「借金がある状態では生活保護を受給できない」とインターネットなどで見かけた経験がある方もいるかもしれませんが、これは実は誤りです。
実際には、きちんと手続きを踏めば借金を抱えている状態でも生活保護の受給は可能です。
ただし、生活保護で受給したお金を借金の返済に充てることはできないため注意してください。
本記事では、生活保護受給中に借金がある場合の注意点や、生活保護受給中の借金問題の解決方法などについて詳しく解説します。
生活保護は借金がある場合も受給可能
結論から伝えると、借金がある状態でも生活保護の受給は可能です。
生活保護とは、日本国憲法第25条によって全ての国民に認められている「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を守るための制度です。
全ての日本国民が生活保護を受給する権利を持っており、生活保護の受給要件については、生活保護法第4条によって以下のように定められています。
- 資産や預金、収入を活用しても最低限度の生活を維持できない
- 家族や親戚などからも援助を受けられない状況にある
具体的には、厚生労働省の定める基準である「最低生活費」に届くだけの収入や預金が無く、かつ親族からも支援を受けられない状態であれば、生活保護受給の要件を満たすといえます。
最低生活費は、居住地域によって異なりますが、一人暮らしの場合はおよそ10万円〜13万円ほどとなります。
つまり、一人暮らしの方で毎月の収入が7万円しかない場合は、最低生活費に満たない分である3〜6万円を生活保護費として受給する権利があるのです。
生活保護の受給条件に借金についての規定はない
生活保護の受給条件としては「収入や資産が十分でない」「親族からの支援が受けられない」の2点しかありません。
「借金がある人は生活保護を受給できない」といった規定は存在しないため、借金を抱えている場合でも生活保護の受給は可能といえます。
生活保護受給中に借金がある場合の注意点
生活保護受給中に借金がある場合は、以下の5点に注意しましょう。
- 借金を踏み倒せるわけでなく、債権者からの督促は続く
- 新たに借金をすると、その分だけ保護費を減らされる
- 借金を隠して受給すると不正受給とみなされる
- 保護費で借金の返済はできない
- 生活保護の受給中に借金を隠してもすぐにバレる
1.借金を踏み倒せるわけでなく、債権者からの督促は続く
生活保護を受給したからといって、借金を踏み倒せるわけではない点に注意しましょう。
生活保護は、あくまで受給者が最低限の生活を送れるように生活費を補助する制度です。
生活保護の受給によって、借金の返済義務がなくなるといったルールはありません。
また、生活保護の受給開始は債権者(お金を貸している側)に対しては知らされないため、これまでと同様に取り立ては続きます。
生活保護の受給だけでは、借金問題の根本的な解決とはならないため注意が必要です。
2.新たに借金をすると、その分だけ保護費を減らされる
制度上は、生活保護を受給中に新たに借金をすることも可能です。
ただし、生活保護受給中の借入は「収入」とみなされるため、借り入れた金額と同じだけ毎月の受給額を減らされてしまいます。
また、生活保護で受給するお金は返済する必要がありませんが、借金の場合は当然返済義務が生じるうえに、利息を支払う必要も生じます。
そのため、生活保護を受給中に借金をしても何も良いことはないといえるでしょう。
3.借金を隠して受給すると不正受給とみなされる
生活保護を受給するためには、収入や財産が一定額以下であることを証明する必要があります。
プラスの財産である不動産や、年金収入などについてはもちろん正確に申告しなくてはいけませんが、マイナスの財産でもある借金残高についても漏れなく申告しなくてはいけません。
そのため、借金を抱えていることを隠して生活保護を受給すると、不正受給とみなされて生活保護の受給が打ち切られるリスクがあるので注意しましょう。
4.保護費で借金の返済はできない
生活保護は、最低限度の生活を実現するための制度です。
具体的には、以下のような費用のために支給されます。
- 日常生活に必要な費用(食費・被服費・光熱費等)
- アパート等の家賃
- 義務教育を受けるために必要な学用品費
- 医療サービスの費用
- 介護サービスの費用
- 出産費用
- 就労に必要な技能の修得等にかかる費用
- 葬祭費用
【参考】生活保護制度|厚生労働省
そのため、生活保護費を借金の返済に充てることは認められていません。
厚生労働省の「生活保護制度に関するQ&A」にも「保護費から住宅 ローンを返済することは、最低限度の生活を保障する生活保護制度の趣旨からは、原則として認められません」と明確に記載があります。
生活保護費を借金の返済に充てたことがバレると、不正受給にあたり生活保護の支給が打ち切られてしまうリスクがあるので絶対に避けましょう。
5.生活保護の受給中に借金を隠してもすぐにバレる
生活保護法第29条により、福祉事務所はいつでも生活保護受給者の銀行口座の出入金記録を閲覧できる決まりになっています。
