財産分与
離婚で不動産を分与するときのポイント|家やマンションの財産分与をわかりやすく解説
2024.10.04
離婚時には夫婦で築いた財産を分け合うことになっており、「財産分与」と呼ばれます。
財産分与は「夫婦2分の1ずつ」が原則になるため、共有財産の半分は必ず取得できます。
なお、現金や預貯金は容易に分割できる財産ですが、不動産があると財産分与は難しくなります。
土地や建物は物理的に分けられないため、それぞれの持分に応じて共有する、または売却代金を分け合うことになるでしょう。
不動産の名義変更や売却には税金もかかるため、財産分与の方法によっては納税資金も準備しなければなりません。
本記事では、離婚時に不動産を分与する方法や、住宅ローンが残っている場合の対処法などをわかりやすく解説します。
離婚の際に不動産を分与するときは、以下のいずれかの方法を検討してください。
それぞれメリット・デメリットがあるため、特徴をよく理解しておきましょう。
不動産の売却代金を分与すると、夫婦が2分の1ずつ現金を取得できます。
手放しても構わない不動産であれば、売却して現金に換えたほうが財産分与しやすいでしょう。
不動産の売却方法には以下の2種類があるので、どちらで売却するかじっくり検討してください。
不動産会社の仲介は仲介手数料がかかり、売却完了までの期間は一般的に3~6ヵ月程度ですが、立地条件などがよければ高値で売れる可能性があります。
買い取りの場合は即日または1週間程度で査定が終わり、短期間で現金化できますが、買取価格は一般的な市場価格の6~7割程度です。
時間的な余裕があれば不動産会社の仲介、すぐに現金が欲しいときは買い取りを検討してみましょう。
夫婦のどちらかが不動産を取得するときは、相手に代償金を支払うと公平に財産分与できます。
たとえば、5,000万円の不動産を夫が取得し、妻に代償金2,500万円を支払うと、それぞれ2,500万円ずつの財産分与になります。
不動産は夫の単独名義になるため、賃貸や売却の際に妻の同意は必要ありません。
妻は新たな住居を探さなければなりませんが、まとまった資金が手に入るため、当面の生活には困らないでしょう。
ただし、分与義務者となる夫に資金力がなく、不動産の評価額もわからなければ、実現できない方法です。
不動産を売却する予定がなく、代償金の準備も難しいときは、共有名義を検討してみましょう。
不動産の持分を2分の1ずつ取得し、夫婦の共有名義にすると公平に財産分与できます。
なお、共有名義の不動産には夫婦それぞれの権利が発生するため、賃貸活用や売却する際は、共有者の同意が必要です。
固定資産税もそれぞれに課税されますが、納税通知書は役場が指定した代表者のみに送付されるので、納税トラブルには十分に注意してください。
土地を分筆すると、物理的に分割できます。
分筆した土地はそれぞれが単独名義になるため、賃貸や売却の際に相手の同意は必要ありません。
ただし、土地の分筆は境界確定が必要になっており、土地家屋調査士へ支払う費用が最低でも10万円程度かかります。
分筆した土地は1㎡あたりの評価額に差が出てしまうケースが多く、いびつな形の不整形地を分筆すると、片方の使い勝手が悪くなるでしょう。
財産分与する不動産に住宅ローンが残っている場合、アンダーローンとオーバーローンの違いが売却に影響します。
売却せずに住み続ける場合も、住宅ローンがあると扱いが難しくなるため、財産分与の際には以下を参考にしてください。
財産分与する不動産がアンダーローンの場合、売却代金でローンを完済し、残額を2分の1ずつ財産分与できます。
どちらかが住み続けるときは、不動産の時価からローン残高を差し引いた額を分与し、別居する側に支払うとよいでしょう。
たとえば、時価4,000万円の不動産に夫が住み続ける場合、ローン残高が2,000万円であれば、「4,000万円-2,000万円=2,000万円」が財産分与の対象です。
不動産がオーバーローンの場合、売却代金ではローン残高を返済しきれません。
ローンの残高があれば金融機関の抵当権が設定されているため、売りたくても買い手が見つからないでしょう。
