人身事故
非接触事故とは?被害者向けに損害賠償請求をする際のポイントを中心に解説
2024.10.16
事故の直後はケガがなくてよかったと思っていたのに、後日痛みが出てしまった場合、物損事故から人身事故に切り替えて補償を請求できます。
一旦物損事故で処理してしまったからといって切り替えを諦めてしまうと、本来受け取るべき補償を受けられなくなってしまいます。
この記事では、交通事故の被害を受け、後からケガが発覚した方に向け、物損事故から人身事故に切り替える具体的な手続方法を解説します。
また、人身事故に切り替えることで受けられる補償についても詳しくお伝えしますので、切り替えで迷っている方は、記事の内容をぜひお役立てください。
交通事故には物損事故と人身事故があります。両者の違いは「死傷者が出たか否か」
です。
事故によって人がケガを負ったり亡くなったりしたら人身事故となり、事故によって発生した損害が物の損傷だけだった場合は物損事故として処理されます。
人身事故の方が被害が大きいとみなされるため、損害賠償の範囲が広く、加害者の責任も重くなります。
以下は人身事故と物損事故の違いをまとめた表です。
人身事故 | 物損事故 | |
賠償範囲 | ・身体的損害 ・精神的損害 | 物的損害 |
損害賠償請求額 | ・修理代等の実費 ・治療費 ・慰謝料 ・休業損害 ・逸失利益 | 修理代等の実費のみ |
加害者の責任 | ・懲役・罰金を含む刑事処分 ・運転免許の違反点数加算 | 加害者逃亡した場合以外は違反点加算なし |
このように、人身事故の場合、被害者は心身に傷害を負うため、治療費や慰謝料、その他の補償も必要です。
また、加害者の責任も重くなります。人身事故の加害者は、以下のような刑事罰を問われる可能性があります。
運転免許の違反点が加算され、免許停止や免許取消にも処せられることもあります。
物損事故の場合は、当て逃げを除いて刑事責任や免許証の違反点加算もなく、賠償範囲は修理代などの実費のみで済むため、加害者や加害者側保険会社はできるだけ物損事故にしようとするのです。
物損事故の場合は、自賠責保険からの補償が受けられない点にも注意しましょう。自賠責保険が適用されないため、加害者が不明のときに利用できる補償制度、「政府保障事業」も、対象外となってしまいます。
事故の瞬間は興奮していてわからなかったけれど、後日痛みが出てしまったような場合もあるでしょう。
このように、一度物損事故として処理されたケースでも、しばらくしてケガが判明した場合には、物損事故から人損事故へ切り替えられます。
以下で、物損事故から人身事故への切り替え方法について具体的に解説します。
物損事故から人身事故への切り替えは、以下のように進みます。
まずは病院を受診し、診断書の作成を受けましょう。
診断書は、以下の内容を中心に、交通事故によるケガであることがわかるように記載してもらうことがポイントです。
診断書の発行手数料は病院によって異なりますが、およそ3,000円から5,000円程度でしょう。
次に、事故の発生した場所を管轄する警察署へ行き、物損事故から人身事故への切り替えを依頼しましょう。警察署に出向く際には事前に連絡し、予約を入れておくとスムーズです。
申請できるのは、交通事故の当事者と、交通事故証明書の交付を受けることについて正当な理由のある者で、これは保険金の受取人や損害賠償請求権のある親族を指します。
警察署には、以下のものを持参します。
被害車両の写真などがあれば持参するとスムーズです。その他電話で必要な書類をあらかじめ確認しておき、揃えておきましょう。
警察に物損事故から人身事故への切り替えを依頼すると、再度警察主導で当事者立ち会いのもと、実況見分がおこなわれます。最終的に切り替えの判断をするのは警察です。
警察は、事故発生当時の状況や事故車両の被害状況などを詳しく確認し、「実況見分調書」を作成します。
実況見分調書には、以下の事項が記載されます。
実況見分には数時間程度かかりますので、なるべく時間に余裕のある日に設定してもらいましょう。当日は加害者と被害者が離れた場所で別々に意見を聞かれます。
交通事故証明は、保険会社に賠償金を請求するためにも必ず取得しておかなければならない書類です。
取得するためには、各都道府県にある自動車安全運転センター窓口へ手数料を添えて申請しましょう。また、インターネットからも申請は可能です。
交付手数料は1通800円(消費税非課税)に、振込手数料132円がかかります。
参考:自動車安全運転センター
