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2024.10.16
「自動車事故対策機構(NASVA、ナスバ)」は、自賠責制度の一環として、被害者支援と事故防止対策を担う独立行政法人です。
自動車事故の被害者は、自動車事故対策機構の生活資金貸付制度・介護料の支給制度・療養施設を利用できる場合があります。
加害者(保険会社)に対する損害賠償請求と併せて、自動車事故対策機構が提供する制度についても利用をご検討ください。
本記事では自動車事故対策機構について、業務内容や被害者が利用できる支援制度などを解説します。
「自動車事故対策機構」は、自動車事故の発生防止、および自動車事故の被害者の保護増進を目的とする独立行政法人です。
「NASVA」または「ナスバ」と通称されています。
日本における自動車交通は、1960年代の高度経済成長期において飛躍的に発展しました。
その一方で交通事故が急増し、1970年には交通事故死者数が1万6,000人を超過する事態となりました。
そこで、1970年に交通安全対策基本法が制定され、国を挙げて交通事故対策への取り組みがおこなわれました。
その一環として設立されたのが、自動車事故対策機構の前身である「自動車事故対策センター」です。
自動車事故対策センターは特殊法人等改革の一環で解散しましたが、その後を受けて、2003年10月に自動車事故対策機構が設立されました。
自動車事故対策機構は、自動車事故の発生を防ぎ、事故発生時には被害者の保護を図るための業務をおこなっています。
自動車事故対策機構の主な業務は、以下のとおりです。
自動車事故対策機構は国土交通省と協働して、新車販売されている自動車について、さまざまな角度から安全性能に関する試験をおこなっています。
たとえば衝突の危険が迫った際の警報機能や、自動ブレーキ機能などの予防安全技術について、試験による評価がおこなわれています。
また衝突試験などを通じて、実際に事故が発生した際に乗員を守る技術についても試験が実施されています。
さらに自動車事故対策機構は、チャイルドシートについても試験をおこなっています。
チャイルドシートに関する試験の内容は、衝突時を模擬した試験や、使いやすさ・取り付けやすさといった使用性に関する試験などです。
各試験の結果は公表され、ユーザーが購入する自動車やチャイルドシートを選択する際の参考とされています。
【参考】自動車アセスメントのご案内|独立行政法人自動車事故対策機構
自動車事故対策機構は、国土交通大臣の認定を受けて「運行管理者指導講習」を開催しています。
運行管理者指導講習の対象は、バス・ハイヤー・タクシー・トラックなど、運送事業で使用する自動車の運行管理者などです。
自動車事故の防止を目的として、運行管理の実務・関係法令・安全の確保に必要な管理手法などの講習がおこなわれています。
運送事業者において選任されている運行管理者は、定期的に運行管理者指導講習(一般講習または基礎講習)を受講しなければなりません。
【参考】運行管理者指導講習の概要|独立行政法人自動車事故対策機構
自動車事故対策機構は、バス・ハイヤー・タクシー・トラックなどの運転者を対象に、運転者適性診断を提供しています。
運転者適性診断では、自動車の運転に関する長所や短所などが、さまざまな方法で測定されます。
さらに自動車事故対策機構は、各運転者のクセに応じたアドバイスをおこない、交通事故防止のために注意を促しています。
【参考】運転者適性診断の概要|独立行政法人自動車事故対策機構
自動車事故対策機構は、運送事業者に対して安全マネジメントサービスを提供しています。
自動車事故対策機構の安全マネジメントサービスは、「コンサルティング」と「シンポジウム・セミナー・講習会」の2つから成り立っています。
コンサルティングは、安全運転に関する意識改革や体制の整備・運用に関して、自動車事故対策機構が運送事業者を個別に支援するサービスです。
シンポジウム・セミナー・講習会は、事故防止に関する情報提供や安全マネジメントの深度化などを目的として、幅広い運送事業者に向けたレクチャーを行うサービスです。
