突然の交通事故で仕事を休むことになると、休業損害証明書という書類が必要になることがあります。
休業損害証明書といわれても、あまり聞き慣れない書類であり、どのように入手すればよいかわからないという方もいるでしょう。
休業損害証明書は、休業損害を請求するために必要な書類です。
休業損害とは、交通事故が原因で仕事を休んで収入が減ってしまったことに対して支払われる補償のお金です。
休業損害は生活のためにとても大切なお金であるため、休業損害証明書をしっかり入手して請求していくことが重要です。
本記事では、休業損害証明書の概要や入手方法、休業損害証明書の書き方や休業損害の計算方法などについて解説します。
休業損害証明書とは
休業損害証明書とは、働いて給与を得ている方が交通事故によって仕事を休み、それによって収入が得られずに損害が生じていることを証明する書類のことです。
通常は、保険会社から送られてきた所定の用紙を勤務先に渡して必要事項を記入してもらい、保険会社に返送します。
加害者が加入している任意保険の保険会社が提出先で、自身の勤務先や役所などに提出するものではありません。
休業損害証明書の入手方法・作成方法
基本的に、休業損害証明書は加害者側の保険会社から所定の用紙が被害者側に送られてきます。
休業損害証明書の用紙が届いたら、勤務先の担当部署に渡して記入するように依頼しましょう。
休業損害証明書は、勤務先に記入・作成してもらう必要がある書類です。
なお、休業損害証明書を紛失してしまった場合には、保険会社のホームページなどから書類のひな形をダウンロードしましょう。
たとえば「休業損害証明書|三井住友海上」や「休業損害証明書|ソニー損保」などでダウンロードできますが、休業損害証明書について会社から指示がある場合はそれに従いましょう。
休業損害証明書の書き方・記入例
休業損害証明書は、保険会社によって書式や記載項目などに若干ばらつきがあります。
もっとも、基本的にはどの保険会社の休業損害証明書であっても、以下のような事項を記載することになります。
1.休業した人の情報(氏名や役職など)
交通事故で仕事を休むことになった人の職種・役職・氏名・採用日などを記載します。
2.休業期間・休業状況
交通事故で仕事を休んだ期間(遅刻や早退をした日も含む)と、その内訳について記載します。
有給休暇・遅刻・早退などがある場合には、その詳細を記載します。
同じ日に複数の短縮勤務をおこなった場合には、回数を分けて記入します。
3.休業期間の給与
休んだ日に給与の支給を受けたのかどうかを記載します。
交通事故による欠勤のために給与に変動があった場合には、実際の支給額・減給額をどのように算出するのか計算式を記載します。
4.事故前3ヵ月間の給与内訳
交通事故によって会社を休むより前の直近3ヵ月間の月例給与・締日・所定勤務時間などについて記載します。
月例給与とは毎月支給される報酬のことで、いわゆる毎月の賃金のことです。
たとえば、毎月25日締めで5月10日が事故日であれば、記載する期間は1月26日~4月25日の3ヵ月間となります。
付加給とは、時間外手当(残業代)や通勤手当などのことです。
5.所定労働時間・時間給(パート・アルバイトの場合)
パート・アルバイトの場合には、所定労働時間や時間給についても記載します。
所定労働時間とは、労働契約によって働くものとして定められた労働時間のことです。
時間給は、いわゆる時給のことです。
6.ほかの給付の受給状況
「休業補償給付」や「傷病手当金」などのほかの給付を受けたことがあるかどうかを記載します。
休業損害と休業補償給付・傷病手当金は、重複して受給することができません。
そのため、重複した受給がないようにするために、これらの受給があったかどうかの状況を記載することとされています。
休業損害は休業補償給付や傷病手当金と一緒に受給できない
休業補償給付や傷病手当金と休業損害とは、それぞれ重複して受給することはできません。
休業補償給付とは、労災保険に加入している方が受給できるものであり、勤務中や通勤中などといった仕事に関係する場面でけがなどをした結果、仕事ができなくなったときに支給されるものです。
休業補償給付は休業中の収入の減少を補うものであり、休業損害と同じ役割を果たしているため、休業損害と重ねてもらうことはできません。
傷病手当金とは、健康保険に加入している方がもらうことのできるお金で、業務外のけがで療養しており、療養のために仕事に就くことができないなど、一定の条件を満たした場合にもらえるお金です。
傷病手当金は、業務とは関係がない場面でのけがなどでの休業によって収入が減ったことを補うためのものであり、やはり休業損害と同じ役割を果たしているため、休業損害と重ねてもらうことができないこととされています。
7.会社の情報・社印
記入日や、会社名・会社の所在地などの会社の情報も記入します。
会社の名前や所在地などはゴム印でもかまいません。
なお、会社の法人としての印鑑を押してもらう必要があります。
