人身事故
後遺障害認定にデメリットはある?よくある誤解と注意点について詳しく解説
2024.10.09
交通事故に遭い、後遺症が残ってしまった場合、後遺症に関する慰謝料や逸失利益を請求するためには、後遺障害等級の認定を受ける必要があります。
後遺障害等級は、要介護1級・2級および通常の1級から14級までの16段階が定められており、数字が小さいほど症状が重く、得られる慰謝料や逸失利益も高額になります。
本記事では、後遺障害の14級について詳細に解説します。
また、認定を受ける際のポイントや慰謝料・逸失利益を最大化するための方法についても紹介します。
後遺障害の14級にはどのような症状が該当するか解説します。
後遺障害14級の1号は、一眼(片方)のまぶたの一部が欠損し、またはまつげはげが残った場合に認定されます。
具体的な例としては、まぶたを欠損した結果、まぶたを閉じても眼球の一部が露出してしまう場合や、まつげが半分以上なくなり生えてこない状況などがあてはまります。
後遺障害14級の2号は、三歯以上に歯科補綴(歯科医による治療)を加えた場合に認定されます。
具体的な例としては、事故によって歯を3本以上失い、差し歯を入れた場合などがあげられます。
後遺障害14級の3号は、片耳の聴力が1メートル以上離れた人の小声を解することができない程度の後遺症が残った場合に認定されます。
具体的な数値としては片耳の平均純音聴力レベルが40dB以上70dB未満の場合、後遺障害14級の3号として認められることになります。
後遺障害14級の4号は、上肢の露出面にてのひら程度の大きさの醜いあとが残った場合に認定されます。
なお、ここでいう上肢の露出面とは腕の付け根から指先までのことをいいます。
後遺障害14級の5号は、下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとが残った場合に認定されます。
なお、ここでいう上肢の露出面とは股関節から足の背面までのことをいいます。
後遺障害14級の6号は、おや指以外の手指1本の指骨の一部を失った場合に認定されます。
より具体的には指の骨を失うケースのほか、骨折した部位がきちんと融合しなかったケースが想定されます。
後遺障害14級の7号は、おや指以外の手指1本の遠位指節間関節を屈伸できない場合に認定されます。
遠位指節間関節とは人差し指から小指の第一関節のことで、指の一番先端にある関節のことを指します。
後遺障害14級の8号は、一足の第三の足指以下(足の中指・薬指・小指)のうち1~2本が「用を廃した」状態となるような後遺症が残った場合に認定されます。
「用を廃した」とは、足指を途中から切断したケースのほか、足指の関節を離断したケース、関節可動域が2分の1以下になったケースが該当します。
後遺障害14級の9号は、身体の一部に神経系が傷ついたことによる何かしらの症状が残った場合に認定されます。
具体的な例としては、痛み・痺れ、疼痛・灼熱感などの感覚障害、手足をうまく動かせない感覚障害などが残った場合があげられます。
後遺障害14級が認められるかどうかは、以下のポイントを考慮して判断されます。
後遺障害14級が認められるためには、後遺症があることが医学的に説明できる必要があります。
痺れや痛みといった画像による検査では異常が見られない後遺症の場合は、患部を刺激するなどの検査をおこない、後遺症があるかどうかを確認します。
後遺障害の認定基準を満たす後遺症を負っていたとしても、日常生活や仕事に影響の出ない程度の後遺症だった場合、後遺障害等級の認定が得られない可能性があります。
ただし、後遺症の状態については医師が判断するため、「影響がないから受診しても意味がない」と即断せずに、医師の診断は受けるようにしましょう。
後遺障害等級の認定を受けるためには、交通事故と後遺症の因果関係を明らかにする必要があります。
交通事故と後遺症の因果関係を明らかにするためには、事故発生直後に医師の診察を受けることが大切です。
事故後に時間が経ってから受診を開始すると、別の原因によって症状が生じた疑いが生じ、因果関係を証明しづらくなってしまいます。
また因果関係を立証する観点からは、継続的に通院して、同じ医師の診察を受け続けることも重要です。
医師が治療の経過をすべて把握できるので、因果関係の立証に役立つ後遺障害診断書を作成してもらいやすくなります。
