自己破産を検討している方にとって、「借金の免除が認められなかったらどうしよう」と不安になるのは当然のことです。
自己破産では、裁判所が借金の返済義務を免除する「免責許可」を出すかどうかを判断しますが、その際に問題となるのが「免責不許可事由」です。
免責不許可事由とは、免責が認められなくなる原因となる一定の行為や事情を指し、該当する場合は原則として免責が認められません。
本記事では、免責不許可事由に該当する11の具体的なケースと、不許可になる確率、実際の事例、対処法までわかりやすく解説します。
免責不許可事由とは|自己破産で借金の免除を許可しない理由
免責不許可事由とは、自己破産手続きにおいて裁判所が「借金の返済義務を免除するに値しない」と判断する原因となる行為や事情のことを指します。
自己破産は、税金や保険料の未払い分や悪意による損害賠償などの一部の債務を除き、ほぼ全ての借金の返済義務を帳消しにしてもらう手続きです。
やむを得ない事情によって借金が返済できなくなった人でも、最低限の暮らしができるようにするための制度といえます。
しかし、悪意をもって借金を重ねた人や、誠実に手続きを進めなかった人まで救済してしまうと、制度の公平性が損なわれます。
そこで、破産法252条では免責不許可事由として、財産の隠匿や浪費などが列挙されており、これらに該当する場合は原則として免責が認められないのです。
免責不許可事由に該当する11のケース
以下の11個いずれかの場合は、免責不許可事由に該当し、免責が認められない可能性があります。
免責不許可事由 | 概要 |
1.不当な破産財団価値減少行為 | 財産を隠したり売却・浪費したりして、破産財団(財産)の価値を故意に減少させる行為 |
2.不当な債務負担行為 | 支払い能力がないとわかっているのに借金をしたり、保証人になったりして債務を不当に増やす行為 |
3.偏頗弁済行為 | 一部の債権者(お金を借りている相手)にだけ優先的に返済する行為 |
4.収入にあわない浪費やギャンブルなどで借金をする行為 | ギャンブルや無謀な投資・ブランド品の購入など、明らかに返済能力を超える浪費によって債務を負う行為 |
5.相手をだまして信用取引をする行為 | 収入や職業を偽るなどして信用を得て商品購入や借金をする行為 |
6.財産に関する書類を隠す行為 | 通帳・契約書・領収書など財産に関する重要書類を隠したり、破棄する行為 |
7.虚偽の債権者名簿を提出する行為 | 実在しない債権者を記載したり、都合の悪い債権者を除外した名簿を提出する行為 |
8.裁判所への説明を拒否したり嘘をついたりする行為 | 裁判所の質問に対して虚偽の説明をしたり、正当な理由なく説明を拒否する行為 |
9.破産管財人などの職務を妨害する行為 | 破産管財人の調査を妨げたり、虚偽の情報を提供するなど、職務の遂行を意図的に妨害する行為 |
10.過去7年の間に自己破産をして免責許可を受けている | 直近7年以内に自己破産して免責を受けた場合 |
11.破産法上の義務に違反する行為 | 破産者が破産法に定められた報告・説明・協力などの義務を怠る行為 |
それぞれの免責不許可事由について、具体例を挙げながら詳しく解説します。
1.不当な破産財団の減少行為|財産隠しや処分、損壊など
不当な破産財団の減少行為とは、本来債権者に配当すべき財産を意図的に減らす行為を指します。
なお、破産財団とは、自己破産申し立て時に債務者が所有している財産のことです。
自己破産の手続きでは、借金を免責してもらう代わりに、破産申し立て時に所有する財産のうちお金に換えられるだけの価値があるものを債権者に分配しなくてはいけません。
そのため、没収を免れるために不当に財産を減らしたり隠したりした場合は、債権者の利益を害するため、免責が認められなくなるのです。
たとえば、以下のようなものが不当な破産財団の減少行為とみなされます。
【具体例】
- 預貯金を親や配偶者の口座に移す
- 破産手続き前に不動産の名義変更をする
