「交通事故に遭い、保険会社から過失割合について連絡がきたが、納得がいかない」という経験はありませんか?
保険会社から支払われる保険金は事故当事者の過失割合を元に決定されるので、納得しないにもかかわらず、保険会社の提案に合意してしまうのは控えるべきです。
実は、過失割合に納得できない場合には、変更を要求することができます。
ただし、変更するためには、ポイントを押さえて適切な手続きに従う必要があります。
そこで本記事では、過失割合を変更する手続きやポイントについて詳しく解説します。
過失割合に納得できない方は、ぜひ参考にしてみてください。
交通事故の過失割合で「納得いかない」と思う主なケース
交通事故の過失割合に納得がいかないと感じるのはどのような場合でしょうか。以下、よくある3つのケースをまとめました。
1.加害者と被害者で事故について食い違いがある場合
そもそも、加害者と被害者とで認識している事故の原因や状況が食い違っている場合があります。
たとえば、交差点による事故の場合、被害者側が「加害者側が赤信号にもかかわらず交差点に侵入した」と思っていた場合でも、加害者側は「交差点に侵入したときは青信号だった」という認識を持っているかもしれません。
2.適正な基本過失割合にもとづいていない場合
過失割合は、「基本過失割合」を基準として、当事者又は当事者の保険会社での話し合いによって決定されます。
基本過失割合は、類似の交通事故事案について、裁判所が過去に下した判決を参考にするのが通常です。
過去の裁判例を参考するにあたっては、主に以下の2つの資料を用いるのが一般的です。
- 別冊判例タイムズ38号「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」
- 民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準 ※通称「赤い本」
納得いかない過失割合を提示されている場合は、参考にしている判例や基本過失割合が異なっていないか確認しましょう。
3.過失割合の修正要素が考慮されていない場合
基本過失割合はあくまでも基準であり、「修正要素」に基づき調整されることがあります。
修正要素とは、交通事故の具体的な事故状況を考慮して、基本的な過失割合を修正する要素のことをいいます。
過失割合の修正要素には、一方の当事者の過失相殺率を増加させる要素である「加算要素」と、減少させる要素である「減算要素」があります。
修正要素に基づき、基本過失割合に「加害者側に+5%」「被害者側に-10%」といった修正を加えることで、事故状況に応じた過失割合を算出するのです。
なお、車同士の事故における修正要素(加算要素)の具体例としては、以下のものが挙げられます。
- ウィンカーの合図なし
- 右折禁止違反
- 徐行なし
- 著しい過失(わき見運転、酒気帯び運転など)
- 重過失(無免許運転、酒酔い運転など)
納得がいかない交通事故の過失割合を変更するための3つの手続き
過失割合に納得がいかない場合には、3つの手続きにより変更することができます。
- 加害者や保険会社と直接交渉をする
- ADRを利用して和解を目指す
- 民事訴訟を提起し、法廷で争う
各手続きについて、以下で詳しく解説します。
1.加害者や保険会社と直接交渉をする
まずは、加害者や保険会社と直接交渉することで調整を図るのが一般的です。
交渉自体に費用は発生しませんが、交渉が成立するためには相手の合意が欠かせません。
そのため、過失割合の変更を要求する際には、相手が納得できるような証拠を提示することや、交渉力が求められます。
合意が難航すれば、交渉が長引く可能性もあるでしょう。
2.ADRを利用して和解を目指す
ADR(Alternative Dispute Resolution)とは、公正中立な第三者が当事者間に入り、裁判によらずに話し合いを通じて解決を図る手続をいいます。
ADR機関はさまざまなものがありますが、交通事故に関する紛争を取り扱う代表的な機関は、以下の2つです。
相談窓口は、全国の数ヵ所に設置されており、交通事故の当事者であれば無料で利用できます。
相談窓口 | 公式URL |
日弁連交通事故相談センター | https://n-tacc.or.jp/ |
交通事故紛争処理センター | https://www.jcstad.or.jp/ |
ADRでは、交通事故や損害賠償に詳しい弁護士が、公平な立場から和解のあっせんをします。
また、非公開で行われるため、プライバシーも確保される点も特徴です。
ただし、あくまで中立的な第三者として関与するため、被害者側に立ってサポートしてくれるわけではありません。
また、相手方と合意に至らなかった場合、その時点で手続きが終了する点に注意が必要です。
3.民事訴訟を提起し法廷で争う
加害者との示談が難しいと感じた場合には、裁判所に民事訴訟を提起するという方法もあります。
訴訟では、両当事者からの主張や提出された証拠をもとに、裁判所が過失割合や損害賠償額について判断を下します。
裁判のメリットは、第三者である裁判所が中立で公平な立場から適切な判断をしてくれることです。
過失割合に限らず、双方の損害額についても認定が行われるため、納得のいく結果を得られる可能性が高いでしょう。
ただし、訴訟には法的な知識や判断が求められます。
裁判では証拠が重視されるため、自分に有利な証拠を集めるための事前準備も必要です。
また、判決が下されるまでに時間を要することも覚えておきましょう。少なくとも、1~2年程度かかることを覚悟しておいてください。
加害者との間で事実に食い違いがあり納得がいかない場合のポイント
加害者との間で事故についての事実が食い違っている場合、以下のポイントに留意して進めましょう。
1.実況見分調書の内容を確認する
実況見分調書とは、立会人の説明や事故現場の状況を客観的に記録した書類のことです。
