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自賠責保険の上限額は120万?費用の内訳と金額に納得いかない場合の対処法を解説
2024.10.16
自賠責保険の限度額は、死亡事故や後遺障害が残る事故以外の場合、120万円です。
しかし、120万円全てを治療費や慰謝料などに充てられるわけではなく、何にいくら充てられるのかの内訳が決まっています。
また、120万円を超過した場合には、加害者または加害者が加入している任意保険から治療費などを支払います。
そのため、何にいくらまで支払われるのかを把握しておく必要もあるでしょう。
もし満足な補償が得られない場合、対処法を知らないと泣き寝入りになってしまうリスクがあります。
そこで本記事では、自賠責保険120万円の内訳について詳しく解説します。
120万円に含まれるものと含まれないものを理解して、補償に納得いかない場合や、自賠責だけでは十分な補償を受けられない場合の対応を身につけておきましょう。
自賠責保険の上限は120万円ですが、それはあくまでの被害者が傷害の被害を受けている場合です。
被害者に後遺障害や死亡などの被害が出ている場合では、限度額が異なります。
ケース別の自賠責保険の限度額は、以下のとおりです。
【ケース別の自賠責保険の限度額】
傷害による損害 | 120万円 |
後遺障害による損害 | ①神経系統の機能や精神・胸腹部臓器への著しい障害で、介護を要する障害 (被害者1人につき) 常時介護を要する場合(第1級):4,000万円 随時介護を要する場合(第2級):3,000万円 ②上記①以外の後遺障害 (被害者1人につき) (第1級):3,000万円〜(第14級):75万円 |
死亡による損害 | (被害者1人につき) 3,000万円 |
自賠責保険は、補償限度額は被害者の被害状況によって異なります。
傷害の場合は120万円、死亡の場合は被害者1人につき3,000万円、後遺障害の場合は75万円〜4,000万円です。
自賠責保険から受け取れる120万円の内訳は、以下のとおりです。
それぞれ、具体的にどのような費用が該当するのか、詳しく解説します。
治療関係費とは治療にかかった費用を指し、具体的には次のようなものが含まれます。
費用 | 内容 | 金額 |
治療費 | 診察料、手術料、投薬料、処置料、入院料等の費用 | 必要かつ妥当な実費 |
看護料 | 医師が必要を認めた原則12歳以下の子供への近親者等による付き添いにかかる入院中の看護料、自宅看護料、通院看護料等料 | ・入院1日4,200円 ・自宅看護は通院1日2,100円 ・看護によってこれ以上の収入減を立証できた場合近親者へ19,000円 ・上記以外は地域の家政婦料金を限度に実額 |
諸雑費 | 入院中に発生した雑費 | 原則として1日1,100円 |
通院交通費 | 通院に要した交通費 | 必要かつ妥当な実費 |
義肢等の費用 | 義肢、義眼、眼鏡、補聴器、松葉杖等の費用 | 必要かつ妥当な実費 (眼鏡の場合5万円が限度) |
診断書等の費用 | 診断書や診療報酬明細書などの発行手数料 | 必要かつ妥当な実費 |
治療費、通院交通費、義肢、診断書などの費用は、基本的に実費で支給されます。
しかし、看護料については限度額が設定されており、どこで看護するのかによって限度額が異なるため注意しましょう。
文書料とは、事故に伴って必要になる住民票や印鑑証明書、交通事故証明書などの書類を取得するための費用のことです。
文書料については基本的に実費で支給されます。
事故の証明に必要な資料であれば、取得にかかった費用の全額を自賠責保険から受け取ることが可能です。
交通事故が原因で仕事を休まざるをえない場合、休業して減少した分の収入を「休業損害」として受け取れます。
受け取れる金額は、以下のとおりです。
なお、収入減には有給休暇を使用して休んだ場合や、家事従事者が事故に遭った場合も含まれます。
慰謝料とは、交通事故によって精神的、肉体的に苦痛を受けたことに対する補償です。
自賠責保険から受け取れる慰謝料は、1日4,300円と決められています。
支給日数は、治療期間内を限度として被害者の傷害の状態や実治療日数を勘案して決められます。
以下の費用は、自賠責保険120万円の内訳には含まれません。
事故によってこれらの損害が生じた場合には、加害者側の任意保険や加害者本人の費用負担によって賠償を求める必要があります。
以下では、自賠責保険に含まれない費用について具体的に解説します。
自動車の修理代は、自賠責保険からは支払われません。
