売掛金・未収金
売掛金回収に困っている方必見!|回収方法から損金処理まで分かりやすく解説
2023.09.19
取引先から売掛金が回収できないと、自社の経営状況も悪化しかねません。
そのため、売掛金の支払い期限までに入金されないときや、過去に何度も滞納実績がある取引相手がさらに支払い遅延を生じそうなときには、すみやかに法的措置などを検討する必要があります。
そこで本記事では、以下3点についてわかりやすく解説します。
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売掛金は、「締め日の到来→請求書の発行・送付→請求書記載の期限までに支払い」という流れで入金されるのが一般的です。
しかし、取引相手の資金繰りや経営状況が悪化したときには期限までに支払いがおこなわれず、売掛金未回収のリスクが高まります。
まずは、支払い期限を過ぎても売掛金を回収できないときにすべきことについて解説します。
売掛金を支払い期限までに回収できないときには、すみやかに取引相手に連絡をとって、支払い状況について確認してください。
たとえば、取引相手方の事務処理ミスが原因で未回収が生じていたのであれば、速やかに入金をしてもらえるでしょう。
これに対して、「元請けからの入金が遅れているので支払いが遅れている」「経営状況がひっ迫しているので来月まで待ってほしい」などの言い訳を伝えられたり、問い合わせに対して取引相手からの返事がなかったりする場合には、売掛金回収に向けて具体的な法的措置を検討する段階であるといえるでしょう。
売掛金未回収が発生し、支払い遅延が業務処理上のミスではない場合には、取引相手に「支払いを催告」することになります。
そもそも、「元請けからの入金が遅れているので支払いが遅れている」「経営状況がひっ迫しているので来月まで待って欲しい」などは売掛金未払いの言い訳として通用しません。
なぜなら、金銭給付を目的とする債務の不履行に係る損害賠償責任は不可抗力をもってしても抗弁とすることができないためです(民法第419条第3項)。
売掛金の支払い催告をするときには、「売掛金を請求する旨」「相手方が支払い期日までに入金しておらず履行遅滞に陥っている旨」「遅延損害金が発生する旨」「〇〇日以内に支払いがない場合には法的措置をとる旨」を書面に記載して取引相手に送付しましょう。
売掛金未払いの取引相手に対して催告をするときには「内容証明郵便」を活用するとよいでしょう。
内容証明郵便とは、「いつ、どのような内容の文書を、誰から誰あてに差し出されたか」ということを、差出人が作成した謄本によって日本郵便株式会社が証明する郵便サービスのことです。
文書の内容の真実性を証明することはできませんが、文書が存在したことを証明できるので、売掛金未回収トラブルが裁判手続きに発展した場合の証拠として機能します。
内容証明郵便の送付は、取引相手に対して心理的なプレッシャーを与えるものなので、売掛金を回収できる可能性が高まります。。
なお、弁護士名義で内容証明郵便を送付すれば、さらに心理的プレッシャーを与えることができます。
売掛金の支払い遅延を生じる相手方、催告をしても即時に自主的な支払いをできない相手方との取引は、即時に停止しましょう。
なぜなら、取引を継続して更に納品を続けたとしても追加納品分についての支払いも期待できず、未入金額の増加によって損失が拡大するおそれが高いためです。
なお、「代金支払請求権は有しているものの、商品引渡債務を負っている以上、取引相手が売掛金を未払いでも商品は納品し続けなければいけないのではないか」と思われるかもしれません。
しかし、一般的な取引基本契約書では、「売掛金の未払い発生時に取引を停止する旨」の条項が掲げられているはずです。
したがって、取引相手から納品を求められたとしても当該条項の存在を理由に取引を停止しても差し支えありません。
当該条項が存在しない場合や、そもそも契約書を交わしていない場合でも、「同時履行の抗弁権」によって納品を拒絶することができます(民法第533条)。
ここでは、売掛金未回収の取引相手と連絡がつく場合の対処法について解説します。
売掛金未回収の取引相手と連絡がとれる場合には、取引相手に「未払金残高確認書」を作成してもらいましょう。
未払金残高確認書とは、売掛金未払いの事実および金額などについて債権者・債務者双方の認識が合致していることを確認するための書面です。
