小額訴訟
少額訴訟と通常訴訟の違いを徹底解説!メリット・デメリットや移行の注意点も
2023.08.04
少ない金額の債権を回収するのに、訴訟を起こすか迷っていませんか。
訴訟を起こせば債権回収の可能性を高められますが、判決が出るまでに長い時間がかかり、原告にとっても大きな負担になるのは否めません。
相手から回収したい債権の金額が少ないときは、通常の訴訟(通常訴訟)でなく「少額訴訟」のほうが適している場合があります。
債権回収の訴訟を起こす際は、少額訴訟・通常訴訟の違いについて把握し、どちらを選ぶか検討するとよいでしょう。
本記事では、少額訴訟の概要や通常訴訟との違い、少額訴訟から通常訴訟へ移行する場合などについて解説しています。
少額訴訟は、文字どおり少額の債権回収に特化した訴訟手続きです。
少額訴訟を選べば、少額の債権回収に関する訴訟を、スピーディかつ簡潔に進めることができます。
通常訴訟と少額訴訟の具体的な違いは、以下のとおりです。
少額訴訟 | 通常訴訟 | |
訴額 | 60万円以下 | 特に制限なし ただし、140万円以下なら簡易裁判所、140万円を上回るなら地方裁判所 |
審理期間 | 原則1日 | 制限なし |
被告の拒否権 | あり | なし |
反訴 | 提起できない | 提起できる |
不服申し立て方法 | 異議申し立て | 控訴 |
利用制限 | 同じ簡易裁判所で1年間に10回まで | 制限なし |
強制執行のための執行文付与 | 不要 (※判決以外の債務名義の場合は必要となる) | 必要 |
通常訴訟では、相手に支払いを求める金額(訴額)の制限は特にありません。
訴額が140万円以下の通常訴訟は簡易裁判所が、140万円を超える通常訴訟は地方裁判所が取り扱います。
それに対し少額訴訟は、訴額が60万円以下である場合に限定した訴訟手続きです。
少額訴訟は原則として1日で審理が下りるため、手軽に済ませることができます。
それに対し通常訴訟は、審理期間に制限がありません。
通常訴訟では原告と被告が互いに主張書面と証拠の提出を繰り返しながら争われることから、スピーディな解決を目指すのは難しくなります。
その分、原告側も被告側も負担がかかることになります。
少額訴訟は、被告側に拒否する権利があります。
被告が拒否した場合、原告は少額訴訟を利用できず、通常訴訟で被告と争う必要があります。
一方で、原告から通常訴訟を起こされた場合、被告は拒否することができません。
通常訴訟では、仮に被告が裁判に出席せず答弁書も提出しなければ、「原告の主張を認めた」と判断されます。
その結果、原告の主張がそのまま認められる可能性が高くなるのです。
反訴とは裁判で訴えられた被告が、その訴訟での同一裁判所による審理を求めて原告を訴え返すことです。
被告は、原告が提起した訴訟(本訴)あるいは本訴に対する防御方法と関連する請求を目的とする場合には、被告側から反訴を提起することができます。
例えば、交通事故の当事者の双方に過失があったケースにおいて、原告が被告に損害賠償請求訴訟を提起したところ、被告側でも損害があったと主張して反訴として原告に対し損害賠償請求を提起する場合が考えられます。
通常訴訟では被告が反訴できるのに対し、少額訴訟ではできません。
少額訴訟で被告が反訴したい場合、少額訴訟そのものを拒否して通常訴訟で争うことなどを検討します。
通常訴訟では第1審の判決に不服がある場合は、上級の裁判所(高等裁判所や地方裁判所)に控訴ができます。
一方で、少額訴訟では控訴ができません。
ただし、少額訴訟で判決内容に納得できない場合は、異議申し立てができます。
当日に異議申し立てがおこなわれた場合、裁判官は改めて判決が適切だったか検討しなおします。
通常訴訟は利用制限が特にないのに対し、少額訴訟は同一裁判所につき年間10回までという制限があります。
これは、一部の事業者が少額訴訟を多用することで、一般の利用者が少額訴訟を利用できなくなってしまうことを避けるためです。
通常訴訟では相手に対し強制執行する際、執行文付与を要求する必要があります。
強制執行とは、勝訴判決が出ても被告が請求に応じない場合に、国が債務の履行を強制することです。
また、執行文とは、簡単にいうと、強制執行ができるという証明を指します。