実況見分調書は、本来は加害者の処罰を決定するための参考資料として用いられるものですが、事故当時の状況が客観的に記録されていることから、過失割合の算定にも利用されます。
なお、実況見分調書は人身事故の場合にのみ作成されるもので、物損事故の場合には作成されません。
実況見分調書には、次のような事項の記載があります。
- 実況見分を実施した日時
- 実況見分の実施場所(交通事故現場)
- 立会人の住居・職業・氏名・年齢
- 実況見分時の天候・事故当時の天候
- 事故当時の路面状況(舗装路か未舗装路か、乾燥しているか湿っていたかなど)
- 事故現場の道路状況(道路の勾配・障害物・交通規制など)
- 事故の証跡の有無(ブレーキ痕・スリップ痕の有無など)
- 事故車両の状況
- 事故発生状況(走行速度・最初に相手を発見した地点・急ブレーキをかけた地点・衝突時の位置・信号の色など)
実況見分調書の内容を確認することで、事故当時の状況を客観的に把握することができます。
なお、実況見分調書は、事故現場で警察官、被害者、加害者が立ち会って事実関係の確認をしたのちに、警察によって作成されるものです。
実況見分調書の内容を後日変えることは難しいので、立ち会いの日には、警察官に自分の記憶どおり事故状況を伝えましょう。
2.ドライブレコーダーなどの証拠を集める
事故時の様子を客観的に記録しているドライブレコーダーの映像が存在すれば、過失割合についての合意が得やすく、示談が迅速に実現しやすくなります。
また、映像は民事裁判において証拠として利用することも可能です。
映像が被害者の主張と一致すれば、裁判所がその主張を認める可能性が高まります。
また、刑事記録の供述調書の内容とドライブレコーダー映像が一致することも主張することで、証拠同士が相互に補強し合うという使い方も可能です。
なお、最近のドライブレコーダーは普及が進み、性能も多様化しています。
特に新しいモデルは解像度が向上し、鮮明な映像を記録可能です。
しかし、古いモデルでは低解像度で映像が粗く、事故の状況がわかりにくいことがあります。
古い機種を使用している場合は、映像の解像度を事前にしっかり確認しておくことが重要です。
交通事故の基本過失割合や修正要素で納得がいかない場合のポイント
基本過失割合や修正要素について疑念がある場合、以下のポイントに注意して対応しましょう。
1.過失割合の根拠を提示してもらう
交通事故の過失割合を決定するのは、事故の当事者や保険会社です。
保険会社は、一定の基準のもとで過失割合を決定していますが、被害者が保険会社と示談交渉を行う際に、必ずしも適切な過失割合が提示されるわけではありません。
保険会社は、保険金の支払いを行う業務を担っていますが、自社の負担額をできるだけ低く抑えることも重要な任務です。
そのため、被害者が法律や過失割合に関する知識を持っていないことを前提に、加害者に有利となるような過失割合を提示することがあります。
もし保険会社の提示に納得がいかない場合は、どういった根拠を元に過失割合を主張しているのか、問い合わせてみるのがよいでしょう。
2.自分でも過失割合について確認する
事故の状況について当事者間で認識の違いはないものの、過失割合に関して納得いかない場合は、過去の裁判例や専門書などを引用し、法的根拠を示しながら過失割合の変更を交渉してみましょう。
ただし、過去の判例や法律に関する知識については、保険会社のほうが詳しいのが一般的なので、しっかりと準備をしたうえで交渉に臨むことが大切です。
3.交通事故が得意な弁護士に相談する
自分で過失割合を確認したうえで、相手方と交渉するのが難しいと感じた場合は、弁護士に相談するのがよいでしょう。
弁護士に依頼することで享受できるメリットは、主に以下の3点です。
適正な過失割合による示談が期待できる
適正な過失割合での示談を目指すためには、証拠を収集して、自分の主張を相手方に示す必要があります。
一人で行うのは難しいですが、弁護士であれば、必要な証拠を収集したうえで、相談者の有利になるよう弁護してくれます。
慰謝料の増額が期待できる
交通事故の慰謝料の計算には、3つの算定基準があります。
- 弁護士基準(裁判基準):過去の裁判例の蓄積に基づき作成された基準
- 任意保険基準:任意保険基準が独自に設定している基準
- 自賠責基準:自賠責保険が慰謝料の金額を算定する際に用いる順
それぞれの基準を用いると、以下の順に金額が大きくなるのが通常です。
弁護士基準を使って算定した場合、慰謝料の金額は、自賠責基準や任意保険基準と比較すると2~3倍程度高くなる場合もあります。
被害者からすれば、弁護士基準に基づき慰謝料を算定するのがよいでしょう。
ただし、弁護士基準を使用できるのは、基本的に弁護士が介入した場合に限られます。
よって、弁護士に依頼することで、慰謝料の増額が期待できるのです。
保険会社との交渉負担から解放される
本来であれば、保険会社との交渉は被害者自身でおこなう必要がありますが、弁護士に示談交渉を依頼することで、直接やり取りする手間を省けるので、精神的な負担を大幅に軽減することができます。
なお、相手方との交渉や裁判を有利に進めるためにも、交通事故を得意とする弁護士を選んだほうがよいでしょう。
自動車保険に弁護士特約が付いている場合は、弁護士費用の負担なしで依頼できるので、補償内容をよく確認してください。
さいごに|交通事故の過失割合に納得できないなら無理に合意しないで!
交通事故に遭った際、過失割合に納得がいかないまま合意してしまうと、受け取れる示談金が少なくなってしまいかねません。
一度合意に至った示談交渉は、基本的には取り消しができないので、納得いかない場合は適切な過失割合となるように交渉することが大切です。
必要に応じて弁護士に相談して、過失割合を十分に検討してから合意するようにしましょう。

