ネット誹謗中傷
SNSなどネット上で名誉毀損を受けたらどうする?悪意ある投稿への対処法
2024.08.28
近年では、SNSの存在が当たり前になったことで、なりすましの被害も増加しています。
ある日突然、SNSで自分の名を名乗る知らないアカウントが、根も葉もない噂や情報を発信していたら、どう対処していいかわからず悩んでしまいますよね。
SNSでのなりすまし行為は、犯罪として罪に問えるケースがあります。自分のケースで、なりすまし犯を罪に問えるのかどうかを確認して、適切に対処しましょう。
本記事では、SNSのなりすまし行為が犯罪になるケースの具体例やなりすまし被害にあったときの対処法などについてわかりやすく解説します。
なりすまし行為に悩んでいる方は、ぜひ本記事を参考に解決に向けた第一歩を踏み出してみてください。
SNSのなりすまし行為とは、自分以外の人物になりすました偽物アカウントを作成する行為のことです。
嫌がらせ、個人情報の収集、知名度を利用したフォロワー獲得など、さまざまな目的で作成されます。
SNSのなりすましが話題に挙がるのは、著名人や有名な飲食店などの偽アカウントが作成されたケースですが、一般人がSNSのなりすまし被害を受けることも少なくありません。
ただし、SNSのなりすまし行為は、それ自体が犯罪になるわけではない点に注意が必要です。
なぜなら、刑法などの規制立法において「SNSのなりすまし行為」を処罰する旨の規定は一切存在しないからです。
SNSのなりすまし行為が犯罪になるのは、作成された偽物アカウントを悪用して、コメント・写真・動画などを投稿したり、他人とメッセージをやり取りしたりしたときに限られます。
SNSで自分になりすました犯人に対して法的責任を追及したいと考えているのなら、「なりすましの偽アカウントがどのような行為に及んでいるのか」を把握するのが重要だといえるでしょう。
SNSのなりすまし行為自体は犯罪ではありません。
しかし、SNSのなりすまし行為によって作成されたアカウントが一定の行為に及んだ場合には、以下のような罪に問える可能性があります。/p>
ここでは、SNSのなりすまし行為に対して問える可能性がある罪について、詳しく解説します。
名誉毀損罪とは、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損したとき」に成立する犯罪類型のことです。
名誉毀損罪の法定刑は、「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」と定められています。
名誉毀損罪が成立するのは「公の場所で、他人の社会的評価を毀損させるおそれがある具体的な事実を示した場合」です。
たとえば、SNSのなりすましアカウントの行為が名誉毀損罪に該当するケースとして、以下のものが挙げられます。
侮辱罪とは、「事実を摘示することなく、公然と人を侮辱したとき」に成立する犯罪類型のことです。
侮辱罪の法定刑は、「1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」と定められています。
インターネット上での誹謗中傷トラブルが急増している背景を踏まえて、近年の刑法改正で法定刑が大幅に引き上げられました。
侮辱罪と名誉毀損罪はどちらも「インターネット上の誹謗中傷・悪口」に対して適用される可能性がある犯罪類型ですが、「事実を摘示しているか否か」という点でどちらの犯罪類型が適用されるかが異なります。
つまり、「事実の摘示がある」場合が名誉毀損罪、「事実の摘示がない」場合が侮辱罪、という形で棲み分けられているということです。
たとえば、SNSのなりすましアカウントの行為が侮辱罪に該当するケースとして、以下のものが挙げられます。
詐欺罪とは、「人を欺いて財物を交付させたとき、人を欺いて財産上不法の利益を得たり第三者にこれを得させたりしたとき」に成立する犯罪類型のことです。
詐欺罪の法定刑は、「10年以下の懲役刑」と定められています。また、詐欺罪は未遂犯も処罰対象です。
