交通違反・事件
過失運転致傷とは?定義と刑罰、刑事手続きの流れ、起訴率や罰金の額まで解説
2024.10.29
運転中の事故で相手にケガをさせてしまった方の中には「自分にはどんな罪が課されるか心配」「過失運転致傷罪に問われるかもしれない」と不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。
悪気は全くなくても、刑事罰を受けて、社会的に大きな制裁を受ける可能性があるのが交通事故です。
過失運転致傷罪に問われてしまったら、懲役刑が課される可能性もありますが、実は起訴されている割合はそれほど高いものではありません。
過失運転致傷罪は確かに重い罪ですが、実際の起訴率や刑罰をしっかりと理解しておくことが重要です。
本記事では過失運転致傷罪の刑罰や行政処分、起訴される割合などについて詳しく解説します。
過失運転致傷罪とは、自動車の運転により人を死傷させる行為等によって成立する犯罪です。
(過失運転致死傷)
第五条 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。
過失運転致傷罪は、運転の際に注意を怠って人を死傷させた場合に適用されます。
なお、人に怪我をさせた場合に過失運転致傷罪となり、人を死亡させた場合は過失運転致死罪になります。
以下では「過失」の定義や、刑事罰や行政処分の内容について詳しく解説します。
過失運転致傷罪は「運転の際に注意を怠る」過失によって人にケガをさせた場合に課される罪です。
十分な注意を払って運転していたのにも関わらず、人を死傷させた場合には過失運転致傷罪が課されることはありません。
つまり、過失運転致傷罪に問われるかどうかは「過失の有無」が最大の争点になります。
一般的に過失とは「他者の権利侵害を回避するために社会生活上必要となる注意義務に違反すること」を指し、運転中の注意義務は具体的には以下のような行為が該当します。
信号無視、速度超過、携帯を触りながらの運転などによって事故をおこし、人に怪我をさせた場合には、「事故に過失がある」とされて、過失運転致傷罪が成立する可能性があるでしょう。
過失運転致傷罪では「7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金」という刑罰が定められています。
懲役には労務作業があり、禁錮には労務作業がないため、懲役のほうが禁錮よりも重い刑罰であることを理解しておきましょう。
過失運転致傷罪は、刑事罰だけでなく行政罰も課されます。
相手の怪我の度合いや過失割合に応じて以下のようにペナルティが異なります。
事故の区分 | 治療期間 | 加害者の一方的過失の事故 | 双方に過失がある事故 |
重症事故 | 3カ月 以上、又は後遺障害がある | 13点 | 9点 |
30日以上3カ月 未満 | 9点 | 6点 | |
軽傷事故 | 15日以上30日未満 | 6点 | 4点 |
15日未満 | 3点 | 2点 |
例えば、ぼーっと運転していて信号を無視し、青信号を横断していた歩行者をはねて、3カ月以上の重症を負わせてしまった場合には、13点の加点です。
過去3年間の累積点数がない人でも13点の加点では90日の免許停止になりますし、加点が15点以上の方は免許取り消しになってしまいます。
過失運転致傷罪では行政処分もおこなわれるため、免許停止や取り消しによって仕事や生活に大きく影響することも認識しておきましょう。
過失運転致傷罪が確定するまでの刑事手続きは、以下の流れでおこなわれます。
ここでは、過失運転致傷罪に問われて、罪が確定するまでの流れを詳しく解説します。
過失運転致傷罪は刑事罰ですので、警察に逮捕されて身柄が拘束される可能性があります。
逮捕されたあとの拘束時間は最大72時間ですが、証拠隠滅や逃亡の可能性があると判断されると勾留に移行して最長20日拘束される可能性もあります。
なお、逃亡などのおそれがない場合には、在宅捜査がおこなわれ、在宅のまま聞き取りなどの捜査がおこなわれることになります。
一般的に、過失運転致傷罪は在宅捜査がおこなわれるため、逮捕・勾留の心配はほとんどないでしょう。
適切なタイミングで警察や検察から呼び出しがあり、聞き取りがおこなわれるのが一般的です。
逮捕・勾留がおこなわれている場合には、逮捕勾留期間である23日以内に、在宅捜査の場合には公訴時効期間である5年以内に検察が起訴するのかどうかを決定します。
起訴・略式起訴・不起訴の違いは以下のとおりです。
なお、実際に事故によって過失運転致傷罪が成立していたとしても、罪が軽微な場合などは不起訴となることがあります。
正式起訴された場合や、略式起訴に異議がある場合には、裁判所の公開法定において公判手続きがおこなわれます。
検察が過失運転致傷罪を立証し、被告が検察に対して反論します。
過失運転致傷罪で公判になるケースはほとんどがありませんが、以下のようなケースで公判になる可能性はあるでしょう。
公判になった場合には、弁護士が必要になるため、もしも検察と過失の有無や量刑を争う場合には、交通事故の問題に強い弁護士へ依頼してください。
過失運転致傷罪で起訴されたらどのような処分がおこなわれるのでしょうか?