警察署に備え付けられている申込書類を使って、郵便局から申請することもできます。ただし、郵便局からの申請だと手数料が若干違うので注意が必要です。
自分の保険会社に連絡し、人身事故へ切り替えたことを報告しましょう。
人身事故へ切り替えると、通常は相手方の保険会社から示談交渉の連絡が来ます。しかし、加害者が保険会社に切り替えの通知をしていないために連絡が来ない場合は、自分から相手の保険会社にも連絡しましょう。
その後は、ケガの治療が終了次第、示談交渉が開始されます。
警察から人身事故への切り替えを却下された場合には、「人身事故証明書入手不能理由書」を作成し、保険会社に提出することで自賠責保険による補償を受けられる可能性もあります。
物損事故から人身事故への切り替えは、警察が判断します。
手続きが問題なく進めば、病院受診から人身事故への切り替えまでは数週間程度で完了するでしょう。
ただし、人身事故として診断書を提出したとしても、ケガと事故との因果関係を疑われた場合には、人身事故への切り替えを却下されてしまうこともあります。
因果関係を疑われないために、事故発生からなるべく早く受診しましょう。
関連記事:人身事故証明書入手不能理由書の書き方と知るべき注意点
物損事故から人身事故への切り替えに、法的な期限は設けられていません。ただし、切り替えはなるべく早くおこなう必要があります。
事故から受診までの期間が長ければ長いほど、ケガと事故との因果関係を疑われる可能性が高くなるからです。
診断書が取れたとしても、事故から時間が経過しているとして警察で却下される可能性もあります。
物損事故から人身事故への切り替えは、事故発生から1週間から10日程度を目安に申請しましょう。
物損事故から人身事故に切り替えることは、自身が受けられる補償の増額だけでなく、加害者に対する正当な処分を求めることにも繋がります。
人身事故に切り替えることで、物損事故では補償されなかった治療費や、通院・入院等の慰謝料も補償されます。また後遺障害が残った場合には、後遺障害に対する補償も受けられます。
身体的なケガだけでなく、精神的なダメージにも慰謝料は適用されます。そのため、事故によって眠れなくなった、辛い思いをした、といった精神面のダメージも、慰謝料でカバーされます。
また、ケガの通院によって仕事を休まざるを得ず、そのために収入が減った場合の補填も受けられます。
人身事故の補償対象には、以下のような項目があります。
<物的損害>
修理費用 | 被害車両の修理にかかった費用。 |
代車使用料 | 被害車両を修理している間に代車を利用した場合の費用。 |
評価損 | 修理しても事故車として評価額が減少する場合の評価損。保険会社では評価損を認めないのが実情。 |
休車補償 | 営業者についてのみ、被害車両を使用できなかった場合、この車両を操業できれば得られたであろう利益に相当する額の補償。 |
積荷損 | トラックなどに載せていた積荷が事故によって破損した場合の補償。必ずしも全額請求できるわけではない。 |
<人身損害>
積極損害 | 治療費 | ケガの治療にかかった費用。医者の指示があれば鍼灸・マッサージ等も認められる |
入院雑費 | 入院に必要な出費。日用品や雑貨の購入費用、通信費、文化費、栄養補給費など | |
通院費用 | 通院にかかった電車やバスなど交通費または自家用車のガソリン代など。タクシー代は相当性がないと認められない | |
付添看護費 | 幼児、老人または歩行困難者の通院等に認められる付添費用。 | |
将来の看護費 | 介護の必要が残った場合の、将来必要とされる看護費用。 | |
児童の学費等 | 事故による入院や通院によって授業が受けられずに学力が低下した場合の家庭教師代など。 | |
葬儀関係費 | 被害者の葬儀にかかった費用。日弁連の基準では原則として上限150万円、自賠責基準では60万円まで。 | |
消極損害 | 逸失利益 | 後遺症や死亡により喪失した労働能力に対する賠償金。 |
休業損害 | 事故でケガをしたために仕事を休業したことで減収した場合に受けられる。 | |
慰謝料 | 入通院 | 慰謝料 入院や通院した日数に応じて請求できる慰謝料。 |
後遺障害慰謝料 | 事故により後遺障害が残った際に請求できる慰謝料。 | |
死亡慰謝料 | 事故によって被害者が死亡した際に家族等が請求できる慰謝料。 |
物損事故の場合、上の表の物的損害のみしか補償されませんが、人身事故の場合は物的損害および人的損害が補償対象です。
