誤認逮捕の恐怖と対策|実例から見る原因と影響を解説

誤認逮捕の恐怖と対策|実例から見る原因と影響を解説

誤認逮捕とは、実際には罪を犯していなくても犯人として誤って逮捕されてしまうことをいいます。

無実であっても逮捕後の流れは通常の逮捕とかわらず、警察や検察による取調べと長い身体拘束を受ける必要があります。

誤って逮捕されたのであれば、警察に対して損害を請求したいと考えるのが自然です。

ただ、誤認逮捕が違法なのかどうか、どのようにして被害を賠償してもらえばよいのかわからないという方も多いでしょう。

本記事では、誤認逮捕が起きる原因や誤認逮捕による生活への影響、誤認逮捕に対してどのように対処したらよいのかを解説します。

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この記事を監修した弁護士
加藤孔明弁護士
加藤 孔明弁護士(神戸カトウ法律事務所)
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誤認逮捕とは?冤罪との違い

誤認逮捕とは、刑事事件において真犯人ではないのにもかかわらず、犯人の疑いがあるとして誤って逮捕されることをさします。

冤罪とは無実であるのにもかかわらず、刑事事件で有罪判決を受けてしまうことをいいます。

つまり、誤認逮捕の先に冤罪がある、と理解しておけばよいでしょう。

誤認逮捕で身体拘束をされると、釈放されるまでは警察の留置場などで生活しなければなりません。

自宅に突然警察が来て逮捕されてしまう場合もあり、職場への連絡が十分にできないまま身体拘束されてしまうケースもあります。

のちに誤認逮捕とわかり釈放されたとしても、逮捕されてしまった事実から職場や近所で噂になってしまい、これまでどおりの生活ができなくなってしまうということも考えられるでしょう。

 誤認逮捕の統計と傾向

誤認逮捕は公表されないため正確な件数は把握できませんが、久保博司氏の著書「誤認逮捕」によると、2010年に起きた誤認逮捕の件数は343件とされています。

年間の検挙数が約40万件ある中で343件という数字は少ないようにも見えますが、事実として年間300人以上の方が誤認逮捕で身体拘束されているのです。

誤認逮捕の原因と問題点

本来、逮捕とは、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある者を拘束し、逃亡や証拠隠滅を防ぐために裁判所の令状に基づいておこなわれます。

つまり、十分な証拠がなければできないというのが大前提です。

ただし、犯行現場に居合わせ犯行が明らかな場合におこなわれる「現行犯逮捕」や、一定の重大事件で急を要するときだけ認められる「緊急逮捕」など、通常の逮捕の手順を踏まない例外的な逮捕というものが存在します。

十分な裏付け調査がおこなわれないまま実行されることが多く、これが誤認逮捕につながってしまう理由のひとつです。

また、捜査員の「この人が絶対に犯人である」という思い込みによって、その方が犯人であることに有利な証拠や情報だけに目を向けてしまい、結果として逮捕する相手を誤ってしまうというケースもあります。

実際にあった誤認逮捕の実例

ここでは、実際に起きた誤認逮捕の例を紹介します。

四日市ジャスコ誤認逮捕死亡事件での誤認逮捕

四日市ジャスコ誤認逮捕死亡事件とは、三重県四日市市で2004年に発生した誤認逮捕とそれによって男性が死亡した事件です。

四日市市内のとある大型ショッピングモール内で、男性が女性の財布を盗ったとして、従業員と買い物客に取り押さえられました。

その後警察官に取り押さえられ、警察による身体拘束後、男性は重度のストレスが原因の心不全により死亡しました。

その後の捜査で男性が窃盗をおこなっていた事実はないことが判明し、さらに警官は男性を約20分ほどうつ伏せの状態で拘束していたことがわかりました。

男性遺族は三重県に対し訴訟を起こし、裁判所は三重県に対し3,640万円の支払いを命じました。

ただし、これは誤認逮捕に対しての損害賠償ではなく、行き過ぎた取り押さえによる違法性が認められた判決といえます。

パソコン遠隔操作事件での誤認逮捕

2012年に発生したパソコン遠隔操作事件も、誤認逮捕として有名な事案です。

犯人は「トロイの木馬」と呼ばれるソフトウェアを利用し、4人のパソコンを遠隔操作して襲撃や殺人といった犯罪予告をおこないました。結果として4人の誤認逮捕者を出すことになります。