そのため、借入をした際の振り込み履歴を隠すことは非常に難しく、生活保護受給中にケースワーカーに内緒で借金をしても隠し通せないと考えたほうがよいでしょう。
また、生活保護受給中は度々ケースワーカーが自宅を訪問するため、生活状況から「過度に贅沢な暮らしをしている」と判断されるとすぐに調査が入ってしまうので注意してください。
なお、借金の様態が悪質だと判断された場合には生活保護を打ち切られる可能性もあります。
生活保護受給中に借金をしても何もいいことはないため、どうしてもお金が足りなくなった場合はケースワーカーに相談するのがおすすめです。
生活保護受給中の借金問題の解決方法
借金を抱えている方でも生活保護を受給できますが、生活保護費を借金の返済に充てることは認められていません。
では、借金を抱えていながら、生活保護を受給している方はどのように借金を返済・解決したらいいでしょうか。
その答えとしては、法律の力を使って合法的に借金を減額できる制度である「債務整理」が挙げられます。
以下では、生活保護受給中の借金問題を解決する「債務整理」について、詳しく解説します。
債務整理の中でも自己破産が最適
債務整理には、任意整理・個人再生・自己破産の3つの手続きが含まれますが、生活保護受給者の場合は自己破産を選択するのが最適といえます。
自己破産とは、裁判所に申し立てることによって、税金や保険料の未払い分など一部の債務をのぞいてほぼ全ての借金の返済義務を帳消しにしてもらえる手続きです。
一方で、任意整理や個人再生の場合は、借金の一部を減額してもらったうえで、債権者や裁判所と相談のもと3年間〜5年間の決められた期間内で返済を続ける必要があります。
生活保護費を借金返済に充てることは認められていないため、継続して借金返済をする必要がある任意整理や個人再生は、生活保護受給者には不向きです。
また、自己破産は一定以上の価値がある財産を没収されるなどのデメリットがありますが、生活保護の受給を検討する段階ではすでにお金に換えられるだけの価値がある財産がほとんどないケースが多いはずです。
そういった意味でも、生活保護受給中または生活保護の受給を検討している方にとって、自己破産は借金問題に対して非常に有効な解決策といえます。
自己破産は生活保護の受給審査に影響しない
自己破産は、ほぼ全ての借金が帳消しになる制度ですが、「生活保護と一緒に申請してもいいのか?」と疑問に感じる方も多いかもしれません。
結論としては、自己破産をしたあとでも問題なく生活保護の受給が可能です。
生活保護の受給には審査がありますが、審査の基準となるのは主に「財産や収入が一定額以下である」「親族や公的機関からの援助が受けられない」の2点であり、自己破産を受けているかどうかは問題になりません。
そのため、借金を抱えていながら返済に充てられるだけの収入がなく、また最低限の暮らしもできないといった状態の方は、まずは自己破産の手続きを始めてから生活保護を受給するのがおすすめです。
受給期間が短期間なら任意整理も検討可能
例外的に「生活保護受給はごく短期間の予定で、仕事が決まり次第生活保護を廃止したい」と考えている方の場合は、借金問題解決方法として任意整理も選択肢にあがります。
任意整理は、弁護士や司法書士などの専門家を通じて債権者と交渉し、借金の利息部分をカットしてもらったうえで、残った元本を一定期間で返済していく手続きです。
任意整理を始めると、まずは弁護士などが債権者に対して「受任通知」という手紙を送付し、債権者からの取り立てや返済をストップできます。
そこから実際に債権者への返済が開始するのは早くても2ヵ月〜3ヵ月後となるので、その間だけ求職活動をしながら生活保護を受給するのは「保護費を借金返済に充ててはいけない」という生活保護制度の趣旨に反しません。
以上のような事情から、生活保護の受給期間が短期間の場合は、自己破産ではなく任意整理を選べる可能性もあります。
ただし、生活保護を受給するほどお金に困っている状況であれば自己破産が適しているケースが多いので、自分がどの手続きを選ぶべきかは専門家である弁護士の助言を求めるのがおすすめです。
生活保護と自己破産についての注意点
生活保護と自己破産を同時に検討している方は、以下の2点に注意しましょう。
生活保護の受給中も自己破産をすることは可能
原則として、生活保護費を借金返済に充てることは認められていないため、借金がある方が生活保護を受給する場合は、自己破産の手続きを開始してから生活保護を受給することをおすすめします。
ただし、目前の生活費が必要など急を要する場合であれば、生活保護を先に受給してから、自己破産の手続きを始めることも可能です。
自己破産をするためには「借金が継続的かつ客観的に支払不能である」という要件を満たす必要がありますが、生活保護を受給しているかどうかは問題になりません。
また、自己破産をしたからといって生活保護費が減額されるといった心配もないので、先に生活保護を受給する選択肢も検討しましょう
不正受給による保護費の返還義務は、自己破産をしても免除されない
