- 「当て逃げの被害届はどうやって出すのか」
- 「被害届を出すメリットがいまいちよくわからない」
当て逃げは、単なる交通トラブルではありません。
道路交通法に違反する犯罪行為です。
そのため、当て逃げの被害にあったときは、警察に相談して被害届を出すこともできます。
とはいえ、当て逃げに関する被害届の取り扱いについて詳しく理解している人は多くないでしょう。
そこで本記事では、当て逃げ被害に遭った際に被害届を提出するメリットや提出方法などについて解説します。
本記事を通じて、当て逃げという罪に対して、冷静かつ的確に対応するための力を身につけてください。
当て逃げの被害に遭ったときには「被害届」を提出できる
当て逃げの被害に遭ったときは、警察に被害届を提出できます。
被害届は、犯罪の被害に遭ったことを警察に伝えるための書類です。
そして、当て逃げは道路交通法72条1項後段に違反し、同法119条に定められる犯罪行為なので、被害届を提出すれば、警察に受理してもらえる可能性があります。
そのため、被害に遭った場合は「物損だから大ごとにしたくない」と判断せず、警察に被害届を提出することが重要です。
当て逃げの被害に遭ったときに被害届を出す3つのメリット
当て逃げの被害に遭った際、「加害者が逃げた今、被害届を出しても意味がないのでは」と思う方もいるかもしれません。
しかし、被害届の提出には大きな意味があり、被害者の立場を守るうえでも重要な手段です。
ここでは、被害届を出すことで得られる代表的な3つのメリットを解説します。
1.捜査を開始してくれる可能性がある
被害届を提出することによって、警察が事件として正式に扱い、捜査に着手してくれる可能性が生まれます。
被害届は、単なる相談や情報提供とは異なり、警察が「これは事件である」と判断するためのきっかけとなるものです。
当て逃げの場合は、防犯カメラの映像確認、周辺への聞き込み調査、加害車両のナンバー照会といった初動捜査がおこなわれる可能性があります。
もちろん、被害届を出したからといって、必ずしも積極的な捜査が約束されるわけではありません。
証拠の有無や被害の程度などによっては、被害届を提出したとしても捜査に至らないケースもあります。
しかし、警察が動く可能性を生み出すという意味でも、まずは被害届を提出し、事件化を促すことが重要です。
2.加害者に刑事責任を負わせられる可能性がある
当て逃げは、単なる交通マナー違反ではなく、道路交通法に明確に違反する犯罪行為です。
たとえ物損事故であっても、事故現場から正当な理由なく逃走した場合には、法令上の義務を怠ったとみなされ、刑事罰の対象となります。
- 報告義務違反:3ヵ月以下の拘禁刑または5万円以下の罰金
- 特定自動運行用自動車における危険防止措置義務違反:1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金
重要なのは、被害届の提出がなければ、たとえ加害者が後日特定されたとしても、警察が捜査に踏み切りにくくなるという点です。
逆に、被害届が提出されていれば、「逃げ得」を許すことなく、法の下で責任を問える可能性が高くなります。
3.加害者が示談交渉に積極的になる可能性がある
加害者が示談交渉に積極的になることも、被害届を提出するメリットのひとつです。
被害届が出されると、当て逃げが刑事事件化します。
そして、刑罰をおそれた加害者が示談の意向を持てば、適切な損害賠償を受け取れる可能性が高まります。
ただし、保険会社に任せられるのは、民事上の損害賠償に関する示談交渉に限定されます。
加害者側から刑事上の問題に関する示談を求められた場合は、個別に対応する必要がある点に注意しておきましょう。
当て逃げの被害に遭ったときに被害届を出すときの4つのポイント
ここでは、当て逃げの被害に遭ったときに被害届を出すときのポイントを解説します。
1.当て逃げに気付いたら可能な限り早く被害届を提出する
当て逃げに気付いたとき、最も大切なのは「できるだけ早く被害届を提出すること」です。
公訴時効内であれば、被害届に提出期限はありません。
しかし、時間が経てば経つほど証拠の収集が難しくなり、警察に取り合ってもらえなくなります。
たとえば、目撃者がいたとしても、数日経てば記憶は曖昧になり、証言としての信ぴょう性が薄れてしまうのです。