たとえば、SNSのなりすましアカウントを悪用した行為が詐欺罪に該当するケースとして、以下のものが挙げられます。
SNSのなりすまし行為は、「不正アクセス行為の禁止等に関する法律」(通称「不正アクセス禁止法」)の処罰対象になる場合があります。
不正アクセス行為や、不正アクセス行為のためにパスワードやIDなどのデータを取得する行為は、犯罪として規定されています。
たとえば、SNSのなりすましによって以下の行為がおこなわれたときには、不正アクセス禁止法で処罰されるでしょう。
電子計算機使用詐欺罪とは、簡単に説明すると「他人のスマホやアカウントを使って勝手に商品を購入したり、決済情報を盗み取ったりしたとき」に成立する犯罪類型のことです(刑法第246条の2)。
電子計算機使用詐欺罪の法定刑は、「10年以下の懲役刑」と定められています。また、未遂犯も処罰されます(刑法第250条)。
たとえば、SNSのなりすましアカウントを悪用した行為が電子計算機使用詐欺罪に該当するケースとして、以下のものが挙げられます。
SNSのなりすましアカウントによっておこなわれた行為は、以下の犯罪類型に該当する可能性もあります。
信用毀損罪・偽計業務妨害罪・威力業務妨害罪の法定刑は、いずれも「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」と定められています。
たとえば、以下のようなケースでは信用毀損罪・業務妨害罪・威力業務妨害罪にあたる可能性があります。
SNSのなりすまし被害にあったときには、加害者に対して民事責任を追及することも可能です。
具体的には、不法行為に基づく損害賠償請求及び慰謝料請求をすることによって、被害者に生じた損害に対して金銭的な賠償を求めることになります。
ただし、「なりすましをされたこと」だけでは損害賠償請求の根拠としては足りない点に注意が必要です。
不法行為に基づく損害賠償請求や慰謝料請求をするためには、「なりすまし行為が原因で権利侵害が生じたこと」を主張・立証しなければいけません。
なりすましによる「権利侵害」の内容は、具体的な事案によって異なります。
たとえば、以下のような権利が侵害されたことを丁寧に主張・立証しながら、加害者に対する民事責任を追及しましょう。
SNSなどのなりすまし行為によって、加害者側に法的責任が認められた事例を具体的に紹介します。
本件では、加害者の男性が、2020年8月~2021年10月の間に、20代の女性9人のInstagramのID・パスワードを不正に入手して59回にわたって各アカウントにログインをしたうえで、パスワードを書き換えてアカウントののっとりをおこないました。
被害女性のひとりがInstagramにログインできなくなったことを不審に思い警察に相談したところ、のっとり被害が確認されて、不正アクセス禁止法違反及び私電磁的記録不正作出・同供用の疑いで、犯人が逮捕されるに至っています。
さらに、本件では、のっとりをおこなった犯人が被害者になりすまして、別の女性にダイレクトメールを送信してパスワードを聞き出したうえで、のっとり行為を繰り返していたことも判明しています。
このように、SNSでののっとり・なりすまし行為の被害を受けると、被害者本人だけではなく、その交友関係などにも被害が波及するリスクが生じかねません。
事後的に加害者に対して法的責任を追及することも大切ですが、なりすましやのっとり被害にあわないようにするために、普段からIDやパスワードを厳重に管理するなどの予防措置が重要だといえるでしょう。
本件は、加害者男性が、県内の女子高生になりすましてSNS上に偽アカウントを作成し、悪用した事案です。
この偽アカウントでは、性的行為を誘うような投稿が繰り返されたり、本物のアカウントで使用されていた写真が転載されたりしていたため、本人の社会的評価を低下させたことを理由に、犯人は名誉毀損罪の容疑で逮捕されるに至りました。
本件で不正に作成された偽アカウントが削除されるまでに、約500人のユーザーが当該アカウントを閲覧した形跡があることが判明しています。