不正受給による生活保護費の返還義務は、自己破産をしても支払いが免除されることはないため注意が必要です。
生活保護費を借金返済に充てると不正受給とみなされ、借金返済に充てた分の生活保護費を返還するように国から求められます。
「この支払い義務も自己破産によって帳消しにできるのでは」と考える方もいるかもしれませんが、不正受給による返還義務は自己破産をしても免除されない「非免責債権」にあたります。
そのため、自己破産をしたあとも返済をしなくてはなりません。
借金を返済しながら生活保護を受け、その後に自己破産をすると、保護費を借金に充てたとみなされる可能性が生じます。
そのため、可能であれば先に自己破産の手続きを開始してから生活保護を検討するのがおすすめです。
生活保護受給中の自己破産は弁護士に相談を
生活保護受給中、または今後受給予定で自己破産を検討している方は、まずは弁護士に相談するのがおすすめです。
ここからは、生活保護受給者が自己破産について弁護士に相談するメリットなどについて解説します。
自己破産を弁護士に依頼するメリット
弁護士に対しては、法律の専門家というイメージを持っている方も多いかもしれませんが、実は弁護士は借金問題の解決のプロフェッショナルでもあります。
自己破産をはじめとした債務整理に注力している弁護士であれば、一人ひとりの状況に合わせて最適な解決策を提案してくれるはずです。
たとえば、借金を抱えている方が生活保護を受給する場合は、一般的には先に自己破産で借金をなくしてから生活保護を受給することが推奨されます。
しかし、税金を滞納している場合は生活保護より先に自己破産をすると銀行口座などの差し押さえを強制執行されるリスクがあります。
このように、一概に生活保護と自己破産のどちらを先にするべきとは断言できないため、各種法律や債務整理について知識や経験が豊富な弁護士に相談して、自分に適した解決法をアドバイスしてもらうのがベストです。
生活保護の受給中なら法テラスの利用を推奨
法テラスとは国が運営する公的機関で、経済的に困窮している方でも弁護士などの法律の専門家のサポートを受けられるようにサポートをおこなっています。
生活保護受給中の方が自己破産について法テラスに相談すれば、自己破産にかかる費用を全て立て替えてもらえる可能性が高く、さらには立て替え金の返還が免除になるケースも多いです。
通常、弁護士などに自己破産を依頼すると、弁護士費用や裁判所に納める手続き費用などで30万円以上のお金が必要となります。
しかし、生活保護受給中の方であれば、法テラスの民事法律扶助制度によって、自己破産にかかる費用を立て替えおよび免除してもらえます。
法テラスの民事法律扶助制度を利用する要件は「収入や財産が一定基準以下」であることですが、生活保護を受給している方であれば十分に要件を満たすでしょう。
生活保護を受給中で借金を抱えている方は、ぜひ一度法テラスに相談してみてください。
借金がある場合の生活保護についてよくある質問
ここからは、借金がある場合の生活保護についてのよくある質問とその回答を紹介します。
具体的な手続きに入る前に、ここで疑問を解消しておきましょう。
生活保護受給中に借金が残っている場合はどうするべき?
結論としては、今すぐに弁護士または法テラスに相談して自己破産を検討するべきです。
生活保護を受給したからといって、借金の返済義務は免除されず、消費者金融などの債権者からの取り立ては止まりません。
また、生活保護は最低限の生活を保障するための制度であり、生活保護費を借金返済に充てることは認められていません。
生活保護費を借金返済に充てると不正受給として生活保護が打ち切られるリスクがあります。
以上のような事情から、生活保護受給中にかかわらず借金が残っている場合は、早急に弁護士に相談して借金問題を解決しなくてはなりません。
生活保護受給中に残っている借金が少額の場合でも自己破産すべき?
原則として、生活保護費を借金返済に充てることは禁止されているため、借金が少額でも自己破産が現実的な解決策になるケースが多いです。
ただし「あと数回の支払いで借金が完済できる」「借金が数万円と少額である」など、一部の例外的状況においては、生活保護を受給後に保護費からの借金返済が認められるケースもあります。
生活保護受給中に残っている借金が少額の場合は、まずはケースワーカーに相談するのがおすすめです。
さいごに|生活保護受給中の借金問題は弁護士に相談
本記事では、生活保護と借金問題について詳しく解説しました。
原則として、生活保護費を借金返済に充てることは認められていないため、借金がある場合は自己破産で借金を整理してから生活保護を受給するのがおすすめです。
ただし、一部例外として自己破産ではなく任意整理を選ぶべきケースや、自己破産よりも先に生活保護を受給するべきケースも存在します。
借金問題の解決方法は一人ひとりの生活や借金の状況によって異なるため、債務整理に注力している弁護士に相談するのが、解決へ向けた一番の近道です。
初回の相談であれば無料で対応してくれる法律事務所も多いので、まずは気軽に相談してみてください。

