投稿者の特定・訴訟
IPアドレスから個人の特定はできるか?誹謗中傷をしてくる相手を特定する方法
2024.08.02
Instagram(以下、インスタ)上で名誉毀損やプライバシー侵害などの権利侵害をされた場合、その投稿者に対して損害賠償請求をすることができます。
しかし、投稿者が匿名の場合、まずは投稿者を特定するために発信者情報開示請求(発信者情報開示命令)をおこない、投稿者のIPアドレスやタイムスタンプ、氏名、住所などを取得する必要があります。
本記事では、インスタ上で権利侵害に遭った方に向けて、匿名投稿者のIPアドレスを把握する方法、発信者情報開示請求で投稿者を特定する際の流れ、投稿者を特定したあとの手続きなどを説明します。
また、発信者情報開示請求を弁護士に依頼するメリットも紹介します。
発信者情報開示請求とは、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下、プロバイダ責任制限法)第5条に規定されている、サイト管理者やプロバイダなどに対して、インターネット上の匿名投稿者の情報を開示させる手続きのことです。
(発信者情報の開示請求)
第五条 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対し、当該特定電気通信役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報のうち、特定発信者情報(発信者情報であって専ら侵害関連通信に係るものとして総務省令で定めるものをいう。以下この項及び第十五条第二項において同じ。)以外の発信者情報については第一号及び第二号のいずれにも該当するとき、特定発信者情報については次の各号のいずれにも該当するときは、それぞれその開示を請求することができる。
インスタなどのSNS上で匿名アカウントによる権利侵害がおこなわれている場合に、発信者情報開示請求をおこなうことで投稿者に関する以下情報を取得することができます。
【発信者情報開示請求によって入手できる可能性がある情報】
インスタのようなログイン型SNSの場合、発信者情報開示請求によってログイン・ログアウト時のIPアドレスも請求することが可能です(プロバイダ責任制限法第5条3項)。
投稿者が権利侵害をおこなった日よりもあとにインスタにログインやログアウトをしていれば、その日のIPアドレスをもとに投稿者を特定できる可能性があるでしょう。
ここでは、インスタの投稿者のIPアドレスを取得するための方法について説明します。
発信者情報開示請求は、2002年5月のプロバイダ責任制限法の施行に伴い導入された法的手続きです。
サイト管理者とプロバイダに対して、それぞれ発信者情報開示請求をおこなうことが特徴といえます。
通常、発信者情報開示請求は手続きが多く、投稿者の特定までに時間がかかることがデメリットとされます。
しかし、プロバイダが争う姿勢を見せているケースでは、発信者情報開示請求が適している場合もあります。
初めからプロバイダと開示の必要性について争うことができるため、結果的に迅速な解決を目指せるからです。
発信者情報開示命令とは、2022年10月のプロバイダ責任制限法の改正に伴い創設された非訟手続のことです。
サイト管理者やプロバイダそれぞれに対する開示命令事件を併合し、一体的な審理が可能となったことが特徴といえます。
つまり被害者は、1度の手続きでサイト管理者・プロバイダに対し情報開示を求めることができるようになったのです。
これによって、被害者が手続きにかける負担が軽減されます。
発信者情報開示命令は、発信者情報開示請求よりも迅速に開示を受けられる点も大きなメリットです。
開示までの目安期間は、発信者情報開示請求が「半年から1年程度」であるのに対し、発信者情報開示命令は「3~4ヵ月程度」です。
なお、発信者情報開示命令では、サイト管理者やプロバイダが異議申し立てをおこなうことが可能です。
仮にサイト管理者やプロバイダが異議申し立てをおこなった場合、通常訴訟に移行するため、発信者情報開示請求より投稿者を特定するのに長い時間がかかる可能性が高くなります。
ここでは、従来の発信者情報開示請求(IPアドレスルート)で、投稿者を特定する際の大まかな流れを説明します。
被害者は、東京地方裁判所に対しインスタの運営会社であるMeta Platforms, inc.を相手方とする発信者情報開示仮処分命令の申し立てをおこないます。
仮処分命令の申し立てをすると、審尋(裁判官との面談)が実施され、一定の担保金を供託することになります。
これにより裁判所から仮処分命令が発令されるため、被害者は裁判所から受け取った仮処分命令の決定正本の写しなどをMeta Platforms, inc.に提出し、投稿者に関するIPアドレスやタイムスタンプなどの開示を受けます。
開示されたIPアドレスをもとに、投稿者が使用しているプロバイダを特定します。
プロバイダの特定には「Whoisサービス」を利用するのが一般的です。
調べ方は簡単で、Whoisのサイトにアクセスし、検索窓にIPアドレスを入力して検索するだけです。