【参考】ナスバ安全マネジメントサービスの概要|独立行政法人自動車事故対策機構
自動車事故対策機構は、国土交通大臣の認定を受け、運送事業者における運輸安全マネジメントの評価をおこなっています。
運輸安全マネジメント評価の対象となるのは、評価を希望するすべての運送事業者です(個人を除く)。
専門の研修を修了した安全評価員の指名を受けた職員が、書面審査と事業所訪問によって運輸安全マネジメントの達成度を評価します。
運輸安全マネジメント評価を受けることにより、自社における安全運転の現状を客観的に把握できるため、今後の改善に向けた目標設定がしやすくなります。
【参考】運輸安全マネジメント評価の概要・メリット|独立行政法人自動車事故対策機構
自動車事故対策機構は、自動車事故の被害者のための支援もおこなっています。
自動車事故の被害者は、加害者に加入が義務付けられている自賠責保険から、金銭的な補償を受けられます。
しかし自賠責保険だけでは、被害者の受けられる補償やサポートが十分でない場合も多いです。
そこで自動車事故対策機構では、自賠責保険による補償を補完する形で、自動車事故の被害者を支援するさまざまなサポートを提供しています。
具体的な被害者のサポート内容については、次の項目で解説します。
自動車事故の被害者は、自動車事故対策機構が設けている以下の制度を利用できる場合があります。
自動車事故対策機構は、自動車事故の被害者に向けて、以下の貸付制度を提供しています。
【参考】生活資金貸付のご案内|独立行政法人自動車事故対策機構
自動車事故によって被害者が死亡し、または重度の後遺障害が残った場合に、被害者の子どもが中学校を卒業するまで、自動車事故対策機構から無利子で貸付を受けられます(交通遺児等貸付)。
貸付金額は当初15万5,000円(一時金)、それ以降は月額2万円または1万円です。
小学校および中学校の入学時には、入学支度金として各4万4000円を追加で貸し付けてもらえます。
交通遺児等貸付の返済は、原則として貸付期間終了後6ヵ月または1年を経過した後、月賦または月賦・半年賦により20年以内の元利均等払いです。
ただし、中学校卒業後に高校や大学などへ進学する場合は、卒業まで返済が猶予されます。
自動車事故の損害賠償請求について、確定判決などの債務名義を得ながらその弁済を受けられない方は、自動車事故対策機構から無利子で貸付を受けられます(=不履行判決等貸付)。
貸付金額は10万円以上100万円以内で、かつ確定した損害賠償額のうち弁済を受けられない額の2分の1が上限です。
不履行判決等貸付の返済は、原則として1年間据え置かれた後、月賦または月賦・半年賦により10年以内の元利均等払いです。
ただし、不履行となっていた債務の弁済を受けたときは、一括で返済する必要があります。
なお、災害や病気などにより返済が困難となった場合は、返済が猶予されます。
自動車事故によって後遺障害が残った方は、自賠責保険(共済)の後遺障害保険金(共済金)の支払いを受けるまでの間、自動車事故対策機構から無利子で貸付を受けられます(後遺障害保険金(共済金)一部立替貸付)。
貸付金額は10万円以上290万円以内で、かつ後遺障害について請求している、未払いの自賠責保険金(共済金)の額の2分の1が上限です。
後遺障害保険金(共済金)一部立替貸付は、支払われる自賠責保険金(共済金)と相殺する形で返済します。
ひき逃げや無保険車による事故の被害者は、政府保障事業(後述)の保障金の支払いを受けるまでの間、自動車事故対策機構から無利子で貸付を受けられます(=保障金一部立替貸付)。
貸付金額は10万円以上290万円以内で、かつ支払われるべき保障金の額の2分の1が上限です。
保障金一部立替貸付は、政府保障事業から支払われる保障金と相殺する形で返済します。
自動車事故が原因で脳・脊髄・胸腹部臓器を損傷し、重度の後遺症害によって要介護となった方は、自動車事故対策機構から介護料の支給を受けられます。
介護料の支給対象となるのは、原則として要介護1級または要介護2級の後遺障害等級の認定を受けた方です。
ただし要介護1級または要介護2級の認定を受けていなくても、それと同程度の障害を受けたと認められる方は、審査によって介護料の受給資格を得られる可能性があります。