少額訴訟の判決は強制執行力があり、強制執行をする際の「債務名義」として利用可能です。
そのため、被告が判決の内容どおりに支払ってくれない場合、すぐに強制執行手続きへ移行できます。
【関連記事】ひとりでできる少額訴訟|60万円以下の金銭請求に適した訴訟手続きを徹底解説|法律相談ナビ
少額訴訟を利用するためには、以下に挙げた民事訴訟法の条文にあるとおり、いくつかのルールがあります。
これらルールを満たさない場合、少額訴訟は利用できず、通常訴訟で相手と争う必要があるのです。
本項では、少額訴訟を利用する際の主なルールについてみていきましょう。
(少額訴訟の要件等)
第三百六十八条 簡易裁判所においては、訴訟の目的の価額が六十万円以下の金銭の支払の請求を目的とする訴えについて、少額訴訟による審理及び裁判を求めることができる。ただし、同一の簡易裁判所において同一の年に最高裁判所規則で定める回数を超えてこれを求めることができない。
2 少額訴訟による審理及び裁判を求める旨の申述は、訴えの提起の際にしなければならない。
3 前項の申述をするには、当該訴えを提起する簡易裁判所においてその年に少額訴訟による審理及び裁判を求めた回数を届け出なければならない。
(通常の手続への移行)
第三百七十三条
3 次に掲げる場合には、裁判所は、訴訟を通常の手続により審理及び裁判をする旨の決定をしなければならない。
一 第三百六十八条第一項の規定に違反して少額訴訟による審理及び裁判を求めたとき。
二 第三百六十八条第三項の規定によってすべき届出を相当の期間を定めて命じた場合において、その届出がないとき。
三 公示送達によらなければ被告に対する最初にすべき口頭弁論の期日の呼出しをすることができないとき。
四 少額訴訟により審理及び裁判をするのを相当でないと認めるとき。
(少額訴訟の要件等)
第三百六十八条
2 少額訴訟による審理及び裁判を求める旨の申述は、訴えの提起の際にしなければならない。
少額訴訟は、被告に対し請求額が60万円以下の金銭の支払いを求める場合で、なおかつ被告側が応じた場合に利用できる手続きです。
これらの条件を満たさない場合、少額訴訟は利用できません。
少額訴訟では公示送達が使えないため、被告の居場所がわからず公示送達でしか呼び出せない場合は、少額訴訟を選べません。
公示送達とは被告の居場所がわからないなどの理由で、相手に送達(訴訟に関する書類を送ること)ができないときの手続きです。
公示送達をおこなうと、関連文書が裁判所に一定期間提示されるなどして、法的に相手へ送達がされたものとみなされます。
原告が少額訴訟を希望しても、状況によっては通常訴訟に移行してしまうことがあります。
以下、実際にどのような場合に通常訴訟へ移行するかをみていきましょう。
被告が少額訴訟による審判を拒否し、通常訴訟を望む旨の申述をした場合、少額訴訟から通常訴訟に移行します。
(通常の手続への移行)
第三百七十三条 被告は、訴訟を通常の手続に移行させる旨の申述をすることができる。ただし、被告が最初にすべき口頭弁論の期日において弁論をし、又はその期日が終了した後は、この限りでない。
裁判所が少額訴訟による審理が適していないと判断した場合、少額訴訟は利用できません。
通常訴訟で裁判所の審理を仰ぐ必要があります。
たとえば、事情が複雑で1回の審理で解決が見込めない場合などに、裁判所は少額訴訟での審理が相当ではないと判断し、通常訴訟への移行を決定することがあります。
仮に少額訴訟から通常訴訟に移行した場合、いくつかのデメリットが生じます。
以下、実際にどのようなデメリットが生じるのかをみていきましょう。
少額訴訟に比べ通常訴訟は、判決が出るまでに時間がかかります。
その分、原告の負担が増し肉体的・身体的な疲労も大きくなるでしょう。
弁護士に依頼した場合は、訴訟が複雑になり時間がかかるだけコストがかさむ点も注意しなくてはなりません。
通常訴訟で判決がでるまで時間がかかると、その間に被告が財産を費消してしまうこともあるでしょう。
その場合、原告が請求したとおり、お金などを回収できなくなる可能性が高まります。
少額訴訟から通常訴訟へ移行すると、いくつかのデメリットがあることをみてきました。