一般的に起訴というと、裁判にかけられるイメージを持っている方も多いですが、実は過失運転致傷罪では起訴される可能性は低めです。
起訴されるとしても略式起訴になることが多く、裁判までいくケースはそれほど多くありません。
ここでは、過失運転致傷罪の起訴率や略式起訴の概要などについて詳しく解説します。
過失運転致傷罪で起訴される割合は実はそれほど多くありません。
令和5年の犯罪白書によると、過失運転致傷罪による起訴率は13.5%です。
過失運転致傷罪に問われた人のうち、実に86%以上の人は不起訴となっています。
過失運転致傷罪に問われたとしても、実際に刑事罰が課されるケースはそれほど多くはないと理解しておきましょう。
【過失運転致傷罪による起訴率/起訴猶予率(令和4年中)】
総数 275,451人 起訴(起訴率) 238,292人(13.5%) 不起訴(起訴猶予率) 37,159人(86.1%)
過失運転致傷で起訴されたとしても、略式起訴になるケースがほとんどです。
検察統計によると、令和4年度の過失運転致傷罪による正式起訴や略式起訴、不起訴の割合は次のとおりです。
総数 296,826件 正式起訴 2,428件(0.8%) 略式起訴(起訴率) 32,616件(11%) 不起訴(起訴猶予率) 237,189件(79.9%) その他 24,593件 引用元:検察統計調査 最高検、高検及び地検管内別 自動車による過失致死傷等被疑事件の受理、既済及び未済の人員(2022年)|e-Stat政府統計の総合窓口
起訴されたとしても、ほとんどが略式起訴だといえます。
そのため、罰金などに異議をとなえなければ裁判になる可能性は非常に少ないのが実情です。
ただし、1%程度は公判になるケースもあるため、心配な方は早めに弁護士へ相談しましょう。
司法統計によると、過失運転致傷によって略式命令を受けた場合の罰金額は次のようになっています。
【過失運転致傷にて略式命令を受けた場合の罰金額(令和5年中)】
総数 35,298人 100万円 40人 50万円以上 100万円未満
6,727人 30万円以上 50万円未満
13,394人 20万円以上 30万円未満
6,853人 10万円以上 20万円未満
8,259人 5万円以上 10万円未満
5人
罰金額として最も多いのが、30万円以上50万円未満です。
過失運転致傷罪における罰金の最高額である100万円の支払いが命じられた人はたったの40人で、全体のうち0.1%程度しか存在しません。
もちろん、どの程度の罰金が命じられるのはわかりませんが、50万円前後の罰金と理解しておきましょう。
過失運転致傷罪と似た罪として、危険運転致傷罪という罪があります。
過失運転致傷罪では起訴される可能性がそもそも低いですが、危険運転致傷罪については起訴される可能性が高く、課される罪も非常に重くなります。
以下では、危険運転致傷罪の内容と、過失運転致傷罪との違いについて詳しく解説します。
危険運転致傷罪とは、正常な運転が困難な状態で運転をおこない、人に怪我をさせた場合に課される罪です。
「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」では、危険運転致傷罪について以下のように明記しています。
(危険運転致死傷)
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
一 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
二 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
三 その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
四 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
五 車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為
六 高速自動車国道(高速自動車国道法(昭和三十二年法律第七十九号)第四条第一項に規定する道路をいう。)又は自動車専用道路(道路法(昭和二十七年法律第百八十号)第四十八条の四に規定する自動車専用道路をいう。)において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行(自動車が直ちに停止することができるような速度で進行することをいう。)をさせる行為
七 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
八 通行禁止道路(道路標識若しくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいう。)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
過失ではなく危険運転と判断される運転として、次のようなものが該当します。
