子どもの親権・養育費
養育費の差し押さえ方法(強制執行)をわかりやすく解説
2024.11.20
「養育費の取り決めをしたのに、元配偶者が支払ってくれない」
「養育費の未払いが続いている。元配偶者にどうしても払わせたい」
残念ながら離婚後に、養育費が支払われていないケースは少なくありません。
こども家庭庁が公開した調査※によれば、「養育費を受けたことがない」とする母子世帯は56.9%にのぼります。
実際、SNSなどをみると以下のように訴える方の声が多く見受けられます。
養育費ぶっちしといてキャバクラいくのクズ過ぎる…
引用元:X(旧Twitter)の投稿から
マジで実家太くて障害がない人羨ましい。母に不満はないし恨みは無いけどクソ親父は父親面してくるの許せないし憎い。養育費教育費も出さず他の女と家庭作った浮気クズ親父を絶対許さない。どの面下げて今更父親面するのかむかつく
引用元:X(旧Twitter)の投稿から
本記事では、養育費の支払い義務や相手が養育費を支払わないときの対処法、相手が支払うべき養育費の相場について解説します。
本記事を参考に、元配偶者へ「どうすれば養育費を支払わせられるか」検討ください。
離婚後、子どもと同居しない親には、子どもが経済的に独立するまで養育費を支払う法律上の義務があります。
養育費とは、子どもの衣食住に必要な経費や教育費、医療費などが含まれます。
親権者でなくなったとしても子どもの親であることに変わりはなく、子どもに対して自分と同じ水準の生活ができるようにしなければなりません。
養育費は子どもの健全な成長に必要不可欠であり、たとえ自己破産しても免責されない強い義務ですが、支払われない場合も多いのが実情です。
しかし、養育費の未払いは決して許される行為ではなく、強制的に養育費を回収する法的な手段もあるため、諦める必要はありません。
養育費の金額や支払期間などは、基本的には父母の話し合いにより決定されます。
ただし、その後事情が変わった場合など、取り決めた養育費について減額や免除が認められる場合もあります。
たとえば、以下のような場合です。
なお、一度取り決めた養育費の減額や免除については、双方の合意を得るか、調停や審判などの手続きを経て決定される必要があります。
養育費の請求には時効があります。
話し合いや公正証書により取り決めた場合の時効は、養育費を受け取る側が、権利を行使できることを知った時から5年です。
一方、調停や審判、裁判などによって決定した場合の時効は10年です。
これらの時効が過ぎた分の養育費については、支払う側が時効の完成を主張(時効の援用)すれば請求できません。
ただし、相手に支払い義務を認めさせたり、調停の申立てや強制執行などをしたりすれば、時効の進行を中断またはリセットできます。
内容証明郵便で相手に養育費請求の意思を伝えるだけでも、6ヵ月間は時効を止めることができるため、ひとまずの対処法にはなります。
時効後であっても、支払う側が時効を援用せず、任意に支払う可能性もあるため、諦めずに請求しましょう。
ここでは、元配偶者が養育費を払わない場合の対処法について詳しく解説します。
まずは、元配偶者と養育費の支払いについて直接話し合うことを試みましょう。
2024年に「ベンナビ離婚」が親権を持たない男性にアンケートを実施した結果、養育費を払わない理由として多かったのは以下のような理由でした。
「親権を取りたかったが取れなかったため、母親側が負担すべきと思ったから」
「子どもと面会させてもらえないため、払いたくない」
引用元:ベンナビ離婚(株式会社アシロ)|親権を持たない男性の約5割が「養育費を満額支払っていない」と判明!
