医療法人における顧問弁護士とは?|役割や選び方、費用までわかりやすく解説

医療法人における顧問弁護士とは?|役割や選び方、費用までわかりやすく解説
目次
  1. 医療法人における顧問弁護士とは?法的問題の予防と解決を任せられる存在
  2. 医療法人における顧問弁護士の主な役割
    1. 患者や家族からのクレーム対応
    2. 労務問題の予防と解決、相談対応
    3. 未払いとなった医療費の回収
    4. さまざまな契約の交渉から契約書作成・チェックまで
    5. 医療事故発生時の各種対応
    6. 幅広い法律相談の対応
    7. 各種ハラスメントへの対策
    8. 厚生局の個別指導・監査への対策・対応
  3. 医療法人に適した顧問弁護士の選び方
    1. 医療法人について幅広い知識はあるか
    2. 医療法人の顧問弁護士をつとめた実績は豊富か
    3. 人柄や相性がよく、コミュニケーションをとりやすいか
    4. 普段からレスポンスが早いか/トラブル発生時は迅速な対応が可能か
  4. 医療法人が顧問弁護士と契約する主なメリット
    1. 医療法人のことを把握している弁護士にいつでも気軽に相談できる
    2. 法的な問題が発生しても迅速な対応が可能となる
    3. 予防法務によって、リスクの予防や管理が可能
    4. 顧問弁護士と契約することで、かえって費用が抑えられる可能性もある
  5. 医療法人における顧問弁護士の費用相場
    1. 格安なプランもあるが、十分に対応できない場合もあり注意が必要
    2. 医療事故の訴訟が発生した際などは、追加料金がかかることも
  6. さいごに|顧問弁護士の役割や選び方を把握しておこう

医療法人を運営するうえでは、さまざまな法律問題に対応する必要があります。

しかし、医療法人の運営上発生する法律問題について、社内の担当者だけで対応するのは難しいのが現状です。

そこで活用すべきなのが、顧問弁護士です。

弁護士と顧問契約を結んでおけば、日常的な法律問題や突発的なトラブルに迅速かつ適切に対応してもらえるため、非常に心強いでしょう。

とはいえ、医療業界には特有の法規制などがありるため「弁護士であれば誰でもOK」というわけではありません。

医療法人に精通しており、専門的な知識を持つ弁護士を選ぶことが重要です。

本記事では、医療法人における顧問弁護士の役割や選び方、契約するメリット、費用相場について解説します。

医療法人における顧問弁護士とは?法的問題の予防と解決を任せられる存在

顧問弁護士とは、企業や法人から継続的に法律相談を受ける弁護士のことです。

なかでも、医療法人の顧問弁護士は、医療現場における法的問題に特化した専門的な役割を担います。

日々の業務で生じる法律問題について助言をもらえるほか、トラブルが発生したときには早期解決に向けて対応してもらえるので、非常に心強い存在といえるでしょう。

なお、医療機関においては、医療法や医師法といった医療関連の法律に加え、厚生局による個別指導の実務など、医療業界特有の法規制や行政対応に精通していることが求められます。

医療法人における顧問弁護士の主な役割

医療機関における顧問弁護士の役割は多岐にわたりますが、主な業務内容としては以下のようなものがあります。

  • 患者や家族からのクレーム対応
  • 労務問題の予防と解決、相談対応
  • 未払いとなった医療費の回収
  • さまざまな契約の交渉から契約書作成・チェックまで
  • 医療事故発生時の各種対応
  • 幅広い法律相談の対応
  • 各種ハラスメントへの対策
  • 厚生局の個別指導・監査への対策・対応

ここからは、それぞれの内容について詳しく解説します。

患者や家族からのクレーム対応

医療法人を運営していると、患者や家族から理不尽なクレームを受けることがあります。

クレームを放置しておくと、ほかの患者への診療にも影響を及ぼす可能性があるため、理不尽なクレームに対しては冷静かつ適切に対応して、必要に応じて法的措置を検討しなければなりません。