当時はサイバー犯罪に対する知見が浅く、本来そこまでセキュリティの知識がなくても実行できてしまう事件で4人もの誤認逮捕者を出してしまったことが大きな問題となりました。

また、自白を強要されるような取調べを受けたことで、無実であるはずの被害者2人が罪を認めてしまったことも大きな問題です。

誤認逮捕されたあとの流れ

誤認逮捕された場合は、通常の逮捕と同じく警察や検察の取調べを受け、起訴・不起訴の判断がなされることになります。

具体的な流れは次のとおりです。

警察による取調べ

逮捕後はまず、警察による取調べを受けます。ここでおこなわれるのは、事件の経緯や事実関係などの確認です。

取調べをした内容は供述調書という書類にまとめられ、起訴され裁判に発展した場合は証拠として扱われます。

一度署名をしてしまうとあとから修正することはできないため、取調べの最後で供述調書の内容に誤りはないかを必ず確認しましょう。

また、答えたくないは内容や答えにくい内容についてはその場で不用意に発言せず、黙秘権を行使することも有効です。

取調べがおわったあと、警察は被疑者を記録とともに検察に引き渡します。

拘束してから48時間以内に検察に引き継ぐ必要があり、これを送致といいます。

検察による取調べ

検察による取り調べは、警察による取調べ内容のチェックをするだけでなく、法律家として事件を裁判にかけて有罪判決を得られるかどうかという点を確認します。

そのため、警察が取調べを終えてすでに供述調書が作成されていても、検察官も独自に供述調書を作成します。

送致されてから24時間以内に、検察は勾留請求をして身体拘束をし続ける必要があるかどうかを判断します。

この時点で勾留が不要と判断されれば、釈放され自宅に帰ることも可能です。

ただし、勾留されなければ必ず不起訴となるわけではなく、中には在宅のまま取調べを受けて起訴されるケースもあります(在宅起訴)。

勾留の請求

勾留とは、被疑者の起訴・不起訴するかを判断するため、原則10日間、身体拘束をすることを指します。

証拠隠滅や逃亡を防ぎ、裁判の実効性を高めるためにおこないます。

勾留請求は常に認められるわけではありません。勾留が認められるには、「罪を犯したと疑う相当の理由」「住所不定や、証拠隠滅・逃亡の虞がある」の要件を満たす場合です。

ただし、実際は逮捕された方の9割近くは勾留請求されており、そのほとんどか許可されています。

参照:犯罪白書_検察庁既済事件の身柄率・勾留請求率・勾留請求却下率の推移

勾留される期間は原則10日ですが、証拠収集が難航するなどやむを得ない事情の場合には、さらに10日の勾留延長が許可されています。

つまり、逮捕されてから勾留が解けるまで最大23日間ものあいだ身体拘束が続くということです。

起訴

検察は勾留期間中に起訴・不起訴の判断をします。

起訴された場合は刑事裁判を受けることになり、その処遇を司法に委ねることになります。

ただし、統計上、日本における刑事裁判の有罪率は99%以上であり、起訴された場合はほぼ確実に有罪になるといえます。

そのため、誤認逮捕されてしまった場合は、いかに起訴されずに済むかどうかが重要です。

誤認逮捕されたらどうなる?逮捕後の影響

誤認逮捕された場合、生活にどのような影響があるのでしょうか。

前科はつかない

有罪の判決を受け、刑が確定しない限り前科はつきません。

また、日本には推定無罪の原則という考えがあり、刑事裁判で有罪が確定するまでは犯人として扱ってはならないとされています。

誤認逮捕中であっても同様で、たとえ容疑をかけられていても無罪として扱う必要があります。

一方で、社会には逮捕された事実で犯人として考えてしまう風潮があるのも事実です。

そのため、前科はつかなくても会社やご近所などの付き合いなど、少なからず生活に影響する部分はあるでしょう。

逮捕歴は残る

前科とは異なり、逮捕歴は残ってしまいます。

逮捕歴がついただけでは直接生活に悪い影響を与えることはありません。

一方で、テレビやインターネットで実名報道がされてしまうリスクはあるでしょう。

その場合、近所で噂が広まり引っ越しせざるを得なくなったり、就職する際に悪い影響を及ぼすことなどが考えられます。

誤認逮捕によって受けられる補償

誤認逮捕をされてしまった場合、何かしらの補填を受けたいと考えるのが自然です。

