自己破産とは、債務の支払いが不能の状態に陥った場合に、裁判所を通じておこなう債務整理の手続きです。
債務全額が免責されるため、借金などの債務をどうしても支払えない場合に、有力な選択肢となっています。
しかし、自己破産の手続きを弁護士に依頼すると費用がかかるため、手元にお金がない方にとっては、ハードルが高いと感じられるかもしれません。
そこで、自己破産の手続きを自分で進めたいと考える方もいるでしょう。
本記事では、自己破産手続を自分でおこなう場合の概要、手続きの流れや注意点、また弁護士費用が工面できない場合の対処法について解説します。
(※本コラムにおける、法理論に関する部分のみを監修)
自己破産手続は自分でできる?
自己破産は、債務整理のなかでも、債務全額が免責される唯一の手続きです。
そのため、深刻な財務状況に陥った方に特におすすめの方法です。
一般的には、弁護士に依頼して申立てをおこないますが、債務者本人が自分でおこなうことも可能です。
まずは、自己破産を自分でおこなう場合の概要について、詳しく見ていきましょう。
自己破産は債務者本人がおこなえる
自己破産は、弁護士による代理人申立てのほか、債務者本人による申立ても認められています。
つまり、自己破産の手続きをおこなうときに弁護士を選任するかどうかは、債務者の自由となっています。
特に管財事件の場合、財産の換価・処分や債権者への配当のような業務は、裁判所によって選任される破産管財人がおこないます。
そして、破産管財人には弁護士が選任されます。そのため、基本的には破産管財人に任せておけば、破産手続自体を進めていくことは可能となっているのです。
ただし、債務者本人が自分で自己破産を申し立てる場合、手続きを自分でおこなうが故に、さまざまな注意事項が存在します。
そのため、破産手続きを確実に遂行したい場合、弁護士に依頼するほうが安心といえます。
自分で自己破産するときの必要書類
自分で自己破産するときには、必要書類を用意して裁判所に提出します。
具体的な必要書類は、自己破産を申し立てる裁判所によって異なりますが、おおむね以下のような書類が必要です。
必要書類 | 書類の内訳 |
申立書 | 自己破産を申し立てるための書類 |
借金の状況や事情を説明する書類 | 陳述書・現在の借金額がわかる書類 |
債務を証明する書類 | 債権者一覧表 |
財産を証明する書類 | 財産目録 |
職業や収入を証明する書類 | 給与明細書・年金受給証明書 |
身分に関する資料 | 住民票・戸籍謄本 |
住居に関する資料 | 不動産登記簿謄本・賃貸契約書のコピー |
資産に関する資料 | 車検証・保険証・保険解約返戻金証明・預貯金口座のコピー |
その他の添付書類 | 退職金支給証明書 |
これらの資料や書類を収集したり、作成する必要があります。
そして、裁判所に納める予納金や収入印紙、郵便切手と一緒に裁判所に提出します。
自分で自己破産するときにかかる費用
自分で自己破産の手続きを申し立てるときには、費用を支払う必要があります。
費用は裁判所への予納金と申立手数料、郵便切手代の合計からなります。
また、裁判所への予納金については、同時廃止事件と管財事件で金額が変わります。
手続きにかかる具体的な費用の相場は、以下のとおりです。
費用の内訳 | 費用の相場 |
予納金 | 同時廃止事件:11,859円 管財事件:約50万円〜 少額管財:約20万円〜 |
申立手数料 | 1,500円 |
郵便切手代(予納郵便) | 4,950円 |
【参考】破産事件の手続費用一覧
同時廃止事件と比べて、管財事件にかかる費用は高くなります。
ただし、弁護士に依頼した場合には少額管財事件として処理される可能性が高まるため、費用が抑えられます。
そのため、自己破産を管財事件として進める場合には、弁護士費用を考慮しても、弁護士に依頼したほうが安くなるケースもあります。
自己破産の手続きをどのように進めるかについても考慮する必要があるでしょう。
自己破産手続を自分で申し立てる際の流れ
では次に、自己破産の手続きを自分で申し立てる際の流れについて見ていきましょう。
自己破産を自分で申し立てる場合、大まかには以下のような流れで手続きが進行します。
自己破産手続を自分で申し立てる際の流れ
- 自分の債務や財産の状況を正しく把握する
- 本当に自己破産すべきかどうかを十分検討する
- 裁判所に対して、破産手続開始の申立てをおこなう
- 破産手続開始の決定・破産管財人の選任
- 破産管財人との打ち合わせ
- 債務者財産の換価・処分
- 債権者への配当
- 免責審尋・免責決定
1.自分の債務や財産の状況を正しく把握する