自動車同士の事故の場合、被害者の自動車に修理や買い替えが必要になることがあります。
この場合、加害者は過失割合に応じた自動車の修理代金を支払わなければなりません。
しかし、自賠責保険からは自動車の修理代は支払われません。加害者は、加害者本人または自分が加入している任意保険から修理代の負担をすることになります。
被害者の洋服や持ち物などの弁償代も、自賠責保険では補償されません。
事故が起きると、被害者の洋服や持ち物などが壊れることがあります。
こちらも、加害者は過失割合に応じて計算された金額を支払う義務があります。
しかし、洋服や持ち物などの弁償代は自賠責保険では補償されないため、こちらも加害者本人または加害者が加入している任意保険から負担しなければなりません。
また、事故に伴って周囲の建物や塀、ガードレールなどが壊れた場合、この修繕費用も自賠責保険からは補償することはできません。
事故によって加害者本人が負った損害も、自賠責保険からは補償されません。
自賠責保険は、あくまでも事故の被害者救済を目的としているためです。
事故を起こすと、加害者も怪我を負ったり、加害者の車が壊れたりすることがありますが、この費用は自賠責保険では補償されません。
補償を受けたければ、別で任意保険に加入しておく必要があります。
また、任意保険に加入した場合も車両保険の特約をつけないと、加害者側の自動車の修繕費用は補償されないため注意しましょう。
なお、加害者の車の同乗者へのケガなどは自賠責保険の補償対象となります。
自賠責保険の保険金を請求してから、内訳が通知されるまでの大まかな流れは以下のとおりです。
スムーズに保険金が支払われるよう、請求から支払いまでの流れについて理解しておきましょう。
まずは、事故が起きたあとに自賠責保険へ保険金の請求をおこないます。
請求者は、損害保険会社(共済組合)へ自賠責保険・共済の請求書類を提出することで保険金の請求が可能です。
自賠責保険の請求には以下のような書類が必要になるため、用意しておきましょう。
自賠責保険に保険金の請求をすると、保険会社による調査がおこなわれます。
保険会社は自賠責保険の請求書を確認したあと、損害保険料率算出機構の調査事務所へ請求書類を送付します。
なお、損害保険料率算出機構は、自賠責保険・共済の基準料率の算出と、自賠責保険の調査をおこなう目的で、「損害保険料率算出団体に関する法律」という法律に基づいて設立された団体です。
請求書を受け取った損害保険料率算出機構は、事故の発生状況や支払いの適確性などを調査して、発生した損害額と請求額に間違いがないかなどを公正中立に調査します。
損害保険料率算出機構の調査が終わると、調査結果を保険会社へ報告します。
調査結果を元に保険会社が保険料を決定し、請求者に対して保険金を支払います。
保険金の支払いについては、保険会社が法律に基づいて約款で原則として「請求が完了した日から、その日を含めて30日以内」と定めています。
ただし、金額確定後3営業日以内には保険金が支払われるのが一般的です。
なお、調査に時間がかかる場合もあるため、請求してから1カ月〜3カ月程度の時間がかかる場合もあると理解しておきましょう。
自賠責保険の金額や内訳に納得できない場合には、以下の3つの方法で対処しましょう。
それぞれの対処法について、以下で詳しく解説します。
自賠責保険の補償内容に異議がある場合には、保険会社に対して異議申立てをおこなうことができます。
保険会社の窓口には「異議申立書」の書類が用意されているため、書式に沿って記載することで簡単に異議申立てが可能です。
異議申立てをおこなうと、損害保険料率算出機構に設置された自賠責保険(共済)審査会で外部の専門家が参加して審査がおこなわれます。その結果、異議申立てが認められれば、補償内容が見直される可能性もあるのです。
自賠責の内容に納得できない場合には、自賠責保険・共済紛争処理機構に相談のうえ、保険会社との間に立って調停してもらうこともできます。
自賠責保険・共済紛争処理機構とは、専門知識を有する医師や弁護士などの専門家で構成された紛争処理委員が公正中立に調停をおこなう機関です。
「指定紛争処理機関」として国土交通大臣及び金融庁長官の指定を受けている財団法人ですので、安心して相談できるでしょう。
自賠責保険・共済紛争処理機構では、事故と傷害の因果関係や有責性の有無などを相談できます。
なお、自賠責保険・共済紛争処理機構では、全ての苦情や不満を相談できるわけではありません。
相談できる事案は限られており、具体的には以下の事案についてのみ相談できるとしています。