誤認逮捕をされた場合に受けられる補償は、被疑者補償規程、刑事補償法、国家賠償法を利用したものなどがあります。

ここでは、具体的にどのような補償を受けられるのか、それぞれ詳しく解説します。

被疑者補償規程|勾留後、不起訴になった場合

被疑者補償規程とは、被疑者として拘束された方のうち、罪を犯さなかったと認めるに足りる十分な事由で不起訴となった方に対して補償をおこなう制度です。

つまり、嫌疑不十分などを利用に不起訴となった場合は補償の対象になりません。

補償される金額は、柄拘束を受けた1日あたり1,000円以上1万2,500円以下です。

刑事補償法|刑事裁判で無罪判決を勝ち取った場合

刑事補償法による補償とは、逮捕されて拘束を受けた方が無罪を勝ち取った場合に、身体拘束された日数に応じて1日あたり1,000円以上1万2,500円以下の支払いを受けることです。

この場合、誤認逮捕による拘束期間だけでなく有罪判決を受けて服役していた期間なども含まれます。

国家賠償法|上記ふたつでは補償されない、もしくは補償が足りない場合

被疑者補償規程や刑事補償法では補償されない場合や補償の量が不十分な場合は、国家賠償法による補償を求めることができます。

国家賠償法を請求する要件は、国や地方公共団体の公務員が故意または過失によって違法に損害を与えた場合とされています。

ただしこの場合、相手に故意や過失があったことを被害者が証明しなければなりません。

通常果たすべき業務の水準を逸脱していない限り過失を認めさせることは難しく、国家賠償法による請求を受けることは非常に難易度が高いといえます。

誤認逮捕されてしまった場合にすべきこと

場合によっては突然身体を拘束され、長い期間日常生活から隔離されてしまうこともあります。

慣れない取調べでご自身にとって不用意な発言をしてしまったり、厳しい取調べに耐えられず自白してしまったりすることもあるでしょう。

誤認逮捕されてしまった場合は、ご自身が不利にならないよう慎重に対処していく必要があります。

ここでは、誤認逮捕された場合にすべきことを2つ紹介します。

誤認逮捕されたら弁護士に相談を

誤認逮捕されたらまず、弁護士に相談することをおすすめします。

逮捕されて身体拘束されたあとなら、警察官に当番弁護士を呼ぶように求めましょう。

取調べで作成された供述調書は、その後の捜査や裁判において重要な証拠となります。

そのため、ご自身が不利にならないよう慎重に回答する必要があります。

弁護士に相談すれば、事情聴取に対してどのように対応すればよいのかなど、さまざまなアドバイスがもらえるため、今後の手続きや交渉を有利に進められる可能性が高くなるでしょう。

弁護士と接見するまでは、黙秘権を行使して発言しないようにするのも有効な手段です。

供述する内容は慎重に|供述調書の内容は必ず確認する

前述のとおり供述調書は捜査や裁判において非常に重要な証拠となります。

一度署名をするとあとから内容の修正や撤回をすることはできないため、供述調書に署名をする前に内容をくまなく確認する必要があります。

仮に訂正を求めて相手が後回しにした場合でも、訂正した内容を確認するまでは絶対に署名してなりません。

さいごに|誤認逮捕されたら直ちに弁護士に相談を

日本の刑事事件での有罪率は99%を超えており、起訴されてしまった場合はほぼ確実に有罪となります。

そのため、誤認逮捕されてしまった場合は起訴される前に解決する必要があります。

そのためには早い段階で弁護士に相談し、適切に対処することが重要です。

たとえ事情聴取が厳しかったとしても、自分に罪の自覚がない場合は決して自白せず、どう対応すべきかを弁護士と判断しながら進めていくのがよいでしょう。

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この記事の調査・編集者
アシロ編集部
本記事は法律相談ナビを運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。※法律相談ナビに掲載される記事は、必ずしも弁護士が執筆したものではありません。本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。
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