借金が多く、返済に苦しんでいる方の中には、「借金救済制度」を謳うネット広告を目にし、どういうものか気になっている方もいるのではないでしょうか。
借金救済制度とは、もともと存在する「債務整理」を言い換えたものです。
そのため、借金救済制度は正当な制度であり、怪しいものではありません。
ただし、「『国が認めた』という表現が誤解を生む」「『なぜ借金を減額できるのか』という肝心な説明がなされていない」などの問題点が指摘されています。
制度を利用するなら謳い文句に踊らされず、制度を正しく把握する必要があるでしょう。
本記事では、借金救済制度を怪しいと思ったときに知るべき基本情報について解説します。
弁護士とトラブルになった場合の対処法も紹介しているため、ぜひ最後までチェックしてください。
借金救済制度とは?「債務整理」を言い換えたもの
借金救済制度とは、「債務整理」を言い換えたものです。
「借金救済制度」と聞くと怪しさを感じるかもしれませんが、債務整理はもともと存在する制度であり、実際に多くの人が利用しています。
たとえば以下は、令和4年の破産事件・民事再生事件の受理件数です。
事件名 | 裁判所の受理件数 |
民事再生事件(個人再生) | 8,982件 |
破産事件(自己破産) | 7万602件 |
【参考元】令和4年 司法統計年報概要版 1民事・行政編|最高裁判所事務総局
このように、年間で8万人近くの人が個人再生または自己破産をおこなっていることがわかります。
なお、債務整理には「任意整理」「個人再生」「自己破産」という3つの手続きがあります。
それぞれの概要は以下のとおりです。
任意整理 | 将来発生する利息をカットし、借金総額を減らすことを目的とした手続き。 任意整理後は3〜5年程度かけて返済していくのが一般的。 |
個人再生 | 借金総額を1/5〜1/10程度に減額してもらい、残りを3〜5年かけて返済していく手続き。 整理対象は選べないが、自己破産とは異なりマイホームを手放さずにおこなえる。 |
自己破産 | 全ての借金をゼロにする手続き。 メリットは大きいが、家や車、100万円以上の現金など、その分失うものが多い。 |
債務整理のメリット・デメリットについては、以下の記事でわかりやすく解説していますので、あわせてチェックしてください。
【関連記事】債務整理とは?するとどうなる?メリット・デメリットをわかりやすく解説
借金救済制度に関して指摘されている主な問題点
借金救済制度は違法性のない正当な制度です。
しかし、以下のようにいくつか問題点が指摘されているのも事実です。
- 「国が認めた」という誤解を生む表現が使われることがある
- 借金減額の仕組みが具体的に説明されていないことがある
- 運営元や広告主が明かされていないことがある
ここでは、借金救済制度に関して指摘されている主な問題点について解説します。
1.「国が認めた」という誤解を生む表現が使われることがある
借金救済制度について指摘されている問題のひとつは、「国が認めた」という誤解を生む表現が使われることがある点です。
「国が認めた」という表現が使われる理由は、宣伝文句による印象づけです。
また、「自己破産」「債務整理」といった単語がもつ悪いイメージをカバーする目的もあるでしょう。
個人再生・自己破産については、法律に定めがあり裁判所が関与する手続きであることを考えると、たしかに「国が認めた」といえるかもしれません。
たとえば個人再生について、民事再生法は以下のように定めています。
(目的)
第一条この法律は、経済的に窮境にある債務者について、その債権者の多数の同意を得、かつ、裁判所の認可を受けた再生計画を定めること等により、当該債務者とその債権者との間の民事上の権利関係を適切に調整し、もって当該債務者の事業又は経済生活の再生を図ることを目的とする。引用元:民事再生法|e-Gov法令検索
しかし、ネット上で「国が認めた救済制度」という単語を目にし、これまでになかった制度が新設されたと勘違いする人は一定数いるでしょう。
その結果、結局債務整理のことである点や、デメリットを知らずに依頼してしまうケースが懸念されるのです。