もちろん、SNS上でなりすまし投稿が繰り返された時点で、名誉毀損罪の「公共性」の要件を満たすことに疑いはありません。
ただ、SNSでなりすまし被害にあうと実際に広範な範囲で被害が生じるリスクがある以上、普段からなりすまし被害にあわないような対策を実施するのが賢明だといえるでしょう。
本件は、被告が原告になりすましたうえで、インターネット上の掲示板において、第三者を罵倒するような差別用語・侮辱表現を投稿した事案です。
なりすまされた原告は、あたかも「インターネット上で他者を侮辱したりトラブルを起こしたりする人物である」との社会的評価を受けざるを得ませんでした。
そのため、原告の名誉権・プライバシー権・肖像権・アイデンティティ権が侵害されたことを理由に、130万6,000円の損害賠償請求が認められています。
名誉毀損を理由とする慰謝料請求の相場は、一般的に10万円~50万円程度といわれています。
ただ、投稿の内容・頻度・回数・経緯・なりすましの有無などの諸般の事情次第では高額の慰謝料請求が認められる可能性もあると理解しておきましょう。
SNSでなりすまし被害にあったときには、被害拡大を防止するための措置が必要です。
ここでは、なりすまし被害を受けたときに最優先でおこなうべき対処を2つ紹介します。
SNSのなりすましアカウントは、その後さまざまなトラブルを引き起こす可能性があります。
なりすましアカウントが悪用されて、SNS上で繋がっている他のユーザーの個人情報などが流出するリスクも少なくありません。
そのため、SNS上のなりすまし被害を確認したときには、フォロワーや友人への注意喚起が必要です。
たとえば、「なりすまし被害にあっています。DMなどには返信しないでください」などの注意喚起を旨とする投稿などをしておけば、なりすまし被害の拡大を防止できるでしょう。
なりすまし行為は、各SNSなどが独自に設けている利用規約に違反する行為です。
SNSのなりすまし被害を確認したときには、SNSの運営元に速やかに報告をしたうえで、アカウントの凍結・利用停止・アカウント削除などの措置を求めましょう。
ただし、なりすまし行為について通報をしても、運営側がスムーズに対応をしてくれる可能性は高くはありません。
また、運営が削除をする前に、なりすまし行為についての証拠保全をしておかなければ、犯人の法的責任を追及するのが難しくなってしまいます。
なりすまし被害を発見したときには、いきなり運営元に対して通報をするのではなく、将来的な法的措置の可能性を考慮したうえでの対応が欠かせないといえるでしょう。
弁護士のサポートがあれば運営元の前向きな対応も期待できるので、速やかにIT系のトラブルを得意とする専門家へ相談してください。
SNSでなりすまし行為に及んだ加害者の法的責任を追及するときの流れは、以下の通りです。
それぞれの手順について、以下で詳しく解説します。
なりすましの加害者に対して民事責任・刑事責任を追及したいと考えるなら、まずはなりすまし犯人がどこの誰なのかを特定しなければいけません。
そのためには、なりすまし行為の証拠、偽アカウントによっておこなわれた誹謗中傷などの証拠を収集・保全する必要があります。
保全するべき証拠は個別事案によって異なります。
たとえば、以下のような証拠は必須なので、弁護士へ相談する前の段階でできる限り収集しておきましょう。
なりすましに関する証拠の確保が終わったら、なりすまし犯を特定する作業をスタートします。
理屈上、なりすましアカウントに対して直接DMなどを送ることで個人情報を引き出す方法も考えられます。
しかし、直接的な働きかけによってなりすまし行為がエスカレートする可能性があるうえ、証拠を保全する前にアカウントが削除されることによって特定作業が不可能になるリスクも生じます。
なりすまし犯を特定するための有効な法的措置としては、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(通称「プロバイダ責任制限法」)に基づく開示手続きが挙げられます。
