交通事故の示談交渉において、しばしば問題になるのが「過失割合」の争いです。
本来は事故の状況に応じて客観的に決まるはずの割合ですが、中には自分の非を少しでも減らそうと「ゴネて」くる相手もいます。
このような、いわゆる“ゴネ得”を狙った主張に押し切られてしまうと、本来よりも多くの責任を負わされ、損をしてしまう恐れがあるので注意しましょう。
本記事では、過失割合のゴネ得を狙った主張に対しての正しい対処法について詳しく解説します。
示談交渉で不利にならないためにも、正しい知識を身につけておきましょう。
交通事故の過失割合でゴネ得を理由に妥協すべきでない理由
交通事故の話し合いで、相手が過失割合についてゴネ始めたとき、「もう面倒だから、少しくらいなら譲って早く終わらせたい…」と思ってしまうかもしれません。
しかし、その「少しの妥協」が、あなたにとって大きな不利益につながる可能性があります。
ここでは、相手のゴネ得を理由に妥協すべきではない、以下の2つの大きな理由を解説します。
獲得できる損害賠償金が減ってしまうから
ゴネ得を狙った相手の主張に妥協すべきでない最大の理由は、受け取れる損害賠償金の額が減ってしまうからです。
交通事故の損害賠償では、過失相殺(かしつそうさい)という考え方が使われます。
過失相殺とは、事故が起きた責任があなたにもある場合、その割合に応じて、相手に請求できる賠償金が減額される、というルールです。
たとえば、治療費、車の修理代、慰謝料など事故による損害の総額が100万円だったとします。
そして、客観的な状況から判断した本来の過失割合が「あなた:10%」「相手:90%」だった場合、あなたが受け取れる賠償金は、相手の過失割合である90%分の90万円になります。
ところが、相手がゴネてきた結果、あなたが「面倒だから」と妥協して「あなた:20%」「相手:80%」という過失割合で合意してしまったらどうなるでしょうか。
この場合、あなたが受け取れる賠償金は、80%分の80万円に減ってしまいます。
たかが10%の違いと思うかもしれませんが、この例では10万円もの差額が生まれます。
損害額がもっと大きくなれば、その差はさらに広がり、数百万円単位で損をしてしまう可能性もあるのです。
このように、安易な妥協は、あなたの正当な権利を自ら手放してしまうことにつながります。
示談の成立が先延ばしになるから
相手はゴネているのに対して「早く終わらせたいから妥協する」という考えは、実は逆効果になることがあります。
ゴネ得を狙う相手は、議論を長引かせることで、こちらが精神的に疲れ果てて根負けし、不利な条件を飲むことを期待している場合が多いです。
もしあなたが一度でも「では、その条件で…」と妥協した姿勢を見せてしまうと、相手は「もっとゴネれば、もっと有利になるかもしれない」と考えて、さらに無理な要求を重ねてくる可能性があります。
その結果、解決するどころか、示談の成立がどんどん先延ばしになってしまうのです。
そのため、仮に相手がゴネてきたとしても、毅然とした態度で「客観的な事実に基づいて話し合いましょう」と対応することが、結果的にスムーズな解決への近道となります。
交通事故の過失割合でゴネ得をさせないための対処法
では、相手にゴネ得をさせず、適正な過失割合で事故を解決するためには、具体的にどうすればよいのでしょうか。
感情的にならず、冷静に対処するための6つの方法を紹介します。
- 過失割合の決め方を正しく理解しておく
- できるだけ多く客観的証拠を集めて、相手に提示する
- 相手の主張やそれを裏付ける証拠について書面で回答するよう求める
- ADRの利用を検討する
- 調停を申し立てる
- 裁判に踏み切る
それぞれの方法について、詳しく見ていきましょう。
過失割合の決め方を正しく理解しておく
まず大前提として、過失割合がどのように決まるのかを知っておくことが非常に重要です。
よくある誤解として、「警察が過失割合を決めてくれる」と思っている方がいますが、これは間違いです。
警察は交通事故の捜査はしますが、当事者同士の賠償問題には介入しません。
そのため、交通事故の過失割合は、事故の当事者双方の話し合いによって合意を目指すことになります。
実際には、お互いが加入している任意保険会社の担当者同士が、過去の膨大な裁判例などを基準にして交渉を進めるのが一般的です。