「国が認めた」というフレーズは、あくまでも宣伝文句であることを念頭に置いておく必要があるでしょう。
2.借金減額の仕組みが具体的に説明されていないことがある
借金減額の仕組みが具体的に説明されない場合があることも、問題点として挙げられます。
「借金減額」といっても、それだけでは元本と借金総額のうち、何が減るのかがわかりません。
また、中には借金を減らせるというメリットだけを過剰にアピールして、肝心なデメリットやなぜ借金が減るのかについて説明していない広告もあります。
債務整理は、借金で困っている人が生活を立て直すための制度です。
ケースにもよりますが、たとえば任意整理によって将来的に発生する利息をカットし借金総額を減らしたり、個人再生によって元本自体を大幅に減額したりといったことが可能です。
そのほか、自己破産をおこない免責が認められれば、全ての借金から解放される可能性もあります。
しかしブラックリスト入りすることや、保証人とトラブルになったり多くの財産を失ったりといったデメリットも存在するため、軽い気持ちで利用できるものではありません。
広告の謳い文句に踊らされ、内容をよく知らないまま依頼してしまうのではなく、しっかり把握したうえで利用を検討する必要があるでしょう。
3.運営元や広告主が明かされていないことがある
サイトの運営元や広告主が明かされていない場合があることも、借金救済制度で指摘されている問題のひとつです。
債務整理の手続きをおこなえるのは、弁護士と司法書士、債務者本人のみです。
そのため、債務整理に関するサイトや広告の運営元・広告主は、通常法律事務所や司法書士事務所になっています。
しかし、以下のようなケースでは、手続きを依頼するにしても誰が対応してくれるのかがわからず、権限をもたない者が手続きをおこなう被害も実際に出ています。
- そもそも運営元・広告主の記載がない
- サイト内に弁護士・司法書士事務所名の記載がない
広告会社が法律事務所などから依頼を受けてサイトを運営しているケースでも、通常であれば依頼を担当する法律事務所名が記載されているべきです。
そのため、運営元が全く記載されていない場合は疑ってかかるべきでしょう。
なお、借金救済制度関連のサイトによく設置されている「借金減額診断」にも注意が必要です。
借金減額診断とは、制度を利用した場合にどの程度借金を減額できるかをシミュレーションするためのツールであり、それ自体は怪しいものではありません。
しかし、中には減額診断をおこなうだけで減額できると解釈できるように説明されていることもあります。
また、診断の際に入力した電話番号やメールアドレス宛てに、後日連絡が入ることがあります。
運営元が法律事務所であればよいですが、注意すべきは悪質な業者が運営しているケースです。
しつこく債務整理をすすめてくる可能性があり、折れて契約してしまうことでトラブルに発展するおそれがあります。
借金救済制度の広告を見て依頼するかどうか迷ったときのポイント
借金救済制度の広告を見て依頼するかどうか迷ったときは、以下のポイントから判断することをおすすめします。
- そもそも債務整理が必要かどうか把握する
- 費用と効果のバランスが適正かを確認する
- 少しでも不安があるなら公的機関で相談する
それぞれについて、以下で解説します。
1.そもそも債務整理が必要かどうか把握する
そもそも債務整理が必要かどうかを把握しましょう。
借金があるからといって、債務整理が最善とは限りません。
また、借金救済制度の広告を見て問い合わせると、債務整理が不要であるにもかかわらず債務整理をすすめられたり、自己破産すべきケースで、手続きが比較的容易で利益の出る任意整理を選択させられたりといったリスクがあります。
運営元の言いなりにならないためには、自分で債務整理の必要性を理解しておくべきです。
債務整理が必要かどうかは、以下のポイントから判断するとよいでしょう。
債務整理が必要なケース | ・借金総額が年収の1/3を超えている ・返済が滞り、一括請求されてしまった ・返済のために借入を繰り返している ・返済額の多くが利息にとられ、元本が減らない ・返済が長期にわたっており、いつ完済できるかわからない ・就業状況が変わり、返済が難しくなった |
