人身事故
非接触事故とは?被害者向けに損害賠償請求をする際のポイントを中心に解説
2024.10.16
交通事故の発生件数は年を追うごとに減少しています。
引用元:令和3年版交通安全白書|内閣府
平成16年のピーク時は952,720件を記録していましたが、令和2年には309,178件にまで減少しました。
死傷者の数も減少しており、年末には毎年のように「最低記録を更新」「◯年連続の減少」といった見出しが新聞・ニュースで紹介されています。
交通事故には「人身事故」と「物損事故」の2種類がありますが、どちらの被害に遭ったとしても大きな負担が発生します。
加害者にしっかりと責任を果たしてもらうには、人身事故と物損事故の違いやそれぞれのケースで発生する責任を理解しておく必要があるでしょう。
人身事故と物損事故の違いやそれぞれのケースで加害者が負う責任などを解説します。
交通事故は大きく「人身事故」と「物損事故」の2種類に分けられます。
まずはそれぞれの違いを確認しておきましょう。
人身事故とは、交通事故によって人の身体や生命に損害が発生した場合をいいます。
運転手自身が怪我を負った場合だけでなく、同乗者が怪我をしたといったケースも人身事故として扱われます。
物損事故とは、人の身体・生命への損害が生じていない事故を指します。
車同士が接触したが誰も負傷しなかった、駐車中に逆突されバンパーが破損した、対向車とすれ違いざまにミラーが接触して壊れたなど、軽微な損傷であっても物損事故です。
また、他人のペットに衝突したといった事故も、法的にみるとペットは「物」として扱われるため物損事故になります。
なお、警察の書類などでは「物件事故」という表現が使われていますが、これは「物損事故」と同じ意味です。
人身事故を起こした加害者に適用され得る法律は様々ありますが、以下では自動車運転処罰法と道路交通法について説明します。
自動車運転処罰法は、正式には「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」という名称の法律です。
人を死傷させる交通事故を起こした当事者を罰する規定のほか、悪質な危険運転・飲酒運転・過労運転・無免許運転などによって交通事故を引き起こした際の加重規定などが設けられています。
人身事故に関するおもな規定や内容は次のとおりです。
適用される罪名 | 内容 |
---|---|
危険運転致死傷罪(第2条) | ✓アルコールや薬物の影響で正常な運転が困難な状態である、周囲の人や車の通行を妨害する行為をはたらくなど、危険運転によって人を死傷させた場合に適用される ✓人を負傷させた場合は15年以下の懲役、人を死亡させた場合は1年以上の有期懲役 |
危険運転致死傷罪(第3条) | ✓アルコール・薬物の影響によって正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた場合などに適用される ✓人を負傷させた場合は12年以下の懲役、人を死亡させた場合は15年以下の懲役 |
過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪(第4条) | ✓飲酒運転などのうえで不注意によって人を死傷させる事故を起こし、アルコール・薬物の影響の有無や程度が発覚することを免れる行為をした場合に適用される ✓12年以下の懲役 |
過失運転致死傷罪(第5条) | ✓自動車の運転上必要な注意を怠って人を死傷させた場合に適用される ✓7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金 ✓その傷害が軽いときは情状によって刑が免除される |
無免許運転による加重(第6条) | ✓危険運転致死傷罪にあたる事故を起こした者が無免許運転であった場合には刑が加重される ✓第2条(一部を除く)に該当する場合は6か月以上の有期懲役 ✓第3条に該当する場合で、人を負傷させた場合は15年以下の懲役、人を死亡させた場合は6か月以上の有期懲役 ✓第4条に該当する場合は15年以下の懲役 ✓第5条に該当する場合は10年以下の懲役 |
交通事故の原因に速度超過・信号無視・一時停止違反などの交通違反が存在する場合は道路交通法の各規定も適用されます。
人身事故では、とくに違反行為がないようなケースでも運転操作不適・漫然運転・脇見運転・安全不確認などの「安全運転義務違反」が問われることが多く、運転免許の点数加算に影響します。
人身事故の加害者は、大きく分けると次の3つの責任を負うことになります。
刑事責任とは、処罰規定のある法律に触れた行為を行ったときに科される刑罰を受ける責任を指します。
人身事故では、不注意による交通事故を罰する過失運転致死傷罪が適用されることが多く、死傷の別や負傷の程度に応じた刑罰が科せられます。
人身事故は、「刑事事件」としても扱われるため、取り調べや実況見分を受けたうえで刑事裁判等の手続きを経て処罰を受けます。
