過払い金請求とは、2010年以前の法改正以前に、現行の法律では違法となる金利で貸し付けられていたお金について、払いすぎた利息を取り戻すための手続きです。
貸金業者などに対して過払い金請求をする際は、弁護士を通して直接交渉する手段が一般的です。
しかし、交渉で希望通りの過払い金の返還に応じてもらえなかった場合は、貸金業者に対して裁判を起こさなくてはならないケースもあります。
過払い金請求をする際、必ず裁判が必要になるわけではありませんが、やむを得ず裁判に発展する場合もあると覚えておきましょう。
本記事では、過払い金請求のために裁判を起こした場合の、期間や回数などについて詳しく解説します。
あわせて、過払い金請求自体にかかる弁護士費用の相場や、裁判を起こした際にかかる費用やデメリットなども紹介します。
ぜひ参考にしてください。
過払い金請求裁判の期間は長い?一般的な流れと期間を解説
過払い金請求で裁判を起こす場合は、弁護士に相談・依頼してから過払い金を返還してもらえるまでおよそ1年程度の期間がかかります。
過払い金請求の裁判の一般的な流れは、以下のとおりです。
- 弁護士に相談・依頼
- 【1〜3ヵ月程】取引履歴の開示請求と引き直し計算
- 【1〜2ヵ月程】賃金業者と交渉
- 【6ヵ月〜1年程度】過払い金返還請求訴訟(裁判)
- 【1〜3ヵ月程】過払い金の返還
- 【1週間程度】過払い金の入金
それぞれの流れについて、詳しく見ていきましょう。
①弁護士に相談・依頼をする
貸金業者に対して過払い金請求をする場合は、まずは弁護士や司法書士などの専門家に相談しましょう。
過払い金請求は、仕組み上は自分で貸金業者と交渉することも可能です。
しかし、過払い金請求においては法律に関する知識や経験が必要となります。
そのため、確実に適切な金額の過払い金を取り戻すためには、専門家に協力をあおぐのがベストといえます。
過払い金請求を検討している方は、まずは法律事務所に相談して、どの程度の過払い金の返還が見込めるか確認してみましょう。
ちなみに、過払い金請求など借金問題に関する相談は多くの法律事務所が無料で応じてくれます。
②取引履歴の開示請求と引き直し計算をして過払い金を算出する
過払い金請求を弁護士に依頼すると、まずは貸金業者からの借入や返済などの取引履歴を取り寄せてくれます。
その後、貸金業者から取り寄せた取引履歴を元に、払いすぎた利息はいくらかを算出する「引き直し計算」をおこないます。
正しく引き直し計算をしないと、適正な金額の過払い金を取り戻せないため、経験豊富な弁護士におまかせしましょう。
この引き直し計算には、通常1ヵ月〜3ヵ月程度の期間がかかります。
③賃金業者と交渉して過払い金の返還を請求する
引き直し計算によって過払い金の金額が算出できたら、貸金業者に対して過払い金返還の交渉をおこないます。
過払い金請求を依頼した弁護士が、貸金業者に対して「過払い金返還請求書」を送付し、取引履歴をもとに算出した過払い金を支払ってくれるように交渉します。
貸金業者が真摯に交渉に応じてくれれば、裁判を起こさずに過払い金を取り戻せます。
貸金業者との交渉は、1ヵ月〜2ヵ月程度に及ぶケースが多いです。
④和解できない場合は過払い金返還請求訴訟(裁判)を提起する
貸金業者が交渉に応じてくれない場合や、交渉の結果、希望通りの金額で和解できなかった場合は、貸金業者を相手取って過払い金返還請求訴訟を提起します。
裁判は、裁判所に訴状を提出して提起しますが、裁判の手続きは全て過払い金請求を依頼した弁護士が代行してくれます。
また、過払い金請求をめぐる裁判においては、1ヵ月に1回程度裁判所での口頭弁論が行われますが、基本的に弁護士が代理で出廷してくれるため、依頼人が裁判について何らかの作業をする必要はないケースが多いです。
過払い金の返還をめぐった裁判は、判決が出るまでに一般的に6ヵ月〜1年ほどの期間を要します。
⑤和解もしくは判決後に過払い金が返還される