なお、過失割合の基準はは『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準[全訂5版]』にまとめられており、実際に事故が生じた場合には、事故態様などから基本となる過失割合が選択され、個別具体的な状況に応じた修正要素を踏まえて基本の過失割合を修正することになります。
修正要素としては、徐行の有無や速度超過などが挙げられ、基本割合から修正要素を考慮し、最終的な過失割合を決定します。
つまり、過失割合は「どちらが強く主張したか」や「声の大きさ」で決まるのではなく、「過去の似たような事故の裁判例ではどう判断されたか」という客観的な基準に基づいて決まるのです。
このことを知っているだけでも、相手の根拠のない主張に対して冷静に切り返すことができます。
できるだけ多く客観的証拠を集めて、相手に提示する
過失割合を決める話し合いを有利に進めるうえで、何よりも強力な武器になるのが「客観的な証拠」です。
相手がどれだけゴネてきても、動かぬ証拠の前では言い逃れが難しくなります。
事故の状況を正確に証明するために、以下のような証拠をできるだけ多く集めましょう。
- ドライブレコーダーの映像
- 防犯カメラの映像
- 事故現場や車両の写真
- 実況見分調書
- 目撃者の証言
これらの証拠を相手方や保険会社に提示することで、あなたの主張の正当性を裏付けることができます。
相手の主張やそれを裏付ける証拠について書面で回答するよう求める
交渉において、電話など口頭でのやり取りだけでは「言った、言わない」の水掛け論になりがちです。
相手が感情的に主張を繰り返すだけで話し合いが進まない場合は、相手の主張とその根拠となる証拠を、書面で提出するように求めてみましょう。
具体的には、「あなたの主張される過失割合について、どのような事実と証拠に基づいているのか、書面にてご回答いただけますでしょうか」といった形です。
書面にすることで、相手は感情論ではなく、論理的に自分の主張を組み立てる必要が出てきます。
根拠のない主張であれば、書面にすること自体をためらうかもしれません。
また、やり取りが書面として残るため、後々のトラブルを防ぐことにもつながります。
ADRの利用を検討する
当事者同士の話し合いで解決が難しい場合、裁判を起こす前に「ADR(裁判外紛争解決手続)」を利用するという選択肢があります。
ADRとは、裁判所の外で中立的な立場の専門家が間に入り、話し合いによる解決を目指す手続きのことです。
裁判に比べて手続きが簡単で費用も安く、解決までの時間も短い傾向があります。
交通事故に関するADR機関としては、以下のようなものがあります。
- 日弁連交通事故相談センター:日本弁護士連合会が運営しており、全国各地の相談所で弁護士が無料で法律相談や示談のあっせん(仲介)をおこなってくれます。
- そんぽADRセンター:損害保険会社に関連する紛争を解決するための機関です。
保険会社の対応に不満がある場合などに相談できます。
これらの機関に相談することで、専門家の客観的な意見を聞くことができ、相手も冷静になって話し合いに応じる可能性があります。
調停を申し立てる
ADRでも解決しない場合や、より法的な手続きを望む場合は、簡易裁判所に「民事調停」を申し立てる方法があります。
調停では、裁判官と一般市民から選ばれた調停委員で構成される「調停委員会」が当事者の間に入り、お互いの言い分をよく聞いたうえで、解決策を提示してくれます。
あくまで話し合いによる解決を目指す手続きなので、裁判のように強制的に結論が出されるわけではありません。
しかし、調停委員会から提示される解決案は法的な観点に基づいたものであるため、相手も受け入れやすくなることが期待できます。
裁判に踏み切る
あらゆる手段を尽くしても相手がゴネ得を主張し続け、話し合いがまとまらない場合の最終手段が「裁判(訴訟)」です。
裁判になると、弁護士に依頼して法廷で争うことになります。
最終的には、裁判官が提出された証拠に基づいて、法に則った客観的な判断(判決)を下します。
判決には強制力があるため、相手がゴネ続けることはできません。
つまり、裁判をするとゴネ得が通用する余地はなくなります。
ただし、裁判は解決までに1年以上の時間がかかることもあり、弁護士費用も必要になるというデメリットもあります。
そのため、裁判はあくまで最終手段と考え、まずは弁護士に相談して、裁判に踏み切るべきかどうかを慎重に判断することが重要です。