行政責任とは、簡単にいうと交通事故に対する違反点数が加算されることで、運転免許の停止や取り消しといった処分を受けることをいいます。
人身事故では、違反に対する「基礎点数」と死傷の程度に応じた「付加点数」の合計が加算されます。
交通事故の種別 | もっぱら違反行為者の不注意による事故の場合 | それ以外の事故の場合 |
---|---|---|
人の死亡にかかる事故 | 20点 | 13点 |
負傷者の治療期間が3か月以上または後遺障害が生じた事故 | 13点 | 9点 |
負傷者の治療期間が30日以上3か月未満の事故 | 9点 | 6点 |
負傷者の治療期間が15日以上30日未満の事故 | 6点 | 4点 |
負傷者の治療期間が15日未満 | 3点 | 2点 |
参考元:交通事故の付加点数|警視庁
たとえば、安全運転義務違反で、出会い頭で自転車と接触する事故を起こして相手に治療期間20日程度の打撲傷を負わせた事故では、次のような計算になります。
運転免許に8点が加算されると、以前に行政処分を受けた経歴がない場合でも30日間の免許停止です。
民事責任とは、交通事故によって被害者が被った損害について賠償する責任をいいます。
損害には、例えば以下のものがあります。
損害の種類 | 内容 |
---|---|
入通院治療費 | 怪我の治療によって生じた入通院の治療費 |
休業損害 | 怪我の治療によって仕事を休まざるを得なくなった場合の損害 |
逸失利益 | 死亡・後遺障害によって将来得られるはずだった収入が失われたことによる損害 |
慰謝料 | 怪我・死亡・後遺障害に対する精神的苦痛 |
物的損害 | 相手車両の修理費や損壊した物に関する損害 |
人身事故の賠償にはいくつかの種類がありますが、治療費や物的損害については、基本的には客観的な金額の算出が可能です。
しかし、精神的苦痛に対する賠償である「慰謝料」については、客観的にいくらかを算出することは困難です。
そこで、人身事故の慰謝料については、次の3つの基準のいずれかによって算定することが一般的です。
すべての自動車は、法令によって自動車賠償責任保険(自賠責保険)への加入が義務付けられています。
自賠責保険は交通事故の被害者救済を目的とする制度で、加害者が任意保険に加入していないなどのケースでも、自賠責保険から最低限の補償を得ることが可能です。
支払限度額は次のとおりで、3つの基準のなかではもっとも補償額が低く設定されています。
死亡による損害 | 最高3,000万円 |
---|---|
後遺障害による損害 | 最高4,000万円 |
傷害による損害 | 最高120万円 |
加害者が加入している保険会社が独自に設けている基準にあわせて算定されるのが任意保険基準です。
各保険会社によって算定基準が異なり、金額も公開されていませんが、十分な補償が得られるとは言い難いでしょう。
加害者側の保険会社が提案してくる示談金(慰謝料などを含む)は、任意保険基準にもとづいています。
つまり、保険会社からの提案をそのまま受け入れると、十分な補償は期待できません。
3つの基準のうち、もっとも高額になるのが弁護士基準です。
弁護士基準は別名を「裁判基準」ともいい、同じようなケースで争われた過去の裁判例をもとにした基準で、公益財団法人日弁連交通事故相談センターが刊行する「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準(通称:赤い本)」に記載されています。
物損事故を起こした場合に適用される法律は「道路交通法」です。
自動車運転処罰法は、正式名称に「人を死傷させる行為」と明示されている点からもわかるとおり、人身事故のみに適用されます。
道路交通法は、道路における危険防止、交通の安全・円滑化、道路の交通に起因する障害の防止という目的を掲げた法律であり、物損事故であっても適用を受けます。
物損事故を起こした加害者が負う責任は、基本的には「民事責任」だけです。
死傷者のいない物損事故では、原則として刑事責任・行政責任を問われません。
軽微な接触や衝突、追突などの事故を起こしても、刑罰を受けたり、運転免許が停止・取り消しになったりはしないのです。
ただし「他人の建造物を損壊したとき」は、道路交通法第116条の規定によって刑事責任・行政処分が科せられることがあります。
第百十六条 車両等の運転者が業務上必要な注意を怠り、又は重大な過失により他人の建造物を損壊したときは、六月以下の禁錮又は十万円以下の罰金に処する。
引用元:道路交通法|e-Gov
罰則は6か月以下の禁錮または10万円以下の罰金です。
また、行政処分の基礎となる点数は次のとおりです。
交通事故の種別 | もっぱら違反行為者の不注意による事故の場合 | それ以外の事故の場合 |
---|---|---|
建造物の損壊にかかる交通事故 | 3点 | 2点 |
参考元:交通事故の付加点数|警視庁
たとえば、前方不注視によって他人の住宅に突っ込んでしまったなどのケースでは、安全運転義務違反2点+もっぱら違反行為者の不注意による事故3点=5点の加算となります。