債務整理が不要なケース | ・家計を見直せば返済できる ・ブラックリスト入りしたくない |
債務整理が必要なケースに該当するときは、自力で借金を返済できなくなっている可能性が高いため、何らかの対処が必要でしょう。
とくに借金総額が多く、返済と借入を繰り返しているようなケースは、借入ができるうちはまだよいですが、限度額に達し借入ができなくなったときに生活が破綻します。
このような状態であれば、債務整理を検討すべきでしょう。
一方、家計を見直せば十分自力で返済が可能な場合や、車の購入や奨学金の保証人になる予定があるなどでブラックリスト入りを避けたいときは、債務整理をしないほうがよいかもしれません。
2.費用と効果のバランスが適正かを確認する
債務整理をおこなうなら、費用と効果のバランスを確認したうえで依頼しましょう。
ケースによっては、減額した金額よりも弁護士費用のほうが高額になることがあるためです。
弁護士費用が多少高くついても、「債務整理を選択したことで一括請求を避けられた」「精神的に救われた」というように、依頼者にとってプラスになることがあれば十分効果はあったといえるかもしれません。
しかし、明らかに弁護士費用のほうが高額になるときは、債務整理を見送ったほうがよいこともあるでしょう。
任意整理を弁護士に依頼する際の費用相場は、1社につき5万円〜15万円程度です。
仮に以下の条件で依頼した場合、減額した金額よりも弁護士費用のほうが高額になり、いわゆる「費用倒れ」の状態になってしまいます。
・債務者の数:5社
・弁護士費用:1社につき10万円弁護士費用(合計)10万円×5社=50万円
差額:40万円ー50万円=△10万円
上記はあくまでも例であり、実際にこのような状態になるとは限りません。
また、費用倒れの可能性があれば弁護士が説明してくれると考えられるため、それほど神経質になる必要はないでしょう。
ただし、費用については依頼前によく確認しておくことをおすすめします。
3.少しでも不安があるなら公的機関で相談する
債務整理を依頼することに少しでも不安を感じる場合は、以下の公的機関で相談するのがおすすめです。
相談窓口 | 公式URL |
法テラス | https://www.houterasu.or.jp/chihoujimusho/ |
弁護士会 | https://www.nichibenren.or.jp/legal_advice/search/center.html |
法テラスとは、法的トラブルを解決するための国の機関のことで、経済的に困っており弁護士への依頼が難しい人を対象に、無料相談や弁護士・司法書士費用の立替えなどをおこなっています。
無料相談はひとつの問題につき3回まで利用でき、立て替えてもらった弁護士・司法書士費用は分割での返済が可能です。
ただし、法テラスを利用するには以下の条件を満たす必要があります。
- 収入・資産が基準以下
- 勝訴の見込みがある
- 「民事法律扶助」の趣旨に適している
あくまでも経済的に困っている人が対象であるため、収入や資産に基準が設けられているのです。
たとえば、東京23区や大阪市などの地域に居住している方の収入・資産基準は以下のとおりです。
世帯人数 | 収入基準 | 資産基準 |
1人 | 20万200円 | 180万円以下 |
2人 | 27万6,100円 | 250万円以下 |
3人 | 29万9,200円 | 270万円以下 |
4人 | 32万8,900円 | 300万円以下 |
また、法テラスを利用することによって勝訴の見込みがあることも条件のひとつです。
たとえば自己破産をおこなうケースなら、免責が認められる見込みがなければなりません。
そのほか、「経済的に困っている人が法的トラブルを解決できるようサポートする」という民事法律扶助の趣旨に反していないかどうかも審査のポイントです。
借金問題を解決するためであれば問題ありませんが、報復や宣伝のために利用しようとしている場合は援助の対象になりません。
なお、法テラスだけではなく、各弁護士会でも法律相談がおこなわれています。
上記のURLから最寄りの弁護士会を検索し、相談に進みましょう。
