殺人は極めて重大な犯罪であり、その刑事手続・裁判を受けるにあたり弁護士による法的支援が欠かせません。
弁護士との相談は原則有料ですが、刑事事件であれば当番弁護士制度を利用することで無料相談ができます。
また、無料法律相談に応じている弁護士・法律事務所を探すのも有効でしょう。
本記事では、以下のことについて解説します。
- 殺人事件が得意な弁護士を探す方法
- 殺人事件について弁護士に無料で相談できる方法・窓口
- 殺人罪について弁護士に相談・依頼して受けられる支援 など
人の生命を奪う殺人は、決して許される行為ではありません。
しかし、殺人事件の被疑者・被告人であっても、公平な裁判を受ける権利が保障されています。
万が一、人の生命を奪ってしまった場合に、弁護士から適切な助言・支援を得られるよう知識をつけておきましょう。
殺人罪について弁護士に無料で相談できる方法・窓口
殺人という重大事件を起こした場合は、早急に弁護士に相談することが重要です。
ここでは、殺人罪について弁護士と無料で相談ができる方法・窓口について説明します。
ベンナビ刑事事件|殺人罪について無料相談ができる弁護士を探せる
殺人事件の無料相談に対応している弁護士を探す場合、ポータルサイトを利用することもひとつの選択肢です。
たとえば、「ベンナビ刑事事件」であれば、近くにある殺人事件が得意な弁護士・法律事務所を探せます。
また「初回無料相談」に対応している弁護士だけでなく、「電話相談」「休日相談」などのように迅速に対応してくれる弁護士を検索することも可能です。
殺人事件に対応できる弁護士・法律事務所は以下の一覧から探せます。
当番弁護士制度|逮捕後に1回だけ被疑者・被告人のところに接見に来てくれる
当番弁護士とは、逮捕後に1回だけ無料で接見してくれる弁護士のことです。
警察官・検察官・裁判官などに「当番弁護士と相談したい」と伝えれば、最短で当日中に当番弁護士が被疑者・被告人のもとに駆けつけてくれます。
当番弁護士を呼ぶことで、今後の手続きの流れや取調べに関する助言を得られます。
駆けつけてくれた当番弁護士に弁護を依頼することもでき、私選弁護人として支援をしてくれます。
(なお弁護士会により制度は異なりますが、当番弁護士を私選弁護人として選任する場合の他、勾留後に当番弁護士を国選弁護人として選任し、引き続き弁護活動をおこなう場合もあります)。
弁護士会の法律相談センター|無料の電話相談などに対応している地域もある
法律相談センターとは、地域の弁護士会が運営している法律相談窓口のことです。
中には、東京都の法律相談センターのように「無料電話相談」に対応している地域もあります。
電話相談は10~15分程度と短いですが、刑事事件に関する質問に答えてもらえる可能性があります。
法律相談センターは以下のページから探せます。
殺人罪について弁護士に無料相談をする際の4つのポイント
ここでは、殺人罪について弁護士に無料相談をする際のポイントを説明します。
1.事件後すぐに弁護士に相談をする
事件後、できる限り早く弁護士に相談をするのが重要です。
取調べに関する助言が得られたり、今後の見通しを教えてもらえたりします。
また、早期に依頼をすれば時間をかけて遺族に対する謝罪や被害弁償をおこなうことも可能です。
殺人事件は特に捜査機関による取調べが厳しく、遺族による処罰感情は非常に強くなります。
殺人事件を起こした場合は、とにかく早く弁護士に相談し、適切な対応を取ることが肝要です。
2.事件の経緯や動機などを詳細に説明する
弁護士から適切な助言を得るためには、弁護士が事件の状況や経緯を正確に把握する必要があります。
そこで、事前に以下のような事実をまとめておくことが望ましいです。
- 事件の経緯
- 事件の時間
- 事件の場所
- 殺人の動機
- 犯行後の行動 など
これらを時系列に沿ってメモなどにまとめておくことで、相談時に冷静に説明ができます。
3.自分にとって不利な事実も正直に伝える
自分にとって不利になる事実は話しにくいものです。
しかし、弁護士が不利な事実を知らずにいると、あとから発覚したときに対応が難しくなる可能性があります。
そこで、弁護士に相談する際には、以下のような内容についても正直に伝えるのが重要です。
- 凶器の有無や種類
- 暴行や創傷の部位・頻度・程度
- 犯行時の被疑者と被害者のやり取り
- 殺人の計画の有無 など
弁護士には守秘義務があり、他人に知られる心配もないので、安心して話すようにしてください。
4.罪を認めない場合はそのことを明確に伝える
殺人を認めない場合は、必ず弁護士にその旨を伝えましょう。
犯罪を認めない否認事件の場合、無罪を証明するためのアリバイや証拠などが重要になります。
また、捜査機関からの厳しい取調べに対して、虚偽の自白をおこなわないことも大切となります。
このように弁護方針が大きく変わるため、殺人を認めない場合はその旨を弁護士に伝えるようにしてください。
殺人事件を依頼できる弁護士の種類|国選弁護人と私選弁護人の違い
