ある日突然、「ご家族が客引きで逮捕されました」と警察から連絡を受けたら、「なぜ逮捕されたのか」「これからどうなるのか」と、不安や動揺で頭がいっぱいになるでしょう。
客引き行為で逮捕された場合、取り調べ・勾留・起訴といった刑事手続きが進む可能性があります。
長期間にわたって身柄を拘束されたり、前科がついてしまうリスクもあるので、決して軽視してはいけません。
冷静に対処するためには、客引きがどのような行為にあたるのか、また逮捕後にどのような流れで手続きが進むのかを正しく理解しておくことが大切です。
本記事では、客引きとはどのような行為か、適用される法律や逮捕に至る具体的なケース、そして逮捕後の流れについてわかりやすく解説します。
客引きで逮捕される行為とは | どこから違法?客引きと呼び込みの違いは?
まずは、「客引き」の定義と、似た意味を持つ「呼び込み」との違いについて確認しましょう。
客引きとは、不特定の人の中から特定の人に対し、営業客となるように積極的に誘う行為をいいます。
たとえば、以下のような行為が客引きに該当します。
- 通行人の前に立ちふさがる
- 通行人について行きながら話しかける
- 特定の相手に執拗に話しかけて来店を誘う
客引きは、風営法や各都道府県が定める迷惑防止条例で禁止されています。
一方で、呼び込みであれば必ずしも違法とはなりません。
呼び込みとは、不特定多数の人に対してお店への入店を勧誘する行為をいいます。
たとえば、以下のような行為は呼び込みに該当します。
- 店舗の前に立って「いらっしゃいませ!」などと不特定の通行人に声をかける
- 道路使用許可を取ったうえで、チラシやティッシュを配布する
- 無料案内所で広告を掲載する
ただし、最初は不特定多数への呼びかけであっても、途中から特定の人物に対してしつこく勧誘した場合には、客引きと見なされるリスクがあるため注意が必要です。
客引きで逮捕された場合に適用される罪の種類・刑罰
客引き行為で逮捕された場合、以下の3つの法律が適用される可能性があります。
- 風営法
- 各都道府県の迷惑防止条例
- 軽犯罪法
ここから、それぞれの法令の規制内容と、違反時の刑罰について解説します。
風営法違反|6月以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金
風営法第22条では、通行人につきまとうような悪質な客引き行為や、通行を妨げるような立ちふさがりなどを禁止しています。
違反した場合には「6ヵ月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」が科される可能性があります。
迷惑防止条例や軽犯罪法と比較すると、刑罰が重く定められている点が特徴です。
なお、風営法は風俗営業に該当する店舗だけでなく、居酒屋などの一般的な飲食店にも及ぶため注意が必要です。
都道府県の迷惑防止条例違反|50万円以下の罰金または拘留もしくは科料
各都道府県が定める迷惑防止条例では、通行人に対してしつこく声をかけたり、つきまとうといった客引き行為を禁止しています。
たとえば、東京都の迷惑防止条例では、以下の行為が規制対象となっています。
- 不特定の人の中から相手方を特定して、居酒屋、カラオケ店、キャバクラ、ホストクラブ、ファッション ヘルス等へ誘う客引き
- 不特定の人の中から相手方を特定して、キャバクラ・ファッションヘルスでの勤務や、アダルトビデオへの出演の勧誘
- 客引きや勧誘目的で、公共の場所で相手方を待つ行為
刑罰は地域によって差がありますが、東京都の場合であれば、客引きをした人に「50万円以下の罰金または拘留もしくは科料」が科される可能性があります。
拘留は1日以上30日未満の間刑事施設に拘束する刑罰で、科料は1,000円以上1万円未満の金銭を納付させる刑罰です。
風営法違反に比べれば刑罰は軽めですが、条例違反でも逮捕され前科がつく可能性もあるため、注意しましょう。
軽犯罪法違反|拘留または科料
軽犯罪法第1条第28号では、他人の進路に立ちふさがって、もしくはその身辺に群がって立ち退こうとせず、または不安もしくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとう行為を禁止しています。
違反した場合には「拘留または科料」が科される可能性があります。
いずれも比較的軽い処罰とはいえ、前科がつくことになるので注意が必要です。
客引きで逮捕される主なきっかけ
客引き行為による逮捕には、大きく分けて「現行犯逮捕」と「通常逮捕」の2つのケースがあります。
ここでは、それぞれの典型的なパターンを紹介します。
一斉摘発・警戒中の警察による現行犯逮捕
まず挙げられるのは、警察官に対して違法な客引きをおこなってしまい、その場で現行犯逮捕されるケースです。
警察は、風営法や迷惑防止条例に違反する行為を取り締まるため、繁華街などで定期的に見回りをおこなっています。
特に私服警察官は見た目では一般人と見分けがつかないため、気づかないまま違法な客引きをしてしまい、そのまま現行犯で逮捕される可能性があるのです。
通報やタレコミによる通常逮捕
近隣住民やライバル店からの通報・情報提供をきっかけに、警察が内偵捜査を進めたうえで通常逮捕に至るケースも多いです。
通報や情報提供があった場合、警察は一定期間、状況を調査・記録する内偵捜査をおこないます。
その結果、違法行為が確認されれば、裁判所から逮捕状を取得して通常逮捕に踏み切ります。
客引きで逮捕されたあとの流れ
客引き行為によって逮捕された場合、以下の流れで手続きが進むのが通常です。
- 警察での取り調べ
- 検察へ送致
