交通事故のなかでも、追突事故は毎年多く発生している事故のひとつです。
2023年に日本国内で発生した交通事故件数は30万7,930件ですが、そのうち追突によるものが9万1,849件と、全体の29.8%を占めています。
自分が気をつけて運転をしていても、信号待ち中に突然追突されたり、渋滞中に後ろからぶつけられたりと、予期せぬ追突事故に見舞われることは珍しくありません。
追突事故の場合、基本的に過失割合は加害者対被害者が10対0になります。
しかし、なかには例外もあります。
追突事故で被害者の過失割合が増えてしまうケースにはどのようなものがあるのでしょうか。
また、加害者側の任意保険会社が提示してきた過失割合に納得がいかない場合はどうすればよいのでしょうか。
本記事では、追突事故の過失割合や納得できないときの対処法について詳しく解説します。
追突事故の過失割合は原則として10対0になる
自動車を運転していて衝突された場合、基本的には追突した加害者側の過失が10割となります。
なぜなら、道路交通法によって定められているルールとして、同じ方向を進行する車両の後ろを進行する際、追突を避けられる距離を保って運転しなければならないからです。
たとえ、前にいる車両の急停止が原因で追突したとしても、追突せずに停車できるだけの車間距離をあけていなかった車が悪いと判断されます。
なお、追突事故において加害者の過失割合が10で、被害者の過失割合が0となるケースとして、具体的には次のようなものがあります。
- 赤信号で待っている際、後ろから追突された
- 渋滞中に停止している際、後ろから追突された
- やむを得ず急ブレーキをかけたら、後ろから追突された
- 駐車場に停車していたら追突された
- 路肩に停車していたら追突された など
ただし、被害者側がルールに則った運転をしていなかったなど、事故状況によっては被害者にも過失がつくことがあります。
追突事故でも過失割合が10対0にならないケース5選
自分が追突されて被害者となった事故であっても、過失割合が10対0にならないケースもあります。
具体的には、以下のようなケースです。
1.理由もなく急ブレーキをかけた場合|過失割合は7対3
危険を回避するためのやむを得ない事情がある場合は、急ブレーキをかけても問題ありません。
しかし、正当な理由がないのに被害者が急ブレーキを踏んだことが原因で、追突事故が起こった場合は、過失割合が7対3となり、被害者にも3割の過失がつきます。
道路交通法第24条には、自動車などを運転する者は、危険を防止するためやむを得ないときを除いては、自動車を急停止させたり、急激に速度を落としたりしてはならないと定められています。
よって、理由もないのに急ブレーキをかけると、被害者側にも3割の過失がつくのです。
なお、危険を回避するためのやむを得ない事情とは、次のようなことです。
- 目の前に急に歩行者が飛び出してきた
- 目の前を急に自転車が横切ろうとした
- 道路に入っていた大きなひび割れを避けた
- 道路に落ちていたものを避けた など
2.追い越しを妨害した場合|過失割合は8対2
自分の自動車を追い越そうとする自動車があり、追い越されないようにあえて速度を上げたことによって追突事故が起こったら、追い越しを妨害したとして被害者側にも過失がつきます。
過失割合は8対2です。
また、あえて速度を上げなくても、自分の自動車を追い越そうとする自動車に気づいていたのに速度を落とさなかった場合も、追い越しの妨害だと判断されることがあります。
なお、追い越し自体は違法ではありません。
しかし、追い越しが禁止されている場所で追い越すのは違法です。
追い越しが禁止されている場所で起こった追突事故の場合は、事故状況に応じて過失割合が増減します。
このように過失割合が増減する事故状況のことを、修正要素といいます。
追い越される自動車と追い越す自動車の過失割合は、次のとおりです。
追い越される車 | 追い越す車 | |
---|---|---|
基本の過失割合 | 20 | 80 |
追い越される車が道を譲らなかったとき | +10 | -10 |
追い越される車がスピードを上げたとき | +20 | -20 |
追い越される車の著しい過失 | +10 | -10 |
追い越される車の重過失 | +20 | -20 |
追い越す車の著しい過失 | -10 | +10 |
追い越す車の重過失 | -20 | +20 |
なお、著しい過失と重過失の違いは、「著しい過失」が想定されている基本的な過失を超える程度を指し、「重過失」は故意に近いほどの重大な程度を指します。
3.駐車禁止場所の場合|過失割合は9対1
駐停車禁止場所で自動車を停めていた際に起こった衝突事故の場合は、自分が衝突された側であっても過失割合がつくことになります。
次の場所は駐停車禁止なので、このエリアに駐車していて追突された場合は、被害者にも過失がつく可能性が高いでしょう。
