- 「うっかり任意保険に入っていなかった…」
- 「もし事故を起こしてしまったら、どうすればいいの?」
交通事故の加害者になってしまったにもかかわらず、任意保険に未加入だったと気づいたとき、多くの方がこのような不安を感じるでしょう。
交通事故による損害は、自賠責保険だけではカバーできないものも多く、任意保険に入っていない場合、被害者への賠償や示談交渉を全て自力でおこなわなければならない可能性もあります。
本記事では、任意保険に加入していない場合に想定されるリスクや、示談交渉の流れ、費用負担の実情などをわかりやすく解説します。
もしものときに後悔しないためにも、ぜひ一度確認しておきましょう。
【加害者向け】自動車の任意保険に入ってない場合のデメリット
任意保険未加入のまま自動車などを運転しつづけたときに生じるデメリットは、以下の3つです。
- 自賠責保険では対人賠償だけしか補償されない
- 自賠責保険の上限を超える場合は自己負担になる
- 被害者との示談交渉を自分でおこなう必要がある
それぞれのデメリットについて、詳しく見ていきましょう。
1.自賠責保険では対人賠償だけしか補償されない
任意保険に入っていないと、交通事故の加害者となったときに自賠責保険しか利用できません。
そして、自賠責保険の補償範囲は対人事故だけに限られている点に注意が必要です。
つまり、自賠責保険を利用できるのは、他人にけがをさせたり死亡させたりした場合だけであり、物損事故には適用されないのです。
そのため、自賠責保険に入ってない状態で物損事故を起こしたときには、相手方に生じた損害項目について、加害者本人が自己負担を強いられます。
預貯金などで損害賠償責任を果たすことができればよいですが、相手方からの賠償請求に対してすぐに支払うことができない状況だと、民事訴訟を提起されたり、不動産や給与債権を差し押さえられたりするリスクに晒されるでしょう。
2.自賠責保険の上限を超える場合は自己負担になる
「任意保険に入っていなくても自賠責保険が適用されるなら問題ないのでは?」と思われる人も少なくはないでしょう。
確かに、人身事故については自賠責保険の補償対象に含まれるので、全てが自己負担になるわけではありません。
ただし、自賠責保険の対人補償には、以下のような補償上限額・支払い基準が定められている点に注意が必要です。
事故のタイプ | 限度額 | 損害項目 | 支払い基準・支払い内容 |
傷害による損害 | 被害者一人につき120万円 | 治療費 | 診察料、手術料、投薬料、処置料、入院料など実費(必要かつ妥当と認められる範囲) |
看護料 | ・入院:1日4,200円 ・自宅看護:1日2,100円 ・通院看護:1日2,100円 ※収入の減少を証明できれば、最大19,000円または地域の家政婦料金まで増額可能 | ||
諸雑費 | 原則として1日1,100円 | ||
通院交通費 | 通院に要した、必要かつ妥当と認められる範囲の実費 | ||
装具・器具の費用 | 義肢・義眼・眼鏡・補聴器・松葉杖など、必要かつ妥当と認められる範囲の実費 ※ただし、眼鏡の費用は50,000円が限度 | ||
診断書などの費用 | 診断書・診療報酬明細書などの発行手数料 (必要かつ妥当と認められる範囲について実費) | ||
文書料 | 交通事故証明書、印鑑証明書、住民票などの発行手数料につき、必要かつ妥当と認められる範囲の実費 | ||
休業損害 | 原則として1日6,100円。 収入の減少を立証できた場合には、19,000円を限度として実費分を支給 | ||
慰謝料 | 1日4,300円。 傷害の程度、実際の治療日数、症状固定または完治までの通院期間などを総合的に考慮して算出。 | ||
後遺障害による損害 | ①神経系統の機能や精神・胸腹部臓器への著しい障害で、介護を要する場合 ・常時介護を要する場合(第1級):一人につき4,000万円 ・随時介護を要する場合(第2級):一人につき3,000万円 ②上記①以外の後遺障害(一人につき等級によって75万円~3,000万円) | ||
死亡による損害 | 被害者一人につき3,000万円 | 葬儀費用 | 通夜、祭壇、火葬、墓石などの費用につき100万円まで実費分 (ただし、墓地代、香典返し代などは除く) |
逸失利益 | 収入、就労可能期間、被扶養者の有無などを考慮して算出 | ||
慰謝料 | ・被害者本人分:400万円 ・近親者慰謝料:請求者一人で550万円、請求者二人で650万円、請求者3人以上で750万円、被扶養者がいる場合には200万円加算 |