たとえば、「〇〇年〇〇月段階で、未払いになっている売掛金が〇〇万円存在しています。」などが記載されるのが一般的です。
未払金残高確認書の存在によって、書面作成段階で未払いの売掛金があることを証明できるので、民事訴訟や強制執行手続きを進めるにあたり有効な証拠となります。
売掛金未回収の買主と連絡がつく場合には、決算書の提出も求めることも考えられます。
決算書とは、企業の一定期間の業績、資産、負債などの財務状態を表す書類のことです。
具体的には、貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書・株主資本等変動計算書・個別注記表が挙げられます。
決算書を確認することによって、取引相手の現在の経営状況がわかるため、法的措置のタイミングや強制執行の要否を判断できます。
また、決算書の内容から取引相手の資産状況も判断でき、売掛金を回収するための強制執行の対象や回収可能額の予測を立てることも可能です。
現実には,決算書の提出に応じる企業は稀かと思われますが,取引先との関係次第では応じてもらえる可能性があるので,検討する余地があります。
売掛金未回収の取引相手と連絡がつく場合、売買契約などを解除して商品を引き揚げる作業も必要です。
商品引き揚げによって、損失の拡大を防止できます。
ただし、商品を引き揚げるには、基本的に取引相手の同意が前提になる点に注意が必要です。
たとえば、取引相手が引き揚げを承諾しないのに勝手に商品を持ち去ってしまうと、窃盗罪ということで売主側が刑事罰を科されかねません。
なお、商品引き揚げについて取引相手の同意を得られない場合には、動産引渡断行仮処分によって強制的に商品を引き揚げることも考えられます。
また、すでに商品が転売されているときには、第三者との権利関係が複雑になりますし、商品引き揚げ行為そのものがリスクが高い行為ではあるので,事前に必ず弁護士へ相談することをおすすめします。
売掛金未回収の取引相手と連絡がつくのであれば、取引相手との間で債権譲渡担保契約を締結するという方法もあります。
債権譲渡担保とは、「買主が転売相手に有する代金債権を担保として差し入れさせること」です。
取引先が破産したケースのように、取引相手が自社に対する代金債権を弁済しなかったときに、取引相手が有する代金債権を直接行使できるので、売掛金未回収のリスクを回避・軽減できます。
債権譲渡担保契約を締結するには、担保にする債権を特定し、対抗要件を備える(債権譲渡登記もしくは担保対象債権の債務者に対する通知)などの諸手続きを履践しなければいけません。
取引相手との協力も必要になるので、弁護士のサポートを受けながら取引相手と丁寧に話し合いを進めましょう。
売掛金未回収の取引相手から支払いを受けることができない場合や、取引相手との連絡がとれない場合には、売掛金回収に向けて法的措置(強制執行手続)をとる必要があります。
まずは、未回収の売掛金の代金請求及び遅延損害金を請求する法的根拠を明確にする必要があります。
以下の書類が証拠になるので、できるだけ早めに準備するようにしましょう。
特に、契約書に「期限の利益喪失条項」が掲げられているかは大きなポイントになります。
期限の利益喪失条項に該当する事由が発生していれば、現段階で支払い期限前の売掛金についても、あわせて法的措置をとることができます。
取引相手の財産で売掛金を回収するには、先行して「仮差押さえ」をする必要があります。
仮差しさえとは、金銭債権などを保全する目的で、債権額に相当する範囲で債務者の財産の処分を禁止し、現状を変更できないようにする手続きのことです。
裁判所に対して「仮差押命令申立書」を提出し、裁判所で実施される面接で仮差し押さえを求める事情を説明します。
そして、裁判所が仮差押さえを要すると判断した場合には法務局に担保金を供託し、仮差押命令が発令されます。
これにより、取引相手との交渉や民事訴訟手続きを履践するあいだに債務者に財産を処分されるリスクを回避することができます。
仮差押さえ手続きが済むと、取引相手に対して売掛金回収訴訟を提起します。
なぜなら、強制執行手続きに進むためには、勝訴判決や裁判上の和解が必要であるためです。
ただし、民事訴訟は複数の口頭弁論期日を経て証拠調べ手続きなどが進められるので、年単位で時間を要する可能性も否定できません。
債務名義獲得までの手続きをスピーディーにおこないたいのなら、「支払督促」を利用するのがおすすめです。