これによりドコモ、ソフトバンク、KDDI、OCN、ぷらら、BIGLOBEなどのプロバイダを調べることができます。
プロバイダを特定したら、そのプロバイダを相手方とする発信者情報開示請求訴訟を提起します。
裁判所に訴状を受理されたあとは、通常、2~3回程度の審理がおこなわれます。
そして、裁判所から請求容認判決を得られれば、プロバイダから契約者に関する氏名や住所などが開示されます。
インスタ上の投稿者を特定したら、損害賠償請求や刑事告訴などをおこなうのが一般的です。
ここでは、発信者情報開示請求でインスタ上の投稿者を特定してからの手続きについて説明します。
インスタ上で権利侵害をされた場合、投稿者に対して不法行為に基づく損害賠償を請求することができます。
損害賠償請求はまず内容証明郵便などで相手に損害賠償請求書を送付し、慰謝料の金額などを話し合って示談を目指します。
示談交渉がまとまらなかった場合は、訴訟を提起することになります。
権利侵害の種類や被害の程度などによって異なりますが、損害賠償金額の一般的な相場は以下のとおりです。
【権利侵害別の損害賠償金額の相場(個人の場合)】
権利侵害の種類 | 損害賠償金額の相場 |
名誉毀損 | 10万~50万円程度 |
侮辱 | 1万~10万円程度 |
プライバシー侵害 | 通常:10万~50万円程度 悪質な場合:100万円以上 |
インスタ上の投稿に犯罪性があると思われる場合は、警察や検察といった捜査機関に対して刑事告訴をすることが可能です。
刑事告訴をしたい場合は、最寄りの警察署などへ事件に関する告訴状を提出する必要があります。
インスタのようなSNS上でおこなわれる投稿と関係がある主な犯罪には、以下が挙げられます。
【インスタ上の投稿に関連する犯罪と刑事罰】
犯罪の種類 | 刑事罰 |
名誉毀損罪(刑法第230条) | 3年以下の懲役もしくは禁錮 または50万円以下の罰金 |
侮辱罪(刑法第231条) | 1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金 または拘留もしくは科料 |
脅迫罪(刑法第222条) | 2年以下の懲役または30万円以下の罰金 |
信用毀損罪・業務妨害罪(刑法第233条) | 3年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
著作権法違反(著作権法第119条1項) | 10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金または併科 |
ここでは、インスタ上の投稿者の特定などを弁護士に依頼するメリットを説明します。
発信者情報開示請求をおこなう際は、インターネット上で権利侵害を受けたことを証明(疎明)する必要があります。
弁護士に依頼すれば、インスタ上の投稿内容がどのような権利侵害に該当するのかを、法律の知識に基づいて正確に主張することができます。
これにより投稿者のIPアドレス、タイムスタンプ、氏名、住所といった情報を取得できる可能性が高まるでしょう。
発信者情報開示請求をする際は、申し立て書の作成や裁判所での対応などが必要になります。
弁護士に依頼をすれば、このような手続きの大半を任せられるため、少ない負担でIPアドレスなどを取得できます。
また発信者情報開示請求の裁判手続は、プロバイダの本所所在地を管轄する裁判所にておこなう必要があることから、多くのプロバイダ本社が集まる東京都で実施されることが多いです。
そのため地方在住の方にとっては、東京まで赴く負担が軽減されるのもメリットといえるでしょう。
発信者情報開示請求により権利侵害をした投稿者を特定したあとは、損害賠償請求をおこなうのが一般的です。
弁護士に依頼した場合、妥当な損害賠償金額を算定してくれるほか、示談交渉や訴訟の対応も任せられます。
弁護士が示談交渉や訴訟をおこなうことで、被害内容に応じた妥当な賠償金を受け取れる可能性が高まるでしょう。
弁護士に依頼している場合、弁護士会照会(23条照会)により投稿者を特定できるケースもあります。
弁護士会照会とは、弁護士会を経由して金融機関や携帯電話会社などに契約者情報の提供を求める制度です。
必ずしも照会先から契約者情報が提供されるわけではありませんが、弁護士照会により投稿者が特定できれば問題解決までの時間を大幅に短縮できます。
インスタ上で権利侵害をされたら、できる限り早く発信者情報開示請求をおこなうのが重要です。
一般的に、プロバイダのIPアドレスなどの記録(アクセスログ)の保存期間は3~6ヵ月程度とされており、早く開示請求をおこなわないとIPアドレスなどの記録が削除されてしまい、投稿者を特定することが困難になってしまいます。
迅速に発信者情報開示請求をするためにも、まずはSNSトラブルが得意な弁護士に相談することをおすすめします。
その際「ベンナビIT」を使えば、SNSトラブルや発信者情報開示請求などが得意な法律事務所を効率よく探せます。
希望や条件に合う近くの法律事務所を探し、まずはインスタ上でおこなわれた権利侵害について相談してみましょう。