つまり、人身事故を起こして自賠責保険の補償上限額を超える損害が発生すると、加害者本人が自己負担をしなければいけないということです。
人身事故では、損害賠償額の総額が自賠責保険の補償範囲で収まるケースは少なく、数千万単位の高額の賠償金が発生する可能性もあります。
そのため、高額の賠償金の返済負担を強いられたくないのなら、任意保険に入っておくことを強くおすすめします。
3.被害者との示談交渉を自分でおこなう必要がある
任意保険に加入していれば、過失割合10対0の被害者側にならない限り、任意保険会社が事故相手との示談交渉を代理してくれます。
しかし、任意保険に入っていない場合には、事故相手との示談交渉を自分でおこなわなければいけません。
たとえば、相手方との間で交通事故の過失割合が争点になった場合には、ドライブレコーダーの映像や実況見分調書などの客観的証拠を活用して、自己の主張する過失割合が正当であることを主張・立証する必要があります。
その際、交通事故実務に詳しくなければ、どのような証拠を揃えるべきか、どのように主張すべきかがわからないでしょう。
また、相手方が自動車保険に加入していると任意保険会社との間で、相手方が弁護士に依頼しているとその弁護士との間で、示談交渉を進めなければいけません。
これらを素人だけで交渉をおこなうのは至難の業ですし、結果的に不利な決着になるリスクもあります。
そのため、万が一の事故に備えて任意保険には加入しておくべきでしょう。
自分が任意保険に入ってない場合の被害者との示談交渉の流れ
任意保険に入っていない状況で交通事故を起こした場合、加害者本人が示談交渉をおこなわなければいけません。
ここでは、被害者側との示談交渉の流れと注意点について解説します。
1.被害者と連絡先を交換しておく
交通事故が発生したら、すぐに警察に通報をしたうえで、事故相手(ケガなどで被害者自身との話しが難しければ同乗者等)と連絡先を交換しておきましょう。
というのも、任意保険に入っていない以上、示談交渉を進めるために加害者本人が事故相手または相手が加入している任意保険会社の担当者に連絡をしなければいけないからです。
事故現場で相手の連絡先を聞くのを忘れて、こちらから一切連絡できないとなると、被害弁償などをする意思がない人物だと判断されて、厳しい対応をとられかねません。
そのため、交通事故発生後は、氏名・電話番号・住所・勤務先・任意保険会社の情報・ナンバープレートの番号・メールアドレスなどをその場でメモしておきましょう。
また、事故後に適切に警察に報告していれば、交通事故証明書を取得することで被害者の氏名・住所・電話番号を確認することもできます。
2.被害者から損害に関する連絡がある
交通事故の加害者になった場合には、加害者側から謝罪の旨を伝える連絡をするのが望ましいです。
人にケガや損害を負わせた立場としては謝罪して当然です。
また、敢えてメリットをご説明すると、誠意のある態度を示すことで被害者側の怒りの感情を緩和でき、今後の示談交渉をスムーズに進めやすくなるかもしれません。
けがの程度などの事情次第ですが、交通事故が発生してから数日以内には直接または電話で謝罪をすることも検討されるとよいでしょう
次に、被害者の治療終了後、被害者側から損害賠償請求に関する連絡がくる流れが通常です。
損害賠償請求に関する連絡は通常は書面で届くので、被害者側が考える賠償項目・損害額の計算根拠・過失割合などの諸条件について確認しましょう。
3.内容を確認して示談交渉を開始する
被害者側からの損害賠償請求は、あくまでも被害者側が主張する内容でしかありません。
その内容をいきなり全面的に認める必要はなく、双方が話し合いを進めて、諸条件について合意に至った場合に賠償する流れです。
そのため、加害者側としては、被害者側から届いた請求内容を吟味したうえで、場合によっては損害賠償額を引き下げるための交渉が必要になることもあります。
交通事故の加害者に責任があることは当然ですが、「適切な賠償」という観点からは被害者の請求にそのまま応じるわけにはいかないため、内容を確認・協議することはやむを得ません。
ただし、加害者側が任意保険に加入していない場合、被害者側が弁護士に依頼していることが多いので、示談交渉は相当難航することもあります。
過失割合や賠償範囲などについて争うには客観的証拠が必要なので、任意保険に入っていない以上、加害者側も弁護士に相談されることをお勧めします。
4.示談がまとまったら示談金を振り込む
