投稿者の特定・訴訟
IPアドレスから個人の特定はできるか?誹謗中傷をしてくる相手を特定する方法
2024.08.02
インターネットで誹謗中傷の被害に遭った方であれば、加害者を特定して責任を問いたいと考えるでしょう。
加害者の特定には、発信者情報開示請求が有効です。
ただ、発信者情報開示請求は法改正によって一新したため、具体的にどのようなものか知らない方も多いかもしれません。
そこで、本記事では発信者情報開示請求の手続きの流れや費用、また2022年10月から始まった新しい発信者情報開示命令の制度について詳しく解説します。
発信者情報開示請求で加害者を特定したいと考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。
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「発信者情報開示請求」は発信者特定のための裁判手続です。
発信者に対して民事上・刑事上の責任を問うためにおこない、SNSでの誹謗中傷にも利用できます。
また、2022年10月より新しい手続き(発信者情報開示命令)が創設されたので、確認しておきましょう。
発信者情報開示請求は、発信者に民事上・刑事上の責任を問うためにおこなう、プロバイダ責任制限法に基づいた手続きです。
誹謗中傷などの被害を受けた個人が裁判所を通じて、インターネットサービスプロバイダー(ISP)から加害者の情報を求めます。
開示できる情報には、IPアドレスや氏名、住所、電話番号、メールアドレスなどがあります。
開示情報を通じて、民事上の損害賠償請求や刑事上の告訴など、具体的な法的手続きに移行することが可能です。
発信者情報開示請求は、SNSでの誹謗中傷に対しても有効です。
SNSは匿名性が高いため、虚偽の誹謗中傷や悪意のある偽情報の拡散などの被害もよく見られます。
発信者情報開示請求により、ログイン時の通信記録やSMS認証時の情報など、加害者のアカウント情報の開示が可能です。
そのため、SNS上での誹謗中傷被害で悩んでいる方も利用できます。
2022年10月に実施されたプロバイダ責任制限法の改正によって、「発信者情報開示命令事件に関する裁判手続」という新たな非訟手続が導入されました。
旧法では、最初にウェブサイトの管理者に対して加害者のIPアドレスを開示してもらい、そのあと開示したIPアドレスをもとにISPに対して詳細な発信者情報を開示してもらうために民事訴訟をおこなう、という2つのステップが必要でした。
しかし、法改正によって一連の請求が一度で済むようになりました。
これにより、発信者情報開示請求の利便性が大幅に向上したといえるでしょう。
発信者情報開示請求をおこなうための要件は、主に次の7つです。
開示請求ができる情報は、インターネット上で誰でもアクセスできる情報に限定されます。
プロバイダ責任制限法では「特定電気通信による情報の流通」で権利が侵害されたときに、発信者情報を請求できると規定されています。
「特定電気通信による情報の流通」とは、インターネット上で不特定の人によって受信(閲覧)されることを目的とした情報の送信のことです。
具体的には、ネット掲示板、ブログ、SNS、口コミサイトに公開された投稿などが該当します。
一方で、インターネット上で送信されたものでも特定の人々だけがアクセスできるプライベートな情報、たとえばメールやチャット、DMはこの要件を満たさないので注意しましょう。
発信者情報開示請求の手続きができるのは、原則的に権利を侵害された本人です。
ただし、任意代理人である弁護士が手続きを進めることもできます。
また、開示請求者が未成年者や成年被後見人で、自身で法的手続きが取ることができない場合も、法定代理人がその役割を果たすことができます。
そのため、友達や職場の同僚が被害を受けているといったケースで、ご自身が代わりに手続きを進めることはできません。
開示請求者本人か法定代理人、もしくは任意代理人である弁護士が手続きをする必要があります。
発信者情報開示請求をおこなうためには、権利侵害が明らかである必要があります。
そのため、投稿に違法性阻却事由がないことまで明らかにする必要があります。
この要件は「権利侵害の明白性」とも呼ばれ、発信者情報開示請求の主要な要件です。
たとえば、名誉毀損罪の違法性阻却事由は次のとおりです。
発信者情報開示請求をおこなう際は、上記のような違法性阻却事由が存在しないこと窺わせる事情をあらかじめ明らかにする必要があります。
発信者情報開示請求をおこなうためには、相応の正当な理由が必要です。
たとえば名誉毀損による刑事告訴、または損害賠償請求をおこなうためなどのケースでは開示請求は受け入れられるでしょう。
一方で、個人的もしくは恣意的な理由であると不当だと判断され、開示請求が却下される可能性が高くなります。
開示請求対象者は、「開示関係役務提供者」である必要があります。
