むちうちはレントゲン(MRI)にも写りにくい症状でもあるため、交通事故の後遺障害等級の認定がされないこともないことも、珍しくありません。
むちうちの後遺症となった場合、加害者側に対して慰謝料を請求したいという方も多いと思います。
ただし、むちうちで慰謝料をもらうには後遺障害等級として認定される必要があります。
また多くの場合、むちうちの後遺障害等級は14級から12級になります。
むちうちの後遺症に悩まされる方は後を絶たず、本来取れるはずの後遺障害等級が認定されず、低い損害賠償金でしぶしぶ納得せざるをえないという場合が多いです。
そのため本記事では、むちうちで後遺障害認定をされる方法や、そのためのコツを解説します。
むちうち症となる症状とは?
むちうちは、交通事故などで身体や頭に強い衝撃を受けることで、首を支える頸椎が鞭のようにしなり、関節がダメージを受けてしまう怪我の一種です。
むちうちとなる症状には主に以下のようなものがあります。
- 頭部、頚部のしびれ
- 頚部痛(けいぶつう)
- 上肢のしびれ等
- 頚椎捻挫
- めまい
- 耳鳴り、難聴
- 吐き気、嘔吐
- 自律神経症状
他にも耳鳴り等のバレーリュー症状が生じることもあります。
これらの症状の中でも「頚部痛」「頚部のしびれ」「上肢のしびれ」などが多くみられる傾向にあり、事故から数週間後、あるいは翌日に症状が出現することも珍しくありません。
頚部痛(けいぶつう)
慶應義塾大学病院の医療情報サイト「KOMPAS」によれば、頚部痛(けいぶつう)に関して下記のような記載があります。
頚椎の変形や椎間板(ついかんばん)ヘルニアなどによって頚神経が圧迫されたり、傷ついたりすると頚部や肩の痛みとなります。また、筋肉の極度の緊張により、頚部や肩の痛み(いわゆる肩こり)を起こすこともあります。
引用元:KOMPAS
交通事故のむちうち症として、後遺障害認定を受けやすい症状の一つです。
頚椎捻挫(けいついねんざ)
頚椎捻挫(けいついねんざ)とは、首を固定する筋肉と靭帯を損傷するむち打ち(外傷性頸部症候群)の事です。
「頚・腰椎捻挫」などの診断がなされた場合であっても、事故態様が重大な場合、まれに麻痺、重度の痛みやしびれ、嚥下障害などの身体性症状や記憶・認知能力の低下など、高次脳機能障害が生じることがありますので、事故後に違和感を覚えたときは、早く病院で診察を受けることが大切です。
肩こりや頭痛
むりうち症になると、肩こり、首の重だるさや痛みなどが出る可能性もあります。
これが続くと頭痛やめまいといった不快な症状に見舞われることがあります。
副次的な症状ではありますが、あまりにも症状が重い場合は後遺症として認定される可能性がありますので、違和感があればすぐに病院に行って医師の検査を受けましょう。
むちうちの後遺症が残ったら後遺障害認定を受けよう
むちうちの治療を続けていても完治せず、医師から症状固定と判断された場合は、「後遺障害等級認定」を受けることをおすすめします。
後遺障害等級認定とは、交通事故で受けた怪我で後遺障害が残った場合に、自賠責保険から特定の支払基準(自動車損害賠償保険法16条の3)に従って賠償を受けるためにおこなわれる認定です。
後遺障害等級認定された後遺症は「後遺障害」として、補償の対象となります。
後遺症と後遺障害の違い
「後遺症」と「後遺障害」は似た言葉ではありますが、以下の違いがあります。
「後遺症」とは、交通事故などで怪我をした場合に、治療を継続しているのにも関わらず完治せず、身体や精神の機能に不完全な状態が残ることをいいます。
一方で「後遺障害」とは後遺症のなかでも「労働能力の損失を伴うもの」であり、かつ「自動車損害賠償保障法に定められた1~14級の後遺障害等級に該当するもの」をいいます。
後遺障害認定を受けるまでの流れ
それでは後遺障害等級に該当すると判断されるまではどのような流れでしょうか。
主な手順は以下の通りです。
- 症状固定の診断を受ける
- 医師に後遺障害診断書を作成してもらう
- 事前認定または被害者請求にて申請する
- 認定結果が通知される
1.症状固定の診断を受ける
後遺障害の認定をおこなうか否かを判断するに当たり、まずは傷病について症状固定の診断を受ける必要があります。
症状固定とは、「怪我の治療を続けてもこれ以上は症状が良くならない」という状態のことです。
症状固定といえるかどうかは、症状の有無・内容・程度などの詳細を医師に伝えつつ、今後の治療経過を確認しながら判断するべきでしょう。
2.医師に後遺障害診断書を作成してもらう
ケガが完治せずに症状固定の診断を受けた時点で、一定の後遺症が認められる場合には、担当医に後遺障害診断書の作成を依頼してください。
事前認定であれ被害者請求であれ、後遺障害認定の申請をおこなうためには後遺障害診断書が必要です。
継続的に診察している担当医であれば、基本的に拒否されることはないでしょう。
後遺障害診断書は、通常1~2週間もあれば作成されます。
なお、作成された後遺障害診断書は、基本的には患者本人に交付されますが、患者側が希望すれば保険会社に直接交付することも可能です。
実際の処理については、作成を依頼する医師に確認した方が確実でしょう。
3.事前認定または被害者請求にて申請する
必要書類が揃ったら、事前認定または被害者請求にて申請手続きを行います。
事前認定であれば後遺障害診断書を相手方の保険会社に渡して終了となりますが、被害者請求の場合は後遺障害診断書以外の必要書類をすべて収集したのち、等級認定の審査に関わる自賠責保険会社や損害保険料率算出機構に対して自ら提出することになります。
4.認定結果が通知される
申請後は、自賠責調査事務所にて審査が行われます。
審査後は後遺障害等級に該当するかどうか、該当するとしてどの等級に該当するかについて結果通知されます。