過失割合でゴネ得を狙う相手の対応を弁護士に依頼するメリット
弁護士に依頼すると費用がかかるというイメージがあるかもしれませんが、それ以上に大きなメリットがあります。
- 適切な過失割合を算出してくれる
- 示談交渉を一任できる
- 証拠の収集をサポートしてくれる
- 裁判に発展した場合の対応も任せられる
- 弁護士基準で損害賠償を請求できる
それぞれのメリットについて、詳しく見ていきましょう。
適切な過失割合を算出してくれる
弁護士は、法律と過去の裁判例のプロです。
あなたが集めた証拠や事故の状況を法的な観点から分析し、最も適切で有利な過失割合を算出してくれます。
保険会社が提示する過失割合は、あくまで保険会社の基準によるものです。
弁護士が介入することで、保険会社の提示案よりも、あなたにとって有利な過失割合を主張できるケースは少なくありません。
示談交渉を一任できる
弁護士に依頼する最大のメリットのひとつが、相手方や相手の保険会社との交渉窓口を全て任せられることです。
ゴネてくる相手と直接やり取りをするのは、精神的に非常に大きなストレスがかかります。
その点、弁護士があなたの代理人となることで、ストレスから解放され、自身のけがの治療や仕事、日常生活に専念することが可能です。
交渉のプロである弁護士が、あなたに代わって冷静かつ論理的に交渉を進めてくれるので、感情的な相手にも毅然と対応できます。
証拠の収集をサポートしてくれる
「どんな証拠を集めたらいいかわからない」「実況見分調書の取り寄せ方がわからない」といった場合でも、弁護士であれば手厚いサポートが可能です。
弁護士は、事故の状況に応じて、どのような証拠が交渉を有利に進めるために有効かをアドバイスしてくれたり、あなたに代わって実況見分調書などの必要な書類を取り寄せてくれたりします。
これにより、有利な証拠を確保できる可能性が高まります。
裁判に発展した場合の対応も任せられる
弁護士がいれば、話し合いがまとまらずに調停や裁判に発展してしまった場合でも、そのまま手続きを全て任せられるので安心です。
複雑な法的手続や書類の作成、法廷での主張など、専門知識が必要な場面でも、あなたの権利を守るために最後まで戦ってくれます。
ただし、話し合いによる解決と裁判による解決では、別々に弁護士費用がかかる可能性がある点には注意しましょう。
弁護士基準で損害賠償を請求できる
交通事故トラブルの解決を弁護士に依頼する大きなメリットとして、弁護士基準で損害賠償を請求できる点も忘れてはいけません。
そもそも、交通事故の慰謝料などの損害賠償金を計算する基準には、以下3つの種類があります。
- 自賠責基準:法律で定められた最低限の補償をおこなう基準
- 任意保険基準:各保険会社が独自に設定している基準
- 弁護士基準(裁判基準):過去の裁判例に基づいており、3つの基準の中で最も高額になる基準
弁護士に依頼すると、最も高額な「弁護士基準」で損害賠償を請求することができます。
そのため、過失割合だけでなく、最終的に受け取れる賠償金の総額が、弁護士に依頼しなかった場合に比べて大幅に増額される可能性が高いのです。
なお、自身の自動車保険に「弁護士費用特約」が付いていれば、限度額まで弁護士費用を保険会社が負担してくれます。
この特約を使っても、翌年の保険料が上がることはありません。
そのため、まずは保険契約を確認してみることを強くおすすめします。
さいごに|交通事故の過失割合でもめたときは弁護士に相談を!
本記事では、交通事故の過失割合で相手にゴネ得をさせないための対処法について解説しました。
相手がゴネてくると、つい感情的になったり、面倒になって妥協してしまいたくなったりするかもしれません。
しかし、安易に妥協すると、あなたが本来受け取るべき正当な補償を受け取れなくなり、後悔につながってしまいます。
大切なのは、冷静に、そして毅然と対応することです。
そのためには、以下のことが重要です。
- 過失割合の決め方を正しく知る
- 客観的な証拠を集める
- 専門家である弁護士に相談する
もし、相手との交渉に疲れ果ててしまったり、少しでも不安を感じたりしたら、一人で悩まずに、ぜひ一度、交通事故に詳しい弁護士に相談してみてください。
多くの法律事務所では無料相談を実施しています。
あなたの状況を整理し、今後の見通しや、あなたにとって最善の解決策をアドバイスしてくれるはずです。