支払い督促とは、金銭給付などの請求について、債権者の申立てにより、その主張から請求に理由があると認められる場合に仮執行宣言を付する簡易簡便な手続きのことです。
取引相手が支払い督促を受け取ってから2週間以内に異議申し立てをしなければ、債権者側の申立てどおりに仮執行宣言が付されるので、スムーズに強制執行の申立て手続きに移行できます。
ただし、支払督促は相手方から異議が出れば通常訴訟に移行します。
また,支払督促は,相手方の住所を管轄する裁判所が管轄裁判所となるため,遠い場所にある場合は対応に苦慮することにもなりかねません。
このように,相手方との間に法的紛争が生じる可能性が高い場合は、かえって時間がかかることになりかねないため,相手方との間で法的争点がない場合には有効です。
民事訴訟で勝訴判決が確定した場合や、支払い督促に仮執行宣言が付された場合でも、取引相手が売掛金を支払ってくれないケースは少なくありません。
このように、裁判手続きを経ても売掛金を回収できないときには、強制執行手続きによって取引相手の財産などを差し押さえることになります。
強制執行の対象になる財産として、以下のものが挙げられます。
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売掛金を回収できないときには、以下の対応策を検討しましょう。
取引相手に対して買掛金や借金があるときには、売掛金と相殺することが可能です。
当事者間でお互いに同種の目的を有する債務を負担している場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、相殺をすることによって対当額について債務を免れることができます(民法第505条第1項)。
売掛金は回収できませんが、買掛金などの債務を返済する必要もなくなるので、実質的には売掛金を回収したときと同等の効果を得られるでしょう。
相殺は相手方に対する意思表示だけでおこなうことができ、取引相手の承諾を得る必要はありません(民法第506条第1項)。
ただし、相殺対象の債務の履行期が到来していなければならず(相殺適状)、また、第三者に債権が譲渡されると相殺が認められなくなるなどの注意点も少なくないので、かならず弁護士に相談しましょう。
取引相手から売掛金を回収できないときには、売掛金を放棄して貸倒損金として計上するのも選択肢のひとつです。
損金処理をすれば未収売掛金相当額を経費として計上できるので、法人税の課税対象額が引き下がるという効果が得られます。
取引先から売掛金を回収できず、結果として事業資金などの資金繰りが苦しくなったときには、「取引企業倒産対応資金(セーフティネット貸付)」制度の利用をご検討ください。
取引企業倒産対応資金とは、日本政策金融公庫の融資制度のことで、売掛金債権の回収困難、売上減少などのために緊急に必要となる運転資金や、関連企業の倒産の影響によって企業運営上一時的に必要となる運転資金に充てることができます。
融資限度額は3,000万円で、返済期間は8年以内です。
取引企業倒産対応資金制度の利用対象になるのは、以下の場合です。
売掛金が回収困難な不良債権であることが確定したケースでは難しいですが、「将来的に売掛金債権が回収困難になる可能性があるものの、現段階では方策を尽くすことによって回収見込みがあるケース」では、売掛金債権を債権回収業者に買い取ってもらうのも選択肢のひとつです。
ただし、債権回収業者に買い取ってもらう場合には売掛金を全額回収することはできません。
加えて、各業者が定める手数料などが差し引かれる点にも注意が必要です。
債権回収業者のなかには、不良債権でも引き取ってくれる業者もあります。
相当のディスカウントを覚悟しなければいけませんが、節税面でのメリットなども総合的に考慮して判断しましょう。
なお,債権回収会社が扱う債権は「特定金銭債権」です。
特定金銭債権は,金融機関やリース会社が持つ債権,破産手続き中の会社が持つ債権であり,一般の企業が持つ債権は該当しないため,現実には,債権回収業者が買い取る場面は稀でしょう。
取引相手が倒産をして売掛金未回収のリスクに晒されたときには、以下2つの方法を検討することをおすすめします。
取引相手に引き渡した商品(動産)がすでに第三者に転売されているときには、動産売買先取特権を行使して売掛金を優先的に回収する方法が考えられます。
動産売買先取特権とは、「動産の売買によって生じた債権を有する者に与えられる債務者の特定の動産についての優先弁済権」のことです(民法第311条第5号)。