このように、元夫が養育費を払わないのは、養育費の支払い義務に対する認識が不十分であったり、離婚時の元妻との確執が原因だったりします。
改めて冷静に話し合えば、養育費の支払い義務について理解を求めたり、お互いが納得する方法を考えたりすることもできるでしょう。
話し合いで解決できれば、費用や時間もかからず、そのあとの関係も良好になる可能性が高くなります。
改めて合意した内容は、書面に残すのを忘れないようにしましょう。
公証役場で強制執行認諾文言付の公正証書を作成すれば、養育費が払われなくなった場合、直ちに強制執行により相手の給与や預貯金を差し押さえできます。
話し合いで解決しない場合や、相手が話し合いに応じない場合は、次のステップに移る必要があります。
話し合いでの解決が困難な場合は、相手の住所地を担当区域とする家庭裁判所に調停を申し立てましょう。
調停は、裁判官や調停委員の仲介のもとで当事者同士が話し合いをおこない、解決を目指す手続きです。
当事者たちの互いの収入状況や養育費に必要な額などを考慮したうえで解決に向けた助言をし、合意した内容は調停証書として残してくれます。
必要な費用は手数料(1,200円×子どもの人数)と連絡用の郵便切手代(1000円程度)であり、申立書のほかに子の戸籍謄本や父母の収入に関する資料などが必要です。
調停で合意できなければ、裁判官が判断する審判に自動的に移行し、適切な養育費の金額などが決定され、審判書が作成されます。
調停や審判で決定した養育費が支払われない場合は、家庭裁判所から支払いを促す履行勧告の申出が無料でできます。
それでも相手が支払わないときは、履行命令の申出も無料でできます。
履行勧告との違いは、正当な理由なく相手が従わない場合、10万円以下の過料に処せられる点です。
履行勧告と履行命令には法的強制力はありませんが、心理的に相手にプレッシャーをかけることができるでしょう。
上記の対応でも支払わない相手に対しては、給料や預貯金を差し押さえる強制執行を検討しましょう。
調停証書、審判書、強制執行認諾文言付の公正証書などの書面があれば、相手の住所地を担当区域とする地方裁判所に申立てできます。
必要な費用は、手数料の4,000円と郵便切手代(3,000円程度)です。
ただし、収入または資産が少ない相手には意味がないため、差し押さえる相手の財産を自分で調べる必要があります。
その場合、以下の「財産開示手続」と「第三者からの情報取得手続」を利用しましょう。
相手を裁判所に呼び出し、どんな財産を持っているかを裁判官の前で陳述させる手続きです。
応じない場合は「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」の刑事罰が科されます。
第三者とは、市町村や年金機構、金融機関、登記所などを指します。
これらに対し、裁判所からそれぞれ相手先の勤務先情報、預貯金情報、不動産情報について情報提供させる手続きです。
第三者からの財産情報の提出があるのは、裁判所から情報提供命令正本が届いてから2週間以内とされています。
元配偶者との話し合いができない場合や、裁判所の手続きが難しい場合は、弁護士に相談するとよいでしょう。
費用が気になるかもしれませんが、初回の相談が無料でおこなわれている法律事務所も多くあります。
養育費の請求について無料相談ができる弁護士を効率よく探したい場合は、ベンナビ離婚の利用がおすすめです。
また、法テラス(日本司法支援センター)を利用すれば、弁護士費用を一時的に立て替えてもらえる場合があります。
なお、2024年4月より、収入や資産が一定額以下であり、中学生以下の子どもを育てるひとり親世帯については、立替金の返済が免除となります。
元配偶者と養育費の金額について話し合うとき、根拠が何もないと必要額より低い金額で合意させられる恐れもあります。
話し合いの前に、養育費の相場や一般的な算出方法を把握しておきましょう。
厚生労働省が行った「令和3年度全国ひとり親世帯等調査」によると、養育費の平均月 額は、母子世帯では50,485円、父子世帯では26,992円となっています。
【参考】:厚生労働省|令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果の概要
これはあくまで平均値なので、以下で子どもの数や父母の年収などに応じた標準的な養育費の算出方法について説明します。
養育費算定表は、裁判所が公表している養育費の標準的な金額を示した表のことです。
子どもの人数と年齢のパターン別に表があるので、自分に合う表を選び、父母の年収や自営業者かどうかという条件を当てはめると標準的な養育費の月額がわかります。