オーバーローンの不動産を売却したいときは、預金を取り崩してオーバーする部分を返済し、次に売却代金を分与する方法もあります。
不動産をペアローンで購入している場合、離婚によってどちらかが別居すると契約違反になるため、ペアローンを解消する必要があります。
たとえば、妻が住み続けて夫が出ていく場合、夫がローンを完済するまで不動産の名義を妻に変更できないため、妻が夫の持分を買い取ることになります。
不動産を売却する場合、アンダーローンは特に問題ありませんが、オーバーローンであれば、オーバー部分に現預金を充てなければならないでしょう。
なお、金融機関の許可によって任意売却が可能になると、ローン残高があっても抵当権を解除してもらえます。
不動産を一般的な住宅ローンで購入しており、夫婦のどちらかが住み続ける場合は、以下の2パターンに分かれます。
ローン契約者が住み続けるときは、ローンの返済をそのまま継続し、その他の財産を2分の1ずつ分与します。
離婚によってローン契約者が家を出る場合も、引き続き契約者がローンを返済します。
住み続ける側はローンを負担せずに住居を確保できますが、契約者がローンの返済を滞納すると不動産は差押えとなり、競売にかけられるので要注意です。
離婚時に不動産を分与する場合、名義変更の費用や維持コストを把握しておく必要があります。
想定外の出費やトラブルが発生するケースもあるため、以下のポイントをよく理解しておきましょう。
離婚時に不動産を分与するときは、市場価格で分与する額を判定してください。
不動産の価格は固定資産税評価額を基準にしますが、立地条件や築年数などを加味するため、不動産会社に売却価格を査定してもらうとよいでしょう。
ただし、査定額は不動産会社によって異なるため、少なくとも3~4社で見積もりを取る必要があります。
財産分与で不動産を取得する場合、維持コストの把握が必要です。
不動産を所有すると固定資産税が毎年かかり、都市部の場合は都市計画税も課税されます。
一戸建ての場合は将来的に外壁や屋根などの修繕が必要となり、分譲マンションも管理費や修繕積立金の支払いが発生します。
不動産の取得するまで維持コストを負担していなかった場合、「こんなにかかるの?」となってしまうケースが少なくありません。
火災保険や地震保険などに加入していると、毎月の保険料も大きな負担になるでしょう。
財産分与で不動産を取得すると、主に以下の費用がかかります。
離婚によって不動産の名義が変わる場合、数千円程度の登記申請費用が発生します。
不動産取得税は「固定資産税評価額×税率3%」になるため、仮に固定資産税評価額が3,000万円だとすると、90万円を負担しなければなりません。
登録免許税は「固定資産税評価額×税率2%」が納税額になるので、固定資産評価額が3,000万円であれば、60万円を納税します。
なお、不動産取得税がかかるケースは「慰謝料的財産分与」に限られており、慰謝料の代わりに不動産を取得した場合です。
財産分与には贈与税もかかりませんが、「夫婦2分の1」の範囲を超えており、どちらか一方の取得割合が極端に多いときは、贈与税がかかる可能性があります。
離婚の目的が「相続税逃れ」だとみなされた場合は、財産分与で取得した財産がすべて贈与税の課税対象になるでしょう。
財産分与したあとに不動産を売却し、売却益が発生すると譲渡所得税がかかります。
不動産の売却益を譲渡所得といい、以下のように計算します。
たとえば、1億2,000万円で購入した不動産が売却時には1億6,000万円になっており、仲介手数料を含む譲渡費用が140万円であった場合、譲渡所得は以下のようになります。
不動産の所有期間が5年を超えていると、譲渡所得税率は20.315%ですが、5年以下の場合は税率39.63%が適用されます。
また、財産分与で夫から妻に不動産が移転した場合も、取得費より財産分与時の時価が高くなっていると、譲渡益に対して譲渡所得税がかかります。
対象が居住用不動産であれば、一定の要件を満たすことで「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」を適用できます。
この特例は親族以外に自宅などの居住用不動産を譲渡するにあたり、譲渡益から3,000万円まで控除できる制度です。