顧問弁護士は、このようなトラブルについても適切な対応策をアドバイスすることが可能です。

また、必要に応じて代理対応をおこない、医療機関の負担を軽減します。

労務問題の予防と解決、相談対応

医療法人のように、勤務時間が不規則になりがちな職場では、以下のような労務問題が発生する可能性があります。

  • 長時間の残業が続いてしまう
  • 残業代や深夜・休日の割増賃金が正しく支払われていない
  • スタッフが心身の不調で働けなくなった

労働に関するルールは、法律の改正や裁判の判例によって変わるため、適切な対策を取らないと病院側が裁判で不利な判断を受けてしまうおそれがあります。

顧問弁護士は、就業規則の整備や適切な労務管理をおこない、労務トラブルを未然に防ぎます

万が一トラブルが発生しても、早い段階で対応して裁判に発展するリスクをおさえられるでしょう。

未払いとなった医療費の回収

医療法人では、患者の医療費未払いが発生する可能性があります。

とくに、高額な入院医療費の支払いが必要なケースや、死亡が近い患者を治療するケースでは未払いリスクが高まるうえ、未払いによって経営に支障をきたす可能性があるので、早期の対応が必要です。

顧問弁護士は、内容証明郵便の送付、支払い督促の申立て、訴訟手続きなどを活用して、未払金の回収を図ります。

さまざまな契約の交渉から契約書作成・チェックまで

医療機器や医薬品の購入・リースなど、医療法人を運営するうえではさまざまな契約を締結しなければなりません。

締結の際は、使用条件や不具合発生時の対応方法などを慎重に確認しておかなければ、のちに大きな経済的損失を被る可能性があります。

顧問弁護士は、契約書の内容を精査し、契約条件に不利な点があれば、必要に応じて相手方との交渉をおこなうことができます。

また、契約書の作成自体を弁護士に依頼できるケースも多いです。

契約書の草案を医療法人自身で作成した場合でも、弁護士にチェックを依頼して必要な修正やアドバイスを受けられます。

医療事故発生時の各種対応

医療法人であれば、医療事故の発生を想定しておかなければなりません。

事故が発生すれば、患者や遺族から事故の経緯や原因について詳しい説明を求められるのが一般的です。

状況によっては説明会を開くなど、外部対応の必要性が生じます。

患者や遺族が損害賠償請求をする可能性も高いので、事故後の説明や対応は慎重におこなわなければなりません。

顧問弁護士は、事故発生後の対応を適切に進め、患者や遺族との話し合いを通じて、訴訟に発展することなく解決を図ることができます。

万が一訴訟へと発展してしまった場合でも、必要な証拠を適切に収集・整理し、正当な法的主張を展開することが可能です。

幅広い法律相談の対応

顧問弁護士は、上記で説明したトラブル対応だけでなく、以下のような幅広い法律相談にも都度対応します。

  • 医療広告の適法性チェック(医療法や景品表示法に基づく広告規制への対応)
  • ネット上の誹謗中傷・風評被害対策(記事削除や発信者情報開示請求など)
  • 従業員の私生活上の法的トラブル(交通事故、刑事事件、離婚問題など)