コンテンツプロバイダ及びアクセスプロバイダを相手に開示請求をおこなうことによって、なりすまし犯の個人情報を特定すること可能です。
なお、プロバイダ責任制限法は近年改正されたことによって、発信者情報開示請求をめぐる手続きを1回の非訟事件内でおこなうことができるようになりました。
従来よりも加害者を特定する手続きが簡易・簡便になっているので、プロバイダにログ情報が保存されているうちに法的措置に踏み出してください。
なりすまし犯を特定できたら、刑事責任を追及するために、捜査機関に告訴状・被害届を提出してください。
特に、名誉毀損罪・侮辱罪のような親告罪については、告訴状の提出が不可欠です。
なお、インターネットをめぐるなりすまし事件や誹謗中傷事件が急増しているため、ただ単に告訴状を提出するだけでは受理してもらえない可能性が高いです。
捜査機関の人的リソースには限りがあるので、全てのなりすまし事案に対して捜査活動を実施するのは不可能だからです。
また、被害者側の処罰感情がどれだけ強くても、捜査機関の判断次第では逮捕に至らなかったり、不起訴処分が下されたりするケースも少なくありません。
告訴状が受理される可能性を高めたり、なりすまし犯に対する重い刑事処分を希望するなら、被害者本人だけで刑事告訴をするのではなく、告訴状の作成や参考人聴取のコツについて弁護士のサポートを受けるべきでしょう。
なりすまし犯に対して民事責任を追及する場合には、以下2種類の方法で加害者へアプローチします。
なりすまし犯の個人情報を特定できた場合、示談交渉からスタートするのが一般的です。
なりすまし犯側が交渉に応じてくれたうえで、当事者双方で示談条件について合意形成に至れば、その時点で紛争は解決します。
一方で、話し合いの末に示談条件が折り合わない場合や、そもそもなりすまし犯側が示談交渉に応じない場合には、民事訴訟を提起せざるを得ません。
民事訴訟を提起すると、複数の口頭弁論期日を経て証拠調べなどの手続きが進められるので、判決が確定するまでに年単位の期間が必要になることも多いです。
「なりすまし犯との示談交渉段階で民事紛争を解決させたい」「民事訴訟手続きを自分だけで進めるのは不安だ」という方は、示談交渉段階から弁護士へ依頼をするとスムーズでしょう。
なりすまし被害にあって名誉毀損などをされたときの慰謝料額は10万円~50万円が相場とされています。
ただし、SNSのなりすましトラブルの解決を弁護士へ依頼した場合、以下の費用が発生する点に注意が必要です。
着手金 | 報酬金 | 裁判費用 | ||
削除依頼 | 裁判外 | 約5万円~10万円 | 約5万円~10万円 | – |
裁判 | 約20万円 | 約15万円 | 3万円 | |
発信者の身元特定 | 裁判外 | 約5万円~10万円 | 約15万円 | – |
裁判 | 約20万円~30万円 | 約15万円~20万円 | 6万円 | |
損害賠償請求 | 裁判外 | 約10万円 | 慰謝料の約16% | – |
裁判 | 約20万円 | 慰謝料の約16% | 3万円 |
もちろん、なりすまし犯との交渉次第では、弁護士費用・裁判費用などを加害者側から受け取ることができる場合もあります。
しかし、弁護士費用などをなりすまし犯側に請求できないケースでは、慰謝料額よりも高額の費用負担が生じかねません。
費用倒れのリスクを回避するには、弁護士との間で委任契約を締結する前に、想定慰謝料額や弁護士費用の見積もりを出してもらうべきでしょう。
SNSのなりすまし行為は、それ自体が直ちに犯罪になるものではありません。
しかし、なりすまし行為によってなんらかの被害が出ている場合は、犯罪行為として罪に問える可能性があります。
そのため、SNSのなりすまし被害を受けたときには、速やかに弁護士へ相談するのがおすすめです。
インターネットトラブルを得意とする弁護士の力を借りることで、なりすまし行為への対処について以下のメリットを得られるでしょう
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