また、アルコールの摂取については同法3条においてさらに厳格に明記されています。
第三条 アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた者は十二年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は十五年以下の懲役に処する。
アルコールの摂取や過度な速度超過などは、過失運転ではなく危険運転と判断される可能性があると覚えておきましょう。
危険運転致傷罪のほうが過失運転致傷罪よりも重い罪が課されます。
それぞれの刑罰は、以下のとおりです。
過失運転致傷罪 | 7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰 |
危険運転致傷罪 | 15年以下の懲役 |
過失運転の場合には、罰金、禁錮、懲役と複数の罪があり、多くの場合が罰金刑です。
しかし、危険運転の場合には懲役刑しか存在しないため、非常に罪が重くなると理解しておきましょう。
危険運転と過失運転、どちらが適用されるのかはケースバイケースです。
事故の状況や被害者の怪我の度合いになどによって異なり、以下のようなケースでは危険運転と判断されることが多いようです。
ひき逃げはもちろん、飲酒運転を隠すために水を大量に摂取してアルコール濃度を薄めるような行為も罪が重くなります。
加害者側としては、懲役刑しかない危険運転よりも、罰金刑の可能性が高い過失運転のほうがよいことは間違いありません。
刑罰を判断する際には、相手と示談ができているかどうかが重要なポイントとなります。
できる限り罪を軽くしたいのであれば、交通問題や刑事事件に強い弁護士へ相談し、早期の示談成立を図りましょう。
過失運転致傷罪の処罰をできる限り軽減するためには、以下の4つのポイントを抑えて相手方との交渉をおこなうのが重要です。
それぞれのポイントについて、以下で詳しく解説します。
一般的に過失運転致傷罪は、しっかりとした刑事弁護をおこなうことで不起訴となるケースが多い罪です。
検察や警察に対して、どのような主張をすれば不起訴になりやすいのかは、弁護士が最もよく理解しています。
反対に、加害者本人が対応して、罪を軽くすることは簡単ではありません。
そのため、交通事故対応が得意な弁護士へ早めに相談することが重要です。
過失運転致傷罪そのものの罪を逃れることはできないとしても、加害者側の責任を軽減できる事情を主張することで罪が軽くなる可能性があります。
加害者の罪が軽くなる可能性のある事情とは、以下のようなものです。
素因とは元々あった原因ということ意味し、例えば被害者が持病を抱えており、事故を契機にその持病が悪化したような場合が該当します。
このような事情を一つひとつエビデンスとともに主張することによって、罪が軽くなる可能性があるのです。
ただし、加害者側が有利になるような主張が通りやすいのかを判断するのは簡単ではありません。
下手に主張を展開しすぎると、相手方からの印象が悪くなる可能性もあります。
まずは、弁護士へ相談し、どのように交渉を進めるかの方針についてアドバイスをもらいましょう。
過失運転致傷罪は、被害者側と示談が成立していることで罪が軽くなる傾向があります。
ケガを負わせた責任をとり、被害者側が「刑事罰は望まない」と処罰感情が緩和していれば、そのことが評価されて処罰が軽くなる可能性があるのです。
そのため、相手側との間に金銭的な示談と刑事罰は望まないという示談を早期に成立させることが重要です。
被害の補償については加入している任意保険会社がおこなってくれます。
しかし、刑事的な罪を少しでも軽くするためには、早期に被害者側と「刑事罰は望まない」という内容の示談することが重要です。
「刑事罰は望まない」という示談交渉は保険会社はおこなってくれないため、交通事故の対応が得意な弁護士へ早期に依頼したほうがよいでしょう。
過失運転致傷罪で不起訴になるかどうか、量刑がどの程度になるのかについて、重要な判断材料になるのが「本人が反省しているかどうか」という点です。
そのため、過失運転致傷罪の被疑者や被告となってしまったら、事故を起こして反省していることをわかりやすく態度や行動で示すことが重要になります。
事故を起こしたらこれらの行動をすることによって罪が軽くなる可能性があるでしょう。
運転者としての注意義務を怠って事故を起こし相手にケガをさせてしまったら、過失運転致傷罪に問われる可能性があります。
過失運転致傷罪は「7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金」という重い罰則が課される罪です。
しかし、過失運転致傷罪は8割程度が不起訴で、起訴されたとしてもほとんどが略式起訴となるため、裁判にかけられたり、懲役や禁錮刑が課されたりするケースはほとんどありません。
不起訴や略式起訴とするためには、交通事故トラブルを得意とする弁護士へ相談し、早期の示談成立や有利な主張をすることなどが重要です。
交通事故を起こして、人にケガをさせてしまったら、早めに交通事故対応が得意な弁護士へ相談してください。