個人再生とは、裁判所の許可を得て借金額を最大10分の1まで減額する債務整理の一種です。
この個人再生は自己破産と異なり、住宅ローンがあっても持ち家を守れるというメリットがあります。
しかし、持ち家を守ることになった場合に住宅ローンをどのように返済するのかなどが気になる方もいるでしょう。
そこで本記事では、個人再生を検討している方に向けて、以下の内容について説明します。
- 個人再生をした場合の持ち家の取り扱い
- 個人再生の住宅ローン特則の基本事項
- 個人再生の住宅ローン特則を利用した場合の返済方法
- 個人再生の住宅ローン特則を利用するにあたっての注意点 など
本記事を参考に、個人再生をしたときの住宅ローンの取り扱いについてしっかりと理解しましょう。
個人再生をする場合、住宅ローンや家はどうなる?
ここでは、個人再生における住宅ローンや持ち家の扱いについて説明します。
原則として住宅ローン付きの家は手放すことになる
個人再生をする場合は、原則として住宅ローン付きの持ち家は手放す必要があります。
住宅ローンを利用する際は、銀行などが建物や土地に対して抵当権を設定するのが一般的です。
個人再生をすると、債権者にこの抵当権を行使され、建物は引き上げられて処分されることになります。
住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を使えば持ち家を守れる
住宅資金特別条項(住宅ローン特則)とは、民事再生法第196条以下に規定されている、返済中の住宅ローンを個人再生の整理対象から除外できる制度のことです。
以下のような要件を全て満たしている場合、個人再生をしても住宅ローン付きの持ち家を守れる可能性があります。
住宅ローン特則を利用するための主な要件
- 住宅資金貸付債権(住宅の購入やリフォームのためのローン)であること
- 個人再生をする本人が所有している居住用の建物であること
- 住宅にその住宅ローン以外の抵当権(担保権)がついていないこと
- 代位弁済の開始後から6か月以内であること
住宅ローン特則を利用する場合は、裁判所に対して住宅資金特別条項に関する書類などを提出する必要があります。
通常の個人再生に比べて手続きが複雑になるため、自宅を残したい場合は弁護士に相談することをおすすめします。
個人再生で住宅資金特別条項を利用する場合の住宅ローンの返済方法
個人再生の住宅資金特別条項を利用する場合、住宅ローンの返済方法は以下のいずれかになります。
- 正常返済型
- 期限の利益回復型
- 弁済期限延長型
- 元金猶予期間併用型
- 同意型
ここでは、個人再生の住宅資金特別条項を利用した場合のそれぞれの住宅ローンの取り扱いについて説明します。
1.正常返済型|当初の約定どおりにそのまま返済し続けるタイプ
正常返済型は、住宅ローンを契約したとおりに返済を続ける形式です。
最も基本的な形式であり、個人再生前に住宅ローンは遅滞なく返済ができていた場合に利用できます。
2.期限の利益回復型|延滞分・約定債務を3~5年で返済するタイプ
期限の利益回復型は、元金と滞納金を原則3年(最長5年)で返済する形式です(民事再生法第199条1項)。
個人再生を申し立てる前に、すでに住宅ローンを滞納している場合の選択肢となるでしょう。
しかし、住宅ローンを3~5年で返済するのは困難な場合が多く選択できないケースもあります。
3.弁済期限延長型|支払い期限を延長してもらい住宅ローンを返済するタイプ
弁済期限延長型は、支払い期限を10年間または70歳を迎えるまでに延長してもらい、その間に住宅ローンの元金と滞納金を返済する方式です(民事再生法第199条2項)。
前述した「期限の利益回復型」よりも期限を延ばせば住宅ローンを完済できるという場合に選択肢になります。
しかし、支払い期限を延長しても返済が困難という場合には、この返済方法は選択できないでしょう。
4.元金猶予期間併用型|支払い期限の延長と据え置き期間の設定をして返済するタイプ
元金猶予期間併用型は、支払い期限を延長してもらいつつ、原則的な3年(最長5年)では住宅ローンの返済ができない場合に、据え置き期間を設けてもらう形式です(民事再生法第199条3項)。
据え置き期間が設けられている間にほかの借金の返済を進め、それが完了してから住宅ローンの返済をするという場合の選択肢となります。
しかし、据え置き期間終了後に住宅ローンを完済できる可能性が低く、選択できないというケースもあります。
5.同意型|債権者の同意を得て民事再生法よりも緩やかな条件で返済するタイプ
同意型は、債権者の同意を得て前述した形式よりも緩やかな条件で返済する形式です(民事再生法第199条4項)。
金融機関(債権者)の同意が得られれば、たとえば、以下のような条件で返済することができます。
- 返済期限を10年超にする
- 70歳以降も返済可能にする
- 当初5年間は利息のみの返済にする など
前述した返済方法では完済が難しい場合には、同意型による返済が候補になるでしょう。
個人再生の住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を利用する際に注意すべき5つのケース
ここでは、個人再生の住宅ローン特則が利用する際に注意すべきケースについて説明します。
1.本人の居住用住宅ではない場合
住宅ローン特則は、以下のような住宅だと対象になりません。