「様子を見てから」と時間を空けるのではなく、異変に気付いたら速やかに警察に連絡し、現場に来てもらう、あるいは後日警察署で正式に被害届を提出する対応が望ましいといえます。
早期対応こそが、加害者特定と損害回復への最短ルートです。
2.被害届の提出は現場を管轄する警察署に対しておこなう
被害届の提出は、原則として事故が発生した「現場」を管轄する警察署に対しておこないます。
管轄外の警察署に被害届を提出しようとしても、受理してもらえない可能性が高いでしょう。
また、交番では簡単な相談や現場への巡回はしてくれますが、被害届の正式な受理や捜査の起点となる手続きは、交通課や刑事課を有する「警察署」でおこなうのが一般的です。
提出の際は、事件の概要を時系列に沿って説明できるよう、あらかじめメモを用意しておくと手続きがスムーズになります。
3.受理してもらえるよう事件に関する証拠などを持参する
被害届を提出しても、警察が受理してくれるとは限りません。
特に物損事故の場合、警察が「事件性が薄い」と判断すれば、相談対応にとどまることもあります。
これを避けるためには、被害の実態を示す具体的な証拠を持参し、信ぴょう性を高めることが重要です。
たとえば、以下のような証拠があると、受理されやすくなります。
証拠の種類 | 内容・ポイント |
損傷箇所の写真 | 複数の角度から撮影し、傷の位置・大きさ・塗料の付着などを記録。 時間が経つ前に撮影する。 |
加害車両の情報 | 車種・色・ナンバーの一部、逃走方向、特徴的な装備などをできるだけ記録。 |
ドライブレコーダーの映像 | 事故の瞬間や前後の映像を保存。 車両の接近音やクラクションなどの音声も証拠になる場合がある。 |
防犯カメラの位置情報 | 設置場所を確認し、警察に伝える。 映像の有無も併せて報告し、警察に閲覧・提出を依頼する。 |
目撃者の証言・連絡先 | 現場にいた第三者の証言が有効。 簡単なメモと連絡先を控え、警察に証言をお願いするよう伝えておく。 |
上記の証拠は、警察が事件性を判断するうえで重要な判断材料になります。
できる限り客観性の高い情報を整理し、提出時に説明できるよう準備しておくことで、警察の対応が大きく変わる可能性があります。
4.実況見分を受けていても被害届は別途提出する必要がある
事故後に警察へ連絡すると、車両の損傷状況や現場の状況を確認する「実況見分」が実施されます。
しかし、実況見分を受けていても、被害届は別途提出しなければなりません。
被害届の提出を怠ると、加害者が特定できた場合でも刑事責任を問えない可能性が出てきます。
警察が正式に捜査を開始するきっかけをつくるためにも、被害届は忘れずに提出してください。
万が一、警察が被害届を受理してくれない場合は弁護士に相談を!
被害届は、警察に当て逃げの捜査を促す手段として非常に有効ですが、実際の現場では「受理されなかった」「相談扱いで終わってしまった」という声も見受けられます。
こうしたケースでは、法的な観点からの対応が必要になることもあるため、一度弁護士に相談してみてください。
弁護士は、法的根拠を踏まえて警察に対して適切に主張をおこない、被害届の受理を後押ししてくれます。
場合によっては、弁護士が同行して警察署に出向くことで、対応が一転することもあります。
さらに、弁護士は「被害届」だけでなく、「告訴状」の作成と提出もサポートしてくれます。
告訴状とは、加害者に対して明確に刑事処罰を求める書類であり、警察が受理すると捜査義務が発生します。
そのため、弁護士のサポートのもとでの告訴状の提出によって事件が前に進む可能性が高まります。
当て逃げは被害者にとって精神的にも経済的にも負担が大きい事件です。
一人で対応しようとせず、対応が難航したときにはためらわず弁護士に相談しましょう。
弁護士費用特約が付帯された自動車保険に加入していれば、費用をかけずに弁護士に依頼できる場合もあります。
さいごに|警察に対して事件を報告したいなら被害届を提出しよう
当て逃げに当たった場合は、必要な手続きを正しく踏むことで、被害者としての権利を守ることができます。
その第一歩となるのが「被害届」の提出です。
たとえ加害者が不明であっても、被害届を出すことで事件として扱ってもらいやすくなります。
刑事責任の追及や示談交渉の後押しにもつながるため、被害者がまずやるべき対応策のひとつといえるでしょう。