むちうちとは、衝撃によって首の骨や神経、筋肉などが損傷することにより、痛みや痺れ、めまいなどの症状が生じた状態です。むちうちによる症状は完治せず、後遺症を残す可能性があります。
むちうちで後遺症が残った場合、後遺障害14級を申請できる可能性があります。
むちうちの後遺症について、後遺障害等級の認定を得られる確率が最も高いのは、後遺障害14級です。
むちうちでは、身体の痛みや痺れといった後遺症が残ることがあり、後遺障害14級9号を認定される可能性があります。
後遺障害14級9号の場合、後遺症の有無は患部に刺激を与えてその反応を見る、神経学的検査にて判断されます。
また、より重い後遺症の場合、局部に頑固な神経症状を残すものとして、後遺障害12級13号に認定される可能性があります。
12級13号の認定を受けるためには、レントゲンやMRIなどの画像検査による所見が必要です。
後遺障害等級の認定に納得がいかない場合は、異議申し立てをおこなうことが可能です。
異議申し立てをおこなう際のポイントとして、以下があげられます。
後遺障害等級の認定を受けるためには、加害者側の自賠責保険の保険会社に対して申請する必要があります。
後遺障害等級認定の申請方法は、事前認定と被害者請求の2種類があり、それぞれメリット・デメリットがあります。
事前認定とは、後遺障害等級認定の申請を加害者側の任意保険会社を経由しておこなう方法です。
後遺症が重く申請がしんどい方、仕事が忙しく申請の時間が取れない方、後遺症が残っていることが明確で認定される可能性が高い方におすすめの方法です。
事前認定のメリットは、申請手続きを加害者側の保険会社に任せられるので、手間がかからない点です。
被害者の用意する書類は後遺障害診断書のみで、その他の書類は加害者側の保険会社に準備してもらえます。
一方で事前認定には、被害者が申請手続きに積極的に関与できないデメリットがあります。
適正な認定を受けるために追加で必要な書類があったとしても、審査の過程で被害者は書類を追完できません。
そのため、重要な事実が見落とされたまま、不適正な認定がおこなわれてしまうおそれがあります。
被害者請求とは、被害者自ら後遺障害等級の申請をおこなう方法です。
自分で書類の作成や申請をおこなう分、手間がかかりますが、被害者が積極的に申請手続きへ関与ため、適正な認定を受けられる可能性が上がります。
被害者請求には、被害者が積極的に申請手続きへ関与できるメリットがあります。
後遺障害診断書以外にも補足資料を提出できるほか、審査の途中で追加書類の提出を求められた場合にも、被害者側において対応できます。
また、自賠責保険の保険金を示談成立前に受け取れる点も、被害者請求のメリットのひとつです。
事前認定では自賠責保険と任意保険の保険金が一括での支払いとなるのに対して、被害者請求なら保険金の一部を先に受け取れるため、治療や生活に関する経済的負担が軽減されます。
一方で被害者請求には、申請に手間がかかるデメリットがあります。
後遺障害診断書だけでなく、ほかの申請書類も被害者が自分で準備しなければなりません。また、審査機関とのやり取りが生じた場合も被害者が対応する必要があります。
ただし、弁護士を代理人として被害者請求をおこなえば、手続きに関する負担は大幅に軽減されます。
後遺障害等級の認定を受けた場合、交通事故で後遺障害が残ったことに対して慰謝料を請求することが可能です。
後遺障害14級に認定された場合、後遺障害慰謝料の目安額は110万円です。
ただし、加害者側の保険会社からは、110万円より低い金額の後遺障害慰謝料を提示される可能性があります。
適正額の後遺障害慰謝料の支払いを受けるためには、弁護士に示談交渉を依頼するのがおすすめです。
慰謝料を算定する際の基準には、弁護士基準・自賠責基準・任意保険基準の3つがあります。
弁護士基準とは、過去の裁判例に基づいて損害賠償額を算定する基準のことで、他基準に比べもっとも慰謝料が高く算出されます。
弁護士に依頼すれば、法的根拠に基づき、弁護士基準による後遺障害慰謝料その他の損害賠償を請求してもらえます。
これに対して、自賠責基準とは交通事故の被害者に対して最低限の補償をおこなうことを目的とした基準で、自賠責保険の保険金額を計算する際に使われます。
自賠責基準による後遺障害慰謝料の金額は、3つの基準の中で最も低くなります。