- 交差点
- 横断歩道
- 踏切
- 道路の曲がり角から5メートル以内
- 急勾配な坂
- 坂の頂上付近
- トンネルのなか など
また、路側帯のない道路ではできる限り道路の左側端に駐停車し、ほかの交通の妨げにならないようにしなければなりません。
これらの正しい駐停車方法を守らずに駐停車していた場合も過失割合がつきます。
なお、この場合の過失割合は、加害者対被害者が9対1となることが多いでしょう。
4.灯火義務違反の場合|過失割合は9対1
夜間に適切にヘッドライト・スモールライト・テールランプ・ハザードランプなどを点けていなかったことで追突事故が起きた場合、被害者側にも過失割合がつきます。
必要なときにランプを点けずに運転するのは灯火義務違反です。
ランプが故障していたために灯火できなかったとしても、過失がつく可能性は高いでしょう。
この場合の過失割合も、加害者対被害者が9対1となることが多いです。
5.視認不良の場合|過失割合は9対1
追突した自動車にとって、被害者側の自動車が停まっているのを簡単に発見できる状況ではなかった場合も、過失割合が修正されます。
たとえば、視界が妨げられるほどの大雨が降っていた場合や、濃い霧がかかっていた場合などがこれにあたります。
また、夜間に被害者側の自動車が適切にライトを点けていたとしても、街頭がなくて暗い道であった場合は視認不良となることがあります。
この場合も、上記と同じく過失割合は加害者対被害者が9対1となることが多いでしょう。
追突事故の過失割合に納得がいかない場合の3つの対応
ほとんどのケースでは、過失割合は加害者側の任意保険会社から提示されます。
しかし、相手の主張が正しいとは限りません。
保険会社としては、なるべく低い損害賠償額で済ませたいと考えるので、最低金額の賠償で済むように過失割合を提示することは珍しくないのです。
提示された過失割合に納得できない場合は、容易に合意せず交渉することが大切です。
ここからは、追突事故の過失割合に納得がいかないときにできる対応を3つ紹介します。
1.保険会社に過失割合の根拠を確認する
加害者側の任意保険会社から提示された過失割合に納得いかない場合は、まずその過失割合になった根拠を確認しましょう。
相手の主張を理解することで、こちら側が何を根拠に過失割合を変更するよう主張すべきかがわかってきます。
とくに以下については必ず確認しましょう。
- 事故時の状況をどんな資料や証言で確認したのか
- どの事故類型を基準の過失割合として考えたのか
- どんな修正要素を採用したのか
- 修正要素によって、どれくらい過失割合を変えたのか
加害者の証言だけをベースとして事故状況を確認していたのであれば、被害者が考えている事故状況とは異なる可能性があります。
基準とした事故類型が不適切なケースもあるため、実際の事故と近い事故類型の基本の過失割合や修正要素を反映させるべきです。
提示された過失割合や過失割合を変更した根拠について納得がいかないときは、その旨を主張しましょう。
2.過失割合を裏付ける証拠を確保する
納得がいかないと伝えても、こちら側にも根拠がなければ受け入れてもらうことはできません。
まずは、正しい事故状況を把握して客観的に伝えることが大切です。
正しい事故状況を主張するための証拠として、次のようなものを準備しましょう。
- ドライブレコーダーの映像
- 事故現場の近くにあった監視カメラや防犯カメラの映像
- 事故現場や事故車両の写真
- 事故後に警察官が作成した実況見分調書
- 信号機の有無や信号が変わるサイクルの記録 など
証拠を集め、事実に基づいて参考にすべき事故類型や修正要素を改めて検討しましょう。
その後、改めて適切な過失割合となるように交渉しましょう。
なお、これらの証拠を被害者自身で集めるのは簡単なことではありません。
ドライブレコーダーの映像を準備することはできても、監視カメラの映像はオーナーに開示してもらえないことも少なくないでしょう。
その場合は、弁護士に依頼することで映像を開示してもらうことができます。
3.交通事故が得意な弁護士に相談する
弁護士に依頼すれば、職権によって証拠を集めることが可能です。
また、交渉段階においても弁護士の力を借りることでスムーズに交渉が進むでしょう。
保険会社は、保険の支払いに関して交渉をするプロです。
証拠や根拠を集めたうえで過失割合の変更を主張したとしても、一個人からの交渉では聞き入れてもらえないケースは珍しくありません。
現実的には、過失割合を変更するには証拠を揃えれば十分というわけではなく、高い交渉力が必要になるでしょう。
多くの場合、被害者自身は法律の専門家ではありません。
そのため、判例や専門書の内容を正しく解釈できないだろうとして、提示した証拠や根拠は認められないと反論されることも多くあるのです。