全ての債務整理に共通する準備として、まずは債務者自身が抱える債務や、所有する財産の状況を正しく把握する必要があります。
いずれの手続きを選択する場合でも、債権者への対応は必要になりますし、財務状況に応じて選択すべき手続きも変わってくるからです。
契約書や過去の返済履歴、さらには自身の預貯金口座の残高などを確認して、債務整理について検討するための情報を整理しましょう。
2.本当に自己破産すべきかどうかを十分検討する
自己破産には、債務全額の免責という強力な効果がある一方で、財産の処分をはじめとしたさまざまなデメリットが存在します。
そのため、本当に自己破産をすべきなのか、ほかの債務整理手続きのほうが適しているのではないかといった点について、特に慎重に検討する必要があります。
例えば、安定した収入があり、月々の負担が少し軽くなれば返済の目処が立つケースでは「任意整理」のほうが適しているかもしれません。
※任意整理:債権者との交渉により、利息・遅延損害金のカットや返済スケジュールの変更を認めてもらう手続きです。
また、マイホームを残しておきたい場合には、個人再生の手続きを利用することが有力な選択肢となります。
※個人再生:最大100万円まで債務を減額し、原則3年で減額後の債務を完済するように、返済計画を作成し直す手続きです。「住宅資金特別条項」を利用することで、自宅の土地・建物の処分を回避できます。
このように、ほかの債務整理手続きについてメリットやデメリットを比較しながら、本当に自己破産がベストな選択肢であるのかについて、慎重に検討してください。
3.裁判所に対して、破産手続開始の申立てをおこなう
自己破産することを決断したら、裁判所に対して破産手続開始の申立てをおこないましょう。
申立て先は、債務者の普通裁判籍の所在地(住所など)を管轄する地方裁判所です(破産法第5条1項)。
自己破産の申立てに必要な書類や書類作成上の注意事項は、以下の裁判所ホームページに掲載されています。
【参考】自己破産申立について|裁判所
裁判所によって運用が異なる場合がありますので、具体的な提出書類については、申立て先の裁判所の指示にしたがいましょう。
4.破産手続開始の決定・破産管財人の選任
裁判所は、以下の要件がすべて満たされていることを確認したうえで、破産手続開始の決定をおこないます。
①支払不能
弁済期が到来している債務を、一般的・継続的に支払うことができない状態を意味します(破産法第2条11項)。
言い換えれば、債務のほとんどを支払えない状態が、長期間継続していることが必要です。
②予納金の全額が納付されていること
破産管財人報酬などに充てるための予納金を、全額納付する必要があります。
換価・処分すべき財産のない同時廃止事件の場合は、予納金は1万円~2万円程度です。
これに対して、債務者が一定以上の財産を所有している場合には、予納金は50万円以上になります(本人申立ての場合、少額管財は利用不可)。
(c)不当な目的による申立てや、不誠実な申立てでないこと(同項第2号)
一時的に債権者からの取立て・強制執行を避け、その間に財産隠しを企図するなど、不誠実な目的を有する申立ては認められません。
さらに、破産手続開始の決定と同時に、裁判所は破産管財人を選任します。
破産管財人は、債務者財産を管理・処分する権限を専有し(破産法第78条1項)、自己破産手続を通じて、さまざまな業務をおこないます。
5.破産管財人との打ち合わせ
破産管財人は、債務者財産の換価・処分や、債権者への配当などの業務を円滑に遂行しなければなりません。
破産管財人が円滑に業務をおこなうためには、債務者から情報提供を受けることが不可欠です。
そこで破産管財人は、債務者と打ち合わせの機会をもうけたうえで、債務者に対してさまざまな質問をおこないます(破産手続開始決定前の段階で、破産管財人との打ち合わせがセットされることもあります)。
例えば、以下に挙げるような質問がなされるケースが多いでしょう。
- 財産の内容
- 債務の内容
- 免責不許可事由に関する事情 など
また、このほかにも、破産管財人が気になるポイントについて質問されますので、誠実に受け答えをおこないましょう。
6.債務者財産の換価・処分
破産管財人は、債務者が所有する財産を換価・処分して、債権者への配当原資をプールします。
例えば、不動産など、処分に時間がかかる資産を債務者が所有している場合には、破産手続にかかる期間が長引くので注意しましょう。
なお、債務者財産の換価・処分に関する状況は、債権者集会において、破産管財人から債権者に対する報告がおこなわれます。
7.債権者への配当
債務者財産の換価・処分が完了したら、破産管財人が債権者に対して配当をおこないます。