また、任意保険基準とは、加害者が加入している保険会社が独自に定めた基準です。
任意保険基準は保険会社によって詳細が異なりますが、自賠責保険より高く、弁護士基準よりは安くなるのが一般的です。
後遺障害に関する逸失利益とは、交通事故に遭い後遺症が残り、労働能力が失われることによって発生する減収のことを指します。
後遺障害等級の認定を受けた場合、逸失利益についても損害賠償を請求することが可能です。
後遺障害に関する逸失利益は、以下の式を用いて計算されます。
基礎収入額とは、交通事故に遭う前の収入額を指します。
次に、労働能力喪失率とは、後遺症によって発生する労働能力の低下割合のことを指します。
労働能力喪失率は、後遺障害等級によって目安が決まっており、14級の場合は5%が目安となります。
最後に、ライプニッツ係数とは中間利息を控除するための値となります。
逸失利益で受け取る慰謝料は、本来であれば自分が将来受け取っていたはずの収入にあたるものです。
しかしそれを先行して受け取ることで、本来は生じなかった運用利益が発生することになります。
その運用利益のことを中間利息といい、それを控除するためにライプニッツ係数を使うのです。
ライプニッツ係数は、後遺障害等級に応じた労働能力喪失期間によって決まります。
むちうちで後遺障害14級9号に認定された場合、労働能力喪失期間は一般的には5年程度に制限されることが多いです。
労働能力喪失期間が5年の場合は、ライプニッツ係数は4.580となります。
以上をもとに実際に交通事故前の年収が500万円で、むちうちで後遺障害14級の認定を受けた方が逸失利益を請求する場合の計算例をみていきましょう(労働能力喪失期間は5年でライプニッツ係数は4.580とします)。
後遺障害14級の場合は、通常より逸失利益が低く評価される傾向があるので注意してください。
労働能力喪失期間は、事故から67歳程度までの期間とされるのが原則です。
しかし、後遺障害14級のように比較的程度が軽い後遺症については、症状への慣れによって労働能力喪失の影響が軽減されるため、通常よりも労働能力喪失機関が短くなる傾向にあります。
たとえばむちうちについて認定される14級9号の場合、労働能力喪失期間は5年程度に限定されることが多いです。
また歯の欠損・喪失(14級2号)に関しては、「修復すれば労働力に影響はない」として逸失利益が認められないケースもあります。
逸失利益の算出方法や金額は具体的な事情によって大きく異なるので、弁護士とよく相談しながら請求するようにしましょう。
後遺障害14級の認定を受けた場合、後遺障害慰謝料や逸失利益以外にも、以下の賠償金を受け取ることが可能です。
入通院慰謝料とは、交通事故によって入院や通院を強いられたことによる精神的苦痛に対する慰謝料のことを指します。
入通院慰謝料の計算方法は、自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準に分かれます。
自賠責基準の場合の計算式は以下のとおりです。
※入通院日数は、以下のうち少ないものを入通院日数として扱う。
任意保険基準・弁護士基準の場合は、入院期間と通院期間を算定表に当てはめて計算します。
算定表の内容については、以下の記事をご参照ください。
【参考】通院慰謝料の計算手順と高額な慰謝料を請求する為に知っておくべきこと|法律相談ナビ
治療関係費用とは、治療のために必要な費用全般のことを指します。
内訳と計算方法は以下のとおりです。
治療や入院に関する費用です。
実際にかかった費用にプラスして、入院雑費として1日あたり1,500円を請求することができます。
通院時にかかった交通費です。
原則として公共交通機関または自家用車の費用のみ認められますが、公共交通機関の使用が困難であることが示せれば、タクシーの乗車料金も請求できる場合があります。
最後に入院や通院に即して付き添いが必要な際にかかる費用として、付添費用を請求できます。
付添費用は、入院の場合1日6,500円程度、通院の場合1日3,300円程度となります。
休業損害とは、交通事故によって仕事を休んだり休業したりしたことによる減収への補償です。
基礎収入の日額×休業日数で計算されます。
基礎収入の日額とは、事故以前3ヵ月間の収入に基づいて算出された額です。
