- 【親事業者向け】下請法違反の種類|義務違反と遵守事項違反がある
- 下請法違反として規定されている11種類の禁止行為の具体例
- 1.受領拒否|下請事業者に責任がないのに物品を受け取らない
- 2.支払い遅延|物品を受け取ったのに支払い期日までに代金を支払わない
- 3.代金減額|下請事業者に責任がないのに発注したあとに代金を減額する
- 4.不当返品|正当な理由がないのに受領した物品を下請事業者に返品する
- 5.買いたたき|一般的な下請代金よりも著しく低い金額で契約を締結する
- 6.購入・利用強制|正当な理由がないのに特定の製品やサービスを購入・利用させる
- 7.報復措置|違反行為が報告されたことを理由に取引停止などの不当な取扱いをする
- 8.有償支給原材料等の対価の早期決済|原材料代を下請代金支払い期日より早く受け取る
- 9.割引困難な手形の交付|一般の金融機関での割引が難しい長期の手形で代金を支払う
- 10.不当な経済上の利益の提供要請|親事業者のために現金やサービスなどを提供させる
- 11.不当な給付内容の変更・やり直し|発注の取消や変更、やり直しを理由なく決定する
- 下請法に違反した親事業者が受けるペナルティ|刑事罰になる可能性もある
- さいごに|下請事業者と取り引きをする際は下請法を守るようにしよう!
下請け会社から「下請法違反ではないか」と指摘され、対応に困っていませんか?
親事業者として適切に取引をしていたつもりでも、下請法の規制を知らないことで、思わぬトラブルに発展することがあります。
下請法では、親事業者が守るべき義務や禁止行為が細かく定められています。
違反が認められれば罰金の対象となるだけでなく、公正取引委員会から勧告を受けたり、企業名を公表されたりするリスクがあるので、しっかりと理解しておく必要があるでしょう。
本記事では、下請法違反となる具体的な行為や、違反した場合のペナルティについて詳しく解説します。
また、下請法に違反しないためのポイントにも触れているので、リスクを回避するための参考にしてください。
【親事業者向け】下請法違反の種類|義務違反と遵守事項違反がある
親事業者と下請事業者との間で取引をおこなう場合、どうしても親事業者が優位な立場になりがちです。
そこで、公正な取引関係を維持するため、下請法では親事業者に4種類の義務と11種類の遵守事項を課しています。
下請法違反とならないためにも、親事業者は義務と遵守事項の内容をしっかりと確認しておかなければなりません。
以下では、下請法で親事業者に対して定められている義務と遵守事項について、詳しく見ていきましょう。
1.親事業者が守る必要がある義務
親事業者が守る必要がある4種類の義務の内容について、以下の表にまとめました。
義務の種類 | 義務の内容 |
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発注書面を交付する義務(第3条) | 発注の際は、直ちに3条書面(※1)を交付しなければなりません。 |
下請代金の支払い期日を定める義務(第2条の2) | 下請代金の支払い期日を、給付の受領後60日以内に定めなければなりません。 |
取引に関する書類を作成・保存する義務(第5条) | 下請取引の内容を記載した5条書類(※2)を作成し、2年間保存しなければなりません。 |
支払いが遅延した場合に利息を支払う義務(第4条の2) | 下請代金をその支払い期日までに支払わなかったときは、下請事業者に対し、物品等の受領日または役務提供日から起算して60日を経過した日から実際に支払いをする日までの期間について、その日数に応じ当該未払金額に年率14.6%を乗じた額の遅延利息を支払わなければなりません。 |
なお、表内に登場する※1「3条書面」と※2「5条書面」とは、それぞれ以下の具体的事項を記載した書面のことを言います。
3条書面 | ① 親事業者及び下請事業者の名称 ② 製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託をした日 ③ 下請事業者の給付の内容 ④ 下請事業者の給付を受領する期日 ⑤ 下請事業者の給付を受領する場所 ⑥ 下請事業者の給付の内容について検査をする場合は、検査を完了する期日 ⑦ 下請代金の額 ⑧ 下請代金の支払い期日 ⑨ 手形を交付する場合は、手形の金額及び手形の満期 ⑩ 一括決済方式で支払う場合は、金融機関名、貸付け又は支払い可能額、親事業者が下請代金債権相当額又は下請代金債務相当額を金融機関へ支払う期日 ⑪ 電子記録債権で支払う場合は、電子記録債権の額及び電子記録債権の満期日 ⑫ 原材料等を有償支給する場合は、品名、数量、対価、引渡しの期日、決済期日、決済方法 |