ただし、自己破産をする債務者の多くは、債権者に配当できるような財産をほとんど有していないことでしょう。
そのため、配当率はゼロないし10%以内の低率となる場合が多いのが実情です。
債権者への配当完了をもって、裁判所は破産手続終結の決定をおこなって、破産手続は終了します(破産法第220条1項)。
なお、配当が全くおこなわれなかった場合には、破産手続廃止の決定によって、手続きは終了となります(破産法第217条1項)。
8.免責審尋・免責決定
破産手続が終了したあとは、免責手続きに移行します。
裁判所は、免責の可否に関する事情を確認するため、債務者に対して質問をおこないます(免責審尋)。
すでに破産管財人が免責に関する事情の調査をおこなっていますが、免責審尋での受け答えも重要な資料として参考にされるので、誠実に回答しましょう。
免責不許可事由(破産法第252条1項)が存在しない場合には、裁判所は免責許可の決定をおこなって、非免責債権(破産法第253条1項)を除く債務が免責されます。
これに対して、免責不許可事由が存在する場合、破産免責は原則として認められません。
ただし実務上は、裁判所の判断によって「裁量免責」(破産法第252条2項)が認められるケースが多数となっています。
免責許可の決定に対しては、2週間に限って即時抗告が認められており(同条第5項)、同期間の経過をもって破産免責が確定します。
自己破産手続を自分で進める際の注意点は?
自己破産手続を債務者が自分で申し立てることは、法的には可能であるものの、以下に挙げる4つのポイントに注意する必要があります。
1.提出書類の準備や、手続きへの対応に手間がかかる
自己破産を申し立てる際、裁判所に提出する書類は、きわめて多岐にわたります。
そのため、必要書類を準備するだけでも非常に大変です。
また、実際の手続きに当たっても、破産管財人との打ち合わせなどのやり取りにかかる手間が発生します。
破産手続の期間は6ヵ月~1年程度が見込まれ、その間忙しく対応しなければなりません。
全てを自分でおこなうため、債務者にかかる負担は大きくなってしまうでしょう。
2.債権者の把握漏れが生じるおそれがある
債務者が知りながら債権者名簿(一覧表)に記載しなかった請求権については、非免責債権に該当し、破産免責の対象外となってしまいます(破産法第253条1項6号)。
そのため、債権者名簿には、実際に存在する債権者を漏れなく記載することが大切です。
しかし、債務者が自分で自己破産の申立てをおこなう場合、債権者の把握漏れが生じるおそれがあります。
破産免責が認められない債権が発生すると、自己破産の効果が半減してしまいますので、債権の把握漏れには十分注意してください。
3.管財事件になる場合、予納金が高額になる
債務者が一定以上の財産を所有している場合には、破産管財人が選任される「管財事件」として取り扱われます(換価・処分すべき財産がない場合には「同時廃止事件」として取り扱われ、破産管財人が選任されません)。
実は弁護士による代理人申立てのケースでは、管財事件には「少額管財」が適用され、予納金は20万円程度で済むのが一般的となっています(裁判所によっては、少額管財の運用がないところ、金額が異なるところもあります)。
これに対して、債務者本人による申立ての場合は、少額管財ではなく「特定管財」となり、予納金は50万円以上になってしまいます。
このように、債務者本人が申し立てた自己破産が管財事件となる場合、かえって予納金が高額になってしまうデメリットがあることに注意しましょう。
4.免責不許可事由にも注意が必要
浪費やギャンブルが原因で借金を作ったなど、免責不許可事由が存在するケースでは、裁判所に対して免責を求めるための説明を尽くす必要があります。
具体的には、できる限り破産手続に協力して、真摯に更生に向けた意思を示すことが大切です。
しかし、債務者本人による申立ての場合、破産手続のなかでどのように振舞えばよいかわからず、裁判所の心証を害してしまうおそれがあります。
破産免責を得るためにいかなる振る舞いをすべきかについては、弁護士にアドバイスを求めるほうが安心でしょう。
自己破産手続を弁護士に依頼するメリット・デメリット
自己破産の手続きは自分でできるものの、さまざまな注意事項があります。
そのため、自己破産の手続きを弁護士に依頼することもひとつの手です。
ここでは、自己破産の手続きを弁護士に依頼した場合のメリット・デメリットについて見ていきます。
自己破産の手続きを自分でおこなう場合と比較してみましょう。
自己破産手続を弁護士に依頼するメリット
弁護士を代理人として自己破産を申し立てるメリットは、債務者本人が申立てをおこなう場合の注意点と裏返しの関係にあります。