物損事故では、治療費・逸失利益・慰謝料などの請求は基本的には認められません。
ただし、車両の修理費や建造物の修繕費など、事故によって壊れた物について弁償すべき責任は発生するので、その点についての交渉はすることになるでしょう。
人身事故の被害に遭った場合は、できるだけ早い段階で弁護士に相談してサポートを受けましょう。
人身事故の被害に遭うと、加害者や加害者が加入している保険会社との示談交渉を進めることになります。
賠償を受けるためには必要な手続きなので仕方がないとはいえ、やはりわずらわしく感じてしまうものです。
特に保険会社との示談交渉では、事故対応に慣れている保険会社の担当者と話し合うことになります。
交渉の主導権を握れないまま相手の言いなりになってしまうケースも少なくないでしょう。
弁護士に依頼すれば、わずらわしい示談交渉への対応はすべて弁護士に一任できます。
保険会社の担当者に言い負かされず、不利な結果を回避できる可能性が高まるでしょう。
人身事故の対応を弁護士に任せる最大のメリットは「慰謝料の増額が見込めること」です。
弁護士に対応を依頼すれば、慰謝料を算定する3つの基準のうちもっとも高額となる弁護士基準で交渉を進めることになります。
弁護士の介入によって大幅に慰謝料額が増額できたケースは数多く、数百万円から、場合によっては数千万円単位の増額が実現する事例もあります。
充実した補償を受けたいと考えるなら弁護士への依頼が最善策です。
参考元:交通事故の解決事例
交通事故で負傷し、ある程度の治療を継続したものの「これ以上は治療を継続しても症状が改善しない」という状態になることがあります。
これが「後遺障害」と呼ばれるものです。
後遺障害は、認定される「等級」に応じて賠償額が大きく変わるため、充実した補償を実現するには適切な後遺障害等級が認定されることがカギとなります。
弁護士に依頼すれば、適切な後遺障害等級を獲得するために必要な手続や証拠収集を行ってくれることが期待できます。
物損事故の被害に遭った場合は、基本的には慰謝料を請求できないため「弁護士のサポートはいらない」と考える方も少なくないようです。
しかし、物損事故であっても弁護士に対応を任せるメリットは大きいので、弁護士への相談を検討しましょう。
車両など「物」の損壊しか生じていない物損事故でも、加害者や保険会社との示談交渉を行う必要が生じます。
多くのケースでは、お互いの保険会社同士で交渉を進めることになりますが、停車中の追突被害などのように被害者の過失割合がゼロのケースでは保険会社が介入できません。
何度も保険会社の担当者と連絡を取り合いながら賠償についての話し合いを進めるのは骨の折れる作業なので、弁護士に対応を任せて負担を軽減しましょう。
物損事故では車両の修理費などの物的な賠償しか得られません。
人身事故の慰謝料のように弁護士基準の適用はないので、弁護士の介入は不要と感じる方も多いでしょう。
しかし、物損事故であっても「どちらに重い過失があったのか」という過失割合が問題となって示談交渉が難航するケースはあります。
加害者側の保険会社から一方的に不利な過失割合を押し付けられて賠償額が下がってしまうこともあるので、弁護士に対応を任せるのが賢明です。
人身事故・物損事故にかかわらず、交通事故の被害に巻き込まれた場合は弁護士のサポートを受けたほうが有利な展開が期待できます。
ただちに交通事故被害の解決が得意な弁護士を探して相談しましょう。
交通事故に巻き込まれてしまい満足できる賠償を得るには、交通事故トラブルの解決実績が豊富な弁護士を探してサポートを依頼する必要があります。
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弁護士にトラブル解決を依頼すると弁護士費用が発生します。
とくに物損事故では「せっかく弁護士に依頼しても、獲得できた修理費用から弁護士費用を支払うことになるから損をするのでは?」と考える方も少なくないようです。
そんな不安を感じているなら、ご自身が加入している任意の自動車保険に「弁護士費用特約」がついているかをチェックしましょう。
弁護士費用特約をつけていれば、弁護士費用は保険会社が負担してくれます。
ほとんどの保険会社が、1事故1被保険者につき300万円まで、相談費用は10万円までの補償を設定しているので、賠償額が少額でも弁護士費用の負担を気にする必要はありません。
人身事故と物損事故では、加害者が問われる責任や被害者が請求できる賠償に大きな差があります。
どちらにも共通していえるのは「加害者・保険会社に任せていても満足した賠償は期待できない」ということでしょう。
交通事故の被害に巻き込まれて慰謝料や後遺障害等級認定、車両の修理費などで満足できる補償を受けたいと考えるなら、交通事故トラブルの解決実績が豊富な弁護士に相談してサポートを依頼しましょう。
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