被害者側との間で示談が成立した場合には、示談契約の内容にしたがって期日までに示談金を支払いましょう。
なお、期限までに示談金を支払わないと、交通事故相手から民事訴訟を提起されたり、強制執行によって給与債権や不動産などを差し押さえられたりしかねません。
給与債権が差し押さえられると勤務先に迷惑をかけてしまうほか、不動産が差し押さえられると引っ越しを余儀なくされるリスクが生じます。
5.自賠責保険会社に対して保険金を請求する
被害者に対して示談金を振り込んだあとは、自分が加入している自賠責保険に対して保険金を請求しましょう。
この請求のことを加害者請求といいます。
加害者請求をするには、示談金支払い済みの加害者本人が自賠責保険会社との間で直接手続きを進めなければいけません。
連絡をすれば必要書類などが送付されるので、示談金を支払った翌日から3年以内に所定の手続きを済ませてください。
なお、自賠責保険には補償上限額が定められています。
自賠責保険の上限額を超える部分については自己負担を強いられる点に注意が必要です。
自動車の任意保険に入ってない場合は弁護士に依頼するのもおすすめ
任意保険に入っていない状態で交通事故を起こしたときには、できるだけ早いタイミングで弁護士に相談・依頼するのがおすすめです。
というのも、交通事故トラブルの対応を取り扱う弁護士のサポートを受けることで、以下のメリットを得られるからです。
- 被害者との間の示談交渉や民事訴訟への対応を一任できる
- 刑事責任を追求されたときの弁護活動を期待できる
それぞれのメリットについて、詳しく見ていきましょう。
1.被害者との示談交渉などを一任できる
弁護士に依頼をすれば、被害者との間で生じた民事的トラブルへの対応を全て任せることができます。
交通事故の民事的側面について弁護士に一任することで、以下のようなメリットがあります。
- 被害者との連絡窓口になってくれるので、加害者本人は時間や労力をかけずに済む
- 損害賠償の範囲や過失割合などの示談条件について加害者側の立場での合意形成を目指してくれる
- 宥恕条項や清算条項など、示談書に盛り込むべき内容をしっかりと記載してくれる
- 加害者側がけがをしている場合には、加害者側に生じた損害項目もひとつずつ正確にピックアップしてくれる
- 示談が不成立に終わり、紛争が民事訴訟に発展した場合には、加害者側の代理人として粛々と弁護活動を展開してくれる など
交渉相手が任意保険会社や弁護士の場合、法律に詳しくない加害者本人が示談交渉に対応すると、交渉ノウハウや法的知識の差が原因で、不利な示談条件を強いられかねません。
ですから、任意保険に加入していない状態で交通事故を起こしてしまったときには、できるだけ早いタイミングで交通事故対応を取り扱う弁護士に相談・依頼をしてください。
2.交通犯罪に関するサポートを受けられる
交通事故を起こした場合、とくに人身事故を起こしたときには、加害者が刑事責任を問われる可能性も十分に考えられます。
さらに、被害者が死亡したり、重いけがを負ったりした事案や、飲酒運転や無免許運転、悪質な違反行為の結果、交通事故を起こした事案などでは、その場で現行犯逮捕されるケースもあります。
そのため、交通事故が原因で刑事手続になったときには、できるだけ早いタイミングで弁護士へ相談してください。
刑事事件に強い弁護士に依頼をすれば、以下のメリットを得られるでしょう。
- 逮捕されて強制的に身柄を押さえられたとしても、勾留阻止や身柄解放に向けた防御活動を展開してくれる
- 逮捕・勾留中の加害者(被疑者)との間で積極的に接見機会を作って相談に乗ったり励ましてくれる
- 被害者への謝罪や賠償の窓口となり、示談や被害弁償等を通じて起訴猶予処分獲得を目指してくれる
- 仮に検察官に起訴されたとしても、罰金刑や執行猶予付き判決を獲得することで、実刑判決回避を目指してくれる
- 実名報道されないように捜査機関や報道機関に働きかけをしてくれる など
正式な刑事裁判で有罪になると、不注意による交通事故が原因であっても窃盗や殺人などを犯したときと同じように前科がついてしまいます。
前科がつくと今後の社会生活にも支障が生じかねません。
現行犯逮捕されたり、刑事訴追された結果、起訴処分が下されるリスクに晒されているときには、すぐに刑事事件の対応を取り扱う弁護士まで相談しましょう。
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自動車の任意保険に入ってない場合はいつまでに加入すればいいの?