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5条書面 | ① 下請事業者の名称 ② 製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託をした日 ③ 下請事業者の給付の内容 ④ 下請事業者の給付を受領する期日 ⑤ 下請事業者から受領した給付の内容及び給付を受領した日 ⑥ 下請事業者の給付の内容について検査をした場合は、検査を完了した日、検査の結果及び検査に合格しなかった給付の取扱い ⑦ 下請事業者の給付の内容について、変更又はやり直しをさせた場合は、内容及び理由 ⑧ 下請代金の額 ⑨ 下請代金の支払い期日 ⑩ 下請代金の額に変更があった場合は、増減額及び理由 ⑪ 支払った下請代金の額、支払った日及び支払い手段 ⑫ 下請代金の支払につき手形を交付した場合は、手形の金額、手形を交付した日及び手形の満期 ⑬ 一括決済方式で支払うこととした場合は、金融機関から貸付け又は支払いを受けることができることとした額及び期間の始期並びに親事業者が下請代金債権相当額又は下請代金債務相当額を金融機関へ支払った日 ⑭ 電子記録債権で支払うこととした場合は、電子記録債権の額、下請事業者が下請代金の支払いを受けることができることとした期間の始期及び電子記録債権の満期日 ⑮ 原材料等を有償支給した場合は、品名、数量、対価、引渡しの日、決済をした日及び決済方法 ⑯ 下請代金の一部を支払い又は原材料等の対価を控除した場合は、その後の下請代金の残額 ⑰ 遅延利息を支払った場合は、遅延利息の額及び遅延利息を支払った日 |
2.親事業者が守る必要がある遵守事項
親事業者が守る必要がある11種類の遵守事項について、以下の表にまとめました。
遵守事項の種類 | 遵守事項の内容 |
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受領拒否の禁止(第4条1項1号) | 成果物が下請事業者から納入された場合、正当な理由がないにもかかわらず受け取りを拒否してはいけません。 |
下請代金の支払い遅延の禁止(第4条1項2号) | 物品受領日または役務提供日から起算して60日以内に定めた支払い期日までに、下請代金を全額支払わなければなりません。 |
下請代金の減額の禁止(第4条1項3号) | 発注時に決定した下請代金を、下請事業者の責めに帰すべき理由がないにもかかわらず発注後に減額してはいけません。 |
返品の禁止(第4条1項4号) | 下請事業者の責めに帰すべき理由がないにもかかわらず、給付を受領した後に下請事業者にその給付に係る物を引き取らせてはいけません。 |
買いたたきの禁止(第4条1項5号) | 発注に際して下請代金の額を決定するときに、発注した内容と同種または類似の給付の内容または役務の提供に対して、通常支払われる対価に比べて著しく低い額を不当に定めてはいけません。 |
購入・利用強制の禁止(第4条1項6号) | 下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、親事業者の指定する製品・原材料等を強制的に購入させたり、サービス等を強制的に利用させて対価を支払わせたりしてはいけません。 |
報復措置の禁止(第4条1項7号) | 下請事業者が親事業者の下請法違反行為を公正取引委員会や中小企業庁に知らせたことを理由として、取引数量を減じたり、取引を停止したり、そのほか不利益な取扱いをしてはいけません。 |
有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止(第4条2項1号) | 給付に必要な原材料などを下請事業者に有償で支給した場合、下請事業者の責めに帰すべき理由がないにもかかわらず、原材料などを用いて製造または修理した物品の下請代金の支払い期日より早い時期に、当該原材料等の対価を支払わせたり、下請代金から控除(相殺)したりしてはいけません。 |
割引困難な手形の交付の禁止(第4条2項2号) | 下請事業者に対し下請代金を手形で支払う場合、支払い期日までに一般の金融機関で割り引くことが困難な手形を交付してはいけません。 |
不当な経済上の利益の提供要請の禁止(第4条2項3号) | 下請事業者に対して、自社のために金銭・役務そのほかの経済上の利益を提供させ、下請事業者の利益を不当に害してはいけません。 |
不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止 (第4条2項4号) | 下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、発注の取消もしくは発注内容の変更、または受領後にやり直しをさせることにより下請事業者の利益を不当に害してはいけません。 |