- 高価な腕時計や貴金属を知人に譲渡する
- ブランド品を質屋に入れて現金化した後に使い切る
こうした行為は、債権者にとって不利益であることは明らかであり、破産制度の趣旨に反する重大なルール違反となります。
破産財団の価値を保つことは破産者の義務であるため、たとえ悪意がなかったとしても財産隠しとみなされる行動は避けなければなりません。
2.不当な債務負担行為|闇金などで余計に借金を増やす行為
破産申立前に不当に借金を増やす行為も免責不許可事由に該当します。
すでに支払い不能で自己破産しか選択肢がないにもかかわらず、返せないとわかりながら借金を増やした場合は、故意に破産手続の開始を遅らせたと捉えられるからです。
具体的には、以下のようなものが不当な債務負担行為にあたります。
【具体例】
- 闇金やSNS上の個人間融資からお金を借りる
- 破産申立直前に新たなクレジットカードを作って限度額まで買い物をする
- クレジットカードで購入した商品をすぐに売却する(現金化)
- キャッシング枠を使い切る
いずれの行為も、返済能力を欠いた状態で免責を前提に借り入れをしていると判断される可能性が高いため、注意しましょう。
3.偏頗弁済行為|特定の債権者に弁済をする行為
偏頗弁済(へんぱべんさい)とは、特定の債権者にだけ優先的に返済をおこなうことを指します。
自己破産においては、全ての債権者を平等に扱わなくてはいけないというルールがあるため、偏頗弁済は公平な処理を妨げる行為として免責不許可事由にあたります。
偏頗弁済にあたる具体的な行為は、以下のとおりです。
【具体例】
- 知人や親族からの借金を「迷惑をかけたくないから」と優先的に返済する
- 勤務先からの借入金を返済しないと職を失うと思い優先的に返済する
- 滞納家賃や携帯電話料金だけを優先して返済する
どうしても返済したい相手がいる場合は、破産手続き終了後に任意で返済するという手段もあるため、事前の偏頗弁済は避けるべきです。
思わぬ行為が偏頗弁済とみなされる可能性があるため、破産手続き前に何らかの支払いをおこなう際は必ず担当の弁護士に相談しましょう。
4.収入にあわない浪費やギャンブルなどで借金をする行為
明らかに収入に見合わない浪費やギャンブルで借金を重ねる行為も、免責不許可事由に該当します。
たとえば、以下のような行為には注意が必要です。
【具体例】
- 収入に見合わない高級ブランド品を次々とローンで購入した
- ホストクラブや風俗で毎月数十万円使っていた
- パチンコや競馬などのギャンブルにのめり込み、キャッシングで借金を重ねた
こうした無計画な浪費や賭博行為は、借金の原因として裁判所から厳しくチェックされます。
そして、本人の生活態度の改善が見られない場合は免責が許可されない可能性もあるでしょう。
自己破産は、借金の免除によって債務者が新たな人生を再スタートするための手続きであることを忘れてはいけません。
5.相手をだまして信用取引をする行為
最初から返済する意思がないにもかかわらず、虚偽の情報をもとに信用取引をおこなった場合も免責不許可事由にあたります。
具体的には、以下のような行為が該当します。
【具体例】
- 無職であるにもかかわらず勤務先や収入を偽ってクレジットカードを作成した
- SNSなどを通じて「必ず返済する」などと虚偽の内容を伝えて個人からお金を借りる
これらは債権者の信用を不当に利用する行為であり、破産法の趣旨に反するため、免責が許可されない可能性が高いです。
詐欺的な行為は刑事責任にも発展する恐れがあるため、お金がないからといって軽率な行動は避けるべきでしょう。
6.財産に関する書類を隠す行為
破産手続において、債務者が自らの財産を適切に申告しない行為は、免責不許可事由にあたります。
具体的には、以下のような行為が該当します。
- 通帳や保険証券、不動産の権利書など、財産に関する資料を意図的に破棄したり、裁判所に提出せずに隠していたりする
- 財産が記載された帳簿を「紛失した」と虚偽の説明をして、存在を隠す