任意保険に入っていないと、交通事故発生時に十分な補償を受けることができません。
ここでは、任意保険に加入するべきタイミングについて解説します。
1.事故発生前までに加入する必要がある
任意保険の補償対象は、任意保険加入後の交通事故だけです。
任意保険に入る前に発生した交通事故に対して保険金が支払われることはありません。
そのため、交通事故で発生した賠償金の自己負担を免れたいと考えるなら、早めに任意保険に加入するようにしてください。
なお、交通事故発生日について嘘をついたり、交通事故発生前に付いた傷を便乗修理してもらったりして保険金を騙し取ると、次年度からの保険契約の更新を拒絶されたり、契約途中で保険契約を強制解約される可能性があります。
また、詐取した保険金の返還を求められるなどの形で民事責任を追求されたり、詐欺罪の容疑で刑事訴追されたりするリスクもあるので注意しましょう。
2.できる限り早く加入しておくほうがよい
交通事故の賠償金を任意保険でまかなうには、交通事故発生前に任意保険に加入する必要があります。
ところが、いつ交通事故に巻き込まれるかは誰にも予測できないものです。
もちろん、このまま1回も交通事故に遭わずに済むかもしれませんが、自動車を運転している以上、明日にでも交通事故の加害者になってしまうかもしれません。
そのため、万が一の交通事故に対するリスクヘッジをするなら、できるだけ早いタイミングで任意保険に入っておくことを強くおすすめします。
現段階で任意保険に入っていないなら、速やかに保険会社各社が提供している自動車保険の内容を精査したうえで、適切な補償内容を定めているサービスと契約をしてください。
任意保険に入っていない人向けのよくある質問
さいごに、任意保険に入っていない人からよく寄せられる質問をQ&A形式で紹介します。
Q.任意保険に入ってない人はどれくらいの割合なの?
2024年3月末の段階で、日本全国の保有車両総数は、82,568,637台です。
このうち、自動車共済に加入しているのは10,903,010台(13.2%)、自動車保険に加入しているのは62,320,207台(75.5%)、合計73,223,217台(88.7%)です。
つまり、全体の11.3%は任意保険に入っていない状況といえます。
【参考元】2024年度(2023年度統計)自動車保険の概要|損害保険料率算出機構
Q.任意保険に入ってない場合には何か罰則があるの?
任意保険に入っていないからといって罰則が加えられることはありません。
あくまでも、交通事故発生時の賠償金を自賠責保険と自己負担で対応しなければいけなくなるというだけです。
一方で、自賠責保険に入っていない状態で車両を運行させると、それだけで1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金刑の範囲で刑事罰が科されます。
また、行政処分としては違反点数6点で免許停止処分が下されます。
さいごに|任意保険に入ってない状態での自動車の運転はおすすめできない!
任意保険に入っていない状態で自動車を運転するのは避けるべきです。
というのも、任意保険に入っていないと、対人・対物どちらであったとしても十分な保険金を受け取ることができず、加害者本人が高額の賠償額負担を強いられかねないからです。
また、このような状況で加害者本人の資力が不足していると、被害者本人が適切に補償を受けることができません。
万が一、任意保険に入っていない状態で交通事故を起こしてしまったときには、速やかに交通事故トラブルの対応を取り扱う弁護士まで相談・依頼をしてください。
弁護士に依頼をすると、示談交渉を代理してもらったり、有利な示談条件での合意形成を実現しやすくなったりするでしょう。
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