学生や専業主婦の場合は、基礎収入の代わりに「賃金センサス」を用いて計算されます。
賃金センサスとは、政府が毎年実施している「賃金構造基本統計調査」の結果をベースとして、性別や年齢などをもとに平均収入をまとめた資料です。
後遺障害慰謝料や遺失利益をなるべく多く受け取るためには以下のポイントに注意してみましょう。
後遺障害慰謝料および逸失利益は、認められた後遺障害の等級によって金額が大きく変動します。
そのため後遺障害慰謝料および逸失利益を最大化するには、より高い後遺障害等級の認定を目指すことが必要です。
たとえば医師に症状を詳細に伝え、適正な後遺障害診断書を作成してもらうことでより高い後遺障害等級の認定を受けやすくなります。
また後遺障害等級の認定について詳しい弁護士に、アドバイスを求めるのも有効です。
後遺障害慰謝料の算定基準は、自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準の3つに分かれます。
示談交渉において加害者側の保険会社は、任意保険基準によって保険金額を算定した上で提案してくることが予想されます。
しかし、後遺障害慰謝料の金額が最も高くなるのは、弁護士基準で算定した場合です。
また、弁護士基準は過去の裁判例に基づいているため、被害者は弁護士基準に基づく後遺障害慰謝料の支払いを受ける権利があります。必ず弁護士基準によって後遺障害慰謝料を算定・請求しましょう。
後遺障害慰謝料や遺失利益を正当に請求するためには、弁護士に依頼するのがおすすめです。
請求額を正しく計算し、法的根拠に基づいて支払いを求めるためには専門的な知識が求められるので、自分だけで適切な対応をするのは難しいでしょう。
また、弁護士に依頼することによって、加害者側との示談交渉や法的手続きへの対応を任せることができます。
そうすれば、請求に関する手間やストレスを軽減できるとともに、適正額の支払いを受けられる可能性が高まります。
最後に後遺障害14級に関するよくある質問と、その回答を紹介します。
2022年度に損害保険料算出機構が公表しているデータによれば、自賠責保険が損害賠償金を支払った件数が972,281件、そのうち後遺障害等級に認定されたのは42,980件で、14級に認定されたのは24,417件でした。
後遺障害等級認定が申請された件数についてはデータがないため、後遺障害14級の認定率(=申請が認められる割合)は不明です。
その一方で、後遺障害等級が認定された件数全体に対して56.81%を占めている後遺障害14級は、比較的認定されやすいと考えられます。
後遺障害14級の賠償金は75万円が限度といわれることがありますが、実際にはそうではありません。
75万円とはあくまで加害者側の自賠責保険から支払われる後遺障害に関する賠償金の上限であって、被害者が受けられる損害賠償の上限ではありません。
実際には110万円を目安とする後遺障害慰謝料のほか、治療費・休業損害・逸失利益などの損害賠償を請求できます。
そのため、後遺障害14級の賠償金の上限は75万円だと誰かからいわれても、鵜呑みにせずに正当な主張を続けることが大切です。
自動車保険・火災保険・クレジットカードなどに附帯されている弁護士特約を利用すれば、弁護士費用が最大300万円程度までカバーされます。
また、後払いや分割払いに対応している弁護士を選ぶのもひとつの方法です。
なお弁護士に対応を依頼する場合は、得られる損害賠償がどのくらいになるか事前に相談し、弁護士費用を支払っても利益が残るかどうか確認しておきましょう。
納得できる形で後遺障害等級の認定を申請したいなら、被害者請求によって申請するのがおすすめです。
提出書類を自ら用意でき、審査中の追完も可能であるため、適正な等級を認定される確率が上がります。
手続きが面倒で事前認定を検討している方は、弁護士に被害者請求を依頼するのもひとつの方法です。
交通事故問題を得意とする弁護士に依頼すれば、認定率を上げるために必要な最大限の対応をしてくれるでしょう。
後遺障害14級の申請は、加害者側の保険会社に任せることも可能ですが、認定の獲得をしっかり目指したいなら、弁護士に相談するのがおすすめです。
交通事故問題を得意とする弁護士であれば、専門知識をもとに認定の獲得に向けて、充分な対応をしてもらえるでしょう。
本記事を参考にして、弁護士への依頼を検討してみてください。