クレプトマニアで無罪になるのは難しい?刑が軽くなる可能性や判例を徹底解説

クレプトマニアで無罪になるのは難しい?刑が軽くなる可能性や判例を徹底解説

クレプトマニア(窃盗症)とは、ものを盗みたいという衝動を制御できない精神疾患です。

通常の窃盗行為とは異なり、盗んだもの自体には関心がなく、十分な資産があっても窃盗を繰り返してしまう特徴があります。

そのため、自身や家族がクレプトマニアで万引きを止められず、「もし逮捕されたらクレプトマニアを理由に無罪になるのか」「刑を軽くしてもらえるのか」と悩んでいる方も多いでしょう。

本記事では、クレプトマニアを理由とした無罪の可能性や刑の減軽について、実際の判例を交えて解説します。

弁護士に依頼するメリットや適切な弁護士選びのポイントも紹介しますので、今後の見通しを立てるためにも、ぜひ最後まで参考にしてください。

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クレプトマニアを理由に、窃盗事件で無罪になる可能性は低い

クレプトマニア(窃盗症)は窃盗行為に依存する精神疾患のひとつですが、だからといって窃盗をしても無罪になるかといわれるとそうではありません。

刑法第39条では「心神喪失者の行為は、罰しない。」と記載されています。

これは心神が喪失し、責任能力がない状態の人に対して罰しないという規定です。

しかし、クレプトマニアの場合、窃盗行為を「悪いこと」と認識しつつも、衝動を制御できないケースがほとんどです。

そのため、心神喪失には該当せず、責任能力がまったくないわけではないため、無罪となることはほとんどありません

クレプトマニアによる心神耗弱が認められ、刑が減軽される可能性はある

クレプトマニアによって「心神耗弱」状態にあったと認められれば、刑が減軽される可能性があります

そもそも責任能力は、以下のレベルに分けられます。

レベル状態法的効果
心神喪失精神の障害により、善悪の区別または制御能力が欠けている状態刑法39条1項(無罪)
心神耗弱精神の障害により判断・制御能力のいずれかが著しく弱まった状態刑法39条2項(減刑)
完全責任能力上記以外の状態通常の刑罰

たとえば、重度のクレプトマニアやほかの精神疾患を併発しており、上記の心神喪失・心身網弱に該当すれば、刑の減軽が認められる可能性が高まります

裁判でクレプトマニアとは言えないと否定されることもある

裁判では、そもそもクレプトマニアの診断基準に該当しないとして、クレプトマニア自体が否定される場合があります。

「精神疾患の診断・統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)」の第5版(通称:DSM-5)の診断基準によると、クレプトマニアは「個人的に用いるためでもなく、金銭的価値のためでもなく、ものを盗ろうとする衝動に抵抗できない」ことが条件のひとつとされています。

しかし、検察側は「食べようと思って万引きした」などの供述を根拠に、この基準に該当しないと反論することがあります。

クレプトマニアの診断基準は複雑で、医師によって解釈が異なる場合も少なくありません。

そのため、本当にクレプトマニアかどうか不安な場合は、専門医による正式な診断を受けることが重要です。

クレプトマニアが関連する窃盗罪の判例

クレプトマニアが判決に与える影響は、必ずしも一律ではありません

クレプトマニアの診断を受けていても、犯行の状況や程度によって実刑判決が出されるケースもあれば、ほかの精神疾患との併発が考慮されて執行猶予が認められるケースもあります

以下では、クレプトマニアの方が起こした窃盗事件について、異なる結果となった2つの判例を紹介します。

クレプトマニアであるとの診断を認めつつ、実刑判決が出た判例

この事件は、クレプトマニアの診断を受け治療に取り組んでいた被告人が、大量の食料品を万引きして実刑判決を受けた事例です。

クレプトマニアの影響が認められながらも、犯行の悪質性や再犯性が重視され、治療への取り組みだけでは刑の執行猶予が認められませんでした

事件の概要(平成26年 大阪高等裁判所判決)

  • 被告人はスーパーマーケットで食料品93点(約3万6千円相当)を万引き
  • 過去に窃盗で3回の前歴があり、2度の執行猶予付き有罪判決を受けていた

被告人の状況

  • クレプトマニアの診断を受けており、専門病院での治療を継続
  • 自助グループのミーティングに参加し、専門医への通院も継続
  • 代金を支払うのに十分な現金を所持していたにもかかわらず万引きを実行

裁判所の判断

裁判所は、被告人がクレプトマニアであることは認めつつも、以下の理由で実刑判決を支持しました。

  • 犯行態様が悪質(大量の商品を計画的に持ち出し、精算済みを装った)
  • 警備員に声をかけられると支払いを申し出るなど、合理的な行動を取っていた
  • 日常生活に特段の支障がなく、クレプトマニアが衝動制御能力に及ぼす影響は軽微
  • 2度の執行猶予にもかかわらず再犯に及んだ