各種ハラスメントへの対策

医療法人では、従業員間でセクハラやパワハラが発生するケースもあります。

職場でハラスメントが発生すると、被害者本人だけでなく周囲の職員にも影響を及ぼし、職場全体の士気の低下や生産性の低下につながる可能性があります。

また、ハラスメントに適切に対応しなければ、「事業者が職場環境の管理を怠った」として、被害者から損害賠償請求を受けるリスクもあるのです。

顧問弁護士は、このようなハラスメントに関する社内研修や啓発活動をおこなえます。

また、相談窓口などの社内相談体制の整備に関してもアドバイスが可能です。

万が一ハラスメントが発生してしまった場合でも、関係者から聞き取り調査をおこない、被害者・加害者それぞれに適切な対応を講じます。

厚生局の個別指導・監査への対策・対応

医療機関は、厚生局による個別指導を受けることが義務付けられています。

個別指導の結果によっては、再指導や監査を受けなければなりません。

最悪の場合、保険医療機関や保険医としての指定を取り消される可能性もあります。

顧問弁護士は、個別指導において指摘を受けないよう、事前に必要な対応をアドバイスすることができます。

また、必要に応じて個別指導当日に同席し、適切な受け答えができるようサポートが可能です。

万が一、指導中に問題を指摘された場合でも、適切な対処法を検討して、指定が取り消される事態を防ぎます。

医療法人に適した顧問弁護士の選び方

医療法人の運営において、顧問弁護士の存在はとても頼りになるでしょう。

ただし、顧問弁護士なら誰でもよいわけではなく、医療法人に適した顧問弁護士を選ぶことが重要です。

ここでは、顧問弁護士を選ぶ際のポイントを詳しく解説します。

医療法人について幅広い知識はあるか

医療法人の顧問弁護士を選ぶ際は、法的な知識に加えて、医療法人に関する幅広い知識があるかどうか確認しておきましょう。

幅広い知識があれば、経営の現場を深く理解したうえで、より具体的なアドバイスをもらえます。

知識の有無を判断するうえでは、弁護士の過去の実績を参考にするのがおすすめです。

法律事務所のホームページなどに目を通して確認しておきましょう。

医療法人の顧問弁護士をつとめた実績は豊富か

顧問弁護士を選ぶ際は、医療機関に対する顧問実績が豊富かどうかも確認しておきましょう。

医療業界特有の問題に適切に対応するためには、患者からのクレーム対応、契約交渉や契約書の作成・チェック、個別指導に関するサポートなど、さまざまな状況で専門的な知識が必要です。

