事業承継M&Aを利用する5つのメリットと想定される3つのデメリット

阪神総合法律事務所
曾波 重之
監修記事
事業承継M&Aを利用する5つのメリットと想定される3つのデメリット

事業承継にはさまざまな方法があります。親族や従業員への承継などが、一般的によく知られた方法です。

しかし、近年はM&Aによる事業承継という手段を選択する人が増えています。

M&Aというと、合併や買収により自分の企業がなくなってしまうような、ネガティブなイメージを持たれる方もいるでしょう。

しかし実際には、M&Aを利用した事業承継は、売手側の企業にとって大きなメリットがあります

親族や従業員への事業承継が難しいという方も、この方法を選択肢に入れれば、事業承継が可能になるケースは少なくないはずです。

また、買手企業との条件交渉によっては、社員の継続的な雇用の保証なども実現できるかもしれません。

この記事では、M&Aが事業承継の方法としてなぜ有効なのか、どのような手順で行われるのかについてご紹介します。

事業承継でM&Aを活用する5大メリット

事業承継でM&Aを活用することには、以下で示すような5つのメリットが存在します。

後継者問題が解決する

事業承継にM&Aを活用することによって、後継者問題が解決します。

以前は親族への承継や、親族外の優秀な従業員などに事業を承継させるというのが主な方法でした。

しかし、これらの場合、承継してくれる人がいないと、自動的に廃業せざるを得ない状況になってしまいます。

一方でM&Aを利用した場合、世の中の多くの企業が、事業を承継してくれる候補者となります。

M&Aにおいては、買手側の企業も自社の拡大を念頭に置いて買収を検討しています。

つまり、事業承継自体がしっかりと行われ、さらに今後も事業が発展していく可能性に期待することができるのです。

従業員の雇用を維持できる

M&Aを利用した事業承継では、買手側の企業と事前にしっかり交渉・調整をすれば、従業員の雇用をその後も維持していくことが可能です。

労働条件などはM&Aの契約書内に盛り込まれることになり、買手企業の体制に合わせていくという場合が少なくありません。

しかし、ここで急激な変化が起きると、従業員の生活や心情などに大きな影響を与えてしまいかねません。そこで、一定の移行期間を作り、緩やかに体制変更を行うことも可能です。

このように、M&Aを行うからといって従業員が失職してしまうような状況は、基本的には避けることが可能です。

ただし、買手企業を選択する際には、そうした面も考慮して決定することがポイントになります。

顧客との取引関係を維持できる

M&Aを行うからといって、既存の取引先との関係が消滅するわけではありません。

むしろ、買手側企業は、売手側企業が持つ自社にない取引先のネットワークに魅力を感じることは大いにあるのです。

もちろん取引先企業には、M&A を行う旨は報告する必要があります。

しかし、あまり伝えるのが早過ぎると、M&A をするといううわさが広まり、悪影響が出る可能性もあります。

したがって、適切なタイミングで伝えることが肝心であり、そうして維持した信頼関係によって、その後も取引関係を続けることが可能になります。

事業がさらに発展する可能性がある

M&Aにおける買手側企業は、自身の企業をさらに成長させるための投資としてM&A を行います。

売手側の事業をさらに発展させて自社の業績アップを目指す、意欲ある買手企業に出会うことも可能でしょう。買手企業とのシナジー効果で、事業が急速に発展する可能性もあります。

売却資金を得ることができる

事業をたたむことを決意し、廃業の選択を決定した場合、多くの費用がかかることになります。

なぜなら、設備の解体を行ったり、税務処理を行ったりする必要があるからです。

一方で、M&Aによる事業承継では、費用を補って余りある創業者利潤により、多額の資金を得ることも可能です。

また、銀行から借り入れがあった場合などでも、買手側の企業が引き継いでくれる場合もありますし、売却資金によって支払う場合もあるので、安心してリタイアすることができるのです。