押印に漏れがないかを確認しましょう。
8.所得額を証明できる書類(前年度の源泉徴収票など)
休業損害証明書を提出する際には、事故に遭った年の前年の「源泉徴収票」を添付する必要があります。
源泉徴収票とは、その年の収入や所得などを証明する書類であり、勤務先の会社が発行します。
手元に源泉徴収票がない場合には勤務先に発行を依頼し、もし用意できない場合は代わりに「賃金台帳の写し」「雇用契約書」「所得証明書」などを提出しましょう。
賃金台帳の写しとは、賃金の支払い履歴を記録した台帳のことで、会社が保有している書類です。
雇用契約書は、雇用されたときに会社から交付されていることが一般的です。
休業損害証明書を会社が書いてくれない場合の対処法
なかには、会社が以下のような理由で休業損害証明書を書いてくれないこともあります。
- 「休業損害証明書を書くことで交通事故のトラブルに会社も巻き込まれるかもしれない」
- 「忙しくて休業損害証明書を書いている余裕がない」
- 「休業損害証明書の書き方がわからない」
会社が休業損害証明書を書いてくれない場合には、まず会社に丁寧に説明するようにしましょう。
休業損害証明書を会社が作成したからといって会社に不利益がないことや、休業損害証明書の必要性などを詳しく説明することも有効です。
会社が誤解している場合には、これらの事情を説明すれば誤解が解けて協力してくれることもあります。
「休業損害証明書の書き方がわからないから書いてくれない」というケースでは、休業損害証明書の書き方や記載例を会社に共有して説明するのがよいでしょう。
どうしても会社が休業損害証明書を書いてくれない場合には、代わりの資料で休業損害を請求できることもあります。
給与明細・源泉徴収票・賃金台帳の写し・タイムカードといった勤怠状況を証明できる資料などによって、休業損害を請求できる可能性があります。
このようなケースでは、どのような資料が代わりになるのか弁護士に教えてもらって資料を集めましょう。
休業損害の計算方法・支給時期
休業損害証明書が必要な方の中には、休業損害がいくらもらえるのか気になっている方もいるでしょう。
ここでは、休業損害の計算方法と支給時期について解説します。
【ケース別】休業損害の計算方法
休業損害としてもらえる金額は、交通事故が原因で実際に減った収入分です。
基本的に休業損害は「1日あたりの基礎収入×休業した日数」という計算式で算出されます。
「1日あたりの基礎収入」の金額は、給与所得者の場合と自営業者の場合とで計算式が少し異なるため、それぞれ分けて説明します。
給与所得者の場合
給与所得者とは、サラリーマン・アルバイト・パートなど、勤務先に雇用されて働き、その対価として勤務先から給与の支払いを受けている人のことをいいます。
給与所得者の場合、直近3ヵ月分の給与額に基づいて1日あたりの基礎収入の金額を求めます。
給与所得者の休業損害の計算式は、「直近3ヵ月分の給与の合計額÷90日(または稼働日数)×休業日数」です。
自営業者の場合
自営業者は、誰かから毎月の給与をもらっているわけではないため、その前年の事業所得の金額を基に休業損害を計算します。
自営業者の休業損害の計算式は、「交通事故に遭った前の年の所得金額÷365日×休業日数」です。
【ケース別】休業損害が支給されるタイミング
休業損害は、仕事を休むことで収入が減ることが確定した時点で請求することができます。
請求できるのが具体的にどの時点になるのかは、給与所得者と自営業者とで異なり、それぞれ分けて説明します。
給与所得者の場合
会社員などの給与所得者の場合、休業損害を請求できるのは休んでいる期間分の会社の給料が確定してからです。
休業が長期間にわたる場合には、1ヵ月単位で会社に休業損害証明書を作成してもらいましょう。
そのうえで、1ヵ月単位で保険会社に休業損害を請求することが一般的です。
これは、会社員などの給与所得者の場合には、1ヵ月単位で給与が確定するからです。
なお、最後の示談交渉の段階でまとめて請求することも可能です。
自営業者の場合
個人事業主などの自営業者の場合には、確定申告書などを保険会社に提出し、1日単価を確定してから休業損害が保険会社から支払われます。
自営業者の場合、「そもそも減収があったのかどうか」「1日単価の額がいくらになるのか」などで保険会社との間で争いになることが少なくありません。
このようなことで保険会社との間で見解に食い違いがあると、休業損害の受け取りが遅れることがあります。
もし保険会社と休業損害をめぐってうまく交渉を進められない場合には、できるだけ早めに弁護士に相談し、弁護士に間に入ってもらって休業損害を請求していくことがおすすめです。
休業損害証明書に関するよくある質問
休業損害証明書は頻繁に目にする書類ではないため、わからないことも多いでしょう。
ここでは、休業損害証明書のよくある質問について解説します。
休業損害証明書は誰が書く?自分で作成してもいい?