裁判によって主張が認められて勝訴の判決が出たあとは、およそ1ヵ月〜3ヵ月ほど経過すれば貸金業者から過払い金が返還されます。
裁判を起こさずに交渉の段階で貸金業者が過払い金の支払いに応じてくれた場合も、和解から1ヵ月〜3ヵ月ほどで過払い金が返還されるケースが一般的です。
実際に入金されるまでの期日は、貸金業者との和解内容や判決に記載されるため確認しておきましょう。
⑥過払い金が入金される
和解や判決によって確定した過払い金は、まずは弁護士が受け取ります。
弁護士が過払い金を受け取ったあと、その中から弁護士報酬を差し引いた金額が、指定した銀行口座に振り込まれます。
一般的に、弁護士は過払い金を受け取ってから1週間ほどで入金してくれるでしょう。
詳しい入金日などは、弁護士に確認してください。
裁判の回数はだいたい4~5回
過払い金返還請求をめぐって裁判を起こした場合の審理回数については、とくに取り決めはありません。
しかし、裁判が終了するまでに4〜5回ほど裁判が開かれるケースが一般的です。
実際にどれくらいの回数で判決を出すかは裁判所の判断によります。
裁判に発展したということは、貸金業者がすんなりと過払い金の返還に応じてくれなかったケースがほとんどなので、1〜2回程度の審理で裁判が終わる可能性は低いでしょう。
過払い金裁判が長引く可能性があるケース
過払い金をめぐって起きた裁判は、通常6ヵ月〜1年ほどの期間を要します。
しかし、以下のようなケースではそれ以上長引く可能性があります。
- 相手方とのやりとりに争点がある場合
- 相手方が控訴した場合
それぞれのケースについて、詳しく解説します。
相手方とのやりとりに争点がある場合
過払い金返還の裁判は、相手方の貸金業者とのあいだに争点がある場合は長期化しやすいです。
過払い金の返還請求が裁判まで発展した場合は、貸金業者側としても「過払い金を返す義務はない」「契約者側の希望に全て応じる義務はない」と主張するだけの理由や証拠を持っているケースもあるでしょう。
そういった場合は、過去の取引履歴について争点が生じ、裁判がスムーズに進みづらい可能性があります。
たとえば、過払い金裁判においては以下のように「取引の分断」が争点となりやすいです。
- 2006年6月に借り入れた借金を2009年3月に完済した
- 2009年6月に再度借り入れ、2015年3月に完済した
1と2の取引が同一であるとみなされる場合は、全ての借金について過払い金を請求できる可能性があります。
一方、1・2の取引が同一でない(分断されている)場合は、1の取引については契約者が過払い金請求をする権利が時効となっているため、貸金業者は2の取引に関する過払い金の返還にのみ応じればよいとされます。
このように、過去の取引について争点がある状況では、契約者側にも過払い金返還義務の存在や適正な金額を証明するために多くの証拠を提出する必要があります。
また、相手方が証拠に対して反論や新たな証拠を提出することもあるため、審理が繰り返され、裁判が長期化しやすいといえるでしょう。
相手方が控訴した場合
過払い金返還請求の裁判が長期化するもう一つのケースは、相手方が控訴した場合です。
控訴とは、第一審の裁判の判決に不服を持った一方が、第一審の裁判所より上級の裁判所に対して申し立て、再度の裁判を要求する行為です。
裁判において勝訴を勝ち取り、希望通りの過払い金の返還が第一審の裁判所から認められたとしても、貸金業者側が控訴してくる可能性があります。
控訴によって判決が完全に覆る可能性は少ないですが、貸金業者側の主張の一部が認められて過払い金の金額が減る恐れもあります。
また、裁判自体が長期化する結果となるため、精神的な負担が大きくなってしまうでしょう。
このように、貸金業者側が控訴してくると、裁判が長引き、当初の想定よりも過払い金の受け取りが遅れてしまう可能性が高まります。
過払い金請求で負ける可能性はある?