こうした行為は、破産管財人による財産調査を妨げるだけでなく、債権者への公正な配当を不可能にするため、免責が許可されない大きな要因となるでしょう。
7.虚偽の債権者名簿を提出する行為
破産申し立てに際して提出する債権者名簿に、意図的に誤った情報を記載する行為も免責不許可事由にあたります。
たとえば、特定の親族や知人が債権者であることを隠すために、名簿から除外するといった行為が該当します。
こうした不正は、債務の正確な把握を妨げ、裁判所や破産管財人の業務に支障を与えるため、厳しく取り扱われる可能性が高いです。
8.裁判所への説明を拒否したり嘘をついたりする行為
破産手続においては、債務者が自らの経済状況や借入経緯について正確かつ誠実に説明する義務があります。
この義務を怠り、裁判所の質問に対して沈黙を貫いたり、虚偽の発言をしたりする行為は免責不許可事由に該当します。
たとえば、「借金の使途は生活費」と説明したが、実際には高級ブランド品の購入に充てていたケースなどです。
また、明らかに収入があるのに、収入が無くて返済できないと偽る行為も対象となります。
9.破産管財人などの職務を妨害する行為
破産管財人は、債務者の財産を調査・管理し、債権者に適切に配当する役割を担っています。
破産管財人の業務を妨害する行為は、破産手続の進行を妨げる可能性があるため、免責不許可事由にあたる可能性が高いです。
たとえば、破産管財人が財産の所在を確認するために連絡を取っても無視し続けたり、調査のための立ち入りを拒否したりするケースが該当します。
また、破産管財人に対して虚偽の報告をおこなったり、質問に対して意図的に不正確な回答を繰り返したりといった行為も、免責不許可の原因となり得ます。
10.過去7年の間に自己破産をして免責許可を受けている
自己破産は、借金が返済できなくなった人であれば基本的に誰でも利用できる救済手段ですが、濫用を防ぐために一定の期間は再度の免責が制限されています。
自己破産で免責を受けた日から7年以内に再度の自己破産を申し立てた場合、免責が許可されない可能性が高いでしょう。
たとえば、2019年に破産して免責された人が、2024年に再び破産を申請した場合は、基本的に免責は認められず、個人再生などの他の債務整理を選ぶ必要があります。
7年以内に再度の免責を受けるには、特別な事情が必要になることを覚えておきましょう。
11.破産法上の義務に違反する行為
破産法には、債務者が遵守すべき義務が多数定められています。
たとえば、破産手続の開始後に財産の使用・処分を勝手におこなってはいけない、破産管財人の指示に従う必要があるといった義務です。
「破産後に自動車を勝手に売却して現金化する」「破産管財人の立ち入りを拒否して居場所を転々と変えた」といった行為は、破産法上の義務に反し、免責不許可の判断材料になります。
法律に基づいた誠実な対応をしなければ、裁判所は債務の免除を認めてくれないので注意しましょう。
免責不許可事由に該当しても「裁量免責」で自己破産が認められることも?
免責不許可事由に該当すると、原則として自己破産による免責は認められません。
しかし、破産法第248条に基づき「裁量免責」が認められる場合があります。
裁量免責とは、免責不許可事由に該当する行為があったとしても、その内容や程度、破産者の反省の有無などを考慮して、裁判所の判断によって免責を許可する制度です。
たとえば、以下のようなケースでは、裁判所の裁量により免責が認められることがあります。
- ギャンブルによる借金があるが反省し家計を見直している
- 虚偽申告があったがすぐに訂正して誠実に協力している
実際、免責不許可事由があっても裁量免責が下される事例は多いです。
ただし、繰り返し不誠実な対応がある、反省の色がまったく見られないといったケースでは、免責が下りない可能性もあるため注意が必要です。
免責を認めてもらうには、誠実な態度を示すことが求められます。
免責不許可事由があっても、自己破産が認められるためには?
