもかかわらず、人身事故扱いにしなかった理由を記載します。
代表的な理由が以下のように記載されているので、該当するものがあるときは「〇」をしましょう。
該当するものがない場合、「事故当時者の事情」や「その他」に「〇」をし、理由欄にその理由を具体的に記載しましょう。
物損事故としての届出先や届出年月日
次に、警察への届出年月日や担当者などがわかる場合にはその日と名前などを記載します。
わからない場合には記載しなくても問題ありません。
関係者の記名・押印
次に、どの立場の人が人身事故証明書入手不能理由書を作成したのか、またその人の氏名や住所などを記載します。
なお、人身事故証明書入手不能理由書の作成を弁護士に依頼した場合は「その他」に「〇」をし、括弧欄に「受任者」と記載しましょう。
交通事故の概要
次に、交通事故の概要欄に事故の発生年月日と日時、場所、当事者を記載します。
当事者欄は、甲の欄に加害者、乙の欄に被害者の情報を記載します。
なお、加害者の情報については、保険会社が記入するのが一般的です。
そのほかの各項目は以下の様に記載します。
- 発生年月日日時:事故の発生日や事故当時の天候まで記載しましょう。
- 事故発生場所:事故の発生場所の住所を正確に記載しましょう。
- 自賠責保険契約先:自分が加入している自賠責保険の保険会社名を記載しましょう。
- 自賠責保険証明書番号:自賠責保険証明書に記載された証明書番号を記載しましょう。
- 登録番号:車のナンバープレートに記載された番号
人身事故証明書入手不能理由書に関する注意点
人身事故証明書入手不能理由書があれば物損事故のままでも人身補償を受けることができますが、いくつか注意点も存在します。
ここからは、人身事故証明書入手不能理由書に関する注意点について見ていきましょう。
可能であれば警察への届出を人身事故に切り替えたほうがよい
ひとつ目の注意点は、警察への届出を人身事故に切り替えるほうが被害者にとってメリットがあるという点です。
そもそも人身事故証明書入手不能理由書は、人身事故としての交通事故証明書が入手できない理由を自己申告する書面です。
そのため、人身事故証明書入手不能理由書を書いて保険会社に提出したからといって、保険会社がその内容を信用して、人身傷害の補償に応じてくれるとは限りません。
通常、人身事故が起こったという証明書として扱われるのは、人身事故である旨が記載された交通事故証明書です。
そのため、人身傷害を理由に治療費や慰謝料などを請求することを考えるのであれば、物損事故から人身事故への切り替えをおこなうのが最も確実に補償を受ける方法といえます。
なお、物損事故から人身事故の切り替えは、交通事故の発生日から約10日以内であれば認めてもらえるケースが多いので、なるべく早く切り替えの届出をおこなうようにしましょう。
ただし、物損事故から人身事故の切り替えのためには診断書が必要です。
この診断書がないとけがをしたことの証明ができないため人身事故への切り替えができません。
もしも事故後になんらかの症状がある場合は、病院へ行き必ず診断書を発行してもらいましょう。
治療費の支払いを早めに打ち切られるおそれがある
人身事故証明書入手不能理由書を提出するということは、「事故当初は軽症と認識していた」という前提に立つものです。
そのため、一般的な人身事故と比較して補償面で不利になる可能性がある点には、あらかじめ注意しておきましょう。
たとえば、むちうちのように、事故直後は軽症に思えても、あとから重い後遺症が残るケースは少なくありません。
しかし、事故当初に軽傷と判断して物損事故として届け出た場合、被害者自身が「大きなけがではない」と申告していたと見なされる可能性があります。
その結果、同様の症状や通院頻度であっても、相手方の保険会社に「回復が早い」と判断されやすく、治療費の支払いが通常よりも早く打ち切られてしまうおそれがあるのです。
適切な後遺障害等級認定を受けられない可能性がある
むちうちのように、後遺症が残っても画像検査などで明確な異常が確認できないケースは少なくありません。
そのため、後遺障害等級の認定においては、被害者の自覚症状だけでなく、通院状況や治療内容といった客観的な証拠も重要な判断材料となります。
とくに、事故が人身事故として届け出られているかどうかや、通院の頻度・期間などは、「症状の重さ」や「継続性」を示す状況証拠として扱われます。
その点で、人身事故証明書入手不能理由書を提出するということは、「事故当初は軽傷と判断していた」という被害者側の認識を示すものでもあります。
そのため、後遺障害等級の認定において「症状が重いとは言い切れない」と判断される一因となり、不利に働く可能性があるのです。
結果として、本来受けられるべき適切な後遺障害等級が認定されず、補償額が減ってしまうおそれがある点には十分注意が必要です。
さいごに|交通事故手続きに関する悩み・疑問は弁護士に相談を!
交通事故の被害に遭って、当初は軽いけがだと考えていても、後日症状が悪化してしまったというケースは決して少なくありません。
そのため、物損事故として届出をしてしまった場合には、本記事を参考に人身事故証明書入手不能理由書を提出するのもひとつの方法です。
しかし、事故発生から間もないのであれば、人身事故へ切り替えるほうが被害者にとってメリットが大きい可能性が高いです。
なお、物損事故から人身事故への切り替えや、人身事故証明書入手不能理由書の入手・作成に関して不安がある場合は、弁護士へ相談することも検討しましょう。
ベンナビ交通事故では、交通事故問題を得意とする弁護士を多数掲載しているので、まずはお気軽にご相談ください。