結論からお伝えすると、弁護士などの専門家に依頼しておけば、過払い金請求の裁判で負ける可能性は低いといえます。
弁護士による引き直し計算が正確にできており、過払い金が返還される見込みがある場合は、基本的に過払い金請求が正当な権利として認められます。
過払い金返還請求をはじめとした借金問題の解決実績が豊富な弁護士であれば、裁判まで発展せずに貸金業者との交渉による和解をとってくれるケースも多いでしょう。
万が一、交渉が難航して裁判に持ち込まなくてはいけなくなったとしても、適切な証拠をそろえて裁判所に提出することによって、ほぼ期待通りの過払い金を取り戻してくれるはずです。
過払い金請求の裁判において争点となりやすい「取引の分断」や「時効」などがある場合でも、裁判で有利となるように事前に対策をとってくれるため、弁護士のような専門家に一任するのがおすすめです。
過払い金請求の裁判で負けないためのポイント
過払い金請求の裁判は、原告が有利であるケースが多く、勝訴して過払い金を取り戻すのはそこまで難しくないといえます。
とはいえ、確実に勝訴して、過払い金を全額取り戻すためには、以下の2つのポイントを押さえておくのがおすすめです。
- 過払い金返還請求の対応を得意とする弁護士に相談・依頼する
- できるだけ早めに行動を起こす
それぞれのポイントについて、以下で解説します。
過払い金返還請求の対応を得意とする弁護士に相談・依頼する
裁判に勝訴し、過払い金を全額回収するためには、過払い金返還請求の対応を得意とする弁護士に相談するのが何よりも重要です。
過払い金請求の手続き自体は、貸金業者に対して取引履歴を取り寄せて自分で引き直し計算をすれば、弁護士などの専門家に依頼せずに進められます。
また、貸金業者が交渉に応じてくれない場合でも、裁判所に提出する書類をしっかり用意すれば、自分で裁判を起こすことも可能です。
しかし、契約者本人が貸金業者に対して過払い金請求の交渉をしようとしても、高圧的な対応をとられたり、真摯に交渉に応じてくれなかったりする可能性があります。
また、裁判に持ち込む際も、書類の準備や裁判所への出席に非常な手間と労力がかかるため、過払い金を取り戻すモチベーションを維持するのは難しいでしょう。
その点、過払い金返還請求の対応を得意とする弁護士であれば、貸金業者との交渉や、裁判に必要な書類の準備、裁判所への出廷など過払い金請求の手続きをほぼ全て代行してくれます。
また、豊富な知識と経験により、確実に最大限の過払い金を取り戻してくれるでしょう。
過払い金をはじめとして借金問題に関する依頼であれば、初回の相談は無料で引き受けてくれる法律事務所も多いため、まずは相談してみるのがおすすめです。
できるだけ早めに行動を起こす
裁判を有利に進めて過払い金を確実に取り戻すためには、少しでも早めに弁護士に相談するのがおすすめです。
過払い金の返還請求は法律上認められている正当な権利ですが、請求権には時効が存在し、借金を完済してから10年以上経過している借金については過払い金の返還請求ができません。
そのため、手続き中の時効成立を防ぐためにも、少しでも早めに弁護士に相談するべきといえます。
また、過払い金請求を考えている貸金業者が倒産してしまうと、過払い金が取り戻せません。
2010年6月の法改正によって過払い金請求が増えた影響により、多くの消費者金融が倒産または経営危機に陥っています。
現在は運営が続いている貸金業者であっても、実は経営難となっていることも考えられます。
泣き寝入りとならないためにも、過払い金請求を検討している方は少しでも早めに行動を起こすべきといえるでしょう。
過払い金請求をする際にかかる弁護士費用の相場
過払い金請求を弁護士に依頼すると、およそ以下の費用がかかります。
費用項目 | 金額 |
---|---|
着手金 | 0〜4万円 |
報酬金 | 回収金額の20%以下 ※裁判に発展した場合は回収金額の25%以下 |
着手金とは、弁護士に過払い金請求を依頼した時点でかかる費用です。
着手金の金額は、法律事務所によって異なり、着手金は無料としている事務所も存在します。
万が一、過払い金請求に必要な証拠が揃わず、過払い金請求が失敗に終わった場合でも着手金は返金されないので注意しましょう。
報酬金とは過払い金請求が成功し、貸金業者に払いすぎた利息が取り戻せた場合に支払う費用です。
着手金と同じように、事務所によって報酬金の設定金額は異なります。
しかし、日本弁護士連合会の取り決めにより、報酬金は貸金業者から回収した過払い金の20%以下までと制限されています。
たとえば、貸金業者との交渉によって10万円の過払い金が回収できた場合は、着手金と報酬金の合計で2万円〜6万円ほどが弁護士費用としてかかります。
回収できた金額よりも弁護士費用が高くなって損になるというケースは少ないですが、実際に依頼する前に弁護士費用と回収金額の見積もりをとっておくのがおすすめです。
【参考】 債務整理の弁護士報酬のルールについて – 日本弁護士連合会
過払い金の裁判にかかる費用
過払い金請求が貸金業者と交渉による和解に至らず、裁判に発展した場合は以下のような費用がかかります。
- 収入印紙代:裁判を起こすのにかかる手数料
- 予納郵券代:貸金業者側に対して裁判所が訴状などの郵送物を送るための費用
- 代表者事項証明書の取得費用:訴訟を起こす相手である貸金業者の代表者に関する証明書
このように、裁判に発展した場合は手続き費用や時間もかさむことから、弁護士報酬は回収した過払い金の25%以下と増額します。
たとえば、貸金業者に対して裁判を起こして10万円の過払い金が回収できた場合は、着手金と報酬金の合計で2.5万円〜6.5万円ほどが弁護士費用としてかかります。
基本的に裁判に持ち込まれない方が弁護士費用も安く押さえられるため、「交渉で和解がとれた場合」と「裁判に持ち込まれた場合」それぞれでどの程度費用がかかるのか確認しておくのがおすすめです。
過払い金裁判にデメリットはある?