医療現場に精通した知識や一定の医学的な理解がなければ、これらの問題に対して適切なアドバイスをするのは難しいでしょう。

実際に十分なサポートを受けられないという事態を避けるためにも、医療機関に対する顧問実績が豊富で、実務に即した助言ができる弁護士を選んでください。

人柄や相性がよく、コミュニケーションをとりやすいか

顧問弁護士選びにおいては、弁護士の人柄や相性も重要な要素となります。

医療法人では、弁護士に相談するほどのことではないと判断して放置した問題が、大きなトラブルに発展してしまうこともあります。

このような事態を避けるためにも、普段から気軽に相談できる関係を築ける弁護士を選びましょう。

人柄や相性を確認するためには、事前に弁護士と面談をして、実際に会話するのがおすすめです。

弁護士の肩書や経歴だけでは判断できない、人柄やコミュニケーション能力がわかるでしょう。

普段からレスポンスが早いか/トラブル発生時は迅速な対応が可能か

医療法人では、夜間や休日に緊急の問題が発生する可能性もあります。

そのため、顧問弁護士を選ぶ際はレスポンスの早さや緊急時の対応スピードを事前に確認しておくのが重要です。

たとえば、以下のような項目を確認しておきましょう。

  • 夜間や休日対応の可否
  • 緊急案件への対応可否
  • 連絡手段

医療法人が顧問弁護士と契約する主なメリット

顧問弁護士と契約すると月額費用が発生しますが、さまざまなメリットを得ることができます。

ここでは、主なメリットを4つ紹介します。

医療法人のことを把握している弁護士にいつでも気軽に相談できる

顧問弁護士と契約するひとつ目のメリットは、些細なことでも気軽に相談できるようになることです。

法律問題については、「こんなことを聞いていいのかな」とためらってしまい、弁護士への相談を遠慮してしまう人も少なくありません。

しかし、顧問弁護士がいれば電話やメールで気軽に相談できるため、不安を感じにくくなります。

顧問弁護士であれば、医療法人の経営方針やスタッフの構成、よく直面する課題などを把握しています。

状況を一から説明する手間が省け、気軽に相談しやすくなるでしょう。

法的な問題が発生しても迅速な対応が可能となる

顧問弁護士と契約する2つ目のメリットは、法律問題に対する迅速かつ適切な対応が可能になることです。

顧問契約を結んでいない場合、法律トラブルが起きたときに都度弁護士に依頼する必要があり、問題への初動が遅れてしまうかもしれません。

しかし、顧問弁護士と契約していれば、企業の状況に応じて迅速に対応してもらえます。

トラブルが長期化することなく、スピーディーな解決が期待できるでしょう。

予防法務によって、リスクの予防や管理が可能

顧問弁護士には、発生した問題への対応だけでなく、労務管理や医療安全管理体制の構築に関するアドバイスをするなど、リスクの予防や管理を依頼できるのもメリットのひとつです。

医療法人に関する理解が深い顧問弁護士であれば、業界特有のリスクにも精通しているので、長期的な視点でのアドバイスが期待できます。

顧問弁護士と契約することで、かえって費用が抑えられる可能性もある

顧問弁護士を契約することで、結果として費用がおさえられる点でもメリットです。

顧問弁護士の代わりに医療法人内に法務部門を設置したり、法的知識を持つ有資格者を雇ったりすると、相応の人件費やコストがかかります。

また、都度弁護士に相談すると、件数が増えるごとに費用がかさんでしまいます。

しかし、顧問弁護士を契約すれば、継続的なサポートを定額で受けられます

あらかじめ予算を決めておき、その予算の範囲内で契約できる弁護士を探せば、コストをおさえながら安心して法的サポートを受けられるでしょう。

医療法人における顧問弁護士の費用相場

顧問弁護士の費用は、月額5万円〜15万円程度が一般的な相場です。

ただし、事業規模や業界の専門性、対応範囲、利用頻度によって費用は変動します。

たとえば、大規模の医療法人を運営している場合や、急な対応が求められるケースが多い場合には、顧問料が高くなる傾向があります。

​契約前に、サービス内容や対応範囲を確認し、必要に応じて複数の法律事務所から見積もりを取得するのがおすすめです。

格安なプランもあるが、十分に対応できない場合もあり注意が必要

近年では、月額1万円〜2万円程度の低価格で顧問契約を提供する法律事務所が増えており、従来と比較して手軽に弁護士と顧問契約を結べるようになりました。

ただし、低価格プランでは 「相談は毎月3時間まで」「契約書のチェックは1通まで」 など、対応範囲に一定の制限が設けられているのが一般的です。

相談頻度が少ない医療法人では、低価格プランでも支障が生じないかもしれません。

しかし、相談件数が多くなる場合や、幅広い対応が必要な場合には、十分なサポートを受けられない可能性があります。

顧問弁護士の選定にあたっては、単に費用の安さだけでなく、法人の規模や必要な業務範囲に適したサービスであるかを確認することが重要です。

医療事故の訴訟が発生した際などは、追加料金がかかることも

病院で医療ミスが発生し、訴訟を提起された際には、被害者が受けた損害の程度や事故との因果関係などを調査をしなければなりません。

このような通常業務に含まれない対応をおこなった場合には、追加料金が発生することが一般的です。

万が一のケースに備えて、顧問契約の範囲を超える業務にどのような追加料金が発生するのか、事前にしっかりと確認しておくことが重要です。

さいごに|顧問弁護士の役割や選び方を把握しておこう

医療法人における顧問弁護士は、単に法律的なアドバイスをするだけでなく、法人運営に関わるさまざまなリスクを防ぎ、問題が起きたときにも迅速で適切に対応をしてもらえます。

顧問弁護士と契約すれば、経営者は法律面で悩むことなく、事業に集中できるようになるでしょう。

医療法人が顧問弁護士を選ぶ際には、特有の法的な規制をよく理解して、適切なサポートをしてくれる弁護士を選ぶことが大切です。

顧問弁護士をうまく活用して、法的なリスクに気をつけながら、安心して事業を運営していきましょう。

監修記事
FUJII法律事務所
藤井 輝 (東京弁護士会)
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アシロ編集部
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本記事は法律相談ナビを運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。
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