その点、法律の専門家である弁護士に依頼すれば、相手側もそのような反論はできずにより確実に適切な過失割合での交渉を成立させることができるでしょう。
なお、交通事故の被害者サポートを得意とする弁護士を見つけるには、「ベンナビ交通事故」の利用がおすすめです。
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一人で悩まずにまずは、相談してみましょう。
追突事故の過失割合に関する注意点
追突事故の過失割合や修正要素は、全ての事故で反映されるわけではありません。
事故が起こった際は被害者と加害者との交渉によって、最終的な賠償金額などは変わってきます。
なかでも次の注意点には、気をつけましょう。
1.過失割合が10対0の場合は示談代行サービスが使えない
通常、対物賠償保険や対人賠償保険に加入していれば、示談代行サービスが利用できます。
示談代行サービスとは、事故が起きた際に自身の保険会社が事故相手との示談交渉を代わりにおこなってくれるサービスのことです。
保険会社に示談交渉を任せられれば、その分、時間や労力などの負担が軽減できるでしょう。
しかし、過失割合が10対0で被害者に過失がない事故の場合、被害者自身の加入する任意保険会社の示談交渉サービスは使えないのが通常です。
被害者に過失がないということは、被害者側の保険会社は保険金の支払義務がありません。
そのため、示談交渉をすると弁護士法に抵触してしまうのです。
しかし、過失割合が10対0であっても、加害者側の任意保険会社が何らかの修正要素を主張してきて交渉が必要になる場合があります。
この際に示談代行サービスが利用できなければ、被害者自身が加害者側の保険会社と示談交渉しなければなりません。
これは容易なことではないでしょう。
被害者にとって不利な条件で示談が成立してしまわないようにするには、弁護士に相談することをおすすめします。
なお、このような場合に備えて保険会社との契約内容のなかで弁護士特約というものが結ばれているケースがあります。
弁護士特約は、法律相談費用や弁護士費用を補償する特約です。
弁護士特約がある場合は、迷わず弁護士に相談しましょう。
2.警察に届出をしていないと示談交渉の際に不利になる可能性がある
交通事故に遭ったら、必ず警察に届け出をしましょう。
まず、交通事故が起こったら、物損事故でも人身事故でも必ず警察に届けなければなりません。
この届出は加害者だけの義務というわけではなく、被害者にも届出の義務があります。
これは、道路交通法で定められています。
警察に届出をすると、交通安全運転センターにおいて交通事故証明書の発行が可能です。
また、警察の実況見分調書や供述調書は過失割合の有力な証拠になります。
しかし、警察による実況見分は人身事故においてはおこなわれますが、物損事故で届出をしていた場合にはおこなわれません。
過失割合についての争いになった場合、実況見分調書がなければ、事実認定が困難で不利になるおそれがあります。
したがって、事故のあと病院に行き、けが・しびれ・痛みなどがあったなら人身事故に切り替えておくことが大切です。
受診した医療機関に相談して診断書を作成してもらい、警察署に提出して人身事故への切り替えをしてもらいましょう。
なお、警察署によっては、すでに対応が終わっており人身事故に切り替えることができないといわれるケースもあります。
警察には民事不介入という原則があり、過失割合の決定などに介入することはできません。
そのため、警察に過失割合がおかしいなどの理由を伝えたとしても、警察内で処理が終わっていれば、人身事故への切り替えや実況見分調書の作成をしてもらうことは難しいと考えておきましょう。
その際は、人身事故証明書入手不能理由書という書類をもらい、自賠責保険会社に提出してください。
人身事故証明入手不能理由書は、物損事故として届出をしたものの、本当は人身事故であった際、交通事故証明書が取得できなかった理由を明記して証明するものです。
人身事故証明書入手不能理由書は通常、保険会社の担当者から送られてきます。
もしも、送られてきていない場合は、加害者が加入している任意保険会社のWebサイトからダウンロードしましょう。
さいごに|追突事故の過失割合に納得ができないなら弁護士に相談しよう!
追突事故の場合、過失割合は原則として加害者が10割、被害者が0割です。
しかし、事故状況によっては被害者にも過失がついてしまいます。
なかには加害者の主張や、加害者側の任意保険会社が提示してくる過失割合に納得できないこともあるでしょう。
そんなときは、証拠収集や冷静な交渉をおこなうことが重要です。
また、追突事故の過失割合に納得ができないときは、交通事故の案件に注力している弁護士に相談するのが一番です。
適正な賠償を受けるためには、まずは迷わず弁護士に相談してください。
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