傷害罪とは?構成要件・法定刑・暴行罪との違い・逮捕後の手続きなどを解説

傷害罪とは?構成要件・法定刑・暴行罪との違い・逮捕後の手続きなどを解説

「傷害罪」とは、他人にけがをさせた場合などに成立する犯罪です。

窃盗などの財産犯よりも重い法定刑が設定されており、初犯でも実刑判決を受ける可能性があります。

もし傷害罪等の疑いで逮捕されてしまったら、早い段階で弁護士に相談し、身柄解放に向けた弁護活動を依頼する必要があります。

本記事では、傷害罪について、構成要件・法定刑・暴行罪との違い・逮捕後の手続きなどを解説します。

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この記事を監修した弁護士
阿部 由羅
阿部 由羅弁護士(ゆら総合法律事務所)
ゆら総合法律事務所の代表弁護士。不動産・金融・中小企業向けをはじめとした契約法務を得意としている。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。

傷害罪とは

「傷害罪」とは、他人の身体を傷害した場合に成立する犯罪です。

(傷害)

第二百四条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

引用元:刑法第204条

本項では、傷害罪について詳しく深掘りしていきます。

傷害罪の構成要件

傷害罪の構成要件は、「人の身体を傷害した」こととされています。

なお、2人以上で暴行を加えて他人を傷害した場合については、「同時傷害の特例」が設けられています。

「傷害」とは

「傷害」とは、人の生理的機能を害することであると解されています。

たとえば、以下のような場合が傷害の典型例です。

  • 他人を殴って出血させた
  • 他人を蹴って骨折させた
  • 他人を平手打ちして痣(あざ)を作った など

生理的機能に対する侵害がない場合は、「傷害」に該当しません。

たとえば他人の髪を無断で切る行為は、生理的機能の侵害に当たらないため傷害に該当せず、暴行罪が成立するにとどまると解されています(大審院明治45年6月20日判決)。

同時傷害の特例について

複数の者から同時に暴行を受けた被害者がけがをした場合、どちらの加害者の行為から傷害の結果が発生したのか証明できないこともあります。

共同正犯(刑法第60条)が成立する場合であれば、傷害の結果を生じた行為を特定できなくても、共犯者全員について傷害罪の責任を問うことができます。

これに対して加害者間に共犯関係がない場合、暴行と傷害の因果関係が立証されず、傷害罪ではなく暴行罪が成立するにとどまるのが原則です。

(例)

AとBが共謀せず、たまたま同じタイミングでCに向かって石を投げたところ、どちらかの石が当たってCがけがをした。

しかし、どちらの石が当たったのかは不明のままだった。

しかし、2人以上で暴行を加えて人を傷害した場合は、傷害の原因となった暴行を特定できなくても、共犯として加害者に傷害罪の責任を負わせるものとされています。

これを「同時傷害の特例」といいます。

(同時傷害の特例)

第二百七条 二人以上で暴行を加えて人を傷害した場合において、それぞれの暴行による傷害の軽重を知ることができず、又はその傷害を生じさせた者を知ることができないときは、共同して実行した者でなくても、共犯の例による。

引用元:刑法第207条

なお判例上は、傷害致死罪についても同時傷害の特例の適用が肯定されています(最高裁昭和26年9月20日判決)。

ただし同時傷害の特例は、「疑わしきは被告人の利益に」という挙証責任の大原則を転換するものであるため、学説上は批判が集まっています。

傷害罪の法定刑

傷害罪の法定刑は、「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。

たとえば、他人の財産権を侵害する「窃盗罪」「詐欺罪」「業務上横領罪」などの懲役刑は、最長でも10年とされています。

これに対して、傷害罪の懲役刑は最長15年と、各種の財産犯よりも重く設定されているのです。

傷害罪の保護法益は人の身体であり、財産を上回る要保護性が認められるため、傷害罪には重い法定刑が設けられています。

被害者が死亡した場合は「傷害致死罪」、殺害の故意があれば「殺人罪」

他人の身体を傷害し、それによって被害者が死亡した場合には「傷害致死罪」が成立します。

(傷害致死)

第二百五条 身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期懲役に処する。

引用元:刑法第205条

傷害致死罪の法定刑は「3年以上の有期懲役」です。有期懲役の上限は20年、併合罪加重がなされる場合は30年となります(刑法第12条1項、14条2項)。

被害者死亡という結果の重大性に鑑み、通常の傷害罪よりも重い法定刑が設定されているのです。

なお、被害者を殺害することに関する故意が認定された場合は、傷害致死罪ではなく「殺人罪」が成立します。

(殺人)