免責不許可事由に該当する事情がある場合に自己破産を認めてもらうためには、以下の3つの対処を取る必要があります。
- 反省文を提出する
- 裁判所や弁護士に嘘をつかない
- 手続きにはきちんと協力する
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
反省文を提出する
免責不許可事由に該当してしまった場合でも、裁判所に反省文を提出することで免責を受けられる可能性を高められます。
反省文では、自らの行為がどのように破産法に反していたかを認識し、その結果としてどのような影響を及ぼしたのかを具体的に記載します。
そのうえで、再び同じ過ちを繰り返さない旨や、今後どのように生活を再建していくつもりなのかを誠実に述べることが重要です。
たとえば「ギャンブルでの浪費を深く反省し、今後は預金記録を家族に管理してもらう」などの具体的な再発防止策を記すと、説得力が増します。
反省文は形式ではなく中身が問われますので、感情や状況を自分の言葉で丁寧に記す姿勢が大切です。
裁判所は、破産者がどれだけ真摯に過ちと向き合い、生活を立て直そうとしているかを重視します。
そのため、反省文の内容次第では、免責不許可事由がある場合でも裁量免責が認められる可能性は十分あるでしょう。
なお、反省文の作成が不安な場合は、自己破産の実績が豊富な弁護士に相談するのがおすすめです。弁護士なら、免責を得られやすい反省文の書き方をアドバイスしてくれるでしょう。
裁判所や弁護士に嘘をつかない
自己破産の免責を得るためには嘘をつかないことが大切です。
破産手続きにおいて、申告内容の信ぴょう性は極めて重要視されており、虚偽の申述や資料の隠蔽は、それ自体が免責不許可事由となりかねません。
裁判所に対して、過去に債務整理歴がないと虚偽申告したり、自分名義の財産を隠したりすると、裁判所の信頼を損ない、免責が得られないのはもちろん、訴訟や詐欺破産罪に発展する可能性すらあります。
また、自己破産手続きを依頼した弁護士には全ての情報を正確に伝えなければなりません。
仮に免責不許可事由に該当する事実があっても、早い段階で正直に打ち明ければ、適切な対応策を講じたり、裁判所に対して反省を伝えるための資料を整えたりできるでしょう。
このように、破産手続きでは誠実に協力する姿勢が基本であり、それが最終的な免責判断にも大きく影響します。
手続きにはきちんと協力する
自己破産の免責を得るためには、破産手続き全般にわたって誠実に協力する姿勢が求められます。
たとえば、裁判所からの書類提出命令に従わなかったり、破産管財人の調査に非協力的な態度を取ったりする行為は、それ自体が免責不許可事由として扱われる可能性があるので注意しましょう。
逆に、過去に過ちがあったとしても、全ての質問に対して誠実に答え、破産管財人の調査にも真摯に応じるなど手続きに協力することで、裁判所に反省していると判断されることもあります。
免責不許可となりやすいケース
免責不許可事由がある場合でも、自己破産手続きに対して真摯に取り組めば、裁判所の裁量で免責が認められる可能性もあります。
一方で、以下のいずれかに該当する場合は、免責不許可となる可能性が高いです。
- 破産手続き開始後に免責不許可事由に該当する行為をした
- 免責不許可に該当する要素が複数ある
- 過去7年以内に免責許可を受けた
それぞれのケースについて、詳しく見ていきましょう。
破産手続き開始後に免責不許可事由に該当する行為をした
自己破産手続きが開始されたあとに、免責不許可事由に該当する行為をしてしまうと、免責が認められにくくなります。
たとえば、裁判所や破産管財人から財産を開示するように要求された際に無視したり、申告すべき財産を隠したりするような行為は、破産手続き中の義務違反として扱われ、免責不許可のリスクが一気に高まります。
手続き前の免責不許可事由が軽微であったとしても、手続きの進行中に問題行動があると、印象は非常に悪くなってしまいます。
破産手続き中こそ慎重に行動すべきであり、不用意な行為が裁判所の判断に大きな影響を与えることを理解しておきましょう。
免責不許可に該当する要素が複数ある
自己破産において免責不許可事由が複数ある場合、免責が認められにくくなる傾向があります。
たとえば、「収入に見合わない浪費による借金」と「財産隠し」の両方が発覚したようなケースでは、悪質性が高いと判断されて免責が認められない可能性が高いでしょう。
さらに、これらの行為に対する反省の意思が見られない場合は、裁判所から生活を再建する意思に欠けると判断され、免責が拒否されるリスクが高まります。
過去7年以内に免責許可を受けた
過去7年以内に自己破産をして免責を受けた経験がある場合、原則として再度の免責は認められません。
これは、自己破産制度の濫用を防ぐための規定であり、自己破産を繰り返すことを前提に安易な借入や浪費を繰り返してはならないという趣旨から設けられています。
たとえば、前回の免責から5年しか経っていない時点で再び多重債務に陥った場合、前回の破産後に改善努力をせずに短期間で再度借金を繰り返したとして、免責を認められない可能性が高いでしょう。
一方、1回目の自己破産の時と借金の原因が異なり、かつ収入が途絶えており自己破産が認められないと最低限の生活が維持できないなど、特別な事情があれば認められる可能性もあります。
免責不許可となる確率はどのくらい?