なお、いずれの等級にも該当しない場合は「非該当」との旨が通知されます。
通知までにかかる期間としては、通常は、申請後およそ1~3か月程度というところでしょう。
後遺障害等級認定に認定されるメリット
後遺障害等級が認定されることで以下のようなメリットがあります。
- 後遺障害慰謝料を請求できる
- 後遺障害逸失利益を請求できる
1.後遺障害慰謝料を請求できる
後遺症が残り、後遺障害認定をされた場合、慰謝料の金額は以下のようになります。
なお、むちうちは後遺障害の中でも比較的症状の軽いものとみなされるため、取れて14級から12級が通常です。
ただし、むちうちでも重い症状であれば最大で7級までの等級を取れた実績もあります。
等級 | 状態 | 慰謝料 | |
---|---|---|---|
自賠責 | 弁護士 | ||
7級4号 | 神経系の機能または精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 419万円 | 1,000万円 |
9級10号 | 神経系統の機能または精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に限定されるもの | 249万円 | 690万円 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの | 94万円 | 290万円 |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの | 32万円 | 110万円 |
2.後遺障害逸失利益を請求できる
後遺障害逸失利益とは、後遺障害が残ったことでこれまで通り働くことが難しくなった場合に、将来得られるはずだった収入として請求できるものをいいます。
むちうちが後遺症後遺障害に認定されにくい理由|ポイントは症状固定
以上のように後遺障害に認定されることで、交通事故の被害者は賠償金を受け取ることができます。
しかし、むちうちは他の後遺障害にくらべて後遺障害等級認定が難しいと言われることがあります。
むち打ちの症状は外からみてわかるものではなく、本人の自覚症状とみられることが多く、一方で後遺障害認定には客観的・医学的に症状を証明する必要があるためです。
後遺障害等級を認定されるためのポイント
それではむちうちで後遺障害等級を認定されるためにはどうすればよいのでしょうか。
以下では、むち打ちで後遺障害認定を受けるためのポイントを解説します。
1.6カ月以上継続して治療を受ける
むちうちで後遺障害を獲得するには6カ月以上通院し治療を受けることがポイントです。
治療期間が短いと、「短時間で症状固定となったので、後遺障害認定するほどの症状ではない」「もうすこし治療をしていれば、完治した可能性がある」と判断される可能性があるためです。
なお、6カ月以上治療を続けていた場合でも、その間に1カ月以上治療が途絶えた期間があると後遺障害認定は難しくなります。
したがって、医師と相談し適切な通院回数のもとで治療を受け続けましょう。
2.症状の一貫性・継続性を伝える
後遺障害等級の認定を受けるためには、事故によって傷を負った直後から「症状固定」に至るまで、症状が一貫、そして連続していることが必要です。
むちうちの場合はリハビリをすると治る可能性もありますので、そうなった場合は症状固定を得ることはできません。
もし、事故後相当期間が経過した段階でも治癒に至らず、ひねると痛みが残るなどの症状が残っていた場合に初めて、後遺障害として認定されることになります。
つまり、相当期間内に症状が改善していた場合と、治療中に症状固定をしてしまうと、後遺障害として扱われずに後遺症の認定を受けることができなくなってしまいます。
そのため保険会社から「そろそろ症状固定をしませんか」と言われても、すぐに応じるのは危険ということを覚えておきましょう。
3.後遺症の証拠を用意する
自覚症状だけではけがの証拠にはならないため、客観的・医学的に後遺障害の存在や程度を証明できる証拠を用意しましょう。
たとえば、レントゲンやMRIなどの画像検査や、スパークリングテストやジャクソンテストといった神経学的検査があります。
病院に行った際は、医師の判断をよく聞いて適切な検査を受診しましょう。
むちうち症の改善は専門機関へ
むちうちの症状に悩まされている方は、神経・脊髄を傷つけている場合もありますので、治療に関しては、医師の診断の上、専門家に治療してもらうようにして下さい。
整形外科
まず初めは、整形外科で診察を受けて下さい。
検査や治療などに加え、リハビリをしてくれますし、今後の治療の方針のアドバイスをもらうこともできるでしょう。
整骨院・接骨院
肩や首の痛み・コリの場合、整骨院・接骨院が良いでしょう。
気をつけてほしいことは、整骨院や接骨院の中には過剰な施術を行い、多額の費用を保険会社に請求しようとするところもありますので、担当員の態度に少しでも違和感があれば、セカンドオピニアオンを利用することをおすすめします。
鍼灸治療(しんきゅうちりょう)
鍼灸治療とは、鍼(はり)治療やお灸での治療のことです。
肩や首の痛み・コリにも効果的ですが、めまいや手足のしびれ、倦怠感などのむちうちから来る症状にも適しています。
むちうちの後遺障害認定をとれる弁護士の探し方
第一に考えるべきなのは、交通事故の案件を扱っているかどうかです。
交通事故のむちうちやトラブルに関して多くの知識を持っていて、なおかつ実務で多く扱っている弁護士を選ぶのが重要になります。
もちろん自分で戦うこともできますが、加害者側が弁護士をつけてきた場合、同じ土俵(裁判)で戦えるのは弁護士しかいません。
そのほかのポイントとしては
- わかりやすい説明をしてもらえるか?