結果として、懲役10カ月の実刑判決が確定しました。

クレプトマニアと過食症の影響が考慮されるなどで、執行猶予付き判決が出た判例

この事件は、クレプトマニアと神経性過食症の診断を受け治療に取り組んでいた被告人が、2度目の執行猶予期間中に万引きをおこなったにもかかわらず、再度執行猶予判決を受けた事例です。

精神的疾患の影響と治療への取り組みが評価され、「刑罰より治療を優先すべき」として社会内更生の機会が与えられました。

事件の概要(令和2年 名古屋地方裁判所判決)

  • 被告人は100円ショップで食料品24点(約2,592円相当)を万引き
  • 過去に窃盗で複数の前歴があり、2度の執行猶予付き有罪判決を受けていた
  • 2度目の執行猶予期間中の犯行であった

被告人の状況

  • クレプトマニアと重度の神経性過食症の診断を受けており、専門病院での治療を継続
  • 入院治療や専門的カウンセリング治療も受けており、再犯防止に真摯に取り組んでいた
  • 約6万円の現金を所持していたにもかかわらず万引きを実行

裁判所の判断

裁判所は、被告人がクレプトマニアと神経性過食症であることを認め、以下の理由で執行猶予を言い渡しました。

  • 被害額が多くなく、被害弁償も済んでいる
  • 専門的治療を受けるなどして再犯防止に取り組んでいる
  • 治療環境が整い、治療意欲も高まっている現状では、治療継続により再犯防止が期待できる
  • 刑罰より治療を優先すべき事案である

結果として、懲役1年・執行猶予5年(保護観察付き)の判決が確定しました

クレプトマニアによる窃盗事件の対応を弁護士に依頼すべき理由

クレプトマニアが関係する窃盗事件は、単なる犯罪行為として処理するのではなく、病的な衝動による行動として理解する必要があります。

そのため、通常の窃盗事件とは異なり、医学的・心理的な観点をふまえた専門的な対応が必要です。

こうしたケースでは、弁護士に依頼することで的確な弁護活動が可能となり、不起訴や刑の軽減といった結果につながる可能性も高まります。

以下では、弁護士に依頼すべき具体的な理由を見ていきましょう。

逮捕を回避できる可能性が高まる

逮捕されていない段階で弁護士に相談することで、逮捕を回避できる可能性があります。

弁護士は自首の成立要件を満たすように的確なアドバイスを提供し、逮捕の回避を求める意見書を作成して自首当日に同行することも可能です。

クレプトマニアで何度も窃盗事件を繰り返している場合、逮捕の回避が困難な可能性もあります。

しかし、早期にクレプトマニアの病的性質を理解している弁護士に相談すれば、治療の必要性や再発防止への取り組みを適切に主張し、逮捕回避に向けて効果的な弁護活動を実行できます

被害者との示談を成立させ、不起訴処分や刑の減軽を目指せる

窃盗罪において、被害者との示談が成立している場合、不起訴処分や刑の軽減が認められる可能性が高まります。

特に、被害弁償が完了しているケースでは、身柄の早期釈放も期待できます

ただし、多くの被害者は加害者本人との直接交渉を拒むため、示談交渉は弁護士を通じておこなうのが現実的です。

弁護士が間に入ることで、被害者が応じてくれる可能性も高まります。

また、クレプトマニアが関わる事件では、金銭的な補償に加え、治療や再発防止に向けた取り組みを示すことも重要です。

こうした事情を適切に伝え、理解を得るためにも、早期に弁護士へ相談することを検討しましょう。

クレプトマニアの影響や再発防止に取り組んでいることなどを適切に主張してもらえる

クレプトマニアは疾患のひとつであり、刑罰を受けても改善されるものではないため、「被疑者に必要なのは刑罰ではなく治療である」という主張を適切に展開することが重要です。

その点、クレプトマニアに詳しい弁護士は、窃盗症の診断を受けさせることから始まり、治療方針や再発防止策を総合的に検討します。

また、医療機関での診断書取得や自助グループへの参加など、再発防止に向けた具体的な取り組みを証拠化し、意見書に記載して裁判所に提出してもらえるのも大きなメリットです。

そのほか、家族による支援体制の構築や専門医療機関での継続的な治療計画なども含めて、総合的な再発防止策を提示することで、刑の軽減や執行猶予の獲得を目指してもらえます。