厳密には自己破産を申し立てた場合、「○○%で免責不許可になる」という正確な統計はありません。
しかし、令和5年の司法統計では、裁判所に受理された自己破産の申し立てのうち、およそ98.2%で免責許可がおりています。
【免責許可が出た割合(2023年)】
項目 | 数値 |
自己破産受理件数(個人) | 68,106件 |
上記のうち免責許可が出た件数 | 66,873件 |
免責許可が出た割合 | 約98.2% |
【参照】「司法統計 家事 令和5年」
さらに、自己破産の受理件数には、取り下げの件数(941件)も含まれるため、受理件数からその分を引けば99.6%は自己破産の免責許可が出たといえます。
つまり、自己破産を申し立てた際に、免責不許可になる確率は1%以下と非常に低いのです
免責不許可事由があって不許可となった実例
ここでは、免責不許可事由に該当し、実際に不許可となった実例を3つ紹介します。
裁判所に虚偽の内容を申告し不許可となった実例
千葉地方裁判所八日市場支部平成29年4月20日決定の判例によると、裁判所に虚偽の内容を申告したことにより免責不許可となったケースがあります。
この事案では、破産者が離婚に伴う解決金100万円の受領や復氏の事実を破産申立書に記載せず、虚偽の氏名で手続きを進めたことが問題となりました。
当初、裁判所は裁量免責を認めましたが、債権者の抗告により再審査がおこなわれ、虚偽説明や財産隠匿が認定されて免責が不許可となりました。
顧客からの出資資金でFX取引をして債務を支払えなくなった実例
大阪地方裁判所で免責不許可となった事例のひとつに、破産者が「顧客から集めた資金で高リスクのFX取引をおこない、大きな損失を出した」というケースがあります。
この破産者は、自ら経営する法人を通じて、実現可能性の乏しい高額の配当や元本を保障する約束のもと出資をさせ、2億6,000万円以上の資金を集めFX取引をおこないました。
結果として、1億1,000万円もの損失を出し、顧客らとの間で合意した配当や元本保証に係る債務を支払えなくなっています。
顧客らに運用リスクを説明せずに出資をさせ、最大で300倍のレバレッジが設定された高リスクの投資をおこなったとして、裁判所はこの行為を「収入に見合わない著しい浪費行為」かつ「不当な債務負担行為」に該当すると判断し、免責不許可の決定を下しました。
財産を妻の口座に隠したり、父に不当に安く売却したりして不許可となった実例
複数の財産隠しによって、免責不許可となった実例もあります。
あるケースでは、破産者が自己破産手続きを始めるおよそ1週間前に、生命保険の解約返戻金約580万円を妻名義の口座に入金し、没収を免れようとしました。
また、自己破産手続き開始後に、妻名義の口座に預金約170万円を送金したり、所有する不動産を相場より著しく価格で父に売却したりと、複数の財産隠しと疑われる行為がありました。
それぞれの財産隠し(不当な破産財団処分)が高額であったこともあり、悪質性が高いとされて免責不許可の決定が下っています。
免責不許可となった場合の対処法
万が一、自己破産手続きで免責不許可となった場合には、早急に以下のいずれかの対応をとりましょう。
- 即時抗告をする
- 任意整理や個人再生を検討する
それぞれの対処法について、詳しく解説します。
即時抗告をする
自己破産手続きにおいて免責不許可決定が出た場合、その決定を不服として「即時抗告」という手続きが可能です。
即時抗告とは、地方裁判所の決定に対して高等裁判所へ不服を申し立てる法的手段で、原則として決定があった日から2週間以内に手続きをする必要があります。
即時抗告をすることにより、高等裁判所で改めて審査を受けることができ、場合によっては免責許可へと覆る可能性もあります。