- 訴訟経験があるかどうか?
などが見極めのポイントになるでしょう。
以下の記事では、ご自身の状況にあった弁護士を選ぶ方法をより詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
【参考記事】失敗しない弁護士の選び方 | 6つのポイントと相談方法を解説
むちうちの損害賠償請求を弁護士に相談するなら「ベンナビ交通事故」
交通事故によるむちうちの損害賠償請求について、相談できる弁護士を探している方は「ベンナビ交通事故」を利用するのが便利です。
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もしむちうちの後遺障害等級が低く認定された場合
後遺障害認定の基準をまとめると、
- 被害者が受けた精神的・肉体的な障害(ケガ)が回復の見込みがないこと
- 交通事故とそのケガの間に因果関係が認められ、医学的に証明できること
- 労働能力を失う(低下)を伴うものに該当しない場合は後遺障害認定が認められない可能性が高い
これらを踏まえ、ご自身の希望よりも低い後遺障害等級が認定されてしまった場合には、争う手段として「異議申立て」又は「裁判」という二つの選択肢があります。
自賠責保険会社に対する異議申立て
後遺障害等級申請にあたって、加害者側の任意保険会社が手続きを全ておこなう「事前認定」と、被害者自身が手続きをおこなう「被害者請求」という2つの方法があります。
事前認定 | 加害者の加入する任意保険会社が後遺障害の認定に必要な手続きを全ておこなう方法。 |
---|---|
被害者請求 | 交通事故にあった被害者自身で後遺障害などの被害を請求する方法。 保険会社に後遺障害等級などの手続きを任せる事前認定とは異なり、自らが動いて請求するので透明性が高く、等級に応じた自賠責限度額を保険会社との示談を待たずに先払いされるなどのメリットがある。(自賠法16条) |
事前認定の場合、手続きを進めている任意保険会社にとっては、後遺障害の等級が上がれば自らの支払額も大きくなることから、高い等級を積極的に獲得する動機がないと言われています。
異議申立てをおこなう際に、それまで事前認定で進めていた場合は、被害者請求へ切り替えて、自賠責保険会社宛で異議申立をおこなうのが一般的です。
異議申立ての手続きをおこなう際には、「被害者請求」の場合は自賠責保険会社に対して異議申立書を提出し、「事前認定」の場合は任意保険会社に対して異議申立書を提出することになります。
いずれの場合も、損保料率機構に書類が送られ審査が行われることになります。
異議申立ては何度でもできるのが特徴ですが、新たな医学的証拠(診断書、医療照会に対する回答書、医師の意見書など)を添付して申立てをしないと、結果は変わらない点に注意が必要です。
異議申立ての手順
基本的には「被害者請求」も「事前認定」も異議申立ての手順は同じです。
- 1.異議申立書を用意する
- 2.添付書類があればすべて提出する
- 2-1.医師の意見書
- 2-2.画像
- 2-3.診断書
- 2-4.診療報酬明細書
- 2-5.カルテ
- 2-6.検査結果
- 2-7.事故状況がわかるもの
- 2-8.陳述書 など
- 3.申立て先:郵送または宅配便で提出
- 3-1.事前認定の場合は加害者加入の任意保険会社
- 3-2.被害者請求の場合は加害者加入の自賠責保険会社
- 4.審査期間は約2か月~6か月ほど
裁判(訴訟)
裁判などの申立ては弁護士に依頼した時点で委任できますので、ご自身で何か手続きを進める必要はないでしょう。
自賠責で否定された後遺症が裁判所で認められるということもあり得ますが、まずは弁護士に意見を聞いてみたうえで裁判をおこなうか判断頂ければと思います。
まとめ
むちうちの治療に関する悩みは病院の担当医、むちうちの示談(治療費や慰謝料の請求など)に関する悩みは弁護士への相談がおすすめです。
少しでもわからないことがある場合は、なるべく早めに専門家への相談を検討してみてください。