それでは、通常訴訟への移行を回避するためには、どのような対策をすればよいでしょうか。
以下、原告がおこなえる対策をみていきましょう。
少額訴訟から通常訴訟へ移行しないようにするためには、少額訴訟がベストな選択肢かを慎重に検討してから申し立てましょう。
少額訴訟は1日で審理が完了するような、比較的シンプルなケースに適した訴訟手続きです。
また、被告から拒否された場合、少額訴訟は選べません。
少額訴訟がベストか自分で判断するのが難しい場合、事前に弁護士に相談するのもおすすめです。
通常訴訟への移行を回避するためには、被告が通常訴訟への移行を望む旨の申述をする前に、少額訴訟の取り下げを検討するのもひとつの手です。
なお、通常訴訟に移行した場合、被告が答弁書を提出して応訴した後は、被告の同意がない限りは取り下げができなくなってしまいます。
訴訟より手軽な方法で、少額の債権を回収する方法もあります。
以下、具体的にどのような方法があるかをみていきましょう。
少額訴訟を起こす前に、ここで挙げた方法が使えないか検討することをおすすめします。
まず、内容証明郵便で、督促状を送付し相手に支払いを求める方法があります。
督促状を内容証明郵便で送付した場合、裁判での証拠になります。
内容証明郵便が届くと債権者側は、相手が裁判まで見据えて債権を回収しようとしていると考えるのです。
その結果、相手が裁判になるのを避けるため、支払いに応じてくれる可能性があります。
簡易裁判所に申し立てをおこない、相手へ「支払督促」を送付してもらう方法もあります。
支払督促とは、債権者から申し立てがあった場合に、裁判所が債務者へ金銭の支払いを命じる手続きです。
債務者が支払督促を受け取ってから2週間以内に異議の申立てをしなければ,裁判所は,債権者の申立てにより,支払督促に仮執行宣言を付さなければならず,債権者はこれに基づいて強制執行の申立てをすることができます。
そのため、債務者は支払督促が届くと、強制執行がおこなわれる前に支払いに応じてくれる可能性があるのです。
本項では、少額訴訟・通常訴訟に関してよくある質問をまとめました。
少額訴訟を選ぶか検討している場合は、本項のFAQも参考にしてください。
取引相手の氏名・住所などがわからないと、少額訴訟などで債権を回収するのは困難です。
インターネットで取引をする際は、トラブルを避けるためにも以下に挙げる防止策をおこなうことをおすすめします。
相手の振込口座番号だけでもわかれば、弁護士に相談して23条照会をおこなってもらうことで、口座の所有者情報を調べられることもあります。
少額訴訟・通常訴訟ともに、以下の費用がかかります。
訴額に応じた手数料を、収入印紙で納付する必要があります。
訴額ごとの手数料は、以下のとおりです。
訴額(相手に請求する額) | 手数料 |
~10万円 | 1,000円 |
~20万円 | 2,000円 |
~30万円 | 3,000円 |
~40万円 | 4,000円 |
~50万円 | 5,000円 |
~60万円 | 6,000円 |
※訴額に遅延損害金や利息などは含まない
被告などに裁判の書類を郵送する際に使う郵便切手(郵券)は、原告が購入して裁判所へ提出する必要があります。
余った郵便切手は、訴訟終了後に原告へ返却される仕組みです。
この郵便切手代のことを、予納郵券代といいます。
予納郵券代は原告・被告の人数や管轄の裁判所などによりかわりますが、おおよそ3,000円~5,000円ほどです。
なお、少額訴訟は一般的に原告自身で手続きをおこなうことが多いので、弁護士や司法書士へ依頼する費用はかかりません。
弁護士・司法書士に対応を依頼したり相談したりする場合は、その費用が別途加算されます。
少額訴訟は、60万円以下の債権回収を相手に要求したいときに適した訴訟の手続きです。
少額訴訟であれば即日で判決が言い渡されるなど、通常訴訟に比べ原告にとって手軽で負担が少なくてすみます。
一方、少額訴訟は被告が通常訴訟への移行を希望したときなど、必ずしも利用できない場合もあるといった制約がある点には、注意しなくてはなりません。
少額の訴訟を起こす際は、通常訴訟・少額訴訟の違いを把握して、どちらが適しているかを検討しましょう。