開示関係役務提供者とはウェブサイトの管理者、インターネットサービスプロバイダ(ISP)、サーバー供給業者などが該当するでしょう。
原則、開示関係役務提供者に該当しない業者や組織には開示請求できないため注意が必要です。
発信者情報開示請求で開示できる情報は、発信者情報を定める省令によって規定されている発信者情報に該当する必要があります。
発信者情報開示請求で開示できる情報は、次のとおりです。
請求先の「開示関係役務提供者」が、発信者情報を保有している必要があります。
請求した開示関係役務提供者が発信者情報を保有していない、もしくは開示の権限を持ち合わせていなければ、開示請求をおこなうことができません。
発信者情報開示請求の手続きの流れは、おおむね次のような流れでおこなわれます。
まずは、誹謗中傷の証拠を保管しておきましょう。
問題となるSNS、掲示板の投稿やメッセージ、画像などの証拠を確保しておきます。
スクリーンショットを撮る、URLを保存する、日付や時刻を記録するなど、あとで証拠として提示できるようにしておくとよいでしょう。
サイト運営元に発信者情報の開示を求める場合、通常は「仮処分」の法的手続きをおこないます。
仮処分とは民事保全処分の一種で、開示請求の訴訟が確定する前に権利を実現するための証拠を保全しておく手続きです。
具体的な手続きとしては、サイト運営元にIPアドレスの開示を求める手続きなどが挙げられます。
経由プロバイダ(ISP、携帯キャリアなど)のログ保存期間は投稿から通常3~6ヵ月程度なので、早期にIPアドレスの開示を受け、経由プロバイダが判明しないと、時間の経過によってに発信者情報が消失してしまうリスクがあります。
したがって、仮処分の手続きにより、早急にIPアドレスの開示を得る事が必要になります。
SNSやサイトの管理人などからIPアドレスが送達されたあとは、発信者のプロバイダを特定します。
プロバイダとは、インターネット接続サービスを提供する事業者のことです。
回線をインターネットに接続する役割はプロバイダが担うため、発信者情報開示請求をするためは相手方のプロバイダの特定が必要になります。
プロバイダ責任制限法第4条に基づき、プロバイダに発信者情報開示請求訴訟を提起します。
発信者情報開示請求訴訟をおこなって裁判所が「発信者情報開示の義務がある」と認めた場合、プロバイダは発信者に関する情報を開示しなければなりません。
なお、プロバイダに対するの発信者情報開示を仮処分で求めることはできません。
経由プロバイダが通信ログを保存している限り、情報の消失の危険性は低いと考えられるため、仮処分の要件(保全の必要性)を満たすことは難しいことは留意しておきましょう。
また、MVNO(仮想移動体通信事業者)やケーブルテレビ事業者のジェイコムが経由プロバイダである場合、その前段階でNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクなどのMNO(実体移動体通信事業者)に対する開示請求が必要になります。
プロバイダから発信者の発信者情報が開示されます。
開示される発信者情報は住所、氏名、メールアドレス、電話番号などです。
発信者の発信者情報が把握できれば、発信者の身元が判明するでしょう。
発信者情報の開示請求手続きにかかる費用は(弁護士費用を除く)、仮処分発令時の担保金30万円と発信者情報開示命令などの申立て費用の約1万円、訴訟提起時の印紙代等の約2万円です。
仮処分の申立て時の担保金の30万円は、請求が正当であればあとで返還されます。
発信者情報開示請求は弁護士へ依頼しておこなうことが一般的ですが、弁護士費用は着手金や成功報酬金などがあり、50万円~100万円程度が相場でした。
以上の説明は、従来行われてきたオーソドックスな発信者情報開示請求の手続です。
新しい手続きである「発信者情報開示命令申立て」は、従来よりも一体的におこなうことができます。
従来の発信者情報開示請求手続きを改善し、手間や時間が削減されています。
しかし、新しい発信者情報開示命令の申立ては手続きが極めて複雑であり、専門的な知識・経験を有する弁護士の関与なしではおこなうことはほぼ不可能です。
新旧どちらの手続きも利用できるため、手続き選択の際は弁護士に相談するとよいでしょう。
発信者情報開示命令申立ては、従来の発信者情報開示請求手続きを改善した手続きです。
従来の手続きは時間と費用がかかるうえに、発信者を特定するまでに複数の手続きが必要でした。
また、サイト管理者やプロバイダが保存するログは投稿から3~6ヵ月程度で消去されるため、時間切れで発信者を特定できないリスクもありました。
しかし、改正後に非訟手続として「発信者情報開示命令事件に関する裁判手続」が新設されたことで、複雑な手続きが一度の裁判で済みます。
そのため、従来よりも発信者の特定がより迅速かつ効率的におこなうことができます。
デメリットとしては、大変複雑な手続きであるため、専門的な知識・経験を有する弁護士に依頼しなければ対応が困難であると考えられることです。