殺人事件は必要的弁護事件であるため、必ず弁護士をつける必要があります。(刑事訴訟法第289条)
また裁判員裁判対象事件ですから、重大事件といえます。
刑事事件に対応してくれる弁護士は、国選弁護人と私選弁護人に分けられます。
ここでは、国選弁護人と私選弁護人のそれぞれの特徴について解説します。
国選弁護人|国によって選任される無料の弁護士のこと
国選弁護人とは、国によって選任される弁護士のことです。
被疑者・被告人が経済的な事情により、私選弁護人を選任できない場合に利用できます。
国選弁護人は、被疑者が裁判官に「国選弁護人に依頼したい」と伝えることで選任されます。
なお、勾留決定後に選任されるため、支援を受けられるタイミングが遅くなる場合もあるでしょう。
私選弁護人|本人や家族が選任した有料の弁護士のこと
私選弁護人とは、被疑者・被告人やその家族が依頼して選任される弁護士のことです。
たとえば、ポータルサイトを経由して依頼した弁護士は私選弁護人となります。
国選弁護人と異なり、事件直後から弁護士の支援を受けることが可能です。
ただし、弁護士費用は全て自分で負担する必要があります。
殺人事件を私選弁護人に相談・依頼するほうが良い4つの理由
ここでは国選弁護人ではなく、私選弁護人に相談・依頼するほうが良い理由について説明します。
1.刑事事件が得意な弁護士を選べるから
私選弁護人の場合は、本人・家族が自由に弁護士を選ぶことができます。
弁護士にはそれぞれ注力分野があり、殺人事件の場合は刑事事件が得意な弁護士に依頼するのが望ましいです。
刑事事件が得意な弁護士であれば、以下のようなことが期待できます。
- 迅速に弁護活動を開始してくれる
- 示談が成立するよう努めてくれる
- 刑が軽くなるよう支援をしてくれる など
また、人柄や相性などで弁護士を確認してから依頼できることも、私選弁護人にすべき理由といえます。
2.早い段階で取調べの助言が得られるから
国選弁護人と異なり、私選弁護人の場合は逮捕直後の取調べの段階から支援を受けられます。
取調べを受けるにあたり、被疑者には黙秘権や署名押印拒否権などの重要な権利が認められています。
- 黙秘権:取調べなどにおいて、言いたくないことは言わなくて良い権利のこと
- 署名押印拒否権:取調べで作られた供述調書への署名・押印を断る権利のこと
取調べで話した内容は事件の証拠にもなるため、被疑者としての権利を正しく行使することが非常に重要です。
殺人事件は、裁判員裁判対象事件であり、重大事件ですから、できるだけ早期に弁護人と方針を立てて協力していくことが非常に重要になります。
早い段階から支援受けることで、捜査機関から過剰な取り調べについて相談したり、被疑者に不利に影響してしまうような発言に気を付けたり、公判段階で不利に影響してしまう可能性のある供述調書を作られたりするのを避けられる可能性が高まります。
3.自首する際のサポートを受けられるから
弁護士が自首のサポートにも対応してくれる場合もあります。
捜査機関に犯人が発覚する前に自首をした場合、刑が軽くなる可能性があります(刑法第42条)。
また、弁護士が自首に同行している場合は、以下のようなことも期待できます。
- 不当・違法な取調べを防止できる
- 上申書などの書き方を教えてもらえる
- 逮捕された後のサポートが迅速におこなわれる など
ひとりで自首をするよりも、刑事事件が得意な弁護士による支援を受けながら自首するほうが望ましいです。
4.家族が弁護活動の状況を把握できるから
逮捕後から勾留決定までの72時間の間は、家族であっても被疑者と面会することができません。
また、殺人事件の場合は、勾留中の被疑者との面会を制限する接見禁止の決定が出される可能性もあります。
しかし弁護士は、このような接見が禁止されている場合であっても被疑者と面会することが可能です。
家族が、私選弁護人を選任している場合は、被疑者が現在どのような状況なのか、弁護人から接見した結果の報告を受けることができる場合も多いでしょう。
殺人事件を起こした方向けの基礎知識|法定刑や主な争点など
ここでは、殺人罪が成立する要件や刑罰の内容、殺人事件における主な争点について解説します。
構成要件|殺意を持って人を殺した場合に成立する
殺人罪は、以下の要件を全て満たした場合に成立します。
【殺人罪の構成要件】
- 人を
- 殺意をもって
- 殺す
(殺人)
第百九十九条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。
引用元:刑法 | e-Gov法令検索
法定刑|死刑、無期懲役、5年以上の懲役が科される
殺人罪の法定刑は、「死刑または無期もしくは5年以上の懲役」となっています。
罰金刑がないため、有罪となった場合は死刑か懲役刑のいずれかになります。
殺人は明確な意図をもって他人の命を奪う行為なので、非常に重い刑罰が科されます。
殺人事件における5つの争点
殺人事件では、以下のようなことが主な争点となります。