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クレプトマニアによる窃盗事件を依頼する弁護士の選び方

クレプトマニアが関わる窃盗事件では、病気への理解と専門的な対応が不可欠です。

適切な弁護士を選ばなければ、クレプトマニアの特性を考慮せず、最初から実刑判決を前提とした弁護活動しかおこなわれない可能性があります。

そのため、弁護士選びでは、「実績」と「専門機関との連携」、2つのポイントを重点的に確認しましょう

クレプトマニアに関連する窃盗事件の対応実績が豊富か

弁護士を選ぶ際は、クレプトマニアに関する刑事弁護の経験が豊富な事務所を選択することが重要です。

事務所のホームページで過去の刑事弁護実績を確認したり、直接問い合わせたりして経験の有無を確認しましょう。

一部の法律事務所では、ホームページ上でクレプトマニア関連の刑事弁護に注力していることを明記している場合もあります。

実績が豊富な弁護士であれば、クレプトマニアの病的な特性を理解し、治療の必要性を適切に主張する弁護活動を期待できるでしょう

専門の病院や医療機関と連携しているか

クレプトマニアの弁護に強い事務所の中には、専門病院や医療機関と連携しているところがあります。

このような事務所では、弁護活動による不起訴や執行猶予の獲得だけでなく、クレプトマニアの根本的な治療を通じて依頼者が普通の生活を取り戻すことも重視してくれるでしょう

医療機関との連携があれば、診断書の取得や治療計画の策定、医師による証言などもスムーズに進められます。

また、適切な医療機関の紹介や家族のサポート体制構築についても、的確なアドバイスを受けることが可能です。

弁護士によるクレプトマニア窃盗事件の解決事例

ここからは、「ベンナビ刑事事件」に登録されている専門弁護士による実際の解決事例を紹介します。

これらの事例から、クレプトマニアが関わる窃盗事件においても、適切な弁護活動をおこなえばより良い結果を得られることがわかるはずです

弁護士がクレプトマニアの治療環境整備を支援し、不起訴処分を獲得できた事例

本件において、依頼者には窃盗の前科が多数あり、実刑経験もある状態で、出所後に再び万引きをおこなってしまいました。

弁護士は捜査機関との迅速な交渉により身柄拘束を防ぎ、依頼者と何度も面談を重ねて窃盗行為の根本的な原因を探りました

そして、従来のクレプトマニア治療機関では効果が得られなかった依頼者に対し、最も適した治療機関を紹介して治療環境を整備しています。

同時に被害者との示談交渉を成功させ、担当検察官との面談を重ねて治療への取り組みを説明しました。

その結果、相談者は実刑を覚悟していたましたが、不起訴処分の獲得に至っています

【参考元】【示談を成功させ、不起訴処分獲得】多数の前科・示談困難案件にも拘わらず不起訴獲得

早期の身柄解放と再度の執行猶予判決獲得に成功した事例

本件は、依頼者が過去に何度も万引きをおこない、執行猶予中の身でありながら万引きを再犯し逮捕されてしまったことで、家族から弁護士へ相談した事例です。

依頼者は拒食症の症状もあるため、長期間に及ぶ留置所での生活は体力的に懸念がありました。

そこで、弁護士は早期の身柄解放が必要と判断し、家族による身元引受書や宣誓書を準備して、裁判官に対し家族による十分なサポート体制があることを強くアピールしました

その後、窃盗症の専門的な治療を重点的におこない、医療関係の資料を整備して具体的な再発防止策を裁判所に提示しました。

その結果、警察署に一泊のみで釈放され、公判でも再度の執行猶予判決を獲得することができています

【参考元】【窃盗症・クレプトマニア】執行猶予中の再犯で再度の執行猶予判決

さいごに | クレプトマニアが影響する窃盗事件は弁護士に相談を!

本記事で解説してきたとおり、クレプトマニアを理由とする無罪の可能性は極めて低いのが現実です。

しかし、適切な弁護活動をおこなえば、心神耗弱による減刑や執行猶予の獲得、場合によっては不起訴処分も期待できます。

しかし、クレプトマニアの治療の必要性や再発防止への取り組みを法的な観点から適切に主張し、減軽・不起訴処分を獲得するには、クレプトマニアに精通した弁護士のサポートが不可欠といえます。

一人で悩んでいても問題は解決しません

早期に専門家に相談することで、逮捕の回避や示談成立、治療環境の整備など、より良い解決への道筋が見えてくるでしょう。

ご自身やご家族がクレプトマニアによる窃盗でお悩みの場合は、まずは刑事事件に強く、クレプトマニアの弁護経験が豊富な弁護士に相談されることをおすすめします

適切な法的サポートを受けることで、治療と社会復帰への第一歩を踏み出していきましょう。

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監修記事
インテンス法律事務所
原内 直哉 (第二東京弁護士会)
ご相談いただきましたら、これまで様々な業種の会社を経営してきた経験や、弁護士や司法書士といった法律の専門家としての知識を活かして、ご相談者様のお悩み解決にお力添えさせていただきます。
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アシロ編集部
編集部
本記事は法律相談ナビを運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。
※法律相談ナビに掲載される記事は、必ずしも弁護士が執筆したものではありません。本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。
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