下請法違反として規定されている11種類の禁止行為の具体例
ここでは、下請法で禁止されている11種類の禁止行為について、具体例を交えながら詳しく解説します。
なお、具体例では、親事業者を「A社」、下請事業者を「B社」とします。
1.受領拒否|下請事業者に責任がないのに物品を受け取らない
たとえば、A社から部品100個の製造委託を受け、B社は部品100個を完成させました。
B社が部品を納入しようとしたところ、A社は、「製品の仕様を変更した」として部品の受領を断りました。
この場合、A社の行為は原則として「受領拒否」に該当します。
ただし、下請法の条件を満たした発注書に明記された委託内容と実際の物品が異なる場合や、納品物に瑕疵などがある場合には、受領拒否に該当しません。
2.支払い遅延|物品を受け取ったのに支払い期日までに代金を支払わない
たとえば、A社から部品100個の製造委託を受け、B社は部品100個を指定された期日に納入しました。
しかし、A社は「今は資金繰りが厳しい」として、支払いを半年以上遅延しました。
この場合、A社の行為は「支払い遅延」に該当します。
3.代金減額|下請事業者に責任がないのに発注したあとに代金を減額する
たとえば、A社から部品100個の製造委託を受け、B社は部品100個を指定された期日に納入しました。
しかし、A社は「製品が思ったほどの高値で売れなかった」として、支払い代金を減額しました。
この場合、A社の行為は「代金減額」に該当します。
4.不当返品|正当な理由がないのに受領した物品を下請事業者に返品する
たとえば、A社から部品100個の製造委託を受け、B社は部品100個を指定された期日に納入しました。
しかし、A社は部品の品質検査をおこなっていないにもかかわらず、当該部品に瑕疵があることを理由として、部品100個を返品しました。
この場合、A社の行為は原則として「不当返品」に該当します。
ただし、発注書に明記された委託内容と実際の物品が異なる場合や、実際に納品物に瑕疵があって速やかに引き取らせたなどの場合は、不当返品に該当しません。
5.買いたたき|一般的な下請代金よりも著しく低い金額で契約を締結する
たとえば、A社は部品100個の製造委託のため、B社に商品を100個・500個・1,000個製造する場合の見積もりの発行を依頼しました。
そして、A社はB社に、部品1,000個を製造する場合の単価をもとに、部品100個の製造を委託しました。
この場合、A社の行為は「買いたたき」に該当します。
6.購入・利用強制|正当な理由がないのに特定の製品やサービスを購入・利用させる
たとえば、A社はB社に部品100個の製造を委託するとともに、自社製品の販促キャンペーンと称して、B社に自社製品100個の購入を再三要請しました。
この場合、A社の行為は、「購入・利用強制」に該当します。
7.報復措置|違反行為が報告されたことを理由に取引停止などの不当な取扱いをする
たとえば、A社から部品100個の製造委託を受け、B社は部品100個を指定された期日に納入しました。
しかし、A社は「今は資金繰りが厳しい」として、支払いを半年以上遅延しました。
資金繰りに窮したB社は、当該事実を公正取引委員会に報告しました。
これが原因で、A社はB社との基本取引契約を一方的に解除しました。
この場合、A社の行為は「報復措置」に該当します。
8.有償支給原材料等の対価の早期決済|原材料代を下請代金支払い期日より早く受け取る
A社はB社に部品100個の製造を委託するとともに、部品100個の製造に必要な材料をB社に提供しました。
B社は、必要な材料を用いて部品100個を製造し、指定された期日に納入しました。
しかし、A社は下請代金を支払う前に、提供した材料費の代金を先に支払うよう要求しました。
この場合、A社の行為は「有償支給原材料等の対価の早期決済」に該当します。
9.割引困難な手形の交付|一般の金融機関での割引が難しい長期の手形で代金を支払う
たとえば、A社から部品100個の製造委託を受け、B社は部品100個を指定された期日に納入しました。
しかし、A社は支払いのために、手形期間が180日の手形を発行しました。
この場合、A社の行為は「割引困難な手形の交付」に該当します。
10.不当な経済上の利益の提供要請|親事業者のために現金やサービスなどを提供させる
たとえば、A社はB社に部品100個の製造を委託するとともに、委託内容にない金型設計図面を無償で譲渡するよう要求しました。
この場合、A社の行為は「不当な経済上の利益の提供要請」に該当します。
ただし、B社の意志に基づき図面を提供した場合には、不当な経済上の利益の提供要請に該当しません。