上記のいずれかに該当するのであれば、自賠責保険・共済紛争処理機構へ相談することで、調停をおこない、希望通りの補償を得られる可能性があります。
異議申立てや自賠責保険・共済紛争処理機構への相談をおこなっても自賠責保険の金額や内訳に納得がいかない場合、交通事故トラブルが得意な弁護士へ相談するとよいでしょう。
弁護士へ依頼することによって以下のような対応を任せられます。
異議申立てや相手との示談までおこなってくれるため、交通事故被害者有利な条件で保険を受け取れる可能性があります。
相手や相手の保険会社との交渉もおこなってくれるため、事故後に加害者と交渉するという心理的な負担も軽減できます。
事故処理が不安な方は早めに弁護士へ依頼するとよいでしょう。
自賠責保険の金額や内訳についてよくある質問は、以下の2つです。
ここでは、それぞれの質問に回答するので、同じような疑問を抱えている方はぜひ参考にしてください。
自賠責保険では、基本的に被害者側に過失があっても自賠責保険の保険金が減額されることはありません。
自賠責保険は、事故の被害者を救済することが目的の保険です。そのため、基本的には過失の有無によって保険金額が変わることはないのです。
ただし、被害者に重大な過失がある場合についてのみ、例外的に損害賠償額が減額される場合があります。
金融庁と国土交通省は自賠責保険の減額について以下のように告示しています。
重大な過失による減額
被害者に重大な過失がある場合は、次に掲げる表のとおり、積算した損害額が保険金額に満たない場合には積算した損害額から、保険金額以上となる場合には保険金額から減額を行う。ただし、傷害による損害額(後遺障害及び死亡に至る場合を除く。)が20万円未満の場合はその額とし、減額により20万円以下となる場合は20万円とする。
減額適用上の 被害者の過失割合
減額割合 後遺障害又は死亡に係るもの 傷害に係るもの 7割未満 減額なし 減額なし 7割以上8割未満 2割減額 2割減額 8割以上9割未満 3割減額 9割以上10割未満 5割減額 引用元:日本損害保険協会|自賠責保険では、被害者に過失があっても、損害賠償額は過失相殺の適用がないと聞きましたが、本当ですか
被害者の過失割合が7割以上の場合は、保険金が減額され、7割未満の場合は減額されないと理解しておきましょう。
治療費や慰謝料などの合計額が120万円を超えてしまっても、自賠責保険から支払われる保険金は120万円が限度となります。
120万円を超える分の支払いは、加害者本人や加害者が加入している任意保険から支払われます。
ただし、事故による傷害が完治せずに後遺障害となってしまった場合には、傷害の等級に応じて以下の金額が支払われます。
後遺傷害等級 | 保険金額 |
後遺障害等級1級 | 3,000万円 |
後遺障害等級2級 | 2,590万円 |
後遺障害等級3級 | 2,219万円 |
後遺障害等級4級 | 1,889万円 |
後遺障害等級5級 | 1,574万円 |
後遺障害等級6級 | 1,296万円 |
後遺障害等級7級 | 1,051万円 |
後遺障害等級8級 | 819万円 |
後遺障害等級9級 | 616万円 |
後遺障害等級10級 | 461万円 |
後遺障害等級11級 | 331万円 |
後遺障害等級12級 | 224万円 |
後遺障害等級13級 | 139万円 |
後遺障害等級14級 | 75万円 |
後遺障害が残ってしまった方は、どの等級で認定されるのかによって補償が大きく異なります。
等級認定に不安な方は、交通トラブルを得意としている弁護士へ相談するとよいでしょう。
交通事故で傷害による損害を受けた場合は、120万円を限度として保険金を受け取ることができます。
ただし、自賠責保険で受け取れる内容や金額や内訳は厳格に決まっており、場合によっては実際に受けた損害に満たない内容しか保険金を受け取れない場合があります。
120万円の限度額の範囲内で補償しきれない部分については、加害者本人や加害者が加入している任意保険から支払いを受ける必要がありますが、これには交渉が必要です。
交通トラブルを得意とする弁護士へ相談することによって、示談交渉、後遺障害の等級認定、異議申立てなどの手続きをスムーズかつ被害者有利に進められます。
交渉の全てを任せることができるため、心理的な負担も軽減できます。
交通事故の被害にあってしまったら早めに弁護士へ相談するとよいでしょう。
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