すなわち、弁護士に依頼することによって、債務者は以下のようなメリットを享受することができます。
- 弁護士に依頼した時点で、債権者からの督促・催促が停止する
- 申立ての準備や手続きの遂行に関する手間が省ける
- 債権者の把握漏れをはじめとして、手続き上の漏れが生じるリスクを防げる
- 少額管財を利用して、予納金額を抑えられる可能性がある(50万円以上→20万円程度)
- 免責不許可事由がある場合にも、裁量免責を得やすくなる
自己破産手続を円滑・安全に進めたい方は、弁護士に依頼することを検討したほうがよいでしょう。
自己破産手続を弁護士に依頼するデメリット
一方、自己破産手続を弁護士に依頼する場合には、やはりデメリットも存在します。主なデメリットとしては、以下のとおりです。
- 自己破産の手続き費用に加えて弁護士費用や報酬がかかる
- 手続きが予定よりも遅れる可能性がある
- 弁護士との相性がよくないと手続きがスムーズに進まない
管財事件の場合、弁護士に依頼することで費用を抑えられます。
しかし、同時廃止事件などの場合には弁護士費用が余計にかかることになります。
また、依頼する法律事務所が忙しかったり、相性がよくないと手続きがスムーズに進まないおそれもあります。注意しましょう。
自己破産手続を弁護士に依頼した場合の費用相場
自己破産の弁護士費用は、各弁護士によって異なります。
下記はかつて存在した日弁連の弁護士報酬基準であり、現在も多くの弁護士がこの基準をベースとしているため、一定の参考になるでしょう。
<自己破産の弁護士費用(日弁連旧報酬基準)※税込>
着手金 | 事業者の場合:55万円以上 非事業者の場合:22万円以上 |
報酬金 | 免責額が 300万円以下の場合:免責額の17.6% 300万円を超え3000万円以下の場合:免責額の11%+19万8000円 3000万円を超え3億円以下の場合:免責額の6.6%+151万8000円 3億円を超える場合:免責額の4.4%+811万8000円 |
自己破産にかかる弁護士費用が工面できない場合の対処法
自己破産手続を弁護士に依頼する費用は、最低でも数十万円と高額になります。
そのため、手元に弁護士費用を工面できるようなお金がない場合には、分割払いや法テラスの立替払制度の利用、または司法書士への依頼などについて検討しましょう。
弁護士費用の分割払いを認めてもらう
弁護士によっては、着手金を含む弁護士費用の分割払いを認めてくれる場合もあります。
分割回数は、3回~5回以内となるケースが多いです。
どうしても弁護士費用が準備できない場合には、弁護士に経済状況を説明して、分割払いをお願いしてみましょう。
法テラスの立替払制度(民事法律扶助)を利用する
収入や資産が一定水準以下の方は、法テラスの民事法律扶助を利用することも可能です。
【参考】民事法律扶助業務 | 法テラスについて | 法テラス
民事法律扶助を利用すると、法律相談を無料で受けられるほか、弁護士費用を立て替えてもらえます。
ただし、法テラスを利用するためには、審査があります。
そのため、借金の督促がストップするまでに時間がかかる場合があることには注意しましょう。
また、立て替えてもらった弁護士費用については、分割で返済します。
弁護士費用の工面が難しい場合は、利用を検討してみるとよいでしょう。
司法書士に依頼することを検討する
弁護士費用を用意することがどうしても難しい場合には、弁護士の代わりに司法書士に依頼することを検討してみましょう。
司法書士に依頼したときにかかる費用は20万円〜30万円程度であり、弁護士に依頼するよりも費用を抑えられます。
ただし、司法書士は以下のような点でおこなえる業務に制限があります。
- 債権者一社あたりの債権金額は140万円まで
- 代理できるのは書類の作成のみ
特に借金額が多い場合には、司法書士は対応することができません。
また、司法書士が代理できるのはあくまでも書類の作成のみです。
弁護士のように依頼人の代理人になることはできないため、裁判所とのやり取りや申述については債務者自らがおこなわなければなりません。
費用は抑えられますが、借金額や代理できる範囲には注意する必要があるでしょう。
まとめ
自己破産手続を自分で申し立てることは、法的には可能であるものの、数多くのデメリットやリスクが存在します。
そのため、自己破産手続を手間なく円滑に進めたい場合には、弁護士への依頼がおすすめです。
また、弁護士費用について懸念がある方は、分割払いや法テラスを利用することによって依頼できる可能性があります。
ひとまず、弁護士または法テラスに相談してみることをおすすめします。