11.不当な給付内容の変更・やり直し|発注の取消や変更、やり直しを理由なく決定する
たとえば、A社から部品100個の製造委託を受け、B社は製造に必要な原材料の調達を開始しました。
しかし、A社は、製品在庫が急増したという理由で、B社が調達に要した費用を支払わずに部品100個の発注を取り消しました。
この場合、A社の行為は「不当な給付内容の変更・やり直し」に該当します。
ただし、納品物が委託内容と異なっていたり、B社の責めに帰すべき理由が合理的に認められたりする場合には、給付内容の変更ややり直しが認められる場合があります。
下請法に違反した親事業者が受けるペナルティ|刑事罰になる可能性もある
下請法に違反した場合、親事業者にペナルティが科される可能性があるので注意が必要です。
ここでは、主なペナルティについて詳しく解説します。
1.義務違反の場合|50万円以下の罰金を科される可能性がある
親事業者が以下2つの義務に違反した場合、50万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
- 3条書面の交付義務
- 5条書類の保存義務
なお、罰金は違反行為をした個人だけでなく、会社にも科されます。
2.禁止行為違反の場合|公正取引委員会などから指導・勧告を受ける
11種類の遵守事項(禁止行為)に違反した場合、公正取引委員会から、違反行為の是正を求めるよう指導・勧告を受けることがあります。
勧告を受けた場合、対象となった事業者の名称や違反の内容などが公表されるため、企業の信用や事業活動に大きな影響を及ぼす可能性があるでしょう。
また、指導や勧告を通じて、減額された下請代金の返還など、下請事業者が受けた不利益の原状回復を求められることもあります。
場合によっては、下請事業者に対して民事上の損害賠償責任を負う可能性もあるので注意が必要です。
親事業者が下請法違反をしないための3つのポイント
下請法違反を未然に防ぐためにも、以下で紹介する3つのポイントをおさえておきましょう。
- 親事業者・下請事業者の意味などを理解しておく
- 親事業者に課された義務と遵守事項を守るようにする
- あらかじめ企業法務が得意な弁護士に相談・依頼する
それぞれのポイントについて、詳しく解説します。
1.親事業者・下請事業者の意味などを理解しておく
下請法が適用されるのは、自社が「親事業者」に該当し、取引先が「下請事業者」に該当する場合です。
親事業者または下請事業者に該当するかどうかは、取引の内容や資本金の規模によって決まります。
具体的には、以下の4つのケースに分類されます。
親事業者 | 下請事業者 |
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事前に要件を確認し、該当する取引が下請法の適用対象となるか理解しておきましょう。
2.親事業者に課された義務と遵守事項を守るようにする
下請法の適用を受ける取引をおこなう場合、親事業者に課された義務と遵守事項を適切に守りましょう。
違反すると罰金が科される可能性があるほか、指導や勧告を受けることもあります。
重大な違反があった場合には、企業名と違反事実が公表されてしまうかもしれません。
そのため、事前に親事業者としての責任を十分に理解し、適正な取引をおこなうことが重要です。
3.あらかじめ企業法務が得意な弁護士に相談・依頼する
下請法を遵守するためには、あらかじめ企業法務を得意とする弁護士に相談・依頼し、事前にリスクを回避することが有効です。
弁護士に依頼することで、以下のようなサポートを受けることができます。
契約書のリーガルチェック
契約書の内容が下請法に抵触していないか精査してもらえます。
必要に応じて、適切な修正案を提示してもらうことも可能です。
トラブル発生時の対応
下請事業者との間でトラブルが発生した際、適切な対応策についてアドバイスを受けられます。
法改正への対応
下請法が改正された場合、新しいルールに対応するための契約書の見直しや、取引先との適正な契約手続きについてアドバイスを受けられます。
さいごに|下請事業者と取り引きをする際は下請法を守るようにしよう!
下請法における「下請事業者」と取引をおこなう場合、親事業者は4種類の義務と11種類の遵守事項に違反してはなりません。
もし違反すると、罰金を科されるだけでなく、指導や勧告を受ける可能性があります。
義務と遵守事項の内容をしっかりと確認して、違反をしないように気をつけましょう。
なお、リスクを回避するためには、企業法務を得意とする弁護士に都度相談するのがおすすめです。
「企業法務弁護士ナビ」を利用すれば、企業のニーズに応じて、企業法務を得意とする弁護士を簡単に探せます。
身近に相談できる弁護士がいないようであれば、ぜひご活用ください。

