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自賠責保険の上限額は120万?費用の内訳と金額に納得いかない場合の対処法を解説
2024.10.16
勤務中や通勤中に交通事故にあって休業を余儀なくされると、収入の減少分をどうカバーすればよいのか悩んでしまうでしょう。
そのような場合は勤務先の労災保険に対して休業補償を請求すれば、労災保険から補償を受けることが可能です。
しかし、「休業補償がいつ、いくらもらえるのかわからない」「できるだけ多く受け取るにはどうすればよい?」などの不安や疑問を抱えている方は多いのではないでしょうか?
本記事では、休業補償の基礎知識、休業損害との違い、休業補償の申請方法・支給時期などについて解説します。
労災事故で悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
休業補償とは、業務中の交通事故などの労災事故によるけがで働けなくなった場合の減収分を補償するものです。
休業補償を受けるための、条件は以下のとおりです。
休業補償を請求すると、労災保険から給料の60%の金額が支給されます。
勤務先を通じて請求するので、交通事故の加害者と直接示談交渉をする必要がありません。
「休業補償」と似ている言葉に「休業損害」というものがあります。
ここでは、2つの違いについて解説します。
補償を請求する先がそれぞれ異なります。
休業補償は勤務先が加入する労災保険に請求するのに対し、休業損害は交通事故の加害者に請求します。
ただし、休業損害は加害者が加入している自動車保険会社に対して請求するので、加害者に直接請求することは基本的にありません。
休業補償は、事故発生前3ヵ月間の1日あたりの給与額の平均をベースとして計算します。
一方、休業損害を請求する場合は自賠責基準の1日6,100円をベースに計算をされるなど一定額の計算とされることがあります。
ただし、この自賠責基準でも給与明細書や源泉徴収票などで現実の収入を証明できる場合、1日1万9,000円まで引き上げることが可能です。
休業補償を受けられるのは、業務中または通勤中に発生した交通事故でけがをした場合のみです。
一方、休業損害は業務中に限らず、プライベートで発生した交通事故に対しても補償されます。
休業補償を受けられる交通事故のケースのうち、業務中に発生した交通事故を「業務災害」、通勤中に起こった交通事故を「通勤災害」といいます。
業務災害と認められるには、以下の条件を満たす必要があります。
通勤災害と認められる条件は、「合理的な経路・方法で家と職場を往復している間に発生した交通事故であること」です。
普段と同じ経路で通勤していた場合はもちろん、帰り道の途中にある店で日用品・食料品を購入した場合や、事故や渋滞などの正当な理由で普段と違う経路で通勤した場合でも通勤災害に該当することがあります。
一方、正当な理由なく遠回りして通勤した場合や、通勤経路を外れて寄り道した場合などは通勤災害と認められないでしょう。
休業損害の場合、交通事故に対する自身の責任の割合(過失割合)が大きいほど受け取れる補償額が減ってしまいます。
これを過失相殺といいます。
一方、休業補償には過失相殺がないため、自身に過失割合がついても補償が少なくなることはありません。
また、休業損害の場合、自賠責保険から支払われる補償額に上限があります。
治療費や入通院費用と合わせて120万円までしか補償されないので、ケースによっては全ての損害をカバーできないおそれがあります。
損害額が120万円を超えた場合は任意保険会社から賠償を受けられますが、いくら賠償されるかは任意保険会社との示談交渉の結果によって異なります。
一方、休業補償には補償の上限がないので、減収分をしっかりとカバーできます。
休業補償は、交通事故の発生から3日間は補償の対象外です。
この3日間のことを待機期間といい、待機期間が過ぎてからが請求の対象となります。
一方、休業損害には待機期間がないため、けがをした当日の分から補償を請求できます。
休業補償は、有給休暇を使って休んだ場合は請求できません。
休業補償の対象となるのは、あくまで「給与や賞与などの賃金が支払われなかった日」のみです。
有給休暇を取得した場合は賃金が支払われているので、休業補償の対象外となります。
一方、休業損害は有給休暇を使った場合でも補償を受けることが可能です。
勤務中もしくは通勤中に交通事故にあった場合は、休業補償と休業損害の両方を請求しましょう。
休業補償と休業損害を重複して受け取ることはできないため、両方請求した場合はどちらか一方しか補償されません。
しかし、休業補償と一緒に支給される「特別支給金」は必ず受け取れます。
特別支給金は収入の約20%に相当するので、休業補償と休業損害を両方請求すれば収入の最大120%が補償されます。
減収分をしっかりとカバーできるので、労災事故の場合はどちらも請求するのがおすすめです。
休業補償を請求すると、休業補償と特別支給金を受け取ることができ、収入の約80%が補償されます。
それでは、休業補償や特別支給金は、それぞれどのように算出するのでしょうか?