借金救済制度の広告をめぐり弁護士とトラブルが生じた場合の対処法
借金救済制度の広告をめぐって、弁護士とトラブルになるケースも少なくありません。
「弁護士だから正しい」というわけではなく、弁護士にもさまざまな人がいるのです。
依頼した弁護士との間にトラブルが発生したときの対処法は以下のとおりです。
- 弁護士が所属している弁護士会に苦情を入れる
- ほかの弁護士にセカンドオピニオンを求める
それぞれ詳しく解説します。
1.弁護士が所属している弁護士会に苦情を入れる
弁護士とトラブルになったときの対処法のひとつは、その弁護士が所属している弁護士会に苦情を入れることです。
各弁護士会には、弁護士へのクレームを受け付けるための窓口が設置されています。
「弁護士とトラブルになった」「弁護士にクレームを入れたいが、どこに言えばよいかわからない」というときは、事務所のホームページや日本弁護士連合会の「弁護士検索」などで所属している弁護士会を調べ、以下の全国の弁護士会・弁護士連合会から問い合わせましょう。
弁護士だからといって、間違ったことをするはずがないとは言い切れません。
納得できないことがある場合は、連絡してみることをおすすめします。
【参考元】
全国の弁護士会・弁護士会連合会|日本弁護士連合会
弁護士検索|日本弁護士連合会
2.ほかの弁護士にセカンドオピニオンを求める
弁護士とトラブルになったときは、ほかの弁護士にセカンドオピニオンを求めることをおすすめします。
同じ業務でも、弁護士によって見解や対応が異なるためです。
業務によっては弁護士の実力が結果に大きく影響するものもあるほか、弁護士との相性の問題もあります。
たとえば債務整理の場合、同じように弁護士に依頼しても、以下のような違いが出ることがあります。
任意整理 | ・返済額をどこまで減額できるか ・過払い金を取り戻せるか ・債権者から訴訟を提起されないか ・過払い金請求の強制執行まで依頼できるか |
個人再生 | ・民事再生委員がつくか |
自己破産 | ・破産管財人がつくか(管財事件・同時廃止事件のどちらになるか) ・免責が認められるか |
任意整理では、主に返済額をどこまで減額できるか、過払い金を取り戻せるかといった部分に差が出ます。
また、放置している間に債権者から訴訟を提起されてしまうケースもあるため、対応が遅いと感じたらセカンドオピニオンを検討してもよいでしょう。
個人再生・自己破産については、民事再生委員や破産管財人がつくかどうかによって費用が何十万円単位で変わります。
そのほか、免責が認められるかどうかも依頼する弁護士によりますが、そもそも免責不許可事由に該当しているというだけで依頼を断られるケースもあり、肝心なところで力量差が出やすいといえるでしょう。
このように、依頼する弁護士によっては異なる結果になる可能性が十分にあります。
そのため、今依頼している弁護士ではうまくいかなくても、別の弁護士なら納得のいくかたちで対応してもらえる可能性があるでしょう。
弁護士に対して不満や違和感を抱いたら、依頼後であってもほかの弁護士に相談してください。
さいごに|借金救済制度とは従来からある「債務整理」を言い換えたもの
本記事では、借金救済制度を怪しいと感じたときに、最初に知るべき基本情報を解説しました。
借金救済制度とは、もともとある制度である「債務整理」のことです。
「借金を減らせる」「ゼロにできる」と聞くと怪しさを感じるかもしれませんが、制度自体は正当なものであり、怪しいものではありません。
ただし、借金救済制度については「表現が誤解を生みやすい」「仕組みが具体的に説明されていない場合がある」といった問題点も指摘されています。
借金救済制度を利用するかどうかは、債務整理の必要性があるか、費用と効果のバランスはどうかといった観点から検討することをおすすめします。
また、万が一依頼している弁護士とトラブルになったときは、弁護士会に苦情を入れたりほかの弁護士にセカンドオピニオンを求めたりといった対応を試みましょう。
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