加害者に対する処罰も、人身事故になれば重くなります。
相手の悪質な運転によって被害を受けた場合には、加害者に対して厳しい処分を望む気持ちもあるでしょう。
物損事故の場合は、当て逃げでないかぎり加害者に刑事処分や行政処分は科せられません。
人身事故になれば、刑事処分として懲役や罰金が課せられ、行政処分として運転免許証上の違反点数も加点されたうえで、免許停止処分や免許取消処分を受ける可能性もあります。
加害者が逃亡した場合、被害者にケガがなければ「当て逃げ」、ケガがあれば「ひき逃げ」になります。
ひき逃げでケガを負った場合の損害は、加害者が判明しなくても「政府保障事業」によって、自賠責保険の基準を限度として以下のように補償を受けられます。
また、人身損害があるかないかで、警察の捜査意欲も大きく違ってくるでしょう。ひき逃げの検挙率は高く、2021年では全体で70%を超える事件が検挙されています(令和4年版 犯罪白書 )。
人身事故へと切り替えて適切な賠償金を獲得するには、弁護士に依頼しましょう。交通事故問題に精通した弁護士に依頼することで、以下のようなメリットがあります。
弁護士に依頼することで、保険会社などとの交渉をすべて任せ、自身はケガの治療に専念できます。
交通事故から日数が経過してしまうと、警察へ診断書を提出しても認められない可能性もあるでしょう。また、違反点数や刑事罰、または保険会社の補償範囲からも、加害者や加害者側の保険会社は人身事故への切り替えに抵抗を示すかもしれません。
交通事故に精通している弁護士であれば、交通事故と負傷の因果関係を的確に示し、人身事故へスムーズに切り替えをおこない、相手方保険会社に対しても適切な補償を請求できます。
相手が過失割合を争ってくる可能性もあります。
通常動いている車同士の事故であれば、10:0とはならないでしょう。相手はできるだけ被害者側の過失を主張して、賠償額の減額を求めてくると考えられます。
保険会社は交渉のプロなので、自分ひとりで交渉に臨むのは難しいでしょう。ましてやケガを負っている状態であれば、早く決着をつけて補償を受けたいと折れてしまうかもしれません。
弁護士に依頼することで、ドライブレコーダーや本人の証言などから妥当な過失割合を出し、相手の保険会社と対等に交渉できます。
弁護士が介入することで、慰謝料額を「弁護士基準」で算出できることも大きなメリットです。
交通事故の慰謝料を算定する基準には、「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準」の3つがあります。自賠責基準が最も低く、弁護士基準が最も高い慰謝料算定額基準です。
自分ひとりで相手の保険会社と交渉すると、保険会社は任意保険基準による慰謝料額を提示してくるでしょう。自分でこれを弁護士基準での算定額に変更するのは相当困難です。
弁護士が交渉することで、弁護士基準に基づいた慰謝料額を請求できます。
<通院における1日あたりの慰謝料基準>
通院期間 | 自賠責基準 | 任意保険基準 | 弁護士基準 (軽症・重症) |
1ヵ月 | 8万6,000円 | 12万6,000円 | 19万円・28万円 |
2ヵ月 | 17万2,000円 | 25万2,000円 | 36万円・52万円 |
3ヵ月 | 25万8,000円 | 37万8,000円 | 53万円・73万円 |
4ヵ月 | 34万4,000円 | 47万8,000円 | 67万円・90万円 |
5ヵ月 | 43万円 | 56万8,000円 | 76万円・105万円 |
6ヵ月 | 51万6,000円 | 64万2,000円 | 89万円・116万円 |
※自賠責基準は、日額4,300円、1ヵ月あたり20日として算定。
交通事故で、あとから痛みが出てケガをしていたことがわかった場合には、物損事故を人身事故に切り替えられます。まずは病院を受診して診断書を出してもらいましょう。
事故から日数が経過してから受診すると、ケガと事故の因果関係を疑われてしまう可能性があるため、できるだけ早く、事故から1週間から10日以内を目処に受診することをおすすめします。
人身事故に切り替えると、物損事故では補償されなかった治療費や慰謝料、休業損害などについても補償対象となります。
人身事故は、弁護士に依頼することで慰謝料の算定基準が変わるため、かなりの増額が期待できるでしょう。
交渉を任せることで、自分はゆっくり治療に専念することもできます。
ひとりで悩まず、まずは交通事故に精通した弁護士の無料相談を受けてみましょう。