「過払い金請求はしたいけど、裁判にまで発展したら色々とリスクがありそうで不安」という方も多いのではないでしょうか。
基本的には、弁護士に依頼しておけば過払い金請求が裁判にまで発展したとしても大きなデメリットはないので安心してください。
過払い金請求が裁判に発展した場合にどのような影響があるのかについて、簡単に紹介します。
過払い金請求裁判をすることでブラックリストに載るということはない
過払い金請求が裁判にもつれこんだ影響で、ブラックリストになるというリスクはありません。
ブラックリストとは、滞納や債務整理などの事故情報が、個人の借金に関する情報を記録している信用情報機関に登録された状態のことを指します。
過払い金請求がきっかけでブラックリストになるのは「借金が残っている貸金業者に対して過払い金請求をおこない、取り戻した過払い金を充てても借金を完済できない場合」に限られます。
裁判を起こしたからといってブラックリストになる心配はないので安心してください。
過払い金の返済までの期間が長くなる
過払い金請求で裁判を起こすと、過払い金を手元に取り戻せるまでの期間が長くなってしまいます。
通常、過払い金請求は弁護士を通して貸金業者との交渉によっておこないますが、交渉によって和解となれば、弁護士への依頼から早くて3〜4ヵ月程度で過払い金を返還してもらえます。
しかし、貸金業者との交渉で和解ができずに裁判にもつれこんだ場合は、弁護士への依頼から過払い金の返還まで1年近くかかってしまうケースもあります。
過払い金請求をめぐった裁判は複数回の審理が必要となる可能性が高く、過払い金を取り戻すまでの期間が長引きやすいと覚えておきましょう。
弁護士費用が上がる
過払い金請求をめぐり裁判を起こす場合は、交渉のみで和解できた場合よりも弁護士費用が高くなってしまいます。
過払い金請求における弁護士費用の報酬金は、日本弁護士連合会の取り決めによって、最大でも「回収できた過払い金の20%まで」と決められています。
しかし、過払い金請求が裁判に発展した場合は、弁護士が受け取れる報酬金は最大で「回収できた過払い金の25%」です。
裁判を起こすにはさまざまな経費が必要となるうえ、手続きの期間も長くなるため、その分弁護士に支払う報酬は高くなる傾向があるので気をつけてください。
さいごに | 過払い金請求については弁護士に相談を!
過払い金請求は、通常弁護士を通して貸金業者と直接交渉をしておこないますが、交渉がうまく進まなかった場合は裁判を起こさざるを得ないケースがあります。
過払い金請求が裁判に発展すると、弁護士費用が高くなるうえ、過払い金を取り戻せるまでの期間が長引いてしまいます。
弁護士に依頼しておけば、裁判に発展したとしても代理人としてほとんどの手続きを代行してくれるため、自分の手間が増える心配はありません。
とはいえ、裁判を起こすことなく貸金業者との交渉によって過払い金を取り戻した方が、費用と期間の面でメリットが大きいです。
過払い金請求をスムーズに済ませるためには、少しでも早めに弁護士に相談をするのがおすすめです。
過払い金をはじめとした借金問題に関する相談であれば、無料で対応してくれる法律事務所も多いため、まずは話だけでも聞いてみましょう。