新しい手続きが導入されましたが、旧式の手続きも依然として有効です。
新旧どちらの手続きが適しているかはケースバイケースなので、法律の専門家である弁護士に相談するとよいでしょう。
たとえば、新手続きの場合も相手方から異議申し立てがあると訴訟に移行する場合も多いため、旧手続の方が結果的に短期間で解決することもあります。
そのため、手続きをする際は個人の状況と目的に応じて、最適な方法を選ぶことが重要です。
発信者情報の開示請求は、裁判手続のみでなく、任意請求もできます。
任意請求をおこなうことで、裁判によらなくても発信者情報の取得が可能です。
ただし、任意請求は法的な強制力がなく、開示を受けることは困難です。
意見照会の手続きで投稿者が開示を拒否した場合は、まず開示はされないでしょう。
プロバイダが発信者情報を開示する行為は、場合によって通信の秘密侵害罪に該当する可能性もあるうえに、発信者からの責任追及のリスクもあります。
そのため、裁判所の判断がない限り、プロバイダは開示に対して消極的でしょう。
発信者情報開示請求を自分でおこなうのが難しい理由は、主に次の2つです。
専門的な知識がない一般の人々は、権利侵害の主張をすること自体が難しいでしょう。
法的根拠や条文を用いて、相手方に権利侵害の主張をおこなうことは容易ではありません。
ご自身が被害を受けたと感じても、法的に有効な形で相手方に表現するためにはスキルと知識が要ります。
たとえば、SNS上で誹謗中傷を受けた場合でも、それが法的に「名誉毀損」と認定されるかどうかは、状況によって大きく変わる可能性があるでしょう。
権利侵害を主張するためにはさまざまな側面を考慮する必要があるため、多くの場合で専門家である弁護士の知識・経験が必要です。
発信者情報開示請求は原則として裁判が必要になります。
裁判手続を経る場合は、訴状の提出や証拠の収集など、多くの手続きと専門的な知識が求められるでしょう。
専門的で複雑な手続きを自分でおこなうのは、法的な専門知識がない限りハードルが高いといえます。
発信者情報開示請求を弁護士に相談することで、以下のようなメリットが得られます。
弁護士に依頼することで、複雑な裁判上の開示請求手続きを任せることができます。
裁判上の手続きには多くの複雑なプロセスが存在し、専門的な知識と経験が必要です。
弁護士に裁判上の複雑なプロセスを任せることで、手間や精神的な負担を軽減できるでしょう。
IT問題に注力する弁護士に依頼することで、スピーディーな解決が望めます。
インターネット上の情報は短期間で消失する可能性もあるため、発信者情報開示の請求は時間が勝負となるケースも少なくありません。
IT問題に特化した弁護士は、法改正の動向やテクノロジーを理解しているため、スピーディーかつ効率的に問題を解決できるでしょう。
発信者情報開示後の損害賠償請求まで対応してもらうことができため、最後まで安心して手続きを進められます。
発信者の情報が開示されたあとも、名誉毀損やプライバシー侵害に対する損害賠償請求など、さまざまな手続きが必要です。
弁護士は、後続の請求も含めてトータルでサポートしてくれます。
一貫した法的サポートを受けることで、最後まで安心して効率的に手続きができるでしょう。
発信者情報開示請求を弁護士に依頼した場合にかかる費用は、次のとおりです。
着手金 | 報酬金 | |
サイト管理者への開示請求(仮処分命令申立) | 20万円~40万円 | 10万円~20万円 |
プロバイダへの発信者情報開示請求訴訟 | 20万円~30万円 | 10万円~20万円 |
発信者情報開示命令申し立て(サイト管理者・経由プロバイダそれぞれに対する申立が必要となり、1申立てあたり) | 20万円~30万円 | 10万円~20万円 |
弁護士費用は法律事務所によって異なるため、依頼前によく確認しておきましょう。
複数の事務所で費用を比較する、または相談前に費用の見積もりを出してもらうのも有効です。
初回の法律相談を無料で実施している事務所もあるため、まずは費用面も含めて相談してみるとよいでしょう。
発信者情報開示請求は誹謗中傷を行った加害者を特定し、法的に責任を問うための重要な手段です。
法改正があったことで従来より手続きが簡略化されましたが、手続きが複雑かつ難解であることに変わりはありません。
理論的には自分で手続きを進めることも可能ですが、実際には専門的な知識が必要であり、誤った手続きをすることで逆に自己に不利な状況を招く可能性もあります。
そのため、発信者情報開示請求をおこなう際には弁護士への依頼がおすすめです。
弁護士に依頼することで手続きもスムーズに進み、法的なトラブルを避けられます。
また、専門家に依頼することで、精神的な負担も軽減されるでしょう。
加害者に対する責任追及は、一人で抱え込む問題ではありません。
専門家である弁護士の協力を得ながら、しっかりと手続きを進めましょう。