M&Aのデメリット3つ

M&Aにはメリットばかりがあるわけではありません。ここでは3つのデメリットを紹介いたします。

従業員の理解・同意が必要

事業譲渡によって事業承継がなされた場合、合併や会社分割のような包括承継とは異なるため、従業員の異動などに対して個別の同意が必要になります。

逆に言えば、従業員の同意がなければ異動させることはできないので、事前に理解を得ておくことが重要になります。

合意に時間がかかる場合がある

M&A は、買収企業側にとってみれば、大きな資金が必要となるリスクのある投資であり、交渉にあたっては数年の期間を要する場合もあります。

事業承継の手続きのなかでは、トップ同士の面談などもありますが、これは基本的に相互の信頼醸成を目的としたものであり、何度も繰り返し行われることも少なくありません。

また、各種調査や条件のすり合わせなど、時間を要する作業はいくつもあります。

M&A による事業承継では、合意に時間がかかる可能性があることは、あらかじめ念頭に置いておかなければなりません。

売却後に事業価値が下がる可能性がある

必ずしも、売却後に順調な事業の発展が望めるとは限りません。

買手側企業とのシナジー効果がうまく生まれなかったり、従業員がなじまなかったりすることにより、会社としての競争力や価値が下がることも考えられます。

また、例えば買手側企業の不祥事などが起きると、売手側企業も巻き込まれる形で影響を受ける可能性があります。

そうした懸念材料についても、十分に考慮しておく必要があります。

M&Aによる事業承継の流れ

M&Aには主に6つの段階があります。その大まかな流れをご紹介します。

①相談先の決定

M&A を検討していく上で非常に重要なのが、この相談先の決定です。M&A で合意に至るまでには、法務、財務、労働条件など、さまざまな専門的知識が必要になります。

また、条件交渉も複雑になることが多く、そもそもの問題として買手企業を見つけるのも独力では困難でしょう。

そこで重要になるのが、M&A に関するアドバイスを専門的に行う相談先です。

具体的には、弁護士税理士公認会計士金融機関M&A専門業者などがあります。

信頼できる専門家を自分のチームに加えることが、M&A成功への第一歩です。

②売却先の選定

次に行うのが、売却先の選定です。

それにあたっては、どのような企業に売却したいのか、どのような条件を付け加えておきたいのか、決定する必要があります。

特に従業員の雇用条件などについては、パワーバランスが買手側企業のほうに傾きやすいため、慎重な選定が必要です。

こうした条件などに基づいて、候補先企業がリスト化されていきます。

すべての条件に噛み合う企業が見つからない場合は、条件に優先順位をつけて吟味していくことになります。

③トップ面談

買手側企業がM&Aに興味を示した場合、トップ面談が行われることになります。

トップ面談では、質疑応答や経営理念の確認などを行っていきます。

重要なポイントとしては、このトップ面談が、信頼を醸成するためのプロセスであるということです。

事業を譲渡する側にとっては、これまで雇ってきた大切な従業員や、既存の取引先との信頼関係を引き継いでもらうことになるので、信頼できる相手なのかどうかを見極める重要な機会となります。

したがって、一回で終了というわけではなく、トップ面談は何度も回数を重ねることがあります。

この場を通じて、双方の考え方をすり合わせていきます。

④意向表明書・基本合意書の作成

交渉である程度、条件のすり合わせができ、基本的な合意に至った場合には、基本合意書を締結することになります。

ここでいう基本的な合意とは、譲渡価格や、経営者の処遇、デューデリジェンスでの協力などについてです。

基本合意書は、あくまでもデューデリジェンスを行う前の合意文書です。そのため、この後、諸条件に変更が出てくることも十分に考えられます。

したがって、基本合意書のうち、譲渡金額など変更が予定されているものには、法的拘束力を持たせないこともあります。

他方、秘密保持義務や、独占交渉権については、法的拘束力を持たせることが通常です。

⑤企業価値算定(デューデリジェンス)

基本合意がなされた後は、売手側企業に対する価値算定、いわゆるデューデリジェンス(DD)が行われます。

デューデリジェンスでは、法務、財務、ビジネス、ITなどの分野ごとに調査が行われます。

これにより、最終契約に向けたより詳細な状況把握や、基本合意条件の裏付けをしていきます。

また、そのほかにも、隠れたリスクなどがないかどうか詳しく調べられるので、売手側の企業は多くの資料を用意する必要があります。

⑥契約締結

すべてのプロセスが終了し、問題がなければ最終的な契約締結となります。

最終契約では、デューデリジェンスの結果などをもとに、一部条件の変更などが行われる場合もあります。

事業承継M&Aは専門家に相談するのが安心

M&Aでは、法務や財務などに関する専門的な知識が必要になるため、独力で成功させるのは簡単ではありません。

特に、法的な問題へ対処しなければならない場面は多く、従業員の異動の際の労働条件などはM&A の中でも大変重要な分野の一つです。

また、それらのためにたくさん資料を作成する必要があります。専門知識を持たない場合、これらをミスなく進めるのは非常に難しいでしょう。

もし、これらの手続きに問題があった場合、のちのち大きなトラブルにもなりかねません。

そこで頼りになるのが専門家です。M&Aに対応してくれる専門家としては、

  • 弁護士
  • 税理士
  • 公認会計士
  • 金融機関
  • M&A業者

などが挙げられます。

特に弁護士は、M&Aに関して、もちろん法的な部分を含め、総合的にサポートをしてくれます

あなたのM&Aのビジョンやフェーズに合わせた解決策を提示し、対応を行ってくれるでしょう。

M&A業者と併用し、より確実性を高めるケースもあります。

弁護士に相談する場合は、自身に合ったところを探すのが重要です。

M&A 分野で実績が豊富な事務所へ連絡してみましょう。

まとめ

幅広い視野で後継者を探すことができるM&Aの事業承継は、大きな魅力を秘めています。

廃業と比較して、従業員にも創業者にも多くのメリットがあるのが特長です。

一方で、M&A による事業承継を、自社のみの力で行うのは簡単ではありません。法務や財務の専門知識を多く必要とし、交渉力も求められます。

また、トラブルになった場合、買収企業側だけでなく、取引先、従業員など多くの利害関係者に影響を与えることになってしまうので、事前の準備を丁寧にする必要があります。

専門家の手を借りれば、こうした問題をクリアしてM&Aの成功に向かって進んでいけます。

したがって、まずは信頼して相談できる専門家を見つけることがカギとなります。

M&Aの成功までには、長い時間を必要とするケースも多いです。

専門家とチームを組み、腰を据えてじっくりと準備を進めていきましょう。

【関連記事】CFO採用に苦戦する企業が多数!CFOを採用できない根本原因と打開策

監修記事
阪神総合法律事務所
曾波 重之 (大阪弁護士会所属)
労務問題や債権回収など中小企業で生じる問題に対処し、社内全体の法務に対する感覚が上がるようにサポートしている。IT系国家資格も有する弁護士。
この記事をシェアする
アシロ編集部
編集部
本記事は法律相談ナビを運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。
※法律相談ナビに掲載される記事は、必ずしも弁護士が執筆したものではありません。本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。
弁護士の方はこちら