買主が商品を転売したときに取得した転売代金請求権を差し押さえることによって、売掛金を優先的に回収することができます。
悪質な売掛金未払いのケースでは、会社だけではなく、取締役などに対して直接損害賠償責任を追及することも可能です(会社法第429条第1項)。
ただし、取締役などに対する賠償責任を追及するには、当該職務執行につき取締役などに悪意または重過失があったことを主張立証する必要があり、役員の個人財産からどれだけ賠償できるかは確証が得られない点には注意が必要です。
また,原則として,会社の債務不履行がそのまま取締役の任務懈怠とされるわけではありません。
売掛金を回収できないと、企業経営自体に影響を及ぼしかねません。
そこで、売掛金を回収不能にしないために、普段から以下5点を踏まえた対策をしておくことが重要です。
売掛金未回収リスクを回避・軽減するには、普段から取引先の経営状況を確認する作業が重要です。
取引を開始する段階だけではなく、取引を開始したあとも、取引先の与信管理(信用調査)を継続するべきでしょう。
売掛金の回収不能リスクを回避・軽減するには、日ごろから取引先と密にコミュニケーションをとることも重要です。
なぜなら、ふとした雑談からでも取引先の経営状況の様子を垣間見ることができるためです。
たとえば、メールや書類のやり取りだけではなく、積極的に電話や対面、リモートなどで直接話をする機会を設けるべきでしょう。
売掛金の回収忘れを防ぐ社内体制を構築して、未回収リスクを予防するのも重要です。
たとえば、「継続的な取引相手と基本契約を締結する際にはかならず連帯保証人をつける」「取引相手の機械設備の譲渡担保権を設定する」「経理部門の人員数を増やして請求処理業務などの遅延を予防する」「決済代行サービスなどのアウトソーシング化によって業務効率性を向上させる」などの方法が考えられます。
取引先の売掛金は未来永劫いつまでも請求できるわけではありません。
売掛金債権について消滅時効が完成する前に内容証明郵便の送付や訴訟を提起するなどの措置をとって、未回収リスクに備えましょう。
なお、民法では売掛金債権の消滅時効期間は債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間であると定められています。
(債権等の消滅時効)
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
売掛金の未回収トラブルが生じたときには、すみやかに弁護士へ相談することをおすすめします。
弁護士への依頼によって、次のようなメリットが期待できます。
売掛金の回収を弁護士に依頼すると、催告書や内容証明に弁護士名が表示されるので、取引相手に対してプレッシャーを与えることができます。
弁護士の着任によって、仮差し押さえや民事訴訟などの法的措置をとられる危険性に晒されていることを、取引相手に強く認識させることができます。
そのため、自社担当者が直接交渉をするときよりも、相手方が売掛金の支払いに応じる可能性を高めることができるでしょう。
売掛金の回収は、何度も電話連絡をしたり、書面を準備・送付したりと、非常に手間がかかります。
また、支払うつもりのない相手方の言い訳を何度も聞かなければいけないので、心理的な負担も相当なものです。
売掛金回収を弁護士に依頼すれば、取引相手との交渉は全て弁護士が代理してくれるので、会社側で時間や労力を割く必要がなくなるでしょう。
弁護士に依頼すれば、売掛金回収に必要な法的措置を尽くしてくれます。
たとえば、内容証明郵便の作成、示談交渉、公正証書の作成、仮差し押さえ手続き、民事訴訟の提起・遂行、強制執行手続きなど、あらゆる角度からの法的サポートが挙げられます。
さらに、今後売掛金未回収トラブルが生じないように、社内体制や基本契約書の見直しなどのアドバイスも期待できるでしょう。
売掛金を回収できないときには、できるだけ早いタイミングで弁護士へ相談することを強くおすすめします。
未回収状態を放置している間に相手方が倒産をしたり、財産を処分されたりすると、不良債権化して売掛金が全額未回収になってしまうおそれがあります。
弁護士への相談時期が早いほど,取りうる選択肢は多いため、まずは気軽に問い合わせてみましょう。
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