- 犯人であるかどうか
- 殺意があったか
- 責任能力があったか
- 正当防衛が成立するか
- 同意があったか
それぞれについて詳しく確認しましょう。
1.犯人であるかどうか|犯人でなければ無罪になる
被告人が殺人をした犯人でなければ、当然、殺人罪に問うことはできません。
犯人であること自体を争う場合は、例えば事件当時、現場にいなかったことを裏付ける証拠を集めるなどして、無実を証明することになります。
2.殺意があったか|殺意がなければ傷害致死罪などに切り替わる
殺人罪が成立する要件のひとつに「殺意をもっていること」があります。
殺意の有無は、一般的に以下のような証拠などをもとに判断されます。
- 凶器の種類・用法
- 創傷の部位・程度
- 殺人の動機
- 殺人前後の行動 など
これらを総合的に判断し、殺意がなかったと認められれば傷害致死罪に切り替わります(刑法第205条)。
傷害致死罪の法定刑は「3年以上の有期懲役」なので、殺人罪に比べると刑は軽くなります。
3.責任能力があったか|責任能力の程度により無罪・減刑になる
刑法では、心神喪失者による殺人行為は処罰しないと定められています(刑法第39条第1項)。
また、心身耗弱者の場合はその刑を軽減することも規定されています(同条第2項)。
- 心神喪失:行為の善し悪しを判断できないか、その判断に従って行動できない状態のこと
- 心身耗弱:行為の善し悪しを判断したり、その判断に従って行動したりするのが著しく困難な状態のこと
責任能力の有無は、精神科医がおこなう刑事責任能力鑑定(刑事精神鑑定)によって判断されます。
被告人に責任能力がなかった場合は無罪や減刑となるため、殺人罪において重要な争点のひとつとなります。
4.正当防衛が成立するか|正当防衛が認められれば無罪になる
正当防衛とは、犯罪行為から自分や他人の身を守るために、やむを得ずおこなった行為を指します。
刑法では、正当防衛が認められた場合は処罰しないことが定められています(刑法第36条)。
正当防衛と認められるには、以下のような要件を全て満たす必要があります。
- 急迫不正の侵害があったかどうか
- 自分や他人の権利を守るための行為か
- やむを得ずしている行為であるかどうか
なお、正当防衛の範囲を超える行為をおこなっている場合には、過剰防衛(刑法36条2項)に該当するとして減軽又は免除される場合もあるでしょう。
5.同意があったか|同意があれば同意殺人罪が成立する
被害者の同意を得たうえで殺人をしている場合は、同意殺人罪が成立します(刑法第202条)。
同意殺人罪の法定刑は「6ヵ月以上7年以下の懲役」なので、殺人罪に比べて刑は軽くなります。
同意殺人罪は、嘱託殺人罪と承諾殺人罪に分かれます。
- 嘱託殺人罪:被害者から依頼されて、殺害した場合に成立する罪
- 承諾殺人罪:被害者に殺害を申し込み、被害者がそれに同意して殺人をした場合に成立する罪
通常、嘱託殺人よりも承諾殺人のほうが加害者の働きかけが大きいため、刑は重くなる傾向があります。
殺人罪の無料相談に関する質問と回答
最後に、殺人罪の無料相談に関するよくある質問を紹介します。
Q.家族の殺人事件について弁護士と無料相談することはできますか?
刑事事件では、家族・親戚なども弁護士に相談できます。
また、刑事訴訟法では、法定代理人、保佐人、配偶者、子ども、直系の親族、兄弟姉妹などは弁護士を選任できることが定められています(刑事訴訟法30条2項)。
Q.無料相談をする場合、どのような基準で弁護士を選ぶべきですか?
弁護士を選ぶ際は、以下のポイントを参考にすることをおすすめします。
【私選弁護人を選ぶときのポイント】
- 殺人事件や裁判員裁判の対応経験が豊富か
- 依頼してから初動までが迅速か
- 費用が明確でわかりやすいか など
Q.弁護士に依頼をする場合、費用はいくらぐらいかかりますか?
殺人事件の場合、裁判員裁判対象事件となり、通常の裁判官裁判よりも、通常半年から1年にわたっての長期間審理の準備が必要となり、また弁護人の活動として裁判の準備にもかなりの時間を要することになります。
準備の困難さは事案ごとによりますが、殺人事件の刑事事件を弁護士に依頼する場合には、およその費用としては、通常100万円を超え、300万円くらいまでが目安となるでしょう。
また、事件内容や法律事務所によって接見費用、実費、日当などが必要となるでしょう。
さいごに|人を殺してしまったら速やかに弁護士に相談を
人の生命を奪う殺人をした場合は、できる限り早く弁護士に相談することが重要です。
早い段階で相談・依頼すれば、不当な取調べを阻止できたり、不利な供述調書を避けられたりします。
弁護士との相談は、当番弁護士制度を利用したり、法律相談センターに連絡したりすることでおこなえます。
また、殺人事件の弁護活動に精通している弁護士は「ベンナビ刑事事件」で探すことができます。
いずれかの方法で弁護士に相談し、事件に応じた適切な助言・支援を受けるようにしてください。