第百九十九条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。

引用元:刑法第199条

殺人罪の法定刑は「死刑または無期もしくは5年以上の懲役」で、たいへんな重罪とされています。

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傷害罪と暴行罪の違い

傷害罪と暴行罪は、いずれも他人に対する暴行について成立する犯罪です。

両者は、主に傷害の結果が発生した否かによって区別されます。

ただし傷害罪については、暴行によらずとも成立する可能性がある点に注意が必要です。

けがなどがあれば傷害罪、なければ暴行罪

他人に対して暴行をした者については、被害者に傷害が生じた場合には傷害罪、傷害が生じなかった場合には暴行罪が成立します。

暴行罪の条文においても、暴行罪の構成要件として「人を傷害するに至らなかった」ことが明記されています。

(暴行)

第二百八条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

引用元:刑法第208条

ただし、かすり傷や痣・内出血なども「傷害」に当たるため、暴行が実際に被害者へ接触した場合には、暴行罪にとどまるケースは少数でしょう。

暴行罪が成立する場合の例としては、暴行が空振りして傷害が「未遂」に終わったケースなどが挙げられます。

傷害罪は暴行罪の結果的加重犯|傷害の故意がなくても成立する

傷害罪は、暴行罪の「結果的加重犯」となります。

結果的加重犯とは、加害者の行為によって意図しない結果が発生した場合でも、基本的な行為についての故意があれば結果についても罰する犯罪です。

よって暴行の故意と因果関係さえ認められれば、傷害については故意がなくても、傷害罪が成立します。

なお、傷害致死罪も暴行罪の結果的加重犯と解されています(最高裁昭和26年9月20日判決)。

したがって、加害者が被害者死亡の可能性を予見し得なくても、暴行の故意と因果関係が認められれば傷害致死罪が成立します。

暴行によらない傷害もあり得る

傷害罪の構成要件は、人の生理的機能を害することです。

生理的機能の侵害は、暴行以外の方法によっても成立し得ると解されています。

たとえば以下に挙げるように、暴行によらない傷害罪の成立を認めた裁判例が存在します。

  • 嫌がらせ電話によって不安感を与えて、精神衰弱症にした事例(東京地裁昭和54年8月10日判決)
  • ラジオ等の騒音により精神的ストレスを与えて、睡眠障害等に陥れた事例(最高裁平成17年3月29日決定)
  • 性病であることを秘して、被害者の同意を得て自己の性器を押し当てた結果、性病を感染させた事例(最高裁昭和27年6月6日判決)

これらのケースにおいて暴行罪は成立しないと考えられますが、被害者の生理的機能が害されたことをもって、傷害罪の成立が認定されています。

傷害罪・傷害致死罪以外に、傷害が構成要件とされている犯罪

傷害罪・傷害致死罪以外にも、刑法に定められる以下の犯罪については、被害者に対する傷害が構成要件とされています。

これらの犯罪に当たる行為が傷害罪にも該当する場合は、観念的競合(刑法第54条1項前段)として最も重い刑により処断されます。

  • ガス漏出等致傷罪
  • 往来妨害致傷罪
  • 浄水汚染等致傷罪
  • 強制わいせつ致傷罪・強制性交等致傷罪
  • 特別公務員職権濫用等致傷罪
  • 過失傷害罪
  • 業務上過失致傷罪
  • 同意堕胎致傷罪
  • 業務上堕胎致傷罪
  • 不同意堕胎致傷罪
  • 遺棄等致傷罪
  • 逮捕等致傷罪
  • 強盗致傷罪
  • 建造物等損壊致傷罪

傷害罪などで逮捕された場合の手続きの流れ

傷害罪などで捜査機関に逮捕された場合、以下の流れで刑事手続きが進行します。

  • 逮捕~勾留請求
  • 起訴前勾留~起訴or不起訴
  • 起訴後勾留
  • 公判手続き~判決
  • 上訴~判決の確定・刑の執行

適切に対応するためには、早い段階で弁護士に相談してください。

逮捕~勾留請求

逮捕による身柄拘束の期間は最長72時間で(刑事訴訟法第205条2項)、その間は警察官や検察官による取調べがおこなわれます。

検察官は、被疑者を引き続き身柄拘束をすべきであると判断した場合、裁判官に対して勾留請求をおこないます。

裁判官は、以下の3つの要件を満たしていることを確認したうえで勾留状を提示します(刑事訴訟法第207条5項)。

起訴前勾留~起訴または不起訴

勾留状に基づき、被疑者の身柄拘束は逮捕から起訴前勾留へ移行します。

起訴前勾留の期間は最長20日間で(刑事訴訟法第208条)、逮捕と通算すると最長23日間です。

起訴前勾留の期間が満了するまでに、検察官は被疑者に対して、起訴処分または不起訴処分をおこないます(処分保留で釈放される場合もありますが、基本的には勾留期間中に起訴・不起訴が判断されるケースが大半です)。