- 別荘
- 店舗や工場
- 収益不動産 など
なお、店舗兼自宅や二世帯住宅の場合は、本人の居住用スペースが総床面積の2分の1以上なら利用できます。
2.アンダーローンになっている場合
アンダーローンとは、住宅の時価が住宅ローンの残債を上回っている状態のことです。
アンダーローンの場合は、住宅の時価と住宅ローンの残債の差額が清算価値として扱われます。
個人再生には清算価値保障原則といって、清算価値までしか借金額が減額されないというルールがあります。
したがって、アンダーローンの状態で清算価値が多くなった場合は、そもそも個人再生の意味がなくなったり、返済期間が短くなるため返済の負担が重くなったりするリスクがあるでしょう。
3.ペアローンで住宅を購入している場合
ペアローンとは、1つの不動産に対して夫婦がそれぞれ住宅ローンを組む方法のことを指します。
ペアローンの場合は、夫婦がそれぞれ住宅ローンを組み、それぞれ契約で不動産に抵当権が設定されます。
そのため、2個の抵当権が設定されていることになり、住宅ローン特則の要件である「住宅にその住宅ローン以外の抵当権(担保権)がついていないこと」を満たせなくなります。
4.税金の滞納により住宅が差し押さえられている場合
金融機関に住宅を差し押さえされたとしても、個人再生をおこなえば差し押さえを中止させられます。
しかし、税金は個人再生の対象にならないため、滞納している場合は強制執行の手続きはおこなわれます。
仮に税金の滞納が原因で住宅の差押登記をされると、所有権を失うため「個人再生をする本人が所有している居住用の建物であること」という要件を満たせなくなります。
5.マンションの管理費を滞納している場合
マンションの管理費を滞納している場合も注意が必要です。
建物の区分所有等に関する法律第7条において、管理費には先取特権(担保権の一種)が認められています。
したがって、管理費を滞納している場合は「住宅にその住宅ローン以外の抵当権(担保権)がついていないこと」という要件を満たせなくなり、住宅ローン特則を利用できなくなるのです。
個人再生と住宅ローンに関するよくある質問
最後に、個人再生と住宅ローンに関するよくある質問に回答します。
Q.なぜ住宅ローンだけが特別扱いになるの?
債務者が個人再生をするにあたって、生活の基盤となる住宅を守る必要があると考えられたからです。
民事再生法の目的は、経済的に困窮している人の債務を調整し、債務者の経済生活の再建を図るというものです。
しかし、住宅ローンも対象にすると、持ち家を処分されてしまい再建を図るという目的が達成しにくくなります。
そこで個人再生手続に住宅ローン特則という例外を設け、より経済生活を再建しやすくしたという背景があります。
Q.個人再生後に住宅ローンの審査は通る?
個人再生後は、住宅ローンの審査に通る可能性は低いでしょう。
個人再生などの債務整理をした場合、信用情報機関に事故情報(いわゆる「ブラックリスト」)が登録されます。
銀行などは審査の際に事故情報も確認しているため、事故情報が登録されている場合は審査に通りにくくなります。
なお、個人再生の事故情報は5年程度で削除されるため、削除後であれば住宅ローンの審査に通る可能性はあります。
Q.借金が住宅ローンだけでも個人再生はできる?
住宅ローン以外に借金がない場合でも、個人再生はできます。
大前提として、個人再生の住宅ローン特則を利用する場合は、住宅ローンの借金額は減りません。
しかし、個人再生をすることで、滞納中の住宅ローンの「期限の利益」を取り戻すことができます。
つまり、住宅ローンを滞納し、一括請求されている場合でも、個人再生によって分割払いに戻せるのです。
これにより自宅を処分されるリスクを下げることができます。
Q.個人再生後の住宅ローンの引き落としはどうなる?
個人再生後も原則として今までどおり銀行口座から引き落としされます。
ただし、その銀行から借金をし、それを整理していた場合は、口座は凍結されるでしょう。
そのため、場合によっては引き落とし用の口座を変更したり、窓口で支払ったりする必要があります。
Q.個人再生をすると住宅ローンの連帯保証人に請求される?
個人再生の住宅ローン特則を利用した場合は、連帯保証人に請求はされません(民事再生法第203条1項)。
また、裁判所から許可決定が出されたあともきちんと返済を続ければ、連帯保証人に請求される心配はないでしょう。
さいごに|住宅ローンがある個人再生のことなら弁護士に相談しよう!
個人再生は、住宅ローンの有無に関係なくおこなえます。
また、住宅ローンを整理対象に含めない選択もでき、この場合は持ち家を処分せずに済みます。
しかし、持ち家を残すためには「住宅資金特別条項(住宅ローン特則)」を含めた個人再生をする必要があり、通常に比べて手続きが複雑になる点には注意が必要です
もし持ち家を残したいという希望があるなら、「ベンナビ債務整理」で個人再生の手続きが得意な弁護士を探して、相談することをおすすめします。
![監修記事](https://asiro.co.jp/saimu/wp-content/themes/theme/img/pc_superintendent_title_bottom.png)
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