本特例を適用できれば、譲渡益が3,000万円までであれば譲渡取得税はかかりません。
譲渡益が3,000万円を超える場合も節税が可能です。
前述の例では、3,860万円の譲渡益のうち3,000万円分は控除されます。
その結果、残りの860万円に対して譲渡所得税がかかることになるのです。
なお、本特例が適用できるのは親族以外に不動産を譲渡する場合である点は、注意が必要となります。
離婚前に所有名義が変更されると、親族への譲渡とみなされ特例が適用されない可能性が高まるわけです。
本特例を適用するためには、離婚届が受理されたあとに不動産の名義を変更した方がよいでしょう。
財産分与で不動産を共有名義にすると、トラブルが発生しやすいので要注意です。
たとえば、妻が親権者となって自宅に住んでおり、夫は家を出たあと、再婚して子どもが生まれたとします。
元夫が亡くなると、元夫の共有持分を再婚相手とその子どもが相続するため、元妻が自宅を売却するときは、元夫の配偶者とその子どもの同意を得なければなりません。
元妻は親族ですらない人と不動産を共有することになり、元妻が亡くなると、さらに権利関係が複雑化します。
最終的には何もできない凍結不動産になる可能性があるため、不動産の共有は慎重に検討してください。
財産分与の取り決めが確定したら、公正証書にしておくとよいでしょう。
たとえば、財産分与で妻が自宅を取得し、家を出た夫が住宅ローンを払い続ける場合、夫がローンを滞納すると、債権者が自宅を差し押さえます。
妻は自宅を失ってしまいますが、強制執行認諾文言付きの公正証書を作成すると、夫のローン返済が滞ったときに、夫の給与や預貯金を差し押さえられます。
公正証書を作成するときは、近くの公証役場に相談してみましょう。
不動産をペアローンで購入していると、夫婦がお互いの連帯保証人になっています。
離婚後に一方のローン返済が滞ったときは、住んでいる・いないに関係なく、連帯保証人が返済しなければなりません。
連帯保証人として相手の返済も負担したときは、負担額を相手に請求する「求償」が可能です。
ただし、ローンの返済が滞っている状況では、相手が経済的に困窮しており、求償に応じてくれない確率が高いでしょう。
離婚時の財産分与はトラブルが発生しやすいため、不動産を分与するときは以下のQ&Aも参考にしてください。
財産分与の対象や、請求期限も理解しておくとよいでしょう。
相手が財産分与に応じないときは、調停や審判の申し立てを検討してください。
財産分与の請求期限は離婚から2年以内ですが、調停や審判を申し立てると期限の進行が止まります。
また、財産分与請求調停を申し立てると、調停委員が和解案を提示してくれるため、相手も財産分与に納得しやすいでしょう。
審判は調停と裁判の中間的な手続きになっており、裁判官が一定の判断を下すため、財産分与を命じてもらえる可能性があります。
裁判所を介した手続きに不安がある方は、弁護士にサポートを依頼してみましょう。
財産分与の対象は夫婦が婚姻中に築いた財産になるため、親が出した住宅ローンの頭金は対象外です。
なお、夫名義で自宅を購入し、妻の親が頭金を出している場合、「離婚したら頭金を返すこと」という取り決めがあれば、返金分が妻の特有財産になります。
特有財産は分与しなくてもよいため、夫から請求されても支払う必要はありません。
家を手放したくないときは、リースバックを検討してみましょう。
リースバックとは、不動産会社などに家を売却し、売却代金を受け取ったあとに賃貸物件として住み続ける仕組みです。
家の所有権は失いますが、表面的には持ち家と変わりがなく、まとまった現金も取得できます。
財産分与の対象に不動産がある場合、売却代金を分け合うのか、共有名義で所有し続けるのか、パートナーとじっくり話し合ってください。
不動産の売却益には譲渡所得税がかかり、名義変更すると登録免許税が課税されるため、納税資金を考慮しておく必要もあります。
財産分与には請求期限もあるので、夫婦間の協議を先延ばしにしないように注意してください。
離婚時の財産分与でもめたときや、不動産を分ける方法に迷ったときは、弁護士に相談してみましょう。