①起訴処分

被疑者(被告人)に刑罰を科すため、裁判所の審理を求める処分です。

通常の刑事裁判を求める「正式起訴」と、簡易裁判所の略式命令を求める「略式起訴」の2種類があります。

②不起訴処分

被疑者に刑罰を科すことを求めず、刑事手続きを終了させる処分です。

不起訴処分となった被疑者の身柄は直ちに解放されます。

嫌疑が確実な場合でも、犯罪の内容や情状によっては、検察官の判断で不起訴(起訴猶予)となることがあります。

起訴後勾留

検察官によって被疑者が起訴された場合、身柄拘束は起訴前勾留から起訴後勾留へと自動的に切り替わります。

また、被疑者の呼称が「被告人」へと変わります。

起訴後勾留の期間は起訴された日から2ヵ月間で、その後は1ヵ月ごとの更新が可能です(刑事訴訟法第60条2項)。

起訴後勾留の期間中に、被告人は弁護人と相談しながら、公判手続に向けた準備をおこないます。

なお、起訴後勾留中の被告人またはその弁護人・親族などは、裁判所に対して保釈を請求できます(刑事訴訟法第89条1項、90条1項)。

裁判所により保釈決定がなされた場合、保釈保証金を納付すれば、一時的に被告人の身柄が解放されます(刑事訴訟法第94条1項)。

公判手続き~判決

起訴から1ヵ月〜2ヵ月後に、裁判所において公判手続きが始まります。

公判手続きは、検察官が犯罪要件を立証し、被告人がそれに対して反論する形で進行します。

被告人としては、無罪を主張することもできますし、罪を認めたうえで情状酌量を求めることもできます。

どのような方針で公判手続きに臨むかについては、弁護人と相談して決めましょう。

審理が熟した段階で、裁判所が判決を言い渡します。有罪判決の場合は量刑が、無罪判決の場合は無罪の旨が判決主文で示されます。

上訴~判決の確定・刑の執行

刑事裁判の判決に不服がある検察官・被告人は、高等裁判所に対して控訴できます(刑事訴訟法第372条)。

控訴期間は、判決の言渡し日の翌日から起算して14日間です(刑事訴訟法第373条)。

高等裁判所の判決に対しては、さらに最高裁判所への上告が認められる場合があります。(刑事訴訟法第405条、406条、411条)。

上告期間は控訴と同じく、判決の言渡し日の翌日から起算して14日間です(刑事訴訟法第414条、373条)。

期間内に適法な控訴・上告がおこなわれなかった場合、または上告審判決の言渡しから原則10日間が経過した場合には判決が確定し(刑事訴訟法第418条)、有罪の場合は刑が執行されます。

ただし、全部執行猶予(刑事訴訟法第25条)が付された場合には、刑の執行が猶予されます。

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傷害罪で逮捕された方のために弁護士ができること

ご家族が傷害罪で逮捕されてしまったら、すぐに弁護士へ相談しましょう。

弁護士は傷害罪で逮捕された方のために、以下のサポートをおこなっています。

①取調べに関するアドバイス

警察官や検察官による取調べに対して、どのような心構えで臨み、どのような点に注意すべきかについてアドバイスを受けられます。

②早期の身柄解放に向けた弁護活動

勾留処分に対する準抗告・抗告や検察官への働きかけ、保釈請求などにより、被疑者・被告人を身柄拘束から早期に解放するための弁護活動を依頼できます。

③被害者との示談交渉

犯罪による被害を回復するため、被害者との示談交渉を弁護士に依頼できます。

示談が成立すれば、被疑者・被告人にとって有利な情状となります。

④公判手続きの準備

法的な知識と経験を活かして、公判手続きの準備を代行・サポートしてもらえます。

⑤家族との窓口

弁護士は被疑者・被告人と自由に接見できるため、本人と家族の間の連絡役としても適任です。

伝言や差し入れなども弁護士に依頼できます。

さいごに

傷害罪は重罪とされており、逮捕・起訴されると重い刑罰が科される可能性があります。

もしご家族が傷害罪で逮捕されてしまったら、弁護士への相談をおすすめします。

弁護士は被疑者・被告人の身柄を早期に解放し、重い刑事処分を避けるために、さまざまな角度から弁護活動をおこなっています。

本人やご家族にとって心強い味方になりますので、すぐに弁護士へ相談してみてください。

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この記事の調査・編集者
アシロ編集部
本記事は法律相談ナビを運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。※法律相談ナビに掲載される記事は、必ずしも弁護士が執筆したものではありません。本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。
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