- 勾留(留置場での身柄拘束)
- 検察による起訴・不起訴の判断
- 刑事裁判
ここでは、それぞれの手続きについて解説します。
1.警察での取り調べ
逮捕されると、まず警察署に連行され、事件の内容に関する取り調べがおこなわれます。
法律上、逮捕から検察官に送致されるまで最大48時間と定められており、その間に取り調べが行われます。
この間に、警察は事件を検察に送致するか、それとも「微罪処分」として処理するかを判断します。
微罪処分とは、社会的な影響が小さく、被疑者が反省していると認められる場合に、警察の判断で事件の処理を終了する制度です。
微罪処分となれば、比較的早期に釈放される可能性があります。
2.検察へ送致
警察が事件を検察に送致する場合、今度は検察官が取り調べを担当します。
検察官は、警察から送致された被疑者を受け取ってから最長24時間以内に、被疑者を釈放するか、裁判官に勾留を請求するか判断します。
3.勾留(留置場での身柄拘束)
検察が「引き続き身柄拘束が必要」と判断した場合は、裁判官に対して勾留請求をおこないます。
裁判官が勾留請求を認めれば、まずは10日間の勾留が決定されます。
さらに捜査の継続が必要と判断された場合は、最長10日間の範囲で勾留延長が認められます。
つまり、逮捕から起訴の判断まで、最長23日間身柄を拘束されることになるのです。
4.検察による起訴・不起訴の判断
勾留期間が満了するまでに、検察は以下の要素などをもとに、被疑者を起訴するかどうかを判断します。
- 被害者との示談の成立状況
- 被疑者の反省の態度
- 前科・前歴の有無
- 行為の悪質性
正式に起訴されると刑事裁判に進みますが、不起訴となった場合は、その時点で事件は終了し、前科もつきません。
なお、比較的軽微な客引き行為については、「略式起訴」によって罰金刑が言い渡されるケースもあります。
略式起訴とは、通常の公開裁判を経ずに書面だけで審理をおこない、罰金や科料を科す特別な裁判手続きです。
この場合、正式な裁判を開かずに処分が下されるので、短期間で事件が解決します。
5.刑事裁判
検察が正式に起訴すると、刑事裁判が開かれます。
裁判では、事実関係や情状について審理がおこなわれ、有罪か無罪か、またどのような刑罰を科すかが決まります。
有罪判決を受けると、拘禁刑や罰金刑などの刑罰が科されます。
また、前科がつくことになるので、今後の社会生活や就職などにも影響が及ぶおそれがあるでしょう。
なお、日本の刑事事件においては起訴された場合の有罪率が非常に高く、99.9%以上の確率で有罪判決が下されています。
そのため、起訴される前の段階から、弁護士のサポートを受けながらできる限り不起訴処分を目指すことが非常に重要です。
客引きでの逮捕に関してよくある質問
ここでは、客引きでの逮捕に関するよくある質問をまとめました。
似たような疑問を持っている方は、ぜひここで疑問を解消してください。
従業員に客引きを指示した店側は責任を問われない?
客引きは、その行為をおこなった従業員だけでなく、従業員に客引きをさせた店舗側も責任を問われます。
なぜなら、風営法や迷惑防止条例では、「実際に客引きをした本人」だけでなく、「客引きをさせた者」も違反者として定められているからです。
客引きは私人逮捕の対象になる?
客引き行為が現行犯または準現行犯(犯行直後で明らかに犯人とわかる状態)であれば、私人による逮捕が認められる場合もあります。
ただし、犯したとされる罪が「30万円以下の罰金、拘留または科料に該当する罪」であれば、次の条件のいずれかを満たしていなければ、私人逮捕はできません。
- 犯人の住所若しくは氏名が明らかでない
- 犯人が逃亡するおそれがある
要件を満たさずに私人逮捕をしてしまうと、不法に身体を拘束したと判断され「逮捕罪」などに問われるおそれがあります。
つまり、目の前で客引き行為がおこなわれていたとしても、客引きが軽犯罪法違反のみに該当するなどの場合は、私人逮捕が認められない場合があるのです。
そのため、客引きを不快に感じても、自分で相手を取り押さえるのではなく、冷静にその場を離れ、警察や関係機関に通報することが適切な対応といえるでしょう。
客引きの初犯は罰金ですむ?
初めて摘発された場合であれば、略式起訴となり罰金ですむケースが多く見られます。
仮に正式な刑事裁判に発展したとしても、初犯であれば執行猶予付きの判決となることが多く、実刑となる可能性はそれほど高くありません。
ただし、他人を使って組織的に客引きをおこなっていたようなケースや、すでに前科・前歴がある場合などには、裁判所がその事情を重く見て、懲役刑などを下す可能性も十分に考えられます。
さいごに|客引きでの逮捕事案は一刻も早く弁護士に相談を!
本記事では、客引きの定義や逮捕された場合の罰則などについてわかりやすく解説しました。
客引きによって逮捕された場合には、風営法違反や迷惑防止条例違反などの罪に問われる可能性があります。
特に繁華街では取り締まりが厳しく、私服警官による現行犯逮捕や、通報・内偵による通常逮捕も日常的におこなわれているので注意しましょう。
一度逮捕されると、取り調べ、勾留、起訴といった刑事手続きが進むおそれがあり、身柄拘束が長引けば仕事や家庭への影響も避けられません。
このような事態を防ぐためには、早い段階で弁護士に相談し、的確な対応を取ることが重要です。
早期に弁護士がつくことで、勾留の回避や不起訴処分の獲得、前科を避けられる可能性が高まります。
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不安な状況を早く打開するためにも、ぜひお早めにご活用ください。