ここでは、休業補償額の計算方法について解説します。
休業補償は、給付基礎日額を基に計算されます。
給付基礎日額とは、直近3ヵ月間の給料を基に算出した1日あたりの平均賃金のことです。
休業補償は、以下のように算出します。
交通事故に遭った日から3日間は待機期間なので、「対象日数」に最初の3日間は含まれません。
休業補償と一緒に受け取れる特別支給金は、以下の計算式で算出します。
休業補償と同様、最初の3日間は補償の対象外なので、「対象日数」には事故後4日目以降の日数を算入します。
休業補償の金額を計算する際、注意すべき点がいくつかあります。
ここでは主な注意点を2つ紹介するので、計算する際の参考にしてください。
有給休暇を使って休んだ分は、補償の対象外です。
休業補償を受けられるのは賃金を受け取っていない分だけなので、有給休暇分を含めて計算しないよう注意しましょう。
過失割合がついたからといって、休業補償が減額されることはありません。
休業損害の場合、過失割合が加害者:被害者=9:1である場合、受け取れる額が1割少なくなります。
一方、休業補償は過失割合によって金額が変動しないので、過失割合がついても全額受け取ることが可能です。
ここからは、休業補償を申請する方法や、支給される時期・支給される期間について解説します。
休業補償は勤務先を通じて請求します。
具体的な申請の流れは、以下のとおりです。
労働基準監督署が休業補償の支給を認めなかった場合、支給を認められなかったことを知った日の翌日から3ヵ月以内であれば、再審査を請求することができます。
審査請求の具体的な流れは、以下のとおりです。
ただし、審査請求をして支給が認められる可能性は低いので注意しましょう。
審査請求の結果にも納得できない場合、審査官から決定書の謄本が送付された日の翌日から2ヵ月以内であれば「再審査請求」をおこなうことができます。
しかし、必ずしも支給を認められるとは限らないうえ時間と手間もかかるので、再審査請求をおこなうかは慎重に検討してください。
労働基準監督署が支給を認めた場合、申請から約1ヵ月で休業補償を受け取れます。
経済的な事情で少しでも早く休業補償を受け取りたい場合は、「受任者払い制度」を活用するとよいでしょう。
受任者払い制度とは、労災保険が支払う休業補償を勤務先に立て替えてもらい、早めに支払ってもらう制度のことです。
受任者払い制度を利用したい場合は、勤務先や労働基準監督署に相談のうえ必要な手続きをおこないましょう。
休業補償を受け取れるのは、交通事故によるけがが完治するか症状固定するまでの間です。
症状固定とは、これ以上治療しても改善の見込みがないと医師が判断した状態を指します。
症状固定と診断された場合は後遺症が残りますが、後遺障害等級に認定されれば障害補償給付、障害特別一時金、障害特別支給金を請求することが可能です。
しかし、後遺障害等級認定の手続きは複雑であるうえ認定される難易度も高いので、弁護士に依頼して手続きをサポートしてもらうことをおすすめします。
また、治療を開始してから1年6ヵ月経っても完治や症状固定にならない場合は、傷病等級の認定手続きを受ける必要があります。
傷病等級に該当すると判断された場合、補償内容が休業補償から傷病補償に切り替わります。
1年6ヵ月経っても治療が終わらない場合は、傷病等級の審査を受けるための手続きを忘れずおこないましょう。
休業補償を請求時効は、交通事故によるけがで仕事を休んだ日の翌日から2年間です。
そのため、請求手続きは早めにおこないましょう。
休業補償と同様、休業損害額も交通事故に遭う前の収入を基に算出します。
具体的な計算方法は職業によって異なるので、詳しく知りたい方は以下の記事を参考にするとよいでしょう。
【関連記事】休業損害の計算方法と請求方法を教えます!自賠責基準だけでなく、実際の収入を基準にする方法も紹介
休業損害は加害者が加入する自動車保険会社に申請するため、休業補償とは手続き方法が異なります。
ここからは、休業損害を申請する方法、支給される時期、支給される期間などについて解説します。
休業損害は、加害者が加入する自賠責保険会社や任意保険会社に対して申請します。
給与所得者が休業損害を申請するのに必要な書類は、以下の2点です。
休業損害証明書は、事前に保険会社から郵送してもらうか、保険会社のホームページからダウンロードしておきましょう。
休業損害証明書を入手したら、勤務先に休業期間、事故発生前3ヵ月間の勤怠状況などの必要事項を記入してもらいます。
記載内容に誤りや不備があると休業損害を正しく受け取れない可能性があるので、記載内容に間違いがないか必ずチェックしてから保険会社に送付してください。
また、源泉徴収票を用意できない場合は、事故発生前3ヵ月間の賃金台帳の写し、雇用契約書、所得証明書などで代用できます。
なお、自営業や個人事業主などの給与所得者以外の方や専業主婦(夫)の方は、休業損害証明書の提出が不要です。
代わりに、給与所得者以外の場合は確定申告書の控え、専業主婦(夫)の場合は住民票の写しを保険会社に提出しましょう。