ただし、そもそも裁量免責が認められない状況自体が珍しいため、即時抗告によって免責不許可が覆る可能性は低いでしょう。
任意整理や個人再生を検討する
免責不許可が確定してしまった場合でも、借金の問題を放置するのは危険です。
そのため、代替手段として任意整理や個人再生を検討しましょう。
任意整理や個人再生は、自己破産と同じく法律の力を使って借金を減額する債務整理の一種であり、それぞれ以下のような特徴があります。
種類 | 概要 |
任意整理 | ・裁判所を通さずに弁護士などが債権者と直接交渉をおこない、将来利息や遅延損害金をカットを目指しながら、分割返済などの現実的な支払い計画を立てる手続き ・裁判所を通さない私的な整理のため、自己破産が認められなかった人でも利用可能 |
個人再生 | ・裁判所を通じて借金を大幅に圧縮して原則3年で返済する手続き ・住宅ローン特則を活用することで、自宅を手放さずに済む可能性もある ・自己破産と比較すると手続き要件が緩くりようしやすい |
免責不許可によって自己破産が失敗しても、これらの選択肢を冷静に見直すことで、再起のチャンスを得られる可能性は十分にあります。
なお、いずれの手続きも弁護士の助言を受けながら進めることが重要です。
自己破産の免責許可についての注意点
ここでは、自己破産の免責許可についての注意点を2つ紹介します。
免責が許可されても免除されない債権もある
自己破産で免責許可が下りたとしても、全ての借金が帳消しになるわけではありません。
法律上、以下のような借金・未払い金は非免責債権と呼ばれ、免責を受けても支払い義務が残ります。
- 税金(所得税・住民税など)
- 健康保険料、年金保険料
- 養育費や婚姻費用といった家族関係に基づく扶養義務
- 悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償債務
- 飲酒運転などの重大過失による損害賠償債務 など
さらに、破産者が故意に隠した借金など、裁判所や破産管財人に申告していない債務も免責の対象から除外される可能性があります。
免責すれば全ての借金が消えるという誤解を避けるためにも、破産手続きに入る前に非免責債権の範囲について弁護士に相談し、正確に理解することが重要です。
免責を受ける前に、任意で借金を返済するのはNG
自己破産の申し立てを検討している段階や、すでに手続き中のタイミングで、特定の債権者に対して任意に借金を返済することは絶対に避けなければなりません。
これは偏頗弁済と呼ばれ、破産法上の免責不許可事由に該当する可能性があるからです。
破産手続きは、債権者全員を平等に扱うことが原則であるため、一部の債権者だけを優遇する行為は違反といえます。
どうしても返済したいという気持ちがあっても、免責許可を受けるまでの間は全ての債務について弁護士の指示に従い、慎重に対応することが重要です。
手続きが完了して免責が許可されたあとで、任意で返済することは自由なので、まずは免責を確実に得ることを最優先に考えるべきです。
さいごに|免責不許可事由に該当する行為があっても、諦めず弁護士へ相談を
本記事では、免責不許可事由の概要や、免責不許可となる確率、免責不許可となった際の対処法などについて詳しく解説しました。
司法統計を参照すると、免責不許可となるのは1%以下であり、非常にまれな例であることがわかります。
ギャンブルや浪費で借金を増やしたなど、免責不許可に該当する行為が合った場合でも、裁判所に対してしっかりと反省の姿勢を示せば裁量免責が認められる可能性も十分にあるでしょう。
免責不許可事由に該当する自覚がある場合でも、諦めずにまずは弁護士に相談してみてください。