表を見る際に、給与所得者の年収は源泉徴収票の「支払金額」、自営業者は確定申告書の「課税される所得金額」を適用してください。
【参考】裁判所|平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について
基本的には、適用される条件と標準的な養育費の金額には以下のような関係が成り立っています。
適用される条件 | 標準的な養育費の金額 |
子どもの人数 | 子供の人数が多いほど養育費の金額は高い |
子どもの年齢 | 14歳以下より15歳以上のほうが養育費の金額は高い |
養育費を支払う親の年収 | 養育費を支払う親の年収が高いほど養育費の金額は高い |
養育費をもらう親の年収 | 養育費をもらう親の年収が高いほど養育費の金額は低い (支払う親が低年収の場合はあまり変わらない) |
養育費を支払う親が自営業者か給与所得者か | 養育費を支払う親が自営業者のほうが養育費の金額は高い |
養育費をもらう親が自営業者か給与所得者か | 養育費をもらう親が給与所得者のほうが養育費の金額は高い |
養育費算定表で示される金額はあくまで目安です。
子どもの進学状況や健康状態など、さまざまな事情を考慮したうえで最終的な金額が設定されるため、表の金額と一致しない場合もあることを覚えておきましょう。
養育費の計算は、インターネット上で公開されている自動計算機を利用すると簡単に養育費の目安額がわかります。
「ベンナビ離婚」でも、養育費算定表を参考にして作成された自動計算機を公開中です。
父母の収入や子どもの人数・年齢区分、所在地などを入力するだけで、すぐに養育費の目安額が算出されます。
たとえば、東京都在住で、養育費をもらう側が年収200万円、支払う側が年収600万円で4歳と0歳の子どもがいた場合、算出される月々の養育費の目安は8.4万円です。
ただし、算出された養育費の額は目安に過ぎませんので、同じ条件でも個別の家庭の事情に応じて実際の金額は異なる場合があることに注意が必要です。
元配偶者に確実に養育費を支払わせたい場合は、ひとりで悩まず、弁護士に相談するのが近道です。
ここでは、弁護士に相談や依頼をすることのメリットについて解説します。
養育費請求の実績が豊富な弁護士に相談すれば、元配偶者の状況や態度に応じて、最適な方法を提案してくれます。
たとえば、行方不明、連絡先不明といった場合の確認方法も熟知しており、対応を依頼をすれば、弁護士の職務上請求や弁護士会照会などにより相手の居場所を明らかにしてもらえます。
ほかにもさまざまな言い訳で養育費から逃れようとする相手であっても、法的な観点から認められる言い分なのかどうかを適切に判断してくれるでしょう。
元配偶者とは連絡をとりたくない場合でも、弁護士に依頼すれば元配偶者との交渉を代行してもらえるため、心理的な負担が軽くなります。
養育費の交渉を直接相手とおこなうと、お互い感情的になって対立姿勢が強まる可能性もあります。
間に弁護士が入ることで、冷静になって交渉を進めることができるでしょう。
DVや虐待の危険性がある相手であっても、養育費をもらえないのではと諦める必要はありません。弁護士が対応すれば、自分と子どもの身の安全を守りつつ交渉することができます。
弁護士が介入することで、相手に心理的なプレッシャーを与えられ、支払いに応じる可能性が高くなります。
なぜなら弁護士が関わることで、法的な手段も辞さないというメッセージにもなり、相手は養育費の支払いを真剣に考えざるをえなくなるからです。
弁護士相手であれば、下手な言い訳や強気の態度も通用しないため、行動を変えてくる元配偶者もいるでしょう。
弁護士に依頼すれば、裁判所の手続きや書類作成を全て代行してくれるため、手間を大幅に減らすことができます。
その分これまでどおりの生活が送れるため、子どもへの影響が最小限で済み、子どもを不安にさせることもないでしょう。
手続きを迅速に済ませてくれるため、時効によって請求ができなくなるリスクも避けられます。
元配偶者が養育費を払わないケースは珍しくありません。
しかし、養育費の支払いは子どもに対する当然の義務であるため、泣き寝入りせず回収に向けて自分から動き出しましょう。
まずは話し合いから始めることをおすすめしますが、相手が応じない、解決に至りそうもない場合は法的な手段を取ることも検討してください。
相手と連絡が取れない、相手との話し合いに不安を感じる、裁判所の手続きが煩雑で難しいなどの悩みがあれば、時効が成立する前に早めに弁護士に相談してみましょう。
「ベンナビ離婚」では、所在地や相談内容、無料相談の有無などで弁護士を検索することができるため、あなたの目的に合った弁護士がきっと見つかります。