必要書類を保険会社に提出したら、保険会社側で書類に不備がないかをチェックします。
不備がなければ、基本的に約1〜2週間ほどで休業損害が口座に振り込まれます。
なお、休業損害は一括ではなく毎月請求することも可能です。
毎月請求する場合は、勤務先に相談のうえ休業損害証明書を毎月作成してほしい旨をあらかじめ伝えておくとよいでしょう。
ただし、毎月請求する場合、請求した全額が支払われるとは限らない点に注意が必要です。
交通事故の発生から時間が経つと、保険会社から「そろそろ完治する頃だと思うので休業損害を打ち切ります」と言われてしまうことがあります。
休業損害の打ち切りを打診された場合は焦って承諾せず、医師や弁護士に相談しましょう。
休業損害を受け取れるのは、交通事故によるけがが完治するか症状固定するまでの時期です。
医師から症状固定と診断され後遺障害が残った場合、症状固定後の損害は「後遺障害逸失利益」として賠償請求できます。
休業損害を請求できるのは、交通事故発生もしくは症状固定したときから5年間です。
ただし、2020年3月31日より前に交通事故に遭った場合は3年間なので注意しましょう。
休業損害をできるだけ多く受け取りたいなら、弁護士に依頼するのがおすすめです。
休業損害の交渉に慣れている弁護士に依頼すれば、自力で依頼するよりも増額できる可能性があります。
ここからは、休業損害を弁護士に依頼する必要性や、実際に増額に成功した事例を紹介します。
休業損害を請求しても、収入の減少分をそのまま受け取れるとは限りません。
保険会社は、少しでも支払い額を抑えるために休業損害を少なめに提示してくることがあります。
請求した額よりも少ない額を提示された場合は、弁護士に依頼することで休業損害を増額できる可能性があります。
弁護士であれば、法律的な知識に基づいて、適正な休業損害額を論理的に主張することが可能です。
保険会社も、弁護士が相手となれば増額に応じてくれる傾向があるので、提示された額に納得できない場合は弁護士に相談しましょう。
被害者である専業主婦が休業損害を請求したものの、保険会社から提示された額が適正額よりも大幅に少なかったケースです。
被害者は家事ができない状態が長期間続いていましたが、保険会社は補償の対象日数を最初の3ヵ月間のみと主張し、実際の損害額とは大きくかけ離れた金額を提示しました。
被害者が弁護士に依頼したところ、けがの内容や程度、家事への影響の大きさなどを保険会社に主張したことで、休業損害を約205万円増額することができました。
飲食店経営者である被害者が休業損害を請求したところ、保険会社から日額5,700円という低い金額を提示されたケースです。
弁護士に依頼し、事故前3年分の決算資料を基に適正な休業損害日額を主張しました。
保険会社と粘り強く交渉した結果、休業損害の大幅な増額に成功しています。
ここからは、休業補償についてよくある質問をまとめています。
休業補償についてまだ疑問が残っている方は、ぜひ参考にしてください。
休業補償を受けている間に働いた場合、賃金が発生していない日については休業補償を受け取ることが可能です。
週4回勤務し、週1回だけ休んで通院した場合は、賃金が発生していない週1日分の補償が支給されます。
半休やフレックス勤務などを使って通院する場合も、その日に発生した賃金が給付基礎日額の60%に満たなければ補償を受け取れます。
【参考記事】出勤しながら週に1回は通院していますが、休業補償をもらえますか。|厚生労働省
嘘をついて休業補償を受け取った場合、詐欺罪に問われるおそれがあります。
詐欺罪となった場合は10年以下の懲役に処されてしまい、重い罪を背負うことになるでしょう。
単純なミスで虚偽の内容を書いてしまった場合は罪に問われないものの、過剰に受け取った分は返還しなければならないため、正確な内容で申請するようにしましょう。
休業補償の申請に必要な書類は以下のとおりです。
休業補償給付支給請求書、休業給付支給請求書は、厚生労働省のホームページからダウンロードできます。
【参考】主要様式ダウンロードコーナー (労災保険給付関係主要様式)|厚生労働省
受任者払い制度を利用すれば、休業補償を早く受け取ることができます。
受任者払い制度とは、勤務先が一時的に補償を立て替える制度のことです。
通常、休業補償は労災保険から支給されますが、申請から受け取りまでに1〜2ヵ月ほどかかります。
受任者払い制度を利用すれば、労災が支給を認める前に補償を受け取れるので、休業中の生活費をきちんと確保することが可能です。
経済的な事情で早めに補償を受け取りたい場合は、受任者払い制度の活用を検討しましょう。
業務中や通勤中に交通事故に遭った場合、休業補償と休業損害の両方を請求できます。
いずれも仕事を休んだ場合の減収分を補償するものですが、休業補償は労災保険から、休業損害は加害者が加入する保険会社から支給されるものです。
適切な補償を受けられるよう、2つの違いをしっかりと理解しておきましょう。
手続き方法や保険会社との交渉に少しでも不安があるなら、弁護士に相談するのがおすすめです。
無料で相談できる法律事務所も多数あるので、まずは気軽に相談してみましょう。