介護料は、月ごとに自己負担した介護費用の金額に応じ、受給資格の種別ごとに以下の金額が支給されます。
自己負担額が上限を超えた場合は上限額が、下限を下回った場合は下限額が支給されます。
種別 | 該当する人 | 金額 |
最重度(特Ⅰ種) | 要介護1級であって、一定の要件※を満たす方 | 85,310円~211,530円 |
常時要介護(Ⅰ種) | 要介護1級 | 72,990円~166,950円 |
随時要介護(Ⅱ種) | 要介護2級 | 36,500円~83,480円 |
※最重度(特Ⅰ種)の要件
(a)脳損傷の場合
(b)脊髄損傷の場合
自動車事故によって脳損傷を負い、重度の後遺症害が残って要介護となった方は、自動車事故対策機構が運営する療護施設に入院できる場合があります。
療護施設では、高度先進医療機器(CT・MRI・PETなど)を用いた検査情報を基に、患者に合った効果的な治療やリハビリがおこなわれています。
療護施設に入院できるのは、以下の要件をいずれも満たす方です。
入院期間はおおむね3年以内とされています。
【参考】入院の申込みについて|独立行政法人自動車事故対策機構
自動車事故対策機構の被害者支援制度は、貸付・介護料の支給・療護施設への入院を内容としており、被害者の状況によっては非常に役に立ちます。
その一方で、自動車事故による損害の補填については、別の方法によって請求しなければなりません。
自動車事故について補償(賠償)を受けるためには、以下の方法が考えられます。
弁護士のサポートを受けながら、適正額の損害賠償等を請求しましょう。
自動車の運転者には、自賠責保険への加入が義務付けられています。
したがって、ほとんどの自動車事故では、加害者が自賠責保険に加入しています。
被害者は自賠責保険の保険会社に対して、事故の損害を補填する保険金の支払いを請求可能です。
自賠責保険金の請求は、加害者側の任意保険会社を通じておこなうか(事前認定)、または被害者自ら保険会社に対しておこないます(被害者請求)。
ただし自賠責保険は、被害者に対して最低限の補償を提供することを目的としています。
そのため、自賠責保険の保険金は、損害全額が補填するのに十分な額ではありません。
自賠責保険金の請求だけでなく、加害者(任意保険会社)に対する損害賠償請求も併せておこないましょう。
自動車事故の加害者が任意保険に加入している場合は、任意保険会社との間で示談交渉をおこない、保険金の支払いを受けましょう。
任意保険会社との示談交渉は、弁護士に依頼するのがおすすめです。
任意保険会社の提示額は、客観的な損害額に遠く及ばないケースが多いところ、弁護士に代理人として交渉してもらえば増額が期待できます。
もし示談が成立しなければ、交通事故ADRや損害賠償請求訴訟を通じて、引き続き保険金の支払いを請求しましょう。
弁護士に依頼すれば、これらの手続きについても適切に対応してもらえるので安心です。
加害者が任意保険に加入していない場合は、加害者本人に対して損害賠償請求をおこないましょう。
加害者本人との示談交渉は、任意保険会社との示談交渉と比べて、錯綜しやすくまとまりにくい傾向にあります。
弁護士を代理人として、粘り強く交渉しなければなりません。
なお、加害者本人に対して損害賠償請求訴訟を提起する場合は、勝訴した際に強制執行する財産を特定する必要があります。
加害者の財産を特定するまでには、煩雑な手続きを要するケースが多いので、弁護士にご相談ください。
自動車事故の被害者が、自賠責保険から保険金の支払いを受けられない場合は、政府(国土交通省)に対して保障金を請求できます(政府保障事業)。
政府保障事業の対象となるのは、ひき逃げに遭って加害者が不明の場合や、加害者が自賠責保険に加入していなかった場合などです。
政府保障事業の保障金請求は、各損害保険会社(組合)が受け付けていますので、お近くの損害保険会社(組合)の窓口へご相談ください。
【参考】政府保障事業について(ひき逃げ・無保険事故の被害者の救済)|自動車保険ポータルサイト
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