休業損害証明書は自分で記入するものではなく、会社に記入してもらいます。
自分で記入しても、保険会社から勤務先に対して記載内容について問い合わせがなされれば、勤務先が作成したものではないということが判明してしまいます。
自分で記入したことが判明してしまうと、それが示談交渉で不利な事情として働く可能性もあります。
自分で休業損害証明書を作成するのはやめましょう。
休業損害証明書の記載内容に誤りがある場合はどうするべき?
休業損害証明書は勤務先の会社に書いてもらうものですが、記入漏れや誤りがないように自身でも十分に確認しておくようにしましょう。
もし記入漏れや誤りがあれば、あとから書き直しが必要となったり、間違った情報に基づいて休業損害が計算されたりして、不利な結果となってしまうこともあります。
休業損害証明書の記載内容に誤りがあることが判明したら、勤務先に訂正してもらいましょう。
勤務先に訂正してもらう際は、必ず訂正印を押してもらいましょう。
訂正印がなければ、自身が勝手に内容を書き換えたと思われてしまう可能性があります。
休業損害の金額が実際の減収額より少ないことがある?
なかには「休業損害の金額が実際の減収額よりも少ない」というケースもあります。
これは、加害者側の保険会社が休業損害の日額を「事故前3ヵ月間の収入÷実稼働日数」ではなく「事故前3ヵ月間の収入÷90日間」で計算していることが多いことによります。
後者の計算式で算出した場合、支払われる休業損害の金額が実際の減収額よりも少なくなることが多いです。
このようなケースでは、足りない分の金額は示談交渉の際に請求することになります。
ただし、なかには保険会社が請求通りに支払ってくれないこともあり、そのような場合には弁護士に請求してもらうことで支払ってもらえる可能性が高まるため、弁護士への依頼を検討しましょう。
休業損害証明書はどこでもらえる?
基本的に休業損害証明書は保険会社から送られてきます。
もし休業損害証明書を紛失してしまった場合には、保険会社のホームページなどでも入手できます。
休業損害証明書は1日からでも必要?
交通事故によって休んだ日数が1日だけでも、休業損害は請求可能です。
休業損害を獲得するためにも休業損害証明書を受け取りましょう。
休業損害証明書はいつ提出する?提出先は?
休業損害証明書の提出期限は、特に定められていません。
ただし、交通事故の損害賠償請求権には時効があり、人身事故の場合は原則として「事故の日の翌日から5年」が時効期間です。
この期間を過ぎても何も請求しないままでいると、損害賠償金を請求できなくなってしまうため、この5年という時効期間がひとつの締切だと考えることもできます。
休業損害は労災と併用できる?
勤務中や通勤中に起きた交通事故については労災保険の適用対象となりますが、補償が重なる部分については二重取りできないようになっています。
たとえば、すでに休業損害を請求して満額受け取っている場合には、労災保険の休業補償給付を受け取ることはできません。
なお、休業補償給付の金額は「平均賃金の60%」であるため、先に休業補償給付を受け取った場合は不足分について休業損害で請求することが可能です。
休業損害は有給と併用できる?通院以外の私用でも大丈夫?
交通事故によるけがの治療を受けるために有給を取得した場合は、そのぶんも含めて休業損害を請求できます。
一方、通院以外の私用で有給を取得した場合については、休業損害の請求は認められません。
休業損害はアルバイトでも請求できる?
交通事故によって仕事を休まざるを得ない場合は、アルバイトでも休業損害を請求できます。
休業損害の計算式は「直近3ヵ月分の給与の合計額÷90日×休業日数」で、週1日~2日程度しか勤務していないようなケースでは「90日」ではなく「稼働日数」が適用されることもあります。
休業損害や主婦でも請求できる?
主婦の場合も休業損害を請求できます。
主婦の休業損害についても「1日あたりの基礎収入×休業日数」で計算し、弁護士に依頼した場合は厚生労働省が毎年発表する「賃金センサス」という資料をもとに1日あたりの基礎収入を算定します。
休業損害証明書は仕事を休んでない場合はもらえない?
休業損害とは、交通事故が原因で仕事を休んで収入が減ってしまったことに対して支払われるお金のことです。
したがって、交通事故後も休まずに働いて減収がないのであれば、基本的に休業損害証明書はもらえません。
さいごに|休業損害の請求で困ったら弁護士に相談を
休業損害は、交通事故で働けない間の収入の減少を補うためにとても大切なお金です。
しかし、休業損害の請求では加害者側がすんなりと受け入れてくれないことも多く、揉めることもよくあります。
交通事故トラブルが得意な弁護士であれば、休業損害証明書に関する不安や悩みに答えてくれて、休業損害の交渉対応を依頼することもできます。
休業損害の請求で困ったら、交通事故を多